分類2−1<自然農水畜産物1>

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                                   分類2−2<自然農水畜産物2>


 【肉類】 【香辛料】 【胡椒】 【アスパラガス】 【アーモンド】 【イチゴ類】 【イモ類】UP 【オレンジ】 
【牡蠣(カキ)】 【カブ】 【ガーリック】 【キャベツ】 【キュウリ】 【栗】 【クルミ】 【米】


肉類 (参考文献番号:303738
 実際のヨーロッパ、中世の初期から、ずっと後世までの歴史の中で、人々が食べていた肉の量は大きく変化していました。まず、初期の中世ヨーロッパにおいては、人々は比較的たくさんの肉を食べていたようです。「麦類」の項でも書きましたが、その頃のヨーロッパの農業は穀物生産性が非常に悪く、9世紀から10世紀くらいまでは、畑に小麦を100粒まいたとしても、そこから小麦を200粒収穫できることはほとんどなかったようです。そのため、彼らは食物を手に入れるため、広大な森を活用して(「肉類:豚」の項を参照)豚を肥育しました。このように、森は豚の肥育にとって、とても重要なものであり、9世紀ころのドイツでは、「森の広さ」は、その中で飼育することができる豚の数で表されることもあったようです。ある資料によると、この頃、ドイツでは、1年間に人間1人が約100キログラムの肉を食べていたんだとか…(ほんとか?)。当時の食肉事情は、思ったよりはよかったようです(ほとんど豚ですが)。
 やがて、12世紀ころになると、人口の増加にともなって小麦や大麦などの穀類の量が不足してきたので、森を切り開き、畑を作って穀物が作られるようになりました。結果として、それまで豊富な豚肉食を支えてきた広大な森(もちろん文明地に近い森のことですが)が減少してしまったため、豚の肥育事情は悪化してしまうことになりました。また、穀物増産により穀類を食べる量が増え、人口も増加したこともあって、人々の口に入る肉の量が減ってしまい、なかなか肉が食べられなくなってしまいました。この頃が、人々の食肉事情が最も良くなかった時代であるようです。
 さらに時代が進むと、今度は産業が進歩し、人々の収入が増えてきます。同時に、農業技術そのものも進歩したおかげで、穀類の生産性は向上し、16〜17世紀ごろでは、1粒まいた小麦から、4倍(4粒)もの収穫が得られるようになってきました。また、新大陸から入ってきたポテト(ジャガイモ)の栽培も行われるようになり、主食的農産物の生産量が増加していきました。また、たくさん収穫されたポテトは、豚の飼料にも向けられるようになり、これらの事情によって、豚の肥育条件は、めざましく回復していくことになります。こうして、減少した肉の消費量は再び回復していきますが、それでも19世紀初頭ごろのドイツで「1人年間20キログラム」くらいのもんだったようです。

 ファンタジー世界においては、そのモデルとなった時代や情勢が、実際のヨーロッパのどの辺りの時代に当てはまるかによって、大きく異なることになります。食肉の生産力低下期であれば、人々の口に入る肉の量は少ないものでしょう。逆に、広大な(安全に豚を放し飼いにできるような)森が豊富にあるような状況であれば、人々は日常的にたくさんの豚肉などを口にすることができるかもしれませんね。

肉類:
豚(飼育地:広島県広島市。品種は不明ですが、ハンプシャー種系の交雑種かも。) ヨーロッパでは前述の牛や羊以上に多く食べられた動物がいます。それが豚です。少なくとも、「食肉の味」という点では、豚は最も良質であるとされ、古くはギリシャの時代から食べられていました。実際のところ、牛を食べる場合はほとんどが労働できなくなって屠畜されたものでしたから、牛肉のほとんどは硬くてあまり美味しいものではなかったようです。羊や山羊はそもそも摂れる肉の量が多くはありませんでした。これらに比べ、何でも食べてよく肥った豚の肉は、脂がのっていてさぞかし美味しく感じられたことでしょう。
 「草食動物が10kg大きくなるには約100kgの草を食べる」と云われているようですから、余程しっかりと牧草を与えて肥育管理でもしていない限り、牛などの家畜類の肥育はなかなか進まなかったのかもしれません。草を食べさせるだけでも大きくはなるけど、なかなかそのスピードは遅いと(笑)。この点、豚は何でも食べるので牛などに比べると肥育条件は各段に良好で、それ故に肉にもよく脂がのって美味しかったので、牛などよりも多く食べられていました。
 豚はその旺盛な繁殖力、そして鼻先から尻尾まで全部食べれる利用性、そして肥育のしやすさから重宝され、とてもたくさん飼育されていたようです。まず、ヨーロッパには樫の樹の森や林がそこら中にあり、豚はその森や林の中に放牧しておけば好物の樫の実(トトロの好きなドングリですね)を食べて十分に大きくなりました。さらに豚は牛と違って1回に10頭くらい出産するし、産まれてからだいたい6カ月から10カ月くらいで食べごろにまで成長するようです。ただしドングリが無くなる冬場には豚の飼料が少なくなってしまいます。豚に与える飼料としてはドングリ以外にも、残飯などがあります。他にも豚は人などの排泄物も食べますから、実際には結構いろいろなものが豚の飼料として向けられたことでしょう。(ただし、日々の生活がやっとの貧しい農家などでは、そもそも残飯はたいして出なかったかもしれません。現代日本の食べ残しの量は異常ですからね。)その他にも多少は飼料にあてることができる物はありますが…。
 他の飼料では「ふすま」というものもあります。「ふすま」というものは製粉に伴って、また製粉の前に精麦された際に取り除かれる皮殻の部分です。現代、「ふすま」といえば小麦の場合、お米でいう玄米層を指しますが、流通形態の違いなどから昔はそのさらに外側の外皮(お米でいえばモミの部分)も製麦で取り除いていたかもしれません。地方領主などは川辺などに粉挽き小屋(水車小屋)を持っており、広く精麦製粉を行なっていましたから、当然「ふすま」がたくさん得られ、それを豚などの飼料に回すこともできたかもしれません。しかし、中世ヨーロッパでは、パンはほとんど全粒粉で作っていたという資料もあり、また麦の収穫量自体が低い場合も多かったので、実際のところ、「ふすま」をどのくらい飼料などに回せたかどうかはよくわかりません。
 農村では残飯での肥育もそれなりに大変だったようですが、都市部では結構手軽に残飯で豚が飼われていたようです。都市ではたくさんの豚が放し飼いにされ、馬車などと衝突して交通事故も増えたとか。都市の豚は餌が少なくなると、墓地で死体を掘り起こしたり、赤ん坊を齧ったり(!)といろいろなトラブルを起こしたようで、食肉として重宝されていた反面では、「不潔」とか「乱暴」などと嫌われたりもしれいたようです。
 ヨーロッパの人口が増加し、多くの森が切り開かれ、都市にも家が増えてくると、豚の飼育頭数は減っていき、豚肉の消費量は減少していきました。しかし、やがて大陸からジャガイモが入って来て、痩せた土地でも比較的安定した収穫が見込まれるようになると、余裕をもって作られたライ麦なども豚の飼料にまわせるようになり、またジャガイモも沢山とれるようになると飼料になりました。こうして飼料条件が整ってくるにつれ、豚の肥育はまた盛んになり、豚肉消費量も回復していきました。
 冬場の豚の肥育の話に戻ります。肥育豚には穀物をやらなければなりませんが、豊富な「ふすま」や穀類の蓄え、残飯を多く出せるほどの余裕が有る家庭なら大丈夫でしょうが、そうでない家庭では余力的に厳しかったことしょう。そのため、冬を目前にすると、種豚だけを残して他の豚を全部屠畜して肉を塩漬けにして保存する事が多かったようです。ところがこの塩漬けはとっても不味かったそうで、それを少しでもましなものにするためには、塩漬けの際に香辛料(コショウなど)を混ぜ込んでおくとよかったそうですが、当然ながら香辛料は貴重品でした(笑)。美味いソーセージを作るにはやっぱり香辛料が必要ですね(笑)。ソーセージについてはやがて食文化のひとつとして、嗜好品的な作り方もされるようになっていきます。
 さて豚の食べられ方ですが、(ソーセージを除くと)大きく分けて2つ、つまり「ロースト(焼く)」と「ボイル(煮る、茹でる)」でした。「焼く」というのは実は贅沢な調理方で、それほど頻繁に行なわれたわけではなかったようです。焼くと肉は縮んでしまうし、焼く時(直火焼きは除く)には脂が使われることもあったからです(脂身はベーコンとして食べられますからね)。よって豚肉の多くは「ボイル」されて食べられていたようです。一般民衆は、葉野菜やカブ、豆類と一緒に豚肉をボイルして食べていたようですね。ただ日常的にこうして食べる豚肉は、保存のために塩漬けにした肉や内臓、腸詰めを少しずつ使っていたようです。
 冬になる前、晩秋辺りは豚も丸まると肥り、食べ頃のひとつとされていました。また冬には豚のエサになる森のドングリも無くなってエサが充分になくなるため、この時期には農家では(当然種豚や母豚などは残して)豚を屠殺して新鮮な肉にするというのが季節行事のようにもなっていたようです。この時ばかりは塩漬けではない新鮮な肉が食べられ、それ以外の部分は塩漬けや腸詰め(ソーセージ)などに加工されました。(ただし、この恒例の屠畜の時期は地方によっても違い、真冬やクリスマス時期に行なう地域など様々だったようです)


