2012年11月21日に河出書房新社から発売された『愛の山田うどん 「廻ってくれ、俺の頭上で!!」』が話題だ。関東圏以外に住む方にはなじみが薄いかもしれないが、「山田うどん」とは、埼玉県を中心に関東1都6県で180余りの店舗を展開するうどん屋のチェーンである。240円のたぬきうどんをはじめとする安くてバラエティーに富んだメニュー、学生でも家族づれでも気軽に入れるカジュアルさから、熱狂的なファンが存在する。本書はそんな“山田ファン”であるライター・北尾トロ氏とコラムニスト・えのきどいちろう氏が、山田うどんへの愛を込めて書き上げた初の山田本である。

山田うどんの看板でおなじみのかかしのイラスト。本書内にはかかしが回転するパラパラ漫画も。価格は1470円
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 そもそも本書が生まれたキッカケは、Ustreamの生放送番組「レポTV」で著者の2人が山田うどんトークで盛り上がったこと。青春時代の“山田愛”が再燃した2人は、その後も同番組やラジオ番組などで山田トークを繰り返す。そんななか、えのきど氏のもとに山田うどんの経営母体である山田食品産業から1通のメールが舞い込んだ。内容は「社長が御礼に伺いたい」というもの。2人の愛が山田うどんに届いた瞬間である。

 本書には、こうした本書誕生の経緯に加え、「山田ロードサイド論」「地方豪族としての山田」ほか山田論をまとめた「山田うどん徹底研究」、「代表取締役社長 山田裕朗氏 インタビュー」、「国道50号線・山田うどんの旅」などが収められている。全編にわたって山田づくしのディープな内容だ。

 関東ローカルという認知エリアの狭さもあり、はたして「読者がついて来られるのか?」と心配になるほどだが、蓋を開けてみれば発売2週間ほどで増刷決定と好調。担当編集者の武田浩和氏によると、初版の部数は当初、控えめに考えていたが、埼玉県の書店からの反応が想像以上に良く、6000部に引き上げたという。発売後も埼玉県の書店を中心に売れており、ローカルの強みが表れているようだ。

 また、武田氏は「ラジオによるアナログな広がり」が好調を支えていると語る。郊外の国道沿いなどに多く店舗を構える山田うどんの利用者には、タクシーやトラックのドライバーなど車移動中心の生活を送る方も多い。著者2人の出演するラジオ番組を聞いて本の存在を知った方が、購入するケースがあるのだという。山田うどんの各店舗でも、本書の売れ行きが好調で、既に完売した店舗もある。

 ローカル・フード・ブームの風に乗り、ここにきてブレイクの可能性を感じさせる山田うどん。その歴史からじっくり掘り下げた本書は、山田ファンはもちろん、山田を知らない方への入門書としてもお勧めしたい。

(文/杉山耕介)