物語とは主人公が目的を達成する過程を描いた物です。
現状に不満があったり、何かを達成したい、手に入れたいという欲求があり、これを成し遂げるために、目的を妨げる要因と戦っていく道筋が、すなわちストーリーとなります。
この基本原則を念頭に置かないと、他の要素がどれほど優れていても意味不明の駄作になります。
キャラクターが魅力的でも、文章がプロ顔負けに上手くても、台詞回しがどんなに巧みでも、興味を引く伏線がどれほど散りばめられていても、
すべて無意味になります。
例えば、有名な日本昔話の桃太郎を例に挙げてみましょう。
桃太郎は、自分を拾って育ててくれたおじいさん、おばあさんに恩返しをするために、彼らを苦しめる鬼を退治することを決意し、旅立ちます。
旅の過程で、犬、猿、キジにきび団子を渡してお供に加え、彼らと力を合わせて、鬼を退治します。
しかし、もし桃太郎が鬼退治など決意せず、ただ日々を畑でも耕して、まったりと暮らしていくことを選んでいたら、どうでしょうか?
あるいは、鬼退治に旅立ったものの、「やっぱ無茶だわ、これ」と、道中で気が変って家に引き返してきて、その後は一庶民として平凡に過ごすことを選んでいたら、どうでしょうか?
え? な、なにが、やりたいの、この話は……?
と意味不明な作品となり、桃太郎の物語が後世に残ることはなかったでしょう。
何の冒険にも挑戦しない、平凡な一庶民の生活など、おもしろ味の欠片もありません。
物語とは、主人公がさまざまな困難に打ち勝ちながら、最後に目的を達成するからこそ、読み手に快感や感動を与えるのです。
現実の世界では夢や目標を持ったとしても、なかなか思い通りには達成できません。
達成できればこれほど喜ばしいことはありませんが、努力しても必ず報われる訳ではないのが世の常です。
ならば、せめて空想世界の中ぐらいでは、ヒーロー、ヒロインになりたいじゃありませんか?
自分を主人公と一体化させ、彼(彼女)の織りなす冒険を仮想体験し、そこで目的を達成するカタルシス(快感)を得る……
この喜びを人は求めるわけです。
あらゆる物語は、この王道的ストーリーのパターン……
主人公が目的に向かって行動し、それを妨害する敵(環境)と戦って、最終的に目的を達成するという流れを守っています。
中にはバットエンドで終わる作品もありますが、バットエンドといっても、主人公の目的がなんらかの形で達成されています。
悲劇として有名な『ロミオとジュリエット』も、愛を貫いて死んでいきます。
つまり、死という結末は悲しいけど、究極の目的である恋愛成就は達成されているわけです。
さて、物語の流れが分かったところで、これをよりおもしろくする方法を紹介しましょう。
それは主人公の『目的』を明確にした上で、そこに向かうための『動機』を強力なものにし、これを妨害する『敵の攻撃』も強烈にすることです。
絶対に達成したい目的がある主人公が、これを阻もうとする強大な敵に死にものぐるいで立ち向かい、最後には勝利する。
この鉄則を守っていただければ、あなたの小説は必ずおもしろいものになるでしょう。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、観客が悲劇を好む理由を
「英雄に起こった出来事と行為を再現することによって、共に英雄の苦悩を経験し、最終的に浄化作用(カタルシス)を得られるからだ」
と説明しました。
人間は、舞台上のドラマと自分の経験を重ね合わせ、泣いたり笑ったりすることができます。
おそらく、あなたも漫画や小説の主人公が辛く苦しい立場に追い込まれているのを見て、
「ああ、その気持ち、わかる、わかる!」
という気分を味わい、主人公がそこから逆転勝利を収めるのを目の当たりにして、すっきりした爽快感を得た経験がありますでしょう?
人間は、主人公の心の動きを我がことのように感じとって、自分が本来持っている痛みや悲しみを擬似的に追体験し、最後にこの激情から解放されることによって、心を浄化(カタルシス)することができるのです。
(悲劇で終わる場合でも、心の奥底の感情が揺さぶられたり涙を流したりすることで開放感が得られます。
ただし、バットエンドは地雷となる危険性が高いので注意!)
この浄化作用は物語に接すること以外では、まず得られないことなので、人は本能的に物語を求めるのです。良質な物語はこの浄化作用が強い作品だとも言えます。
読者に浄化(カタルシス)を与えるには、まずは主人公に感情移入してもらわなくてはなりません。
このため、最初は悲劇的な苦境に主人公を立たせて、読み手の同情や共感を誘い、徐々にそこから逆転していくという筋道が王道となります。
主人公に共感してもらうことが、最大のミソになるので、恵まれていて、何の問題も悩みも抱えていない人格完成完全無欠最強無敵のスーパーヒーローが、障害にもならない小さなトラブルを鼻歌交じりで解決するような話はNGとなります。
これはライトノベル作家の日昌晶さんから聞いた話なのですが、
「初心者は主人公いじめが足らない!」
のだそうです。
とにかく主人公にはピンチに次ぐピンチ、試練に次ぐ試練を与え、「これは普通の人間だったら心が折れるだろう」「ここからの逆転は不可能だろう」と思うような状況まで追い込むことが、ストーリー制作のコツとなります。
目的に対する「抑圧」の部分ですね。
どうも物語が盛り上がりに欠けるという場合には、抑圧が足らない。主人公いじめが足らないのだと考えてみるのが良いです。
主人公がトコトン苦しんだ後に、劣勢を跳ね返して目的を達成すると、その喜びは倍増し、読者が得られるカタルシスも大きくなります。
主人公いじめの方法について手っ取り早いのは、敵を主人公陣営よりはるかに強大にすることです。
勝てそうもない相手に勝つ過程において、おもしろさが生まれます。
また、精神的に苦しめるのも良い方法です。
例えば、妹と恋人のどちらの命を救うのか二者択一を迫ったり、愛する者を敵の計略によって自らの手にかけさせたり、親友に裏切られるなど、心に強烈な痛みを感じるような目に合わせるのです。
小説は精神的な葛藤を描くのに向いているジャンルですので、精神的な主人公いじめは特に効果的となります。