肉類:
 牛も古くから人間に飼われ、現代も様々な品種が知られています。古くから知られている牛の品種としては、ローマ帝国がフランスに持ち込んだ牛の血を引くというシャロレーや、2000年くらい前に、オランダにやって来た移民が連れていた牛の血を引くというホルスタインなどが、知られています。
 中世ヨーロッパ辺りまでは、牛は食べるために飼育するものではなく、主として農耕や他の労役のために飼育するものでした。「肉といえば牛肉」というわけではなかったということです。ですから、基本は労役用&搾乳用。それで使えなくなってきてから、屠殺して食肉に向けるというのが基本だったようです。
 食肉としての観点から言えば、前述のように、牛は産まれてから食べごろサイズになるまでに5〜6年もかかったみたいです。牝牛は牛乳をとって乳製品を得ていき、乳が出なくなってから屠畜して肉を食べたようです。牡牛は畑を耕したり、荷車を引かせたりして労働力として働かせ、働いた末に労働力として役に立たなくなってしまって(ケガや老衰などで)から肉を食べました。牝牛は労働力として利用するほかに、牛乳が搾られましたが、乳が出なくなったり労働に使えなくなるとやはり屠畜して肉を食べました。牡牛の場合、この時代から既に、最初から去勢して肉の柔らかい肉牛として育てるという事もしていたということですが、そんな贅沢なことをして生産した肉を食べることができたのは、限られた一部の上流階級だけでした。ごく一般の庶民が牛肉を食べることができたのは、たまに廃牛の肉を麦粥に入れて食べる時くらいだったみたいです。
 さて、ヨーロッパには、古来から、いくつもの牛の品種がありましたが、時代を経るに従って、その用途に合わせた交雑や選抜などの品種改良によって、牛の体つきは大きく変化していくことになりました。役用牛は力強くなるべく前肢の発達、肉用牛は(肉をたくさんとれるように)前肢後肢の発達、乳牛は後肢の発達及び搾乳量の増加(もともとの牛というものは、あまり乳は出なかったんだそうです)、それに、様々な成育環境に合わせた形質の変化を経て、やがて様々な牛の品種(またはその元の血統)が産まれていくことになりました。品種改良によって、肉をとるのに向いた品種も増え、18世紀以降くらいになると食肉の中での牛の位置づけは随分と上の方にシフトしてきていたようです。


肉類:山羊、羊など
羊(品種不明、飼育地:広島県広島市 羊は、家畜としての歴史は、牛や豚よりも長いんだそうで、古くから家畜として人間に利用されていました。それなりの余力のあるヨーロッパの一般農家は、羊や山羊を数頭飼っていたようです。高原や、羊、山羊の飼育が盛んなところでは、各家の山羊や羊を預かり、牧草地へ連れて行き草を食べさせ運動させる羊飼い、山羊飼いがいました。ハイジのペーターですね(笑)。ただし多くの中世風ファンタジー世界(ワールドによって大きく異なりますが)では、街から離れるに従って治安は極度に悪化し、ゴブリンなどのヒューマノイドモンスターも出没するようになります。ヒューマノイドモンスターに、夜行性が多いのが救いではありますけどね。まあ文明圏内でそれなりに安全なところなら羊飼いたちも動けるでしょう。実際、危険な地域には羊飼いはあまりいないでしょう。羊飼いが実は高レベルのマジックユーザーだった、とか実はサイクロップスだった(笑)とかいうなら話は別ですが。
 山羊、羊は、やはり乳を搾るのが庶民的にはまず第一の活用でしょう。また、羊は羊毛を取れますから、技術があれば自分で加工できるし、商人に売って収入を得ることもできたかもしれません。毛の質にもよりますが(笑)。乳も出なくなり、上質の毛も取れなくなったりしたら、やっぱり屠畜して肉用とされることでしょう。裕福な者であれば、若い羊を屠畜してその柔らかい肉(ラム肉です)を食べることもできたでしょうが、そんな贅沢は一般庶民にはなかなかできないでしょうね。ただ、ラム肉を良い値で買ってくれる人がいるなら、一般庶民でも、肉用に羊を飼育するという産業が成り立つことになるでしょう。
 豚を不浄なものとして禁忌扱いしているイスラム教徒にとっては、羊の肉は、重要な食肉動物として珍重されていましたから。ファンタジー世界でも、国や地域によっては、食肉はほとんど羊っていうところもあるかもしれません。
 これは余談ですが、山羊や羊たちは、「森」にとっては害獣なんだそうです。同じように森で放し飼いにしたとしても、豚は木の実などをしっかりと食べるのに比べ、山羊や羊は草の芽や、若い木の芽など、木そのものを「好んで」食べてしまいます。馬や牛も、山羊、羊などと同様に、木の芽など、木そのものを食べますが、山羊、羊ほどひどくはないのだとか。というわけで、過度に大規模なこれらの放牧は、環境を破壊してしまうかもしれないようです。イタリアに「禿げ山」が多いのは、牧畜(羊)が盛んであったためだという説もあります(笑)。


プレサレ
 フランスはブルターニュ地方の海辺では、潮の干満の差が大きく、農業や牧畜にも潮の満ち引きに関係した伝統が多く残っています。ブルターニュでは、羊肉がよく食べられていますが、特に珍重されるのが、潮の香り漂う海辺で育った羊の肉です。海辺の塩分を含んだ草を食べて育った羊の肉は、肉自体に塩味がついているといわれ、このような羊肉のことは「プレサレ」と呼ばれます。薄切りにして火で炙り、少しコショウを振って、マスタードを添え、肉のもつ元々の塩味を味わって食べるのが美味しいそうですが‥。食べたことないので、わたしも食べてみたいもんです(おいしそう^^)。

肉類:家禽類
鶏(品種:不明、飼育地:広島県広島市) ほ乳動物だけでなく、様々な鳥の肉もまた、中世では食べられていました。裕福な貴族の城や館、屋敷などでは、鶏、アヒル(もともとは野生のカモを家畜化したもの)、ガチョウ、孔雀、などが食肉用に飼われており、宴の席にはよくその肉が供されました。もちろん、狩猟で獲ることの多いイメージがある、キジやウズラ、ハトなども家禽として屋敷などで飼われることはありました。"裕福な貴族"と書きましたが、実際に、屋敷などで飼育している鳥の数は、その家の裕福さのバロメーターのように思われていたようで、たくさんの家禽が飼われ、その肉が食卓を賑わしていました。
 家禽類の代表的イメージが強い鶏は、紀元前3000年頃には、既にチベット辺りで家畜化されていたようです。やがて、ここからアジア、ヨーロッパへと広がっていき、6世紀頃には、ヨーロッパでも飼育されるようになっていたようです。農家などでも鶏は飼われてはいたようですが、その肉を食べるのは、卵を生まなくなってからのようです。豚肉など以外で言えば、鶏肉と卵、そして狩猟で得られる動物の肉も貴重な動物性蛋白源だったようです。

 もともと中世ヨーロッパには、「七面鳥」はいませんでした。七面鳥は、北アメリカ原産の鳥で、家畜としての歴史は意外に古く、アステカ文明の頃には、既に食用(羽根は装飾用に用いられたとか)として飼育がされていたようです。今や、クリスマスや感謝祭のテーブルにはお馴染み(日本ではそうでもありませんが)の七面鳥ですが、ヨーロッパに持ち込まれたのは、新大陸発見以降です(南アメリカ原産ですから)。英語では「turkey」と呼ばれていますが、この言葉は「トルコ」を表す「Turkey」に由来しています。七面鳥自体は、トルコ原産でもなんでもないんですが、もともとヨーロッパに持ち込まれた際に、トルコを経由して入って来ていたとかで、この名前で呼ばれるようになったようです。ということで、中世ヨーロッパの食卓には、七面鳥は登場しません。いわゆる「中世ヨーロッパ風ファンタジー」には、七面鳥は登場しないというのが、ごく自然なことと考えられますが、ファンタジーやゲームは史実とは異なって当たり前ですから、登場したところで問題があるわけではないでしょう。ただし、家禽類及び狩猟鳥類がたくさんいる中で、あえて七面鳥を食肉として登場させる必要性もそれほどないような気がするのも、また事実ではあります。D&D(R)公式世界ガイドの中には、アステカ文明等をモデルにした地域もあったりしますから、そんな地域では、普通に七面鳥が飼われているかもしれません。


