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2012年8月13日(月)
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世界が注目する“日本の教訓”

近田
「きょう(13日)からシリーズで、経済やエネルギー問題の世界的な権威に、今、世界や日本が直面する課題にどう向き合えばよいのか、聞きます。

飯田
「初日のきょうはこちら。
プリンストン大学のポール・クルーグマン教授。
2008年にノーベル経済学賞を受賞し、辛口コラムニストとしても知られます。
いま、世界が注目するのは“日本の教訓”だと言います。」
 

飯田
「世界経済の現状をどう分析する?」





 

プリンストン大学 ポール・クルーグマン教授
「不況の真っただ中にある。
1930年代のような大恐慌ではないが、経済の低迷が長期化し、そこから脱する兆しすら見ない。
いま必要なのは、政府による積極的な財政出動と中央銀行の大胆な金融緩和だ。」
 

飯田
「政府に財政出動する余力がないのでは?」
 

プリンストン大学 ポール・クルーグマン教授
「それはまったく間違った認識だ。
『危機の時には財布のひもを締めた方が良い』という人がいるが、これこそ景気が低迷している時にやってはいけないことだ。
皆が節約すると、景気が落ち込む。
こういう時には政府が財政出動して、お金を使うべきだ。」
 

クルーグマン教授は、日本がバブル崩壊以降、大胆な財政出動や思い切った金融緩和を続けなかったとして、批判を繰り返してきました。
 

ところが、リーマンショックのあと、アメリカやヨーロッパの中央銀行も、日本と同じように政策金利をゼロに近づけても、経済は上向いていません。
これを受けて、舌ぽう鋭く日本の政策を批判してきたクルーグマン教授も日本に対する見方を変えたといいます。


 

プリンストン大学 ポール・クルーグマン教授
「1990年代の日本は、いまの世界経済の『予行演習』だったと言っていい。
当時、日本の経済政策を批判したアメリカのエコノミストは東京に出向き天皇陛下におわびしなければならない。
アメリカも日本以上にひどい対応をしているからだ。
アメリカは財政を緊縮させ、不適切な金融政策をとってきた。」
 

飯田
「なぜ、おわびの相手が日銀総裁ではないのか?」
 

プリンストン大学 ポール・クルーグマン教授
「もちろん、歴代の日銀総裁にもおわびしなければならない。
しかし、決して彼らが正しかったからではない。
間違いだった。
『正しい政策判断をすることがいかに難しいか、今なら理解できる』という意味で、おわびしたい。
『アメリカも同じ間違いを犯してみて、それがやっと理解できた』と」
 

飯田
「日本経済の回復に何が必要か?書いてください。」
 

プリンストン大学 ポール・クルーグマン教授
「日本に必要なのは…『物価上昇を伴う経済成長』だ。
物価上昇を必要とする国があるとすれば、それは日本だから。
日本には、国民がお金をいつまでも預金して貯めておかないようにするための仕組みが必要だ。
その切り札が物価の上昇=インフレだ。
物価が上昇すれば、政府の債務も実質的に目減りする。」
 

飯田
「消費税については?」
 

プリンストン大学 ポール・クルーグマン教授
「いまは消費税率を引き上げるタイミングではない。
日本国債に対する信認を心配しているのであれば、信認は維持されている。
正直、これだけ債務残高を抱えているので私ですら不思議だが、とにかく維持されている。」
 

飯田
「来年のIMF・国際通貨基本の日本の成長率見通しも高く、いまが増税のタイミングと指摘する人もいるが?」
 

プリンストン大学 ポール・クルーグマン教授
「来年の経済成長率がそこそこ良いからといって、増税の理由にはならない。」
 

飯田
「日本はさらに財政出動し、金融緩和すべきと?」
 

プリンストン大学 ポール・クルーグマン教授
「日本くらい債務残高が高いと、財政出動で景気を刺激するのが難しいのは分かるが、緊縮に動くべきではない。
それでも日本はほかの国よりも良くやっている。
かつては『なりたくない国』だった日本が、いまでは世界経済の『お手本』だ。」
 

近田
「世界経済の現状は不況の真っただ中。その中で必要なことクルーグマン教授がおっしゃっていましたね。」
 

飯田
「必要なのは、大胆な『財政出動』と思い切った『金融緩和』。
この両方をやれ、というのがクルーグマン教授の主張です。
一方で、今は消費税率を引き上げるタイミングでないというクルーグマン教授ですが、日本の政府債務残高の高さには危機感を持っていて、さすがに日本には財政出動を求められない、とも。
というのも、GDPに対する政府債務残高は、日本が230%と突出して高くなっています。
ヨーロッパ信用不安の火元となったギリシャの165%や、イタリアの120%を、大きく上回っています。
クルーグマン教授は、『この私にもなぜ日本の国債が信認を維持できているのか分からない』と何度もつぶやいていました。
 

近田
「『日本は世界経済のお手本だ』とも言っていましたが、これを真に受けても良いものか?」
 

飯田
「皮肉混じりだとは思いますが、なんだかんだ言っても日本はほかの国に比べれば経済が安定しているというわけです。
とかく悪い意味で使われる『日本化』という言葉ですが、先んじて長期の低成長を経験している日本が、率先して解を見つけることで『日本化』も前向きに評価されるのではないかとインタビューを通して感じました。