総論:悲観主義に陥らない「共存」へのアプローチ
古来よりバイキング一族とドラゴンの戦いが続いているバーク島。族長の息子・ヒックはひ弱な体格のため戦いに参加させてもらえず、いつも仲間はずれにされていた。そんなヒックが、尾翼が傷つき飛べなくなった伝説のドラゴンに出会う。ヒックは一族の教えを守りとどめを刺そうと近づくが、弱った姿が自分の姿とダブってどうしてもできない。自分に殺しはできないと悟ったヒックは、あろうことかドラゴンの世話をすることに・・・日々少しずつ心を開き友情を育んだ二人はいつしかかけがえのない友達になっていくが、バイキング一族とドラゴンの間には種の存亡を賭けた最終決戦が迫っていた・・・
絶賛の嵐が吹き荒れるドリームワークスの3D映画「ヒックとドラゴン」を観てきました。いや~ホントに面白かった!すべての要素がハイレベル!文句なしの大傑作です!もうさんざん素晴らしい評論は出きってるし、今さら語るまでもないのですが、どうにも我慢できないのでネタバレ含みで書いちゃいます(笑)
■ここが最高!その1 CGキャラクターが可愛いいい
もうね、トゥース(伝説のドラゴン)がとにかく可愛くって、動きを観てるだけで幸せだよね。特にヒックと仲好くなる過程がやたら可愛い。最初は警戒してるんだけど、ヒックが持ってきた魚を半分だけ食べて半分は返してあげる。ここのトゥースの顔が健気で超可愛いわけよ!つかこれって言葉を話せないトゥースが「僕たちは友達だよ」「仲良く半分づつ一緒に食べよう」って言ってるわけじゃん?こんなことされたら好きになるのが人情ってもんよ(笑)食い物一発で心が通じ合ったことを示す素晴らしいシーンですよ。
■ここが最高!その2 主役が選ばれし「The One」ではない
最近多いじゃん?主人公が選ばれし者で、その才能を自覚したり覚醒させたりすると無敵になちゃう調子いいヤツ。ヒックはそういうんじゃない単なる発明好きのひ弱なオタクで、しかもトゥースの世話をするのはテメーが巨大パチンコで傷つけた責任をとるっていう至極まっとうな理由。別に「心優しき少年」じゃないんだよコイツ。でも・・・「だが、それがイイ!」んだよね(笑)
■ここが最高!その3 テーマに対して明確な答えを提示する
この映画のテーマは「他者との共生」だと思うけど。同じようなテーマを扱った「もののけ姫」や「アバター」は結局ニヒリスティックな結論にいっちゃった。 それに対して「ヒック」は、「お互いを理解し、問題を明確にして、協力しあって具体的に対処すれば共生の道は開ける」という超理想主義を打ち出す。こういう作品が出てきたのは本当に嬉しいです。
いささか大袈裟にはなりますが、世界各地で今もなお続く民族紛争や、世代を超えて引き継がれる怨念。無理解が生む殺し合いの連鎖。そんな悲劇に終止符を打つ一つの答えがこの映画にはあると思います。
■ここが最高!その4 脚本が完璧すぎる
そして、他者であるドラゴンへの「理解」の過程が、少年の「成長」と結びついている脚本が本当に素晴らしい。観客はその過程を共有してるので「ドラゴンは怖くない、共存できる」というヒックの確信に感情移入するんだけど、それが周りのバイキング達にまったく理解されないあの感じがホントに悲しいんだよね。
んで、トゥースが捕まっちゃって二人が引き離されたまま迎えるクライマックスの大決戦。「あぁ・・・また戦いが始まってしまうのか?戦う必要なんてないのに・・・」というヒックの無力感に観客は完璧にシンクロさせられるので、最後に再びヒックとトゥースが大空に飛び立った瞬間なんかもう「うおおっ!!行けぇぇーーっ!」って大絶叫したい気分だったよ(笑)
■ここが最高!その5 キッチリとオトシマエをつける
(こっからが本当のネタバレ)前述した通り、そもそもでトゥースの世話をすることになったキッカケは、ヒックが放った巨大パチンコが当たって、左尾翼がちぎれちゃって飛べなくなったからなのね。だからヒックは発明オタクの才能を発揮して補助具を開発して、いろいろな試行錯誤の果てにヒックが一緒に操作することによって再び空を飛べるようになる。ようは"一心同体"になるってことなんだけど、実はこれがフェアじゃない。
ヒックはトゥースがいなくても生きていける。だけどトゥースはヒックがいなければ二度と空は飛べない(ドラゴンにとってそれは死を意味する)そして、その傷はヒックが負わせたモノ。この罪をどうするのか?この問題について、この映画はこれ以上ないぐらいキッチリとしたオトシマエをつけてくれます。このシーンには「えっ!?コレ子供向け映画だよね!?マジか!!」と一瞬自分の目を疑うほどの衝撃が走りました。
ドラゴンが人間を襲っていた原因は凶悪な巨大ドラゴンのせいで、そのドラゴンを最終決戦でヒックとトゥースが倒すんだけど、なんと!ヒックはその戦いで左足を失ってしまうんだよね・・・。戦いの後、気絶から目を覚ましたヒックが、義足になってしまった左足を見てすごく複雑な演技をするんだけど、これがホンっ・・・トに印象的なのよ。
最初「え・・・」みたいな顔するんだけど、すぐに微笑んで「これでイイんだ・・・」って表情になる。もうね、号泣ですよ!号泣!ヒックは自分の罪にキッチリとオトシマエをつけたんだよ!これで二人は本当の意味で対等な友達になれた。こんな最高のエンディングで締め括る映画はなかなかお目にかかれません。ホンットこの映画スゴ過ぎます!!
「ヒックとドラゴン」
公開:2010年8月7日
配給:パラマウント
監督:ディーン・デュボア、クリス・サンダース
脚本:ディーン・デュボア、クリス・サンダース、ウィル・デイヴィス
出演:ジェイ・バルチェル、ジェラルド・バトラー