肉類:馬…?
馬(飼育地:不明、品種:おそらくサラブレッド) 中世ヨーロッパで馬を食用にするという話はあまり聞いたことがありません。なんでも8世紀くらいに時の教皇が馬を食べることを禁止するおふれを出したとかいう話ですが、馬は様々な労働、そしてなによりも戦にもちいる動物であったことが、馬をあまり食べなかった理由なのではないでしょうか。実際、馬の肉は柔らかいらしく(よく労働などに使った馬は除く)、ヨーロッパ周辺地域の人々はそこそこ馬も食べていたということです。実際のところ、イスラム教徒などの異教徒たちが馬を食べることがあったのも、教皇が禁止令を出した理由の一つだったのかもしれません。ただ、山奥の修道院などでは渓谷に迷い込んできた馬を食べたり、また攻城戦などでも篭城側はやむを得ず馬を食べたりすることはあったようです。まあ実際、切羽詰まれば贅沢は言ってられないって事ですね。実際、貧しい農民たちの間では、足が折れたり、働けなくなった馬は屠畜されて食肉とされていたようです。
 日本では、その肉の色から「桜」とも呼ばれる馬肉は、筋繊維の結合力が強く、目が荒くて固めだそうですが、グリコーゲンを多く含んでいるため、甘みがあるんだそうです。馬肉を原材料として使用した加工肉としては、いわゆるコンビーフの類(原材料に馬肉が含まれる物は、日本ではコーンドミートと呼びます。)がポピュラーでしょうか。日本では、牛肉ほどはポピュラーでない感のある馬肉ですが、馬肉を専門に食べさせるお店もあるようで、熊本県をはじめ、地域的には結構ポピュラーで、名産品だったりするようです。以前、九州に旅行した際、温泉旅館の夕食で出てきた「馬刺」は、びっくりするほど美味しかったです。思わず、その旅の帰りに、熊本県内にあるお肉屋さんで、お土産用も兼ねて、「馬刺」を購入してしまいました(お店には、馬刺は「熊本特産」と書いてありました。)。購入した馬刺は、「100グラム=1500円」という、なかなかお安くないものでしたが(霜降りたっぷりw)、やはり美味しかったです。もちろん、ヨーロッパでは、馬刺なんて食べ方はしてないでしょうけどw


肉類:狩猟鳥獣肉
 中世ヨーロッパで、狩猟によって獲られ、食べられていた動物というと、兎(ウサギ)、鹿、猪などの動物や、鴨、雉(キジ)、鳩、ウズラ、雷鳥などの野鳥類が代表的なところです。
 裕福な貴族などは、領地の中に森や山を持ち、そこで狩りを楽しむことができました。これらの狩り場では、一般の民衆などが狩りをすることは禁じられていることが多く、まさに貴族の楽しみとなっていました。貴族などが占有していた"狩り場"ではない、"普通"の森や山に近いところでは、一般の猟師たちも狩りを行い、様々な獲物を仕留めることができました。このような土地では、豚や廃牛など以外にも、さまざまな狩りの獲物が食卓を賑わせていたと考えられます。ただし、地域や国によっては、貴族の狩り場であるかないかに関わらず、一般人による狩猟が禁止されているところもあったようで、そんな地域では、狩猟の権利は貴族が独占していたようです。当然ながら、この場合は、狩猟によって得られる獣肉、つまり猪や鹿、兎、またその他の鳥類を食べることは、貴族たちだけに許された贅沢だったことでしょう。
 狩りの話に戻りますが、ヨーロッパでは、一般人に許されていたかどうかはともかく、狩猟そのものは一般的なことだったからか、今でも様々な狩猟動物の肉を食べる習慣があります。だいたいは鹿や兎、猪や鳥類などですが(現在、これらの肉は"ゲーム ミート"と呼ばれることもあります。)、これらの肉を使った"ジビエ料理"は、ヨーロッパではごく一般的なものであるようで、市場などでは、鹿肉や、丸ごとの兎などが普通に売られています。ローストした肉に、果実や葡萄酒で作った酸味のあるソースをかけて(染み込ませて)いただく料理などは、"ほぼ"一般的なヨーロッパ的肉料理といえるでしょう。現在では、市場で売られている肉の全てが実際に狩猟で獲られたものではなく、肉牛のように人工的に繁殖させたものの肉も多く流通しているようです。
 ちなみに、日本でも鹿肉は食用で流通しており、その肉色から「紅葉」とも呼ばれています。国内では、結構な数の野生の鹿が、狩猟や駆除によって捕獲されているんだそうで、年間200〜300トンの国産鹿肉が消費されています。また、海外からも、年間100トンくらいの鹿肉が輸入され、消費されているそうです。(全てを日本人が消費しているとは限らないでしょうけど)
 以前、知人に、狩猟で獲った鹿肉を軽くスモークしたものをいただいた事があります。ちょっとだけ食べたのですが、その時は、肉に少し癖があって、あんまり美味しいとは思えませんでした(鹿の種類によるのか、スモークのやり方が良くなかったのかは不明)。猪肉は、豚汁(猪汁か(笑))に入れたのを食べたことがありますが、獣脂たっぷりっていう感じで、普通の豚汁を食べたとき以上に、とても体が温まったのを憶えています。私は、兎の肉を食べたことはないんですが、肉色は薄く、味もたん白で、鶏肉に似た感じだそうです。

 話は変わりますが、鹿肉に限らず、(特に)野生動物の肉は、しっかり熱を通してから食べる必要があります。野生動物の中には、寄生虫を持っているものや、食中毒を起こす細菌に汚染されているもの、人畜共通感染性のウィルスをもっているものも多いからです。例えば、E型肝炎ウィルスは、動物からもヒトのものに酷似した遺伝子を持つウィルスが見つかっているらしく、肝炎の中では唯一、人畜共通感染が起こりうると考えられています。E型肝炎に感染した場合、発症しない場合もあるようですが、急性肝炎が発症した場合には(2〜9週間の潜伏期間)、倦怠感、食欲不振、腹痛等の消化器系障害、発熱、肝機能低下(黄疸も)などの症状が出ます。だいたいは安静療養等で治まるようですが、希に劇症化することもあるようです。致死率は高くはありませんが、妊婦が感染すると、危険なんだそうです。
 2003年に、国内でシカ肉を生で食べた人がE型肝炎に感染・発症し、後のウィルス遺伝子配列分析により、感染源がシカ肉であった事が確認されたケースがあります。また、感染源としての断定はできないものの、イノシシの肝臓を生で食べた人が、劇症肝炎を発症して死亡した例もあるようです(生で食べるなんて)。
 ウィルス性感染症、寄生虫に限らず、食中毒性細菌の感染など、(特に)野生動物の肉や内臓を生で食べるのは危険なことですから、ちゃんと加熱調理してから食べましょう。ファンタジーでも、しっかり調理して食べましょうね。冒険者がシカ肉に当たって死んだなんて、カッコ悪過ぎです(笑)。
 まあ、必ずしも、いつもそこまでリアルにしなくてもいいとは思いますが(笑)

 さて、話は戻りますが、かの小説ドラゴンランスシリーズの中にも、鹿肉の料理とかが出てきたことがあったような気もします。多くのいわゆる「中世ヨーロッパ風ファンタジー」でも同様に、やはり鹿などの肉が酒場などでは出されることでしょう。猟で獲物を仕留めたら、酒場などで買ってもらえるかもしれませんね(そして革は皮革職人へ)。
 私のワールドでは、一般農民の肉食の頻度の少なさは、史実ほど厳しくは考えておりません。ただし、彼らが裕福ではないのは確かなので、時期によっては、その頻度は低くなることもあるでしょう。まあファンタジーですから、それなりのリアリティでそれなりの折り合いというので構わないでしょう(笑)。


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香辛料
 ヨーロッパでは気温と降水量の関係かコショウ類を栽培することが難しかったんだそうで、インドなどからの香辛料を、多くの商人たちの手を渡って地中海経由で輸入していました。その結果、当然ながら価格は上昇し、一般の人は塩漬けに使うどころか食卓に載せることすら難しいものでした。
 もっと安く香辛料を!という理由もあり、大航海時代が始まります。ポルトガルの国王の命により、バスコ・ダ・ガマがインド航路を発見し(1498年)コロンブスはキューバ北東へと到着し(1492年)、やがて新大陸が発見となりました。この時代は、ヨーロッパ、いえアジアを含む世界に様々な物をもたらすことになりました。
 香辛料を運ぶキャラバンの護衛として雇われるっていうのも、冒険のネタの一つとしていいのではないでしょうか。


