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【社説】

成人の日に考える イマジン、次の二十年

 新成人、おめでとうございます。「大人」の看板を掲げる日。だからイマジン、想像してごらん。二十年先のあなたは、どんな世界で何していますか。

 二十年という時間に触った人がいます。名古屋市東区の「栗田看板舗」の仕事場で。

 時間とは、後ろへ過ぎ去っていくだけのものではなく、未来へ向かって降り積もるものなんだよと、修復を待つ一枚の古い看板が、語りかけてきた。

 ことし伊勢神宮は、二十年に一度の式年遷宮を迎えます。門前に店を構える和菓子の「赤福」は、それに合わせて本店の金看板を修復します。

◆二十年後を見てみたい

 三代目の栗田浩司さん(47)は今回初めて、この仕事を父親から引き継いだ。

 百二十年前に新調された看板は、縦一メートル、横三・八メートルのケヤキの一枚板。裏側を木と銅板で田の字形に補強したものです。

 老舗の誇りを静かに伝える文字通りの金看板も、地上で見れば微妙なゆがみやひずみが目立ち、無数の傷ができている。銅板の腐食も進んでいます。屋外で雨風や人目、カメラのレンズにさらされ続けた時間の堆積です。

 作業の手順を書き留めました。

 まずはじめに裏側の枠を取り外し、表に返して金箔(きんぱく)をはがします。表面の傷、割れ、膨れを一つずつパテで修正し、じっくりと磨きをかけて形を整える。

 次に、下塗りと上塗りを各二回。漆によく似てしかも乾きやすい、カシューの塗料を使います。これも、文字の曲線がより美しく見えるよう、ゆっくりと表面を研ぎながら。この下塗りが、出来栄えを左右する。

 その上に新しい金箔を張り、透明の樹脂塗料を施して表面を保護します。最後に裏面を補強し直して、約一カ月の作業は完了です。

 生まれ変わった金看板は、注文通り、暮れの二十五日に元の場所へ戻されて、大勢の初詣客を出迎えた。

 新年を迎え、栗田さんの心の内をふと不安がよぎります。

 「父の仕事は、二十年という時間に耐えた。自分のは…」。二十年の重さを知って、その上で、それを背負って働き続ける不安だろうか。

 しかし、その不安に勝るのが、職人の自負と想像力。「二十年後にどうなるか。自分の仕事を見続けるのも仕事です」

 栗田さんは、結局その日を楽しみにしています。

◆想像力が足りません

 それにしても、お伊勢さんはなぜ二十年に一度ずつ、引っ越しをなさるのか。

 かやぶき屋根の寿命とか、宮大工の技術を伝えるのに適当な長さだからとか、乾燥米の賞味期限という説もありました。正直よくわかりません。

 成年についても同じ。民法は「二十歳をもって、成年とする」(第四条)と定めています。ところが、世界的にはプエルトリコが十四歳、一般には十八歳で成年とみなされる場合が多く、「大人」の根拠はあいまいです。

 二十年という歳月は、日本人の遺伝子にあらかじめ刻み込まれた、未知のサイクルなのかもしれません。この不思議な節目の日、新成人の皆さんには、過ごしてきた時間の重さにしばし浸ってもらいたい。多くの人の愛情や喜怒哀楽がいっぱい詰まった時間の手触りを、まず確かめてもらいたい。

 そして想像してほしい。未来と呼ぶにはあまりに身近な次の二十年先に、あなたは何をしているか。何をしていたいのか。

 今私たちには、想像力が足りません。今日の天気が心配で、明日の予報ができません。為替や株価に気を取られ、次世代への投資ができません。

 例えば二十年という時間が起こす変化の力を信じずに、現在の物差しで未来を測り、あれもだめ、これもだめだと、できない理由ばかりを探して立ちすくんでいるようです。それがもし「大人」なら、見習わないでいただきたい。

 想像してごらん。二十年後、温室効果ガスを25%減らした地域のことを。想像してごらん、原発がゼロになった日本のことを。想像してごらん、戦争のない世界のことを。今皆さんに、できない理由がありますか。

◆時の流れに色あせず

 「イマジン」をつくったジョン・レノンは、こんな歌も歌っています。

 ♪戦争は止められるさ/もし君が望みさえすれば♪(ハッピー・クリスマス)

 想像してごらん。皆さんが今日掲げた「大人」という看板は、二十年先にも色あせてはいないだろうか。

 

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