橈骨神経麻痺
(とうこつしんけいまひ)


下の写真のように手が上がらなくなったことがありませんか?

横になって寝ていて、起きてみると手が上がらない・・・。

そんな時考えられるのが「橈骨神経麻痺」です。



橈骨神経は指を伸ばしたり手首を手の甲側に起こす筋肉を担当しているので、
この神経がマヒしてしまうと手首が垂れ下がったままになってしまうのです。



さらに、橈骨神経は手の甲の親指側周辺と人差し指にかけての感覚を担当しているので、
上の写真の斜線部分がしびれてきます。

  左の図のように、橈骨神経は腕の付け根あたりから、
腕の骨をまくように走っています。

そして、肘のあたりで腕の内側を走り、
手首の近くでまた表面に出てきます。

このように橈骨神経は腕の骨を巻きこみながら、
いろいろな方向に走っています。

ですので、いろいろな所で圧迫を受ける可能性があります。

特に圧迫を受ける可能性が多いのは、
青い丸で囲んだ部分です。

例えば、うたた寝をして、
長時間腕の外側が圧迫されていたり 、
飲み過ぎて、気がつくまで腕を下にしたまま寝てしまったような場合など、
ちょっとしたことで、神経が圧迫を受けることになります。
  さらに橈骨神経は、筋肉だけでなく、
左の水色で示した手の領域の感覚を支配しています。

首からの原因で手がしびれるときとよく似ていますが、
親指の腹と人差し指の間(赤色部分)は橈骨神経の固有領域なので、
この部分がしびれていると、橈骨神経麻痺が強く疑われます。
 
   左の写真は実際の患者さんの手です。

赤×印で示した部分が叩くと指先に強く響きます。

こういう場所が神経そのものが過敏になっているポイントであり、
そこで何か神経が圧迫などの原因で障害されていることがわかります。

この神経の構造はどうなっているのか、
以下でご覧いただきたいと思います。
  左の図は一本の神経を表したものです。

神経には細胞もあり、1本1本が繊維状になっています。

本幹には軸索といわれる芯があります。

その軸索は髄鞘と呼ばれる鞘の中に収まって守られています。

1本の神経が障害される度合いは、
障害が髄鞘で留まっているか、
軸索にまで障害が及んでしまっているかによって変わってきます。

神経が圧迫されるというのは、
すべての神経が損傷されているのではなく、
一部が圧迫されて損傷を受けていることがほとんどです。

 
  1本の神経はいくつかの神経束といわれる束になって、
さらにその神経束が集まって神経幹を形成しています。

外からの圧迫を受けたとしても、
全部の神経束が障害されるのではなくて、
一部は損傷を免れて残っています。

ですので、神経がマヒしているといっても、
一時的なことで、再び神経に血流が戻ってくれば、
動きが回復し、感覚が戻ってきます。 
   左の写真は神経の回復度合いを見ています。

初診時、叩いて響く場所が@だったのですが、
4週間たつと、Aのところに変わっていました。

これは神経が一番過敏になっていた場所が移動したことを示しており、
神経が回復していく過程を示しています。

このように橈骨神経麻痺の場合は
圧迫していることが予測される部分の周辺に叩くと響く部分があるので、
回復過程がわかりやすいのです。

  手首が落ちると、左の図のように指を曲げる筋肉も緩んでしまい、
マヒしているわけではないにもかかわらず、
十分に機能を発揮できなくなります。

こうなった場合には、
指先を曲げる力は手内筋だけに頼ることになるので、
物を持つ力が弱くなります。

  そこで、実際の治療では、
左の写真のように、
手首を返すようにして固定します。

固定期間は1カ月〜2カ月ぐらいですが、 
ほとんどの患者さんがそれまでに回復してしまい、
装具も外すことができます。
   この装具は、手首が落ちてしまうので、
手首を返した状態を保持するために装着します。

左の図にあるように、手首を返すことにより、
指を曲げる筋肉をも機能し易いようにしています。

装具をつけることで、
症状が出ていても物を握りやすいようにもしています。 
  実際の患者さんの予後ですが、
この方は装具を装着して4週間後に、
完全ではないですが、手首を返すことができるようになり、 
6週間後には完全に回復していました。
  
  左の写真は65歳の男性で、車の運転席で約1時間うたた寝した後、
起きてみると、手首が上がらなくなってしまわれました。

一見、指を伸ばすことができるように見えますが、
完全ではありません。
 
  なぜなら、手首を返した状態で指を曲げるのはできますが…、 
  手首を返した状態で、指を伸ばそうとすると、
指の付け根から完全に伸ばすことはできません。

これは手内筋の作用で、指先が伸ばせるだけであり、
橈骨神経そのものはマヒしていることを示しています。 
   4週間後、×印が手首側に近い所へ移動しています。

この時点で、手首は少し上がるようになってきています。

しかし指は完全に伸ばすことができません。
  6週間後、さらに×印は手首側に近くなり、
手首も上がるようになってきました。

 
   指もかなり伸びるようになってきました。

指が伸びる状態であれば、
日常生活上も不自由さを感じることも無くなってきます。
   8週間後、手首も指も完全に伸びるまで回復しました。

橈骨神経麻痺は損傷具合にもよりますが、
神経が切れているわけではないので、
平均して8週間ぐらいまでには治ります。
 
 橈骨神経浅枝麻痺
(とうこつしんけいせんしまひ)
   橈骨神経麻痺には指の動きが全く障害されずに、
しびれ感覚だけが障害される場合があります。

これを橈骨神経浅枝麻痺といいます。

橈骨神経の枝が青い丸の部分から皮膚に近い所へ出ているのですが、
そこを強く圧迫されると、
手の親指と人差し指にかけての部分がしびれてきます。
   左の写真は32歳の女性です。

3日前に朝起きた時に手の甲の痺れに気がついて御来院になりました。

圧迫していた原因ははっきり分からなかったのですが、
赤矢印の先に示した部分に叩くと響くところがありました。

  斜めにして角度を変えて写真を撮っています。

叩いて響く部分が、ちょうど橈骨神経が手の内側に出てくるところです。

指はちゃんと動くので、橈骨神経の感覚枝が原因で、
マヒがおこっているのだと判断しました。

治療としては、経過を見るだけで回復していくので、
特に処置はしていません。 



起きたら手がしびれる、手首が上がらない…。

確かに焦りますよね…。

でも、早めにおかしいと思ったら、
すぐに整形外科へ行って、
診てもらってください。

ほとんどの場合、2カ月前後で治ります。

ただ、中には重症の場合があるので、
注意が必要です。

手がしびれた場合、
念のために整形外科を受診して、
きちんと診てもらわれることをお勧めします。



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