2011年2月16日
ブランド店が並ぶ三宮のようなきらびやかさは、ないんです。旧居留地や異人館街のような趣も、やっぱりないんです。でもね、JR元町駅から西へ約1キロ続く元町高架通商店街、通称・モトコーには不思議がいっぱい。ディープな世界へ、ご一緒にいかがです?
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モトコーは、戦後の「闇市」がルーツ。「昭和30年代、大みそかは、店が閉められんくらいの繁盛でしたよ」と、振興組合理事長の岡保雄さん(62)。経済成長のさなか、メード・イン・ジャパン華やかなりし頃は、電化製品を求める旧ソ連船員らでにぎわい、コニャックやキャビアと物々交換を求められた、なんて逸話も残る。
道幅約2メートル。手を伸ばせば届きそうな空間に紳士服や古本、電化製品、焼き肉と約230の店舗がぎっしり。小さい店は一坪ほど。若者向けの店も多い元町寄りの東側から歩き出す。おもちゃ屋の店先に高さ2.4メートルのウルトラマンを発見!? 左足の付け根に「100円入れますと 青ランプが灯(つ)き 商品が出ます」。面食らって視線を移すと、コンバースが幾何学的に積まれた店! 「数千足はあるんじゃないの」と店主。モトコーの先制パンチをもらう。
西へ向かうほど人影はまばらに。何やらおっちゃんの姿が目につく「ニシヨシ」へ。大正琴に、蓄音機、中古のカメラ、糸車、果ては放射能探知機まで雑然と並ぶ。棚の引き出しを開けるとごっそりアダプター。「人間のつこてるもんはなんでも置いてるんや」。少しこわもての店主(69)が人懐っこい笑顔で言う。でも、誰が買うの? 「いる人には、いるやろ」。明快! 確かにそうだ。「バッタ商品安売り」と書かれた看板、大音量で流れる演歌、懐かしいワープロの山――。気になるものに一人ツッコミを繰り返し、休憩がてら喫茶店へ。すると、こんがりバターのトーストが何と70円。いつから値上げしてないの!
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出口はもうすぐ。アンティーク時計や仏像、ゲームソフトと何でも扱うお店「三起(さんき)商会」で、最後の寄り道。フツーの何でも屋さんかと、油断していたらどっこい。古銭では「皇朝十二銭(こうちょうじゅうにせん)」や江戸の「一分金(いちぶきん)」などウン十万円の掘り出し物も出るマニア御用達の店だとか。古銭収集歴40年の常連男性(57)も「関西でも有数」と太鼓判を押す。すごい店なのにさりげなさすぎと、感心して帰りかけると、雑貨店主に呼び止められた。ニヤリとした視線の先には中古ビデオの山。タイトルを見ると「禁断○○○」。んー、買う勇気はないが、正直心惹(ひ)かれます。
まさに不思議のアミューズメントパーク。あなたは、立ち止まらずに歩けますか!?(高橋健次郎)
■推薦
ライター、音楽家 中村よおさん(57)
腰が抜けるような掘り出し物も
神戸育ちで、モトコーは勝手知ったるところ。週2回は通っています。仕事柄、LPレコードは3千枚ほど所有していますが、十数年前、歌手の荒木一郎さんの楽曲を、インスト(楽器演奏だけの曲)でカバーしたLPを見つけたときは、腰が抜けました。ずっと、その存在を知らなかった。2千円くらいでしたけど、夢のような掘り出し物でした。モトコーに行くと、びっくりするようなモノと出会えます。