震災とアスベスト:/下 届かない法の網 ボランティア被害、想定外
毎日新聞 2013年01月13日 東京朝刊
「アスベスト(石綿)対策で国が定めたマニュアルや規制などが、災害現場で徹底されていない」。神戸市勤労会館(同市中央区)で12日にあったシンポジウム。東日本大震災の被災地で石綿被害への理解が進まない現状について、石原一彦・立命館大教授はこう指摘し、災害を想定した法整備の必要性などを訴えた。シンポは宮城県石巻市の会場に同時中継された。
建物解体時の石綿を規制する法律は、労働安全衛生法に基づく石綿障害予防規則(所管・厚生労働省)と大気汚染防止法(同環境省)などに大別される。
だが、これらの法令は、災害で崩れた建物から飛散する石綿を想定していない。災害時は多くのボランティアががれき処理などに携わるが、石綿濃度の測定や立ち入り禁止措置などは義務付けられていないのだ。また雇用関係のないボランティアは労働安全衛生法の対象外で、健康被害があっても労災保険による救済も難しい。
建物の解体でも災害時は問題が顕在化する。石綿除去には、飛散を防ぐために建物内を減圧することなどが必要だが、費用が1000万円を超すケースもある。このため、平時から事前調査や粉じん測定を怠る事例が相次いでいる。一度に多くの建物が解体される災害時はなおさらで、自治体が排出基準を条例で定めていても目が届かないのが現状だ。
現行制度では、解体業者が「石綿がある」と届け出なければ基本的に立ち入り調査もできない。環境省は届け出の有無を問わず調査できるよう法改正を進めているが、環境問題に詳しい小島延夫弁護士は「所有者に調査義務を課すなどし、石綿がある建物を自治体が把握する必要がある」と指摘する。
国土交通省の社会資本整備審議会アスベスト対策部会は09年、建築着工統計などから、石綿が使われている可能性がある民間建築物は約280万棟と推計した。これを受けて全国の自治体が対象建物を調査し、「アスベスト台帳」を整備する取り組みが昨年から始まった。
費用は全額国庫負担だが、整備を終えた自治体は約5%にとどまり、約60%は着手予定すら決まっていない。人員不足や施策の優先順位が低いことなどが理由という。
現状では、災害時に石綿被害の増加を防ぐことはできない。二つの大震災は、待ったなしの取り組みが必要だと警告している。