2012-05-27 15:13:03

果物好きな中世の人々

テーマ:中世ヨーロッパ史・食事
『中世の食生活』B・A・ヘニッシュから[13]
[主に13~15世紀のイギリスの事例より]


○果物の種類

(1)舌の肥えた人々には、自国産の果実は豊富すぎてありきたりだったから、虚勢抜きで満足げに食べていた

 A.しかし、異国情緒あふれる高価な果実の場合は全く事情が違った
 B.「小粒の種なし干しぶどう、普通の干しぶどう、ナツメヤシ、いちじく」は、冬のため(とりわけ四旬節用)に輸入され、かなり親しまれた
 C.オレンジとレモンは貴重品だった(スペインから輸入)が、15世紀までには多少豊富になっていた。子供の兄弟ゲンカのネタにも登場している

(2)果物への好みは子供の頃から始まり、大人になると個人的な楽しみと結びつくようになる

 A.子供に食べさせるために「まず柄を引き抜き、次に皮をむく。果肉を食べ終えたら種子を芯から取り出す」。そしてこの種子を外に植えたらしい
 B.冬の長く暗い夜の娯楽の1つに「炉辺の灰の中でリンゴや梨を蒸し焼きにする」ことがあった
 C.楽しみに向けて保存するために、枯れ草の中で貯蔵していたという。そこにはゆい香りが満ちていた
 D.王室もひっきりなしに果物を買い求めていた。記録に登場するのは「リンゴ、梨、木の実、チェリー、四旬節用のウォーデン梨、まるめろ(花梨。その実は黄褐色で堅くて芳香・酸味が強く、ゼリーやジャムなどの原料となる)の実」など。そのまま食べるだけでなく、王室には菓子製造係もいて、材料として果物を調達していた

(3)リンゴと梨は、史料や文献にとりわけ名前が登場する

 A.リンゴには「コスタード(イギリス種の大型のリンゴで料理用)、ボームウォーター(イギリス種の大型で甘味の深いリンゴ)、リカードン、ブラウンドレル、ビタースウィート」といった種類があった
 B.梨には「カイユー、レギュール、パスピュセル、黄金クノープ」があった。全ての梨の中で最もよく知られていたのはウォーデンだった。これは西洋梨の一種で、果肉が締まっていて料理用とされ、熟す時期が遅くで冬中保存できた
 C.まるめろの実は、冬期用の献立に役立った。しかし夏の果実は調理法の本には頻繁には登場しない。これは、人々が子供から大人にいたるまで、生の果物を好んでいたことを示している(当時の食養生の理論からすれば、生はよろしくないという)
 D.他には「チェリー、プラム、西洋花梨、桑の実、西洋すぐり、桃、西洋すもも、いちじく、こけもも(ヨーロッパ・シベリア産のつつじ科の植物。黒い小さな実は食用となる)、メロン」などが食された。またイェルサレムへの巡礼途上で、ざくろやバナナを食べたという記録もある(15世紀)


○多種多様な果物の調理法

(1)赤い桑の実は料理の彩をすることが多かった

 A.「子牛の挽き肉、パンくず、卵黄を混ぜたもの」は砂糖と香辛料で味付けされ、出される前に桑の実の汁の中に浸された
 B.若い去勢した雄鶏用のソースは「夏期にはチェリー(晩秋の頃には代わりにりんぼくの実が用いられた)とまるめろで作られ、シナモンで味付けされた桑の実酒の中でグツグツと煮られた後に、パンくずか卵黄で濃くされた」
 C.料理への果物の利用例として新鮮な豚肉を「グツグツ軟らかくなるまで煮・皮をはがし・骨を抜き・小さく切る」。これに「一握りの干しブドウ・刻まれたいちじく・パンくず・砂糖・サフラン・塩で味付けした豚の油」を加え、さらに「卵黄と牛乳でつなぎをされ、1頭の豚の中に詰められる」。この豚を「縫い合わせ、焼き串に刺して焼き、生姜のソースをつけて」出す、というのがあった

