第1話   −プロローグ−

 

 

「やめて!!」

「お・・・おねがい・・・・・」

「連れて・・・連れていかないで・・・・・」

 

「そんなにこいつが可愛いか」

「この子が五体満足でいてほしいのなら、お前が体で償うんだな」

「わ・・・私が・・・・」

「言うことを聞けば、弟を自由にしてくれる?」

「さあ・・・自由かどうか、そこまでは保証できない」

「だが、少なくともこの子は生きていけるだろう」

「どう考えても、お前らに工面できる金じゃない」

「30億ウォン、親が作った借金だ」

「お前達、姉弟を施設の前に置き去りにして自殺した親を恨むんだな」

 

「言うとおりに・・・」

「言うとおりにします、だから・・・」

「弟、弟だけは・・・・・」

「お前が覚悟するなら、弟の体に傷はつけない」

「そして、一緒に暮らさせてやるよ」

「わ、わかったわ・・・」

「好きにしなさい!」

「ふふふ、いい子だ」

「では、これから二人には海外へ旅立って貰う」

 

「行き先は・・・・日本だ!!」

 

 

麗華は中国生まれの韓国育ち

中国人の父と韓国人の母の間に生まれ、4歳の時、韓国に移住する

そして、韓国で生まれたのが弟、森羅である

父は韓国で事業に成功し、裕福な幼少時代を送る

森羅も何不自由なく良家の子息として、だいじに育てられる

しかし・・・・・

麗華が13歳、森羅が6歳の時・・・

事業に失敗をし、資金調達に行き詰まった父は暴力団関係の金融業に金を借りてしまう

膨大に膨れあがった利子とともに10億ウォンの借入額はあっという間に3倍に膨れあがってしまう

恐喝めいた取り立ての日々に、二人の子供を施設の前に置き去りにして・・・・・・

夫婦は自らの命を絶ってしまったのだった・・・・

 

それから4年・・・

もうすぐ麗華が18歳になろうとする矢先、親の証文を傘に謝金返済を迫った

しかし、巨額の借金など返せるはずもなく、暴力で迫られ・・・

警察へ助けをもとめることも出来ず恐怖のどん底に落とされてしまった

そして・・・・

彼らの提案は・・・・

麗華の美貌に目をつけ、日本の大金持ちの家にメイドと言う名目上で売られることになったのだった

麗華が出した条件は、弟・・森羅と一緒に住めること、そして学校へも通えること

 

二人は、まだ見ぬ未知の国・・・

日本へ向かって旅だっていくのだった

姉、麗華17歳・・・・

弟、森羅11歳・・・・

まだ、幼さの残る森羅は姉の手をしっかりと握りしていた

若干、17歳で異国の地へ渡る麗華・・・・・

しかしその表情は・・・

少女は固い決意を胸に秘め、困難に立ち向かう凛とした健気な姿を見せていた

 

「どんなことをしても・・・・」

「何があっても・・・」

「私が、私が森羅を守ってみせる!!」

 

二人が売られた先は、日本の経済界を牛耳るとも言われている影の大物

大田原財閥の会長 「大田原浩三」であった

伊豆高原に広大敷地の豪壮な別邸を持ち、たくさんの従業員達が働いている

そして、従業員の多くは女性のハウスメイドであり

女癖の悪さでも知られ、サディストでもあり大半のハウスメイドは性的な奴隷だと言う噂も聞こえてくる

一癖も二癖もある、海千山千の人物なのだ・・・・

 

麗華と森羅を乗せた車は大田原の別邸の前で止まった

「さ、降りろ」

「ここからは日本語でないと通じないぞ」

「今まで勉強したから、少しくらいは通じるだろう」

「ま、せいぜい可愛がってもらえるように努力するんだな」

大きな門の脇に作られた、通用口が開く

「お待ちしておりました」

黒いメイド服に白いエプロン姿の女性が出迎えた

「どうぞ、こちらへ」

案内されるままに、黒服の男に連れられて麗華と森羅は屋敷の中に入る

塀の中は目を見張るほど美しかった

石畳の道以外は、青々とした杉苔が庭一面を覆い尽くし

楓の若葉がことのほか美しく、純和風庭園を彩っている

園内を小川が流れ、せせらぎの音が清々しい

木漏れ日と小鳥の鳴き声、杉苔の絨毯にハラハラと舞い散る花びら

凛とした空気が漂い、二人の姉弟は見たこともない日本庭園の美しさに驚きを隠し得なかった

 