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胡椒(コショウ) (参考文献番号:
 インド南部海岸地方原産といわれる常緑多年生植物で、その直径5mmほどの球形の実(熟すと赤くなる)は、料理に用いられるコショウの原料となります。非常に古くから知られていた香味料で、人類との関わりの記録は、紀元前400年くらいまで遡ることができるとか。栽培には雨の多い高温地域が適しているらしく、ヨーロッパでは貴重品として流通していました。一時期、ヨーロッパでは胡椒は同量の金と同じ価値として取り引きされていたというくらいです。新大陸発見以前から知られており、大航海時代の始まりの理由の一つともなりました。
 製品の胡椒には白胡椒と黒胡椒がありますが、白胡椒は完熟した実を流水に浸して果肉などの部分を取り去り種子だけにしたもの。黒胡椒は成熟する前の実を穂についたまま収穫して乾燥させ、手でもんで穂からより分け、熱湯の中に入れて表面を黒くさせたものだそうです。胡椒は辛味と香気があり、料理や腸詰め作りなどに広く用いられましたが、そんな事ができたのは当然裕福な者のみでしょう。白胡椒の方が味がおだやかなため、多くの場合はこちらを粉末状にして料理などに用いられたようです。
 胡椒の種類は世界各地に様々なものがあり、各土地の風土気候に適したものが栽培されています。最初にヨーロッパ人に知られた胡椒は、インドのベンガル北部地方のものから作られた製品ではないかと考えられているとの事です。
 山賊団のねぐらを襲撃すると、壷に入った胡椒がため込んであった、とかいうのもたまには新鮮でいいかもしれません。


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アスパラガス (参考文献番号:2635
 ヨーロッパ原産のユリ科植物で、株から伸びた芽〜茎の部分が食用にされます。アスパラガスは雌雄異株と呼ばれるもので、それぞれの株が雄株、雌株に分かれています。通常、種子からの生育では、この雌雄の比率はおおよそ1:1くらいになるそうですが、雌雄で形質にばらつきがあるらしく、形質、収量ともに雄株の方が優れているみたいです。アスパラガスの食べ方は、茹でたり焼いたり揚げたり、また生で食べたりと様々です。ヨーロッパでは、春を告げる食べ物としても知られています。食材としての歴史は意外に古く、古代ギリシャでは野外に自生しているものが食べられ、ローマ時代にはすでに栽培もされていたようです。
 アスパラガスの芽は、一度植えつけると10年くらいは毎年生えてくるんだそうですが、土から顔を出し、日光に当たると緑に色付きます。緑に色付くと多少硬くなりますが、盛り土をして光が当たらないようにして栽培されたものは、白いままで大きくなり、柔らかくて根元まで食べられるようです。昔のことは定かではありませんが、現代ヨーロッパでは、グリーンよりもホワイトアスパラの方が主流なんだそうです。
 イタリアにあるバッサーノという街では、14世紀ごろからアスパラガスが栽培され、毎年、伝統的に品評会が催されています。収穫して土を払い落とし、同じくらいの太さのものを揃え、約3kgの束にして出品されるアスパラガスは、太さの揃い具合、色、形、穂の締まり具合などで審査されます。大きくて立派なものは、直径が4cm、長さ30cm近くもあるようです(で、でかい…)。
 春になると、新鮮なタケノコが旬になるように、ヨーロッパではアスパラの旬は春の到来を告げるものなんだそうで、旬の食べ物として食卓に上ります。ドイツでは、シュパーゲルと呼ばれ、まさしく旬の味覚としてアスパラが食べられています。
 鍋にタップリの湯(そしてバター)で茹で上げ、特製のソースに付けていただくホワイトアスパラ…。シンプルだけど、それなりに満足感のある食事ではないでしょうか。
 アスパラガスは、ソース等に付けて食べるという、アスパラ固有的な食べ方もありますが、他の料理の付け合わせとして供されることも少なくはないでしょう。冒険者の酒場で、茹で焼き鹿肉を盛った皿に付け合わせで載せられたアスパラガス…  また、立ち寄った農家で「もてなし」として旬のアスパラを頂く…、そんなこともあるかもしれません。


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アーモンド (参考文献番号:19
 アーモンドは西アジア原産で、遥か昔にヨーロッパに伝わり、4000年前には既に栽培されていたようで、ギリシャの物語や旧約聖書、各種伝説などにも登場している歴史の古い植物です。英語の「Almond」も、もとはギリシャ語からきている言葉のようです。
 アーモンドは意外にも桃の仲間なんだそうですが、その果実はほとんど食べるところなんてありません。実の中には果実のサイズの割には大きな種があり、その種の中身(仁の部分)がナッツとしての「アーモンド」となります。明治の頃には日本にも持ち込まれてはいたようですが、比較的高温で雨が多い気候のせいか栽培適地とはいえず、栽培はあまり普及しなかったようです。
 春になると薄ピンク色の白い花が咲きます。イギリスでは16世紀ごろに栽培が始まったようですが、その頃はナッツを採るためではなく、その花を鑑賞するための栽培だったみたいです。現在はアメリカのカリフォルニアなどが大規模産地として知られています。昔は棒で突っ付いて実を落として収穫していたそうですが、今はさすがに機械による収穫が行われています。
 アーモンドは味もさることながら香りも良いので、そのまま炒って食べたりする他にも、丸のままや細かく砕いたりして各種の菓子類、肉料理などにも使われたりします。
 イギリスでは最初(16世紀)は花の鑑賞用だったようですから、栽培されたものとしてアーモンドが出まわり始めたのはもっと後のことになるかもしれません。ただファンタジー世界などでは、その地に勝手に生えてるということにでもすれば、採取などで充分アーモンドが出まわり、食べられているという事にもできます。歴史そのものは古いナッツのようですから、人間は少量採取するだけであっても、エルフたちは数世紀も前から採取し、よく食べているものである、と考えることもできるでしょう。
 一般家庭で作られるケーキや菓子などに普通に使われているということにしてもいいような気はしますけどね(笑)。


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イチゴ類 (参考文献番号:26
イチゴ
イチゴ(品種名:ほのか、原産地:佐賀県) この場合のイチゴというのは、「とよのか」や「女峰」などの品種が有名な、日本で普通に「苺」というもの、すなわちストロベリーなどの類のことです。ヨーロッパでは古くから野生種のものを採取し、食用としていたようですが、14世紀の始め頃にはフランスやベルギーでその種の栽培が始まりました。現代の栽培種の祖先といえるものは、18世紀の中頃、オランダで、アメリカ産イチゴの交雑によって作り出されたそうです。日本でも平安時代には野生種を食用にしていたようですが、江戸末期には同様の栽培種がオランダから持ち込まれ、明治に入ってからアメリカから本格的に持ち込まれました。このためオランダイチゴとも呼ばれます。ちなみに普段私たちがイチゴの実と呼んでいる部分は、実際は花托(花の台の部分)の部分で、植物学上の果実は、イチゴの表面にたくさん付いている種のようなものです。あれが実なんだそうです(痩果というそうです)。

木イチゴ木イチゴの1種(撮影場所:愛媛県 石鎚山中)
ブルーベリー(品種不明、栽培地:広島県広島市) いわゆる「キイチゴ」の類というのは、大きく2つのグループに分けられます。果実部(小さな果肉が寄り集まるように生っているので、"集合果"と呼ばれます。)を採取したときに、花托部分が簡単に外れ、結果として、集合果の中心部分が中空状になるのが、ラズベリーの類。集合果を取ると、花托が一緒に茎から外れる、ブラックベリーの類です。木イチゴの類のようなイメージのあるブルーベリー、クランベリーなどは、実はコケモモ類と呼ばれる仲間で、キイチゴ類とは異なり、球形や卵型の実がなります。ここでは、これらコケモモ類も、あえてキイチゴ類とは区別せず、同様にお話ししましょう。
 キイチゴ類やコケモモ類は、ヨーロッパやアメリカなどでは盛んに栽培も行われており、そこそこメジャーな果実ですが、日本では近年様々な用途で知名度が高まってきたものの、まだそれほど主流ではないようですね。森や林の外縁部などで採取(木苺摘みですね)したりすることもあったのではないでしょうか。近くに良いイチゴの群生地があったりするなら、場合によってはそれ摘んで街で売ったりして、それなりの収入を得たりすることもできるかもしれません。
 イチゴの類の甘酸っぱい実は、生食の他にも(生活にそれだけ余裕のある階層なら)他のデザートやお菓子に使われるかもしれません。シナリオに使うなら、イチゴ摘みに行ったまま行方不明になった村娘を探してほしい、とかいうのもいいかも(笑)。


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イモ類 (参考文献番号:
ジャガイモ(品種名:不明、原産地:広島県三次市) ポテト(ジャガイモ、馬鈴薯)、スウィートポテト(サツマイモ、甘薯)も、共に南アメリカ原産で、新大陸発見によって世界に広まったものです。中世ヨーロッパの食卓(特にドイツ)では、ジャガイモなどがたくさん食べられていたようなイメージがあるかもしれませんが、先に述べたように、これらのイモは新大陸発見によって、ヨーロッパにもたらされた作物なので、当然ながら、中世のヨーロッパには、まだありませんでした。中世のドイツには、「ジャーマンポテト」なんてなかったわけですね(笑)。

