大きな鈍い音がした様な気がして、俺はふと顔を上げた。
時折、授業中でも生徒のふざけ合う声が聞こえるのだが、それとは違い、この学校では聞き慣れない音だった。まるで、学校中の扉の鍵を一斉に掛けたかの様な……。
俺はノートを取っていたクラスメイトの方を向いた。俺の席は教室の前方に在るので、皆の方を向くと、首を真後ろに向ける形に為る。
皆もあの音に気付いた様で、教科書から目を離し、俺と同じ様に周りをきょろきょろと眺めていた。音源が何処に在るのか、皆気に為る様だ。
其処で、担任の高田が手をパン、パンと鳴らし、皆の目を教壇に向けさせた。
「は~い、注目~!」
高田が言った。俺は教壇に立ち電子黒板に文字を書いている高田を見た。いや、高田が書いている文字を見たと言った方が正確だろう。
高田が電子黒板に書いた文章がこれだ。
『授業中なので静かに、10分で体育館へ向かう』
俺は何故体育館へ向かうのか、訳が解らなかった。皆も同じだった様だ。だが担任の言う事だ。素直に従っていた方が後で都合が良い。俺達は体育館へ向かう事にしたのだった。
俺の名は神田直樹。都内の某都市に存在する、ある高等学校の生徒だ。成績は余り悪い方ではなく、スポーツもそこそこ出来る。自慢ではないが、結構モテる方だ。
――そんな平凡極まりない俺が、あんなデスゲームに参加させられる事に為るとは……。
俺が通うクラス、3年A組の教室を出ると、俺の幼馴染、山田研二が声を掛けて来た。
「直樹ィ!」
俺は研二の声の大きさに呆れた。高田が電子黒板に書いた『静かに』と言う文字が見えなかったのか? ――この儘では俺も叱られる事に為ってしまう。俺は顔の前に人差し指を持って行き、『静かに』と言うマークを作った。研二も意味が解った様だ。少し声の大きさを落とした。
「でさあ、直樹ィ」
「何だ? 俺に答えられる範囲内の質問を期待するぞ」
「あ、ああ。何で体育館へ向かわなくちゃ為らないんだ?」
俺は戸惑ってしまった。正直解らないからだ。だが此処は研二を安心させる為に、俺はわざと嘘を吐く事にした。
「……この間のテストの結果発表だろう」
「……違えだろ。体育館に集まるって事は、全校生徒の集会って事だろ? 普通テストの結果発表する為だけに全校生徒集めたりしねえだろ」
俺は心の中で、何で俺に訊くんだよと叫んだのだった。
体育館には、既に500人の全校生徒が集合し、体育座りをして待っていた。俺達は整列をすると、ステージの方を向いて座った。
暫くして、ステージ上に教頭が上がり、続いて校長も舞台袖から出て来た。教頭はマイクの調子を確かめると、校長の出て来た方とは逆の方向に消えた。
校長はマイクの前に立つと、深く頭を下げた。続いて、コホンと1回咳払いをすると、500人の生徒達を目の前に、話し始めた。
『皆さんも良く御存知の通り、近年、学力低下による若者の非行行為が多く為って来ました。私もこれには胸が締め付けられる思いです』
俺は心の底から、絶対そう思ってはいないと確信した。口から出任せと言う事だ。
『そして私達教師一同が必死に頭を捻った末、この結論に到ったのです』
教頭がスイッチを入れたらしい、校長の後ろに在るモニターの電源が点き、黒い文字がデカデカと表示された。
『弱者は排除すれば良い』
俺の思考が一時停止した。
――何だこれは――!??
教師として絶対に有り得ない言葉が、今モニターに表示されている。弱者は排除すれば良い――言い換えれば、『弱い者は殺すべき』と言う意味だ。俺は、激しい憤りを感じた。
俺は周りを眺めた。俺の様に怒りを抱えている者は、少ない様だ。皆信じられないと言った表情で、モニターを眺めていた。
『どうです!? この理論!! そう、弱者は死ぬべきなのです』
校長は当然と言った表情で、マイクを握り締めた。俺は、校長の頭が狂っているのかと思い、周りで校長の話を聴いている教師達を見た。だが教師達は精神病院に連絡を取るどころか、何と校長の話に熱心に耳を傾け、しかも拍手までしているではないか。一体この学校の教師は、どうしてしまったんだ?
校長の話は、未だ未だ続いた。
『そこで私達は、生徒が安心して社会に出られる為、弱い人間は切り捨てると言う教育強化プロジェクトを行なう事を決定しました。それが、此方です』
もう一度、モニターの電源が入り、黒い文字が表示された。
『校内・デスゲーム』
「校内……デスゲーム?」
俺は不安に襲われた。『DEATH』と言う単語が目に入ったからだ。
『校内・デスゲーム。ルールは簡単です。皆さんには今日から幾つかのゲームを、この校内で制限時間内にクリアして頂きます。制限時間を経過してもゲーム・クリア出来なかった場合、その方には……』
校長は其処で言葉を切り、顔に満面の笑みを浮かべて言ったのだった。
『殺されて頂きます』
俺は、目を見開いた。デスゲームと聞いた時から想像はしていたが……それがまさか現実に為るなんて。
『解りましたか? それでは校内・デスゲーム:第1回戦の説明を行な……』
「鳥渡待ってくれ!!!」
俺の後方に居た、1人の生徒が立ち上がった。俺達は生徒の方を見た。
「何でそんなゲームに俺達が参加しなきゃ為らねえんだよ!!! 敗北=死なんて、そんなゲーム、警察が許すと思うか!!?」
その生徒の言う事は尤もだった。もし本気で教師達が、このデスゲームに俺達を参加させようとしているのだとしても、警察組織がそんな事を許す筈が無い。俺達は「確かに……」と頷いた。だが直ぐに校長の『フッフッフ……』と言う薄笑いが聞こえ、俺達は振り返り、再び校長の話を聴いた。
『警察なんざ、多額の賄賂を渡せば、幾らでも黙りますよ………』
俺は改めて実感したのだった。
この教師達――いや、この学校は、イカレていると。
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