内科医・酒井健司の医心電信
2013年1月 7日
「会社に出す診断書が欲しい」と、インフルエンザウイルスやノロウイルスの検査を希望する患者さんがたまにいらっしゃいます。会社にもよるでしょうが、短期の病欠にも医師による診断書を要求するところもあるようです。
インフルエンザウイルスはともかく、前回お話ししたように、ノロウイルスについては健康成人に対する検査は保険適用外ですので、診察料も含めて全額自費となります。検査をしなくても自覚症状や状況から「ノロウイルス感染の可能性が高い」などと診断書に書くことはできますが、それにしても診断書を発行するのにかかる料金も馬鹿になりません。
いったいなぜ診断書が必要なのでしょう。理由の一つは、仮病によるズル休みの防止でしょうか。なるほど、わざわざ病院に行って診断書をもらわないと病欠として認められないのならば、安易に仮病で会社や学校を休む人は少なくなるでしょう。ただ、安易なズル休み防止だけが目的ならば、レシートなどの病院に受診した記録だけでもよさそうな気がします。
仮病かどうかを見抜くことを医師に求められているのかもしれません。しかし、普通は患者さんが仮病かもしれないなんて、医師は思わないものです。「熱はあったけど手持ちの解熱剤で今は下がった。咳やのどの痛みもある」などと患者さんが申告すれば、医師はそれを信じざるを得ません。仮病を見抜くことを目的に医師の診断書を求めるのは無駄が多いと思います。
診断書が要求される別の理由として、「働いてよいかどうか判断してもらいたい」というものもあるようです。つまり、「インフルエンザならしょうがないから休んでよろしいが、ただの風邪なら出勤せよ」というわけです。しかし、「《41》 熱が出たら休もう」でも書きましたが、インフルエンザではないという証明、あるいは、ノロウイルス感染ではないという証明は困難です。
さらに言うなら、インフルエンザやノロウイルス感染でなければ働いていいとは必ずしも言えません。インフルエンザウイルスやノロウイルス以外にも、他人に伝染しうる病気はあります。インフルエンザでなければ他人に伝染させてもいいというものではないでしょう。手洗いなどの感染対策を十分に行い、自覚症状があれば診断書なしに休める体制を整えるほうが、医師に診断書を求めるよりも望ましいと思います。
というようなことを患者さんに言ってもいかんともしがたいでしょう。もし人事課や総務の方がこのブログをご覧になっていたら、その診断書が本当に必要かどうか、ぜひとも良く考えていただきたいです。
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