ジャガイモ
 
中世ヨーロッパ風創作ファンタジーの世界では、ジャガイモは、意外に普通に出てくる食べ物であるような気もします。史実を再現しただけの世界であるなら、ジャガイモがあるとおかしいでしょ、となるでしょうが、そこはファンタジー。イメージの世界です。違和感がないなら、問題ないでしょう。あの、「ドラゴンランス戦記」にも、ジャガイモ料理の描写があったりします。

「〜光と騒音、熱気、オティックのじゃがいもの懐かしく香ばしい匂いなどが、波となってまともにおおいかぶさってきた。かれらはその波にのみこまれて洗われて、和らいだ気持ちになった。」
富士見書房発行「ドラゴンランス戦記1」 P46から引用)

 実際のところ、小説を読んだり、映像作品を観たりする私たちにとっては、ジャガイモは既にありふれた食べ物ですから、「食」のシーンにしても、自然に受け入れることができ、違和感はあまりないでしょう。特に問題なければ(こだわる必要もないでしょうし)、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界にも、ジャガイモは登場させてもいいのではないでしょうか。(さすがにサツマイモは微妙かもしれませんが…(笑))。

 ジャガイモがヨーロッパに与えた影響は無視できません。ジャガイモは地力の低い痩せた土地でも問題なく栽培でき、トウモロコシ同様、天候にあまり左右されずに結構な収穫を得ることができたからです。ジャガイモには気候的な制限が無かったため、それこそどこででも作ることができました。
 最初ヨーロッパ人にとってジャガイモは「グロテスク」に見えたらしく、はじめの頃は「毒性があるんじゃないか」とか思われて敬遠されいてたそうですが、プロイセンの王フリードリヒが「収量の安定性」という事に着目し、飢饉対策作物として栽培を奨励し始めてから、他の国でも盛んに栽培されるようになったそうです。こうして18世紀には、ジャガイモ栽培はヨーロッパ各地に定着していきました。ただフランスだけはジャガイモ栽培の定着は遅かったようです。これはフランスがヨーロッパ諸国の中では、比較的穀物栽培環境に恵まれていたためではないかといわれています。
 18世紀まではジャガイモは痩せた土地などで小規模栽培されるにとどまっていましたが、やがて麦作→休耕(牧草地)という輪作のサイクルに入り込み、本格的に大規模に栽培されるようになったのは19世紀に入ってからの事のようです。ドイツでは、19世紀半においては全耕作面積の10%も占めるようになりました。ジャガイモ作りのおかげで、それまでライ麦が栽培されていたような痩せた土地ではジャガイモが作られるようになり、このおかげでライ麦パンを無理に食べることが少なくなったため、麦角中毒による被害はヨーロッパでは随分と少なくなったのです。
 ジャガイモの面積当たりのエネルギー(カロリー)収量は、麦類の1.5倍以上だそうで、生産量が増えていくに従って、人間の食糧用としてだけではなく、余剰分は豚などの飼料用に向けられるようになり、そのおかげで家畜の飼育条件も各段に良好なものになりました。
 サツマイモも新大陸以降に広まったものですが、ジャガイモに比べて温暖な気候、温度を好む性質のため、ヨーロッパではそれほどまでには普及はしなかったようです。
 史実ではジャガイモの普及は比較的後の方になりますが、ファンタジー世界ではどうでしょうか。ファンタジーではもっと早い時期に普及したと考えてもいいかもしれません。要はイメージの世界ですからね。もしチェックの厳しいプレイヤーに「それはおかしい!」とか突っ込まれたら、「この世界ではどこどこの国が原産で、大航海時代は何世紀も前に始まってるんだ」といいましょう(笑)。前述のように、なにせ「ドラゴンランス戦記」にも登場してるくらいですから。
 ちなみにジャガイモというのは、オランダ船が日本へこれを持って来た際、ジャワのジャガタラから運んで来たという事に由来する古い和名「ジャガタライモ」が変化した呼び名であるそうです。


ジャガイモの芽
 ジャガイモの芽や、緑色に変色部分では、ソラニンという植物性アルカロイド(毒素)が生成されます。これを摂取すると、腹痛、吐き気、めまいなど、食中毒症状が引き起こされるようなので、ジャガイモの芽や、緑色になった部分は、しっかりと取り除いて食べるようにしましょう。

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オレンジ
 (参考文献番号:
 意外にもインド原産なんだそうで、中国やらベトナムで栽培されてたそうです。15世紀後半ごろヨーロッパに品種が伝わって地中海周辺で栽培が盛んになりました。そこで多くの品種が生まれ、世界中へと広がっていき、さらに様々な品種や系統が分かれていったようです。
 温暖な気候なら栽培できるようですから(品種にもよるでしょうが)、ファンタジー世界でも結構あちらこちらで作られてるんではないでしょうか。平坦な土地が無く、畑作が難しいようなところでは、丘などの斜面で盛んにオレンジを栽培する…。こんなのもいいのでは? なんか瀬戸内の情景ですね(笑)。


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牡蠣(カキ) (参考文献番号:11202631
牡蠣(養殖水域:広島県倉橋町(現 呉市)沖) そもそも牡蠣とは、イタボガキ科の2枚貝の総称だそうで、世界中に多くの種類が存在し、マガキ(卵生)やイワガキ(胎生)をはじめ、日本近海でも20種近くが生息しているようです。国内で食用として一般に出回るものの殆どは「マガキ」だそうです。牡蠣は水温や水質など、各生育地の環境に適応して成長していく性質を持っているため、育つ場所によって姿形(殻の形)は様々に異なります。
 世界の国々の中で牡蠣の消費量が多いのは中国(中華人民共和国)、日本、大韓民国などです。ヨーロッパの国ではフランスが上位に入っています。 フランス人はとても牡蠣が好きらしく、牡蠣を専門に食べさせるオイスターバーという店さえあるそうです。最近では、アメリカなど、他の国にも、フランス式かどうかはわかりませんが、同様のオイスターバー的な店があるようです。
 基本的にヨーロッパ人は生の魚介類はほとんど食べないようです。最近でこそ日本食ブームのおかげもあり「サシミ(刺身)」を食べる人は増えましたが、刺身(サシミが嫌い人は多分今でも)なんて加工食品とは認められていませんでした。その割には生ニシンの酢漬けなんかは(北欧辺りなどでは)よく食べられたりしてますが(笑)。そんな生モノ嫌いのヨーロッパ人の中にあって、驚くことにフランスでは牡蠣はいたって常識的に「生で」食べられています。フランス人はほんとに牡蠣、それも特に生牡蠣が好きなようで、生牡蠣だけでいえば、フランスの消費量はトップクラスなんだそうです。
 フランスでも、盛んに牡蠣の養殖が行われています。フランスで養殖されている牡蠣は大きく分けて2種類。日本でお馴染みの、やや長細く、片面の殻が窪んだタイプの「クルーズ」(凸凹しているという意味らしい)。もう一つは、殻が円い形の「ブロン」です。「ブロン」は、フランスでもブルターニュ地方でしか採れないそうですが、生息している場所の環境などによって形は異なるという、牡蠣の性質からすれば、昔からこの地方に生息してるブロンが、独特な形をしているのは、ごく自然なことなのかもしれませんね。
 ちなみに、現在フランスで養殖されている「クルーズ」は、そのほとんどが、実は日本から持ち込まれた牡蠣の子孫です。昔、フランスのクルーズが病気によって全滅してしまったため、日本から持ち込まれたようです。

 ヨーロッパ(この場合は主にフランスね)では、レモン汁やビネガーをかけて食べることが多いようですが、場所によってやはり多少食べ方は違ったりするみたいです。実際のところは、種類や産地によってやはり牡蠣の味は多少違うものらしく、夏(!)に能登半島などで採れるというイワガキは甘味があって日本酒に合うそうですが、フランスで食べられている牡蠣などは、少し渋みがあってワインに合うのだそうです。