森羅は繋いだ麗華の手を強く握りしめた

美しいのだが、・・・・その中にある、この張りつめた空気が森羅には怖かったのだ

打ち水された石畳の通路を進む

途中、淡い藤色をした作務衣姿の女性が数人、庭の草を引いて苔の手入れをしていた

広大な苔庭の奥に数寄屋造りの母屋が見えてくる

檜の香りが漂う玄関には、着物姿の女性が二人と黒いメイド服に白いエプロン姿の女性が二人

両脇に立って出迎えていた

黒服の男は

「こちらが、お話ししてありました、麗華と森羅の姉弟です」

「わかりました、後は此方で預かります、お帰り下さい」

「では、宜しくおねがいします」

黒服の男は、着物姿の女性に深々と頭を下げると立ち去っていった

 

「麗華さんと森羅君ですね・・・日本語、わかりますか?」

「は、はい・・・少し、だけですが・・・」

麗華がたどたどしい日本語で応える

「弟はまだ、日本語が話せません」

「わかりました、追々勉強して貰えば結構です」

「では、付いてきて下さい」

着物姿の女性の後を付いて、二人は玄関から室内に入る

畳敷きの廊下が続く、数寄屋造りの趣味の良い和の空間が広がる

二人は先ほどから、見たことのない風景に戸惑っている

「ね、姉さん・・・・」

「森羅、大丈夫よ・・・・」

とたんに、着物姿の女性が

「静かにしなさい!私語は禁止です」

「黙って歩きなさい」

森羅は意味がわからないものの、雰囲気で察して直ぐに黙った

 

少し進むと、鮮やかな緑が目に飛び込んできた

現代日本建築の粋と和風庭園を極めた中庭が姿を現したのだ

「ゴクリ・・・」

麗華はあまりの美しさに、咽をならして唾をのみこんだ

中庭を巡る回廊、四季折々の表情を見せる庭園・・・・・・

菖蒲が水辺を彩り、池の水面に反射する木漏れ日が美しい

 

その回廊に一人の男が佇む

「あ、ご主人様・・・」

「これからご挨拶にと思いまして」

着物姿の女性が恐縮したように、慌てて廊下に正座する

「ほら!あなた達も!」

急かされて、麗華と森羅も廊下に正座する

「こちらが、以前からお話のあった、姉弟です」

「ただいま、到着いたしましたので、ご挨拶に連れてきたところです」

二人は、頭を押さえられてお辞儀をした

男は、正座する二人を見下ろすと

「麗華さん・・・・だったかな、宜しく頼む」

男は短くこたえると、たいして興味もないように廊下の奥へ立ち去っていった

 

この男が、大田原浩三・・・・・・

これから麗華と森羅に大きく関わっていく重要人物なのだ

 

そして、麗華と森羅は別々の部屋に入れられた

麗華は新入りのメイドとして、3人部屋で先輩のメイド達二人と一緒に生活することになる

森羅はまだ学生ということで、一人部屋を与えられ、庭掃除の仕事をしながら通学が許された

 

カタコトの日本語で麗華は先輩に挨拶をした

「ヨロシクオネガイシマス」

次の瞬間、麗華の頬にビンタが飛んだ

ビシーッ!!

「なに、その態度!」

「もっと、丁寧にできないの?」

「私達を舐めてるの!」

ボコッ!

もう一人のメイドが麗華の腹を蹴った

麗華はお腹を押さえて蹲った・・・・

 

森羅はグレーの作務衣に着替えさせられ、さっそく庭掃除をしていた

バチィイィィーーン

平手打ちに、森羅は土の上にひっくり返った

「遅いんだよ!子供だとおもって甘えてるんじゃないよ!」

藤色をした作務衣の女性に怒鳴りつけられていた

 

 

これが・・・・両親を亡くし、借金の方に異国の地に売られてきた二人の生活のスタートだった

 

 

 

続く

 

 

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