(2)デザート用の果物の調理法はたいてい「長くゆっくりととろ火で煮る」or「焼く」だった

 A.例外的に「四旬節用フルーツ」の場合には「リンゴの皮をむいて薄切りにしてバターに漬け、油で揚げてから砂糖を振りかけた」
 B.また「焼き串で炙られるフルーツ」もある。「ナツメヤシ・いちじく・干しぶどう・漂白されたアーモンドを、人間の長さの糸に通された針で交互に刺され、糸を焼き串の回りに巻きつけてから火の上にかざされる」。そして「バター(生姜・砂糖・サフラン・ちょうじで味付けしている)をフルーツにくっつく程度に強くかき混ぜておく」。焼き串の下には垂れ落ちる汁を受けるための皿を用意しておき、調理師は焼き串を回して料理を始める。ここに「フルーツがバターに隠れるまで、バターをスプーン1杯ずつ注いでいく」。そして、パリパリとした金色の完成した状態になると、糸を焼き串から抜いて、小さな長さに刻んでからアツアツの状態で1,2切れを皿に載せて出した
 C.天火で焼く場合には「まるめろか梨が皮をむかれて芯を抜かれ、砂糖or蜂蜜と粉にひいた生姜を詰める。これを2,3個ずつ練り粉入れ(『棺桶』と呼ばれた)に置かれ、そして天火の中へスルッと入れた」
 D.リンゴは「軟らかくなるまで煮られ、裏漉しされてきめ細かく滑らかなピューレとなる」。これは「アーモンド乳液・蜂蜜・少量の塩と混ぜられ、パンくずで濃くされ、そしてサフランと白檀で着色される」。この料理を出す前には急いで熱せられた
 E.このリンゴのピューレを「肉汁で薄めてサフランで色付けし、砂糖と香辛料で味と香りを出して」スープにした
 F.生のリンゴを料理するパターンでは「細かく刻まれ、煮て作った米のプディングに加えられる」。このリンゴ入りプディングに「甘味をつけ、香辛料を入れ、サフランで色付けした」
 G.固いまるめろの実のジャムは「コティニャック」と呼ばれ、今でもフランスで作られている(この実から作られるペーストゼリーはオルレアンの名物らしい)
 H.これを作るにはまず、まるめろの実の「皮をむき、芯を抜き、ごく軟らかくなるまで赤ブドウ酒の中でとろ火で煮た」。次に「乳鉢の中で叩き潰されて軟らかくされ、蜂蜜と混ぜられ、濃くするために再び火にかけられた」。この作業は、深鍋にこびりつくのを防ぐためにかき混ぜ続けなければならず、退屈だった。さらに「(冷たくなった時に薄切りに出来るよう)この混ぜ物の量を減らしておく。最後に適度な濃度になったところで香辛料を加えて、固まらせるために箱の中に置いておく」
 I.ウォーデン梨を「ブドウ酒で煮て、液を漉して除き、乳鉢で果肉を突き砕く」ことで、とても濃いピューレが作られた。この軟らかい塊状のものを「砂糖or蜂蜜とシナモンを加えて深鍋に戻して、しばらく煮る」。そして「この混ぜ物をしばらく冷やしてから、卵黄で一層濃くして、ちょっぴり生姜を効かせて一段と辛味を与えた」 J.シチューにする場合には「梨を2つに切って、砂糖・シナモン・生姜・(色を良くするために)1つまみのサフランを入れ、赤ブドウ酒の中でとろ火で煮た」
 K.梨を丸ごと調理して楽しい料理も作れた。「梨を煮てから皮をむき、芯を底から慎重に抜く(葉柄は付いたまま残される)」。それから「1個ずつ香辛料を混ぜたものを詰め、次に果肉に軽く刻み目をつける。これによって、香辛料の中でこの果物を転がすと、粉は側面にベッタリとくっつく」。この次に「葉柄にはごく薄い金箔を被せ、梨は『棺桶』(練り粉入れ)の中にアーモンドクリームを厚く敷いた上に立てて置かれた」
 L.イチゴには砂糖をかけてそのまま食べていたが、調理法もあった。「イチゴを赤ブドウ酒で洗い、そして漉す」。次に「小麦粉を入れて濃くされたアーモンド乳液の中でとろ火で煮て、これに干しブドウ・サフラン・コショウ・砂糖・生姜・シナモン・ばんうこん(根が香料となるイギリス産のかやつり草の一種?インド産の香料・薬用として用いられるもの?どちらなのかは不明)を加える」。次に「少量の油を入れてかき混ぜ、酢で香りを強くする」。このプディングに「植物の根から得られた赤い染料のアルカンナ(ヨーロッパ産のむらさき科の植物。根からとれた紅色の染料は赤ブドウ酒や菓子類の着色に用いられる)で着色をして、ざくろの実で飾った」
 M.イチゴは他にも「牛肉の髄やナツメヤシを入れた香辛料のきいたカスタード・タルトに、甘酸っぱさを加える」のにも用いられた

(3)これらの調理法のたいがいは、冬に手に入る果物(リンゴ、梨、まるめろ、干しぶどう、いちじく、ナツメヤシ)を用いていたという特徴がある。夏の果物は調理法の本には僅かしか書かれていない

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