 話は元に戻りますが、牡蠣を生で食べるという習慣は、古代ギリシャの時代からもあったそうで、ギリシャ人やケルト人は当時から牡蠣の養殖を行なっていたそうです。他の国々へと牡蠣を食べる習慣が本格的に広まっていったのは16世紀位からですが、ヘンリー4世やルイ14世、ルイ15世、ナポレオンなどの食卓に牡蠣が並んでいたという記録もあるようです。実際、15世紀の半ばにはルイ11世が、宮廷の学者や識者たちに対して、毎日一定の量の牡蠣を食べるように義務つけたという話も残っています。
 ちなみにルイ11世が学者たちに毎日の牡蠣食を義務つけたのは、それなりの理由がありました。ローマの時代から、牡蠣は頭を良くするという説が信じられていたのがその理由です。学者たちにそう義務つけていたルイ11世自身、とりまきの医師団に言われてやはり毎日牡蠣を食べていたみたいです(笑)。そんなこんなで王様や識者たちが毎日牡蠣を食べまくるもんだから、宮廷社交界の貴族たちも「政治的理由」でたくさん牡蠣を食べる様になったとか。なるほど(笑)。この頃では牡蠣はまさに主菜というかメインディッシュになることも多かったようですが、17〜18世紀辺りになると、ディナーの前菜として出されることが多くなり、1人に10ダース(!)以上もの牡蠣が出されたこともあったとか…。お腹こわすぞ(笑)。

緑色の牡蠣

 フランスでとれる珍しい牡蠣に、「緑色の牡蠣」というものがあります。採れる場所はフランス西海岸の湾に浮かぶ、オレロン島というところです。この島には海水の小さな池がたくさんあり、長方形に仕切られて牡蠣の養殖に使われています。仕切られた池の大きさは、30メートル弱くらい、深さは50cmくらいだそうですが、ここの水の中には、「ナビキュール・ブルー」と呼ばれるたくさんの緑色の「藻」が生息し、漂っています。島外の海で養殖され大きくなった牡蠣は、出荷の1カ月前くらいになると、この養殖池に移されます。
 養殖池に移された牡蠣は、毎日「藻」を食べ続け、やがて「ひだ」の部分が緑色に染まってきます。緑色になった牡蠣は、独特の風味をもつそうですが、養殖池によって「藻」の生息数とかが違うため、それぞれ違った風味の牡蠣になるようです。食べてみたいですね(笑)。
 もともと、2000年くらい前、オレロン島の内陸部にはローマ人が住んでいました。彼らは牡蠣を食べるのが好きだったのですが、牡蠣を採るためには、わざわざ海まで出かけていかなくてはなりませんでした。やがて、採って来た牡蠣を、内陸部の海水池に入れて置くようになりましたが、食べようと引き揚げてみると、なんと緑色になっていました。その後、「緑色の牡蠣」を目的としての養殖が始まったようです。

 ファンタジー世界に牡蠣というのは意外とピンと来ないような気もしますが、冷たい海の港街などでは美味い牡蠣を食べさせる店があったりしてもいいのではないでしょうか。アクアティックエルフやトリトンたちと、「牡蠣」と「陸上の工芸品」で取り引きをしたり…。とある貴族の嗜好を満たすために美味い牡蠣を手に入れろ、などという依頼もありかもしれません。とはいえ冒険者の皆さんも「牡蠣に当たる」のには気をつけましょう。貝類で「当たる」と苦しいですからね(笑)。
 ちなみに「牡蠣に当たる」というのは、サルモネラ菌や黄色ブドウ球菌などの細菌に感染し症状が起きる場合と、SRSVとかいう小型球形ウイルスなどに感染して症状が起きる場合がありますが、どちらもその症状は嘔吐や腹痛、下痢、発熱などが代表的です。これを防ぐには、食べる前に「75度以上で1分間以上加熱する」「体調不良時や疲れている時には生食は控える」などの点に気を付けなくてはなりません。まあそれら感染物の繁殖する前の新鮮なものを食べるというのが最も大事なことかもしれませんね。
 食べ物ではありませんが、「真珠」も牡蠣と関係があります。牡蠣などの二枚貝の身の中になんらかの異物が入り、それが長い時間をかけて貝の分泌物で幾層にも包み込まれてできるのが真珠です。ファンタジーでの関わりとして、真珠を採るために牡蠣を採り、その結果として牡蠣食べたり売ったりするというのがあるかもしれません。食べるために採った牡蠣から真珠が出てきてびっくりとか(笑)(そんな都合のいい話はそうそうないでしょうけど)。


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カブ(蕪) (参考文献番号:
蕪(原産地:広島県三次市) 地中海沿岸の南ヨーロッパ、またはアフガニスタン中心の西アジアがその原産地といわれていますが、その他にもいろいろ説はあるようです(詳細不明)。栽培の歴史は古く、ヨーロッパでは紀元前のころから栽培されているようです。ですがそのころはナタネとほとんど同じようなもので、今のように根の部分が太く肥大するようになったのは、現代までに繰り返されてきた品種改良の結果なのだそうです。とはいえ「大きなカブ」のお話しってのもありますし(笑)、中世ヨーロッパの頃には、既に今のものに近い「根菜」になっていたのではないでしょうかギリシャ。ローマ時代には既に重要な野菜とされたいたようですが、根菜となっていた中世ヨーロッパでもそれは変わらないでしょう。ちなみに16世紀ごろからは家畜用飼料としても重要なものになっていたようです。
 イメージ的にあんまり目立たない野菜類ですが、実際はファンタジー世界でも一般的なものとしてもいいのではないでしょうか。スープやシチューに入れて煮込んだりしたものは、きっと酒場でも食べられるでしょう。

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ガーリック(大蒜、ニンニク) (参考文献番号:
 草丈が60〜100cmにもなるユリ科の植物で、中央〜西アジア原産だそうです。独特の臭いと辛味があり、調味料や香辛料として各種料理に使われます。また高い防腐効果もあります。食欲増進、体力増強の効果もあり、古くから珍重されてきたものです。古代エジプトでは賃金のようなものとして労働者に与えられたほど。ヨーロッパでは古くはギリシャ、ローマ時代から知られていました。
 ニンニクといえばもう1つ、吸血鬼(ヴァンパイア、ノスフェラトゥ)がその臭いを嫌う事が有名です(小説「ドラキュラ」ではニンニクの花でしたが)。実際にこれをルール化しているゲームもあり、D&D(R)でも同様です。夜の闇にまつわる伝承のある辺境の村では、家々の軒先にはニンニクの束が吊るしてあったりするのではないでしょうか。例えそれが気休めに過ぎないとしても。土地土地の風習ってもんですね。


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キャベツ (参考文献番号:27
 南西ヨーロッパの海岸近くに自生していた越年性のものが原種であるそうで、ヨーロッパでは古くから知られ、古代ギリシャ、ローマでも食用にされました。ただし昔の当時のものは結球しない(巻いていない)もので、ゆるく結球するものが出てきたのは13世紀頃です(紫キャベツが出てきたのは、16世紀以降のこととか)。また今日、日本で食べるような柔らかいものでもなかったようです。ちなみにキャベツの原種の一つにケールというものがありますが、ほとんど結球はしません。このケールは、かの「青汁」の原料として有名ですね。
 キャベツといえば、ドイツ料理によく出てくるザワークラウトでしょう。2000年くらい前の中国で、万里の長城を建設する労働者が、似たようなものを食べていたそうですが、現代ではドイツの食べ物というイメージが強いですね。もとは冬を越すための保存食ですが、現代ではドイツ料理には欠かせない付け合わせです。ちなみに、ザーワークラウトは、「キャベツの酢漬け」などと表されることが多いのですが、実際には酢は全然使われてはおらず、千切りキャベツに塩と香辛料を加えて発酵させたもののようです。酒場で料理が出てくるとき「皿の上には、ほどよく焼けていい色になった汁気タップリの鹿肉と付け合わせにキャベツの刻んだものが載っている」などと描写してみましょう。ほらおいしそうでしょ(笑)。プレイヤーの胃袋を刺激しましょう。


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キュウリ (参考文献番号:
 キュウリはヒマラヤ山脈の南部が原産地なんだそうです。古代エジプトでは既に栽培されていたそうですし、ギリシャ、ローマでも栽培されていたようです。やがてヨーロッパの中央、西部へと伝わり、フランスへは9世紀、イギリスへは14世紀に伝わり、栽培が始まりました。
 一応は瓜の類であるだけに、スイカなどと同様の扱われ型をされていたのかもしれません(水分の補給用としても)。またファンタジーでの使い方が難しいのも同じですね。キュウリが好物の水棲ヒューマノイドがいたりするなら別ですが(笑)。


