社説
TPP参加問題/「国益」「最善の道」とは何か
選挙で掲げた公約を、政権を取った途端に変質させる。なぜ変えたのか。公約を守らないことが政治不信を増幅させてきたのだとしたら、その説明を抜きにして、国民の信頼は取り戻せないのではないか。 「国益にかなう最善の道を求める」 順調に滑り出したかに見える自民・公明連立政権が、発足時に交わした政策合意文書の中の環太平洋連携協定(TPP)に関する方針である。 前政権が交渉参加に向け関係国との事前協議を進めてきており、安倍晋三・新政権も継続して当たらねばならない。連立政権である以上、両党政策の擦り合わせも必要だ。 だが、そうした事情を勘案しても、両党が衆院選で訴えた公約とは懸け離れた表現である。 参加問題が浮上し2年が過ぎた今もなお、世論は割れたままで、衆院選でも議論が尽くされたとは言い難い。そうした中で、政権党が公約にはない方針を掲げて知らん顔はあるまい。 この文言については、交渉参加に含みを持たせたという受け止め方が広がっている。 「国益」とは何か、「最善の道」とはどんな方向性なのか。安倍政権には国民が理解できるよう、説明する責任がある。 衆院選で自民党は、TPPの原則である「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対するとした。コメをはじめ、高関税で保護されている農産物を念頭に置いたのだろう。 一方、公明党は事前協議の内容が公開されず国民的議論ができていないとして、国会に調査会か特別委員会を設け十分審議すべきだとの公約を掲げた。 TPPをめぐる両党のこうした約束と、連立合意の文言はどうつながるのか。 確かに自民党の公約は関税撤廃に「聖域」が設けられれば、参加に踏み出すこともあり得ると読める。そうした点では「含み」を持たせてはいる。 この問題で世論が二分状態にあるのは賛成、反対両派にとり重視する国益が異なるからだ。 賛成派は自由貿易推進による経済成長に加え、TPP交渉を主導する米国との同盟関係強化を言う。反対派は安価な輸入農産物の流入による農業、ひいては農村・地域の崩壊の危機を訴え、交渉結果が医療や保険、食品安全といった暮らし全般に及ぼす影響を懸念する。連立政権が言う国益とはいったい何か。 交渉をめぐる道は、参加か不参加しかあるまい。あえて「最善の道」としたのは、民主党政権が模索した自由貿易推進と農業再生との両立、つまり国益の両立を図るための道をも指すのか。それも判然としない。 安倍首相は来月にも訪米し、オバマ大統領との日米首脳会談を予定する。当然、TPPは議題となる。 その前に首相は政権としての対応をつまびらかにすべきだ。同時に、パートナーの公明党が選挙で訴えたように、事前協議に関する情報を開示し、国民的議論を仕切り直す必要がある。
2013年01月16日水曜日
|
|