まばゆい金で彩られた104点の挿絵と108点の頭文字 ケンブリッジのパーカー図書館外観

ケンブリッジのパーカー図書館外観

『ピーターバラ中世動物譜』は、全ページにわたり、動物の習性などをいきいきと描いた104点の挿絵で彩られています。金地に描かれた挿絵は赤と青の装飾枠で、色格子模様の地に描かれた挿絵は金の装飾枠で囲まれています。さらに、青や赤、金による108点の装飾頭文字には数行にわたって広がる人物像や植物模様が描かれており、2段組みテクストの区切れ目をあらわす役割をはたしています。また、348×236ミリの判型は、現存するこの種の写本のなかでも最も大型のものです。

イングランドの新鮮なゴシック様式

フランスにはじまった革新的なゴシック様式の書物装飾は、13世紀頃にイングランドに伝わり、かつてのロマネスク様式にとってかわりました。13世紀の画家は、人物の描写により立体感をもたせようとし、背景から浮き立たせようとしました。『ピーターバラ中世動物譜』の挿絵にも、このようなゴシック様式の特色がよくあらわれており、それまでのロマネスク時代の中世動物譜に比べ、より写実的で生き生きとした動物の描写に成功しています。
テクストに沿って物語がいきいきと表現されている挿絵もたくさんあり、読者を魅了します。羽ばたく鳥、巣で雛をあたためる鳥、群をなす蜜蜂、なわばりを守る雄、追うものと逃げるものなどが、微細な点にいたるまで熱心に、優れた観察眼をもって描かれています。風景の描写にはまだ幼稚さが残りますが、様式化された木々や川によって場面に自然な風景をつくりあげています。

目に鮮やかな背景の装飾 羊

『ピーターバラ中世動物譜』の挿絵画家は、背景を描く際には、伝統的な意匠を踏襲し、色模様と金地を使用しています。しかし、二つないしは四つに分割された地につかわれている細かな格子模様の色を変えるなど、軽妙な遊び心をのぞかせています。赤と青を中心とする美しい色づかいは、この写本に個性的で繊細な色彩美をあたえており、輪郭線画をおもわせる描線の軽やかさをいっそう引き立てています。

中世における写本製作と学問の中心地:ピーターバラ
ピーターバラ大聖堂

『ピーターバラ中世動物譜』を生み出したケンブリッジシャー州のピーターバラ大修道院(のちに大聖堂)は、中世アングロ=サクソン世界の学問的中心であり、富裕な図書室には多くのすばらしい写本が集められ、その写字室からは数多くの豪華な典礼書が生みだされました。
『ピーターバラ中世動物譜』を含む合本は現在、ケンブリッジのコーパス・クリスティ・カレッジにあるパーカー図書館で写本53番として保管されています。パーカー図書館の蔵書は、16世紀屈指の写本蒐集家であり、1559年から1575年までカンタベリー大主教だったマシュー・パーカー(1504-75)が、かつて学寮長を務めていたコーパス・クリスティ・カレッジに寄贈したものです。

ピーターバラ大聖堂。聖ペテロに奉献されたこの聖堂は、13世紀初頭の堂々たる西ファサードによって世界的にも有名である。

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