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栗(クリ) (参考文献番号:19
日本栗(原産地:広島県三次市) 栗は世界中に約10種ほどが知られ、大きく分けて「ヨーロッパ系」「中国系」の品種がその大部分を占めます。初夏に花が咲き、秋には実がなる栗は、日本では秋をイメージする食べ物としてお馴染みですね。世界的にも栗は人間との関わりの歴史は古く、ヨーロッパではギリシャの時代以前から既に栽培されていたといいます。そもそも栗のラテン語名である「Castanea」は、ギリシャにある地名がその由来となっているようです。今日では、中国、トルコ、イタリア、そして日本が主たる産地として知られています。フランス中央部の森林の多い地域でもおおく採れるそうです。
 栗の食べ方としては「焼き栗」がポピュラーな感があります。日本でも「天津甘栗」がよく売られて食べられています。この「天津甘栗」、天津とはいっても実際には天津産の栗が必ず使われているというわけではないようで、商品名として通っている部分がありますね。ただ中国産の栗が使われているのは間違いはないようです。比べてみればわかるんですが、中国の栗は日本の栗に比べて小さく、甘いみたいです。焼き栗そのものは、世界各地でもポピュラーなものらしく、現代でもニューヨークやパリなど世界の都市では、焼き栗の屋台が出ていて、ビジネスマンなどもよく買って食べているそうです。
 焼き栗以外の栗の食べ方といえば、やはりケーキや菓子の材料としての食べ方がイメージされます。フランスでも栗は多く採れるので、タルトやマロンシャンティーなど、数々のケーキ類、菓子類にも使われます。ちなみにフランスでは、「いが」の中に2つ以上の実が入っている栗を「シャテーヌ」、「いが」の中に実が1つだけの栗を「マロン」と呼んで区別しているそうです。栗のお菓子としては、マロングラッセや、栗のペーストで作るモンブランなどが有名です。「マロングラッセ」はルイ14世の時代に生まれたもので、皮を剥いて煮た栗を、バニラの風味をつけたシロップに漬け、シロップの濃度を上げながら、乾燥と漬け込みを繰り返して作ったものです。またイタリアのとある島では、栗の粉で餅のような「ポレンタ」という食べ物を作ります。これは昔はパンやパスタの代用として主食的な食べられ方をしていたようですが、現代では料理の付け合わせとして食べられているようです。
 これら以外にも、栗の多く採れる地方では(フランス中央部など)、肉料理の際の詰め物や、ポタージュスープの材料として使われたりします。豊富に採れる食材は、やはり様々な有効利用がされるものですね。
 ギリシャ時代以前から食べられていた栗ですから、中世ヨーロッパでも食べられていたのは間違いないでしょう。その食べ方はやはり最初は焼き栗のようなシンプルなものだったのでしょうが、やがてその甘味を活かした菓子類としての食べ方も研究されていったようです。砂糖が貴重品であった時代には、「栗のシロップ漬け」などというものはこの上もなく贅沢な品でしょうね。普通の市民、場合によっては下級貴族でさえも、焼き栗としての食べ方が普通だったのではないでしょうか。乾燥すると食感は落ちそうですが、ある程度の保存はききそうだし、なによりかさばらないので、旅する際にはポケットに焼き栗を入れておいて、歩きながら口に放り込んだりする食べ方もあったのかもしれません。
 ファンタジー世界においても、冒険者がスナック的、おやつ的なものとして「焼き栗」をポケットに入れておいたりするのも、ある意味リアリティがあるものかもしれません。また街の中の通りなどには焼き栗の露店なども並んでいたりするかもしれませんから、焼き栗を頬張りながら冒険道具のショッピングなんてのもいかがでしょうか?(笑)

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クルミ(胡桃) (参考文献番号:19
 クルミは西アジア原産で、なんと紀元前7,000年ごろから食べられているそうです。ギリシャ時代〜ローマ時代にはクルミは神々の食べ物とされていたそうで、クルミのラテン語名である「Juglans」は、「ジュピター(ギリシャではゼウス)の木の実」という意味をもつようです。クルミは今日、世界で主に約20種ほどが知られています。食用として栽培もされていますが、それは食用に好適性の高いものが選ばれ、改良されているようで、一般的に野生のくるみに比べ、殻は多少やわらかく、実も大きいようです。多くの植物と同様、クルミも春には花が咲き、晩夏から秋にかけて実が収穫されます。播種し発芽してから6〜8年経つと普通に実が収穫できるようになり、丹念に手入れされた健全な木は100年近くに渡って実を付け続けるといわれています。
 クルミは生食もされますが、チーズに混ぜ込んだり、風味付けでお菓子などに使われたり、また肉料理や魚料理などにも使われています。クルミには堅い殻がありますから、この殻を割るためにはクルミ割り用の道具などが使われ、ハンマーなどで叩いて割られることも多いようです。ちなみにスイスやドイツなどヨーロッパの民芸品である「クルミ割り人形」は有名ですが、大抵のクルミ割り人形というものはあまり機能的ではないようです。装飾品的な用途が大きいんですね(笑)。
 食用としての歴史も古いクルミは、中世ヨーロッパなどでも普通に食べられていたことでしょう。当時は栽培種も野生種もそうたいして変わらなかったのでしょうし、森や林に入れば野生のクルミを採取できたでしょうから、比較的貧しい人々の口にも入ることができたのではないでしょうか。もちろん金持ちの貴族や商人などの口にも入っていたのでしょうけどね。 
 欧米では「ナッツ類」は「豊かな実り」を意味しているそうで、結婚式で様々なナッツを配ったりするようです。その中でもクルミは多産を象徴するものなんだそうで、ギリシャ、ローマの時代から結婚式で供されていたようです。
 今でこそクルミは食用の実を採る木として知られていますが、中世の頃には、家具を作るための木材として人気があったようです。実際、クルミ材製の家具は最高級品として取り引きされていたようなんですが、19世紀頃にマホガニー製の家具が大人気となり、クルミ材の家具は影が薄くなってしまいました。
 随分と昔ですが、クルミ(ヨーロッパに多いBlack Walnutだったと思います)の殻を鍋に入れて長時間煮て、殻から黒い色素というか油分を溶出させ、それをさらに煮詰めてインクとして使うという方法をテレビか何かで観たことがあります。このインクの作り方そのものが一般的かどうかははっきりとは判りません。ただ面白く、また意外な用法ではあるでしょう。特殊な黒クルミの殻から作ったインクで魔法の呪文を書き記す…そんなシチュエーションもファンタジーとしては雰囲気のあるものでしょう。またTRPGなどでは、スリングの弾がない場合など、硬いクルミを弾の代わりにして相手にぶつけるというのも面白いかもしれません。重量がそんなに無いのでたいしたダメージは期待できませんが(笑)。


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米(コメ) (参考文献番号:36
玄米(品種:ひとめぼれ、原産地:広島県三次市) このコーナーで「米」なんて不思議に思えるかもしれませんね(笑)。でも、その昔のヨーロッパで、全く米が食べられていなかったかというと、実はそういうわけではありません。確かに口にしていたのは、ほんのわずかな人たちだけで、その食卓での存在感もとても小さなものだったことでしょう。ここでは、そんな密かな米食(笑)についてもお話しします。

