心の由来:「心」についての身もふたもない話

精神医学・臨床心理学に関連した、あまり実益のない無駄知識を中心とした科学読み物です。

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女性のオルガスムの謎・前編

性機能障害の話題は、この後、女性のオルガスム障害(性的行為において、性的興奮に続きオルガスムに達することができないという問題)に入ろうと思います。

ですが、その前に、女性のオルガスムはとにかく謎が多いのです。

「女性のオルガスム障害」などといいますが、普通に行われるセックスにおいてまあまあだいたい(50%以上の頻度で)オルガスムに達することができるのは、全女性の5〜6割くらいであろうと見られています。 セックスによっては、ほとんどまったくオルガスムに達することがない人と25%以下の頻度になってしまう人をあわせると3割くらいもいます。 

セックスではなく、マスターベーション(いわゆる「ひとりH」)によってだと、まあまあだいたい(50%以上の頻度で)オルガスムに達することができる人は7割以上くらいに上昇しますが、逆にマスターベーションによってさえもオルガスムに達することができない人も15%くらいはいます。

精神分析の創始フロイトは膣による性交でオルガスムに達することができることが成熟した女性の性のあり方だと考えていたようなのですが、セックスによってほぼ毎回オルガスムに達することができる女性など全体の15%程度しか存在しなく、むしろ少数派だということになります。
(しかも、非常に興味深いことに、Dunn先生たちの双子研究の結果によると、オルガスムに達しやすいかどうかというのは、どうやらかなりの部分が遺伝子的に決定されている一種の体質のようなものらしいと考えられています。) 

なんということでしょう。 「女性のオルガスム障害」という言葉を考えるときに注意しなくてはいけないのは、まずはこの事実でしょう。
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しかし、女性のオルガスムについてもっと問題なのは、果たして女性のオルガスムは何の役に立っているのか、今ひとつわかりにくい・・・ということでしょう。

進化心理学 evolutionary psychologyの視点からすると、私たち人間を含めてすべての動物にそなわっている行動パターンや「心」といったものは、それを支配する遺伝子が、何らかの生存競争上の有利性があって、太古の昔から今にいたるまで適者生存して引き継がれてきたものだと考えることができます。

ところが、女性のオルガスムという機能は、進化論でいうところの適者生存において、一体何の役に立っていたのかわかりにくいのです。

男性のオルガスムは、射精に直結しますから、適者生存・子孫繁栄のために必要不可欠です。

しかし、女性はオルガスムに達しなくても妊娠します。 事実、パートナーとのセックスで全然オルガスムに達したことがない女性でも、妊娠している人は大勢います。

では、女性のオルガスムは妊娠・子孫繁栄・適者生存に関係ないのか?

どうも、そうとばかりは言えないようなのです。 むしろ、女性はオルガスムに達するかどうか、どのタイミングで達するかによって、自分が好ましいと感じる特定の男性の精子を積極的に受け入れるかどうかを能動的に選択している可能性がある・・・というのです。

なんじゃそりゃ〜?! にわかには信じがたい話です。

そんな話は、まずは人間以外の動物で見られました。 犬やネズミや家畜などで、動物のオスのオルガスム(射精)に続いてメスもオルガスムに達すると、子宮がリズミカルに収縮して、今さっき膣に射出されたばかりの相手のオスの精液を、膣から子宮の中に吸い込むようなメカニズムがあるようであることが観察されました。 膣の中は酸性度が高く、精子にとっては危険な環境なのですが、それがさっさと子宮の中に吸い込まれることによって救出されているのかもしれない、と考えれました。

人間でもそうなのか?
さすがに人間が相手だと、あまり無茶な実験をするわけにもいかないので、決定的な証拠はあがってきません。
ただ、セックスの間は女性の子宮の内圧は陽圧(+40cm 水柱)なのが、オルガスム直後には陰圧(-26cm 水柱)になるようであり、動物たちと同じように、男性パートナーがオルガスムに達した(射精した)直後に、女性がオルガスムに達することによって、かなり効果的に膣の中に射出されたばかりの精子を子宮内部に吸い上げることができているのかもしれません。

実際、Fox先生たちの実験データによると、男女がセックスでオルガスムに達するタイミングは多くの場合が同時ではなく、(上記の理屈通りに)男性がオルガスムに達してから(射精してから)30秒前後くらいで女性がオルガスムに達することが多いことを示していました。
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男性がオルガスムに達してから(腟内に射精してから)30秒くらい後に女性がオルガスムに達する・・・このことによって、より効率よくパートナーの精子を「救出」して子宮内に積極的に受け入れ、妊娠しやすくしているのかもしれない?

原始時代の女性は、この機能を使って、気に入った相手(妊娠したい相手)の場合はこのタイミングでオルガスムに達し、気に入らない相手(妊娠したくない相手)の場合はこのタイミングを外すことで(あるいはオルガスムに達しないことで)、「妊娠しやすさ」を部分的にコントロールしていたのかもしれない?

本当なのでしょうか? そして、もし本当だとすると、現代に生きている女性にも、原始時代の女性が持っていたのと同じ遺伝子を引き継いで、同じ行動パターンや「心」といったものが残っているのでしょうか?

〜後編に続く〜





参考書:
(1) Fox CA & Fox B.  A comparative study of coital physiology, with special reference to the sexual climax.  J Reprod Fert, 1971; 24: 319-336.

(2) King R & Belsky J.  A typological approach to testing the evolutionary functions of human female orgasm.  Arch Sex Behav, 2012; 41: 1145-1160.

(3) Costa RM , et al.  Women who prefer longer penises are more likely to have vaginal orgasms (but not clitoral orgasms) : implications for an evolutionary theory of vaginal orgasm.  J Sex Med, 2012; 9: 3079-3088.

(4) Singh D, et al.  Frequency and timing of coital orgasm in women desirous of becoming pregnant.  Arch Sex Behav, 1998; 27: 15-29.

(5) Garver-Apgar CE, et al. Major histocompatibility complex alleles, sexual responsivility, and unfaithfulness in romantic couples.  Psychological Science, 2006; 17: 830-835.

(6) Dunn KM, et al.  Genetic influences on variation in female orgasmic function : a twin study.  Biology Letters, 2005; 1: 260-263.

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