オクタヴィアとガイウス
ーその鉄壁の姉弟ー
姉が弟より3歳以上の年長の場合、姉の弟への支配力は、かなりのものがあると思われます。といいますのも、弟が生まれたときに姉はすでに3歳以上、彼女はしっかり物心ついていますから、何も知らずに?生まれてきた弟に対して、絶対的に有利な立場にあります。 つまるところ、弟とはいえ一番身近な「男」ですから、彼女にとっての弟は、どこまで男を自分の思い通りに手繰ることが出来るかということの練習台であり、おのが好みに調教し、三つ子の魂百まで・・ってなことを心身にしみこませることの出来る状況を手に入れたようなもんです。
もちろん、このチャンスを生かすも殺すも、姉の性格によりますが、しかして、この2人、つまり本編の主人公であるオクタヴィアとガイウス(ガイウス・オクタヴィウス)の場合、幼くして父を亡くし、母は再婚してしまい、親戚の家をたらい回しに、あ、いえ、たらい回しこそなかったものの、家長不在の女の館のような家で(あっ、彼らを引き取った、しょっちゅう不在で家に落ち着かない親戚のおじさんとは、ローマ史にその輝かしき名を残すお方、ユリウス・カエサルその人です!)で、6歳年長の姉は、病弱な弟を慈しみ、かばいつつ育て上げたってことになっていますので、彼女は弟に対して「母」の役割をも担って、ますます弟への影響力を強めたと思われます。ローマ貴族の家に生まれた娘ならば、通常13、4歳で嫁入りしますから、オクタヴィアとて、おじさんの(普段、面倒見なくても、政略結婚の手駒くらいには関心を持っている姪ですから)手配で結婚しています。となると、この姉弟は年齢差から言えば、ともに暮らした年月はそんなに長くなかったはずです。それでも、姉は一生涯、弟を支配した。いかに彼女が弟と生活していたこの短い期間に、腕によりをかけて、弟を篭絡し、おのが思い通りとするチャンスを生かしたかの見本といえます。
かように彼女は、弟を思い通りにしたのに、夫は思い通りにはならんかったんですねえ。最初の夫は、子供作っただけで早死にするし、二度目の夫は、彼自体が、これまた強烈女に骨抜きにされていたからなんですねえ。同い年の女の勝負では負けたけど、オクタヴィアは弟を介して、裏切った夫も、憎っくき女も、その女の国までも滅ぼしたんですから、ああ、怖い。
そうなんです、彼女の弟ガイウスは、正式名をガイウス・ユリウス・カエサル・オクタヴィアヌス。女に走った夫は、マルクス・アントニウス。女はクレオパトラ。そして、女の国エジプトを滅ぼした弟のガイウスは、ローマ最高の権力者となり、アウグストゥスと呼ばれて、いまだに歴史の教科書ではローマのアイドルです。だけど、本当は、このガイウスを影で動かしていたのは、その姉オクタヴィアなのよ。
ただし、こんなことを言ってるのは、私たちぐらいなもんで、世間的にも、歴史的にも、オクタヴィアは、上品な貴婦人であり、弟に献身的に尽くした(その最たるものが政敵アントニウスとの政略結婚だあ!)、薄幸の姉君と言われております。そういうふうに、弟にも、世間にも思わせていたのが、オクタヴィアの手練手管であったと、今まで誰も言ったことがなかったのよ。
実は、彼女の本質を見切っていたのは、弟の嫁にあたるリヴィアくらいのもんよね。渡る世間は鬼ばかりといいますが、自分の姉こそが一番の鬼と、一生気づかなかったアウグストゥスさま。あんたともあろうお方が、ほんに身内にはトロいこっちゃ!(さすがは、正統トロイの末裔!)しかし、こんな女と張り合わずに、醒めた嫁に徹した奥方リヴィアは、ほんっとにえらい! でも、この人も十分怖いんだけど・・。(H)
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