 今さら当然のことを書くようですが、米は稲の実の部分を採取、脱穀等したものです。稲は、インドのアッサム地方から中国雲南省の辺りが原産で、栽培されるようになったのは、今から7000年〜10000年前からともいわれています。稲は、温暖で雨量の多い気候に適した作物で、アジア各地の気候によく合った作物でした。稲作は、やがて中国やアジアの各地に広がっていき、3000年くらい前には、日本にも伝わりました。日本への伝播は、朝鮮半島を経由したという説、東南アジアを経由したという説など、いくつかあるようです。
 「赤米」、「黒米」、「紫黒米」などというものがありますが、これは、稲の原種(野生種)に近いもので、古代米とも呼ばれたりします。赤米は糠層にタンニンの一種を多く含み、黒米は糠層にアントシアニンを多く含むため独特の色を呈していますが、玄米層を削ると、白い米粒が見えてきます。食べる際には、色がついたままの状態で、普通の白米に混ぜて炊き、赤飯のような色つき御飯にします。なお、赤米にはうるち米が、黒米にはもち米が多いそうです。
 世界には大きく分けて2種類、「アジアイネ」と「アフリカイネ」があるそうです。「アフリカイネ」は現在ではアフリカのごく一部で栽培されているのみですが、乾燥や病害虫に強い傾向があるようです。世界で栽培されている稲は、まずほとんどが「アジアイネ」です。「アジアイネ」は、「アフリカイネ」に比べて収穫量が多い傾向があるようです。「アジアイネ」は、さらに「ジャポニカ種」、「インディカ種」、「ジャバニカ種」の3種類に分けられます。
 ジャポニカ米(ジャポニカ種)は、日本で一般的に栽培され、主食として食べられている種類です。この種は、炊くと柔らかくなり、粘りが出るのが特徴です。ジャポニカ米は、現在では、日本はもちろん、朝鮮半島、中国の東北地方、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパの一部などで栽培されています。
 インディカ米(インディカ種)は、粒が細長く、長粒種とも呼ばれます。タイ米などが有名なところで、東南アジア諸国や中国の中南部、アメリカなどで栽培されています。タイ米でもお馴染みのように、この種は炊いてもジャポニカ米のようにあまり粘り気が出ず、硬めの食感が特徴です。10年くらい前の米不足のときの緊急輸入では、ずいぶんとタイ米の評判が悪かったのですが、タイ米やインディカ米が決して不味いわけではなく、日本のお米(ジャポニカ)と同じ食べ方をしようと(させようと)した事が、間違いだっただけでしょう。ピラフや炒飯、パエリアやカレー(欧風カレーではなく、サラっとしたインドやタイのカレー等)には、とても適しているお米です。
 ジャバニカ米(ジャバニカ種)は、インドネシアのジャワ島などの、ごく限られた場所でのみ栽培されています。米粒は大きめで、ジャポニカ米のように、炊くと粘り気が出るようです。
 世界的に見ると、アジアイネの中では…とゆうより、世界で栽培されている全ての稲の中では、現在、圧倒的にインディカ種が主流です。現在では、世界の米の生産量のおよそ80%以上を、インディカ米が占めています。残りのほとんどが、日本などで栽培されているジャポニカ種です。世界各地では、これら様々な種類の稲が栽培され、そこから穫れたお米は、その土地の伝統料理や、他のお米料理として(あるいは単体でも)食べられています。
 イネには、いろいろな種類があることは既に書きましたが、実はこれ以外にも、種類分けがされることがあります。それが、「水稲(すいとう)」と「陸稲(りくとう)」です。水稲は、一般的に水田で栽培されるタイプの稲で、稲の多くはこれに当たります。陸稲というものは、文字通り、陸(土)で栽培する稲のことです。通常、畑で栽培されていますが、決して数が多いとはいえず、日本でも、わずかに栽培されているだけです。水稲は通常は水田で栽培され、陸稲は同様に畑で栽培されますが、その逆の栽培も可能なようです(つまり、水稲を畑で、陸稲を水田で)。しかし、(水田に比べて)水が不足した環境に置かれた場合に、その環境に耐えることができるのは、やはり陸稲の方なんだそうです。水稲、陸稲の違いは、生育に水田のような豊富な水環境を必要とするか否かの違いのようです。
 イネから穫れる米には、「うるち」、「もち」という分類もあります。日本人が普通にごはんとして食べているのは「うるち米」で、餅にして食べたり、赤飯にしたりするのが「もち米」です。「うるち」と「もち」の違いは、それに含まれている「デンプン成分」の含有比率の違いです。米に含まれるデンプンは、「アミロース」と「アミロペクチン」の2種に分けられ、アミロペクチンが多ければ多いほど、粘り気が強いものになります。普通の「うるち米」(ジャポニカ種)で、アミロース20%前後、アミロペクチン80%前後です。インディカ米の「うるち」には、ジャポニカ種よりも多くのアミロースが含まれており、結果としてアミロペクチンが少なくなっています。
 「もち米」(ジャポニカ、インディカの種を問わず)にはアミロースは含まれず、デンプン成分全てがアミロペクチンで、もちもちとした「もちらしさ」の源となっています。ちなみに、ジャポニカ以外、インディカ米にも「もち米」はあるようです。
 ここまでに様々な分類についてお話ししましたが、世界各地では、ほんとうに様々なイネが栽培されています。東南アジアなどでは、川辺や湿地帯でイネが栽培されていますが、多雨によって水位が上昇しても、「穂」の部分は水上に出たままになるくらいに草丈が高く、舟で収穫することもあるようです。また、タイなどには、炊くと独特の香りを発する「香り米」というものもあったりします。また、最近では、日本向けの輸出や、日本食への需要に対応するため、世界の各地で稲の栽培(米作り)が行われています。もちろん、品種の改良も日々行われており、それは日本においても同様です。

 話は変わりますが、アジア諸国の多くが米食の文化を持っていることは、既にご存知でしょう。しかし、アジアから少し外れた、イスラム教の国々でも、多くの国が米食文化をもっています。トルコや、サウジアラビアなどでも、人々は日常的に米(長)を食べ、やはり各地に伝統的な米料理があったりします。このように、イスラムの国々でも、昔から伝統的にお米が食べられていたわけです。これらの国々では、米は羊などの肉と一緒に炒めたり、味をつけてピーマンなどに詰めたり、葡萄の葉で包んで煮込んだりと(トルコでは"ドルマス"と呼ばれる料理です)、様々な調理方法で食べられています(ちなみにトルコには、バターなどで米を炒めて作る「ピラウ」というお米料理があるようです。もしかしたら、「ピラフ」の元になった料理なのかもしれません。)。ただ現在では、必ずしも毎食米が食べられているわけではなく、ナンやパン類も食べられているようです。日本でも最近では、毎食必ず米を食べている人は少なくなってきていますから、どこの国もそんなもんなのでしょうか。
 歴史を遡ると、イスラム教世界の国々は、その版図を拡大しようとし、強大な兵力をもってヨーロッパに進入し、戦いを繰り広げたこともありました。それまでの通商による交流に加え、キリスト教世界から興った十字軍の遠征も含めて、こうした歴史的な交流(戦争も含めて)の中でも、イスラム社会とヨーロッパ、そしてイスラムを通してアジアとヨーロッパの異文化交流が起こっていきました。この中で、「米食」もまた、ヨーロッパに伝わっていたようです。(「米食文化」でないのがミソです(笑)。)
 中世ヨーロッパに持ち込まれた「米」は、もちろん当時としては珍しいものだったでしょうから、庶民の食卓などに上ることは無かったことでしょう。しかし、王侯貴族の食卓には、量は少ないものの、米が並ぶことがあったようです。日本では、米は当然ながら主食です。しかし、欧米は、米は「野菜」(のような存在)として扱われていました(最近でこそ、健康ブーム・日本食ブームのおかげで、時には米を主食的に食べる欧米人も増えてきたようですが)。「米」=「主食」である日本人にはピンときませんが、米はサラダの具や、料理の付け合わせなどとして添えられていただけのようです。 実際、中世の料理のレシピの中には、添え物として「米」が登場しているものがあります。
 ちなみに、英語で米のことを表す「rice」は、もともとスペイン語で米を表す「Arroz」(アロス)から変化したものなんだそうです。そしてその「Arozz」は、もともとアラビア語で米を表す「Alruz」(アルロウズ)から変化したものであるようです。これを見ても、やはりイスラム社会からの歴史的影響の痕跡が見てとれますね。

 さて、ヨーロッパでは、「米食文化」がないような事を書きましたが、これには多少の例外があります。歴史の中で、過去にイスラム勢力の支配を受けたことのある地域には、イスラム社会が残した米食文化が残っているところがあるわけです。例えば、スペインの地中海沿岸であるバレンシア地方には、お米を魚介類や肉と一緒に炒めて、サフランなどを加えて炊いて作る料理(パエリア)があります。また、ルーマニアやハンガリー、ブルガリアやギリシャ等の東欧・バルカン半島の国々には、お米と挽肉、玉ネギのみじん切り等をキャベツなどで包んで煮る、ロールキャベツの様な料理(東欧では"サルマ"、ギリシャでは"ドルマダキア"と呼ばれたりします。)があります。こうしてみると、世界各地には、似たような名前の米料理があることが判ります。米食文化の伝播に、いくつかのルートがある証拠ですね。

 ファンタジー世界で米("ライス"と表記した方がいい?)… なんとも不思議な響きですね(笑)。ちょっと東洋っぽい世界を舞台にしたオリエンタルアドベンチャーなどでは、あっさりと抵抗なく米が食事の中に登場することでしょうが、一般的な、いわゆる「中世ヨーロッパ風ファンタジー」でも、米を登場させられないわけではありませんし、米が登場しないとも限りません。もちろん、酒場などで普通に出されるようなことは無いでしょうが、貴族の食卓に上る可能性はあります。また、ファンタジー世界にも、イスラム社会をモデルにした国や地方(イスラム文化風地域)が登場することがあるでしょうから、そんなところでは、冒険者や旅人たちは、米を使った伝統料理を口にする可能性もあるかもしれません。
 また、中世ヨーロッパ風の国や地方でも、イスラム文化風地域の周辺地域や、過去・現在においてイスラム文化風地域と「交流」(交易、戦争など)があった(ある)地域などでは、東欧・バルカン半島地域のように、イスラムの影響を受け、米を使った家庭料理があり、冒険者の口に入ることもあるかもしれません。
 純然たる中世ヨーロッパ風地域であっても、手柄を立てた褒美として招かれた貴族の食卓で、また、馴染みの酒場で「珍しい物が入ったから」と出されたときなど、冒険者が米を目にし、口にする機会は、全くあり得ないとも言い切れないでしょう(でも頻度はとても低いでしょうね(笑))。

   「おい なんだ この肉、 ちっこい虫が たくさん いっしょに皿に載ってるじゃねえか」
   「バカ 知らねえのか  これは"ライス"っつう野菜なんだぜ   こうやって喰うのさ」
    (手でつまんで口へ) (もぐもぐ)
   「おい  どんな味だ?」
   「…まあ、特別 うまいもんでもねえな…」     よほど運がよければ、こんな会話を耳にすることもあるかも…(笑)


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