話題のキーワード

社説

朝日新聞社説のバックナンバー

 大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の社説。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去90日分の社説のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。

2013年1月13日(日)付

印刷用画面を開く

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

成長戦略―経済連携と規制改革こそ

 安倍政権の経済政策が動き出した。

 首相は、大胆な金融緩和と機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を「3本の矢」にたとえる。

 「民主党政権は(日本経済のパイを)平等に分配していくことから入った。その前にパイを大きくしないと、等しく貧乏になるだけ」(甘利経済再生相)と、政策の転換が鮮明だ。

 確かに、パイが小さいままでは雇用も所得も増えない。成長で税収を伸ばさないと、増税だけでは財政再建も難しい。

 とはいえ、これまでのところ、日本銀行に圧力をかけて金融緩和を強化する「一の矢」、大型の補正予算を組んで財政支出を拡大する「二の矢」ばかりが目立つ。

 どちらも、反対する業界団体はなく、手をつけやすい。

 ただ、基本的には経済を下支えしたり、一時的に刺激したりする政策であり、国の財政難を考えれば危ういカンフル剤でもある。

■カギ握る「三の矢」

 日本経済が持続的に拡大していくには、「三の矢」の成長戦略がカギを握る。

 柱は、貿易や投資など海外とのパイプを太くする経済連携の強化と、国内のさまざまな規制・制度の改革だ。

 一見すると無関係に見えるこの二つの課題は、根っこでは太く結びついている。

 海外との経済連携交渉ではモノの関税引き下げに関心が集まるが、実態は異なる。金融や電気通信などのサービス分野、投資の促進と保護、競争政策、電子商取引、知的財産など交渉の対象は幅広い。さまざまな規制や制度の見直しを伴う。

 日本の企業が海外で活動しやすくするとともに、国内で規制・制度改革を進め、海外勢を引き込む。それが同時に、日本勢の国内での事業を後押しする。経済連携と規制・制度改革は一体なのだ。

 安倍政権がまとめた緊急経済対策は海外連携戦略に触れておらず、こうした視点がすっぽりと抜け落ちている。要である環太平洋経済連携協定(TPP)に対し、自民党内で反対が強いことに配慮したのだろう。

 TPPは対象分野が20を超え、中身も野心的だ。日本がTPPに関心を示すと、中国・韓国両国や欧州連合(EU)が日本との交渉に動き出した。

 だが、国内では特に農業や食の安全、医療・介護など社会保障分野への悪影響を心配する声が大きく、農協や医師会などの団体が反対の先頭に立つ。

 もともと農業は後継者不足や耕作放棄地の増加、社会保障は高齢化に伴う医療・介護費の膨張などの課題に直面する。その一方で国民のニーズは大きく、規制・制度改革でも焦点になってきた。

 国民生活の「安全・安心」にかかわる分野だけに、むやみに規制を緩和すればよいわけではない。経済活性化だけでなく、多角的に功罪を検討することは当然だ。が、それを口実に、関係団体と監督官庁が既得権を守ってきたことも事実である。

■国民参加の議論を

 日本経済の再生を真剣に目指すなら、現状から一歩踏み出さねばならない。

 まずはTPPへの交渉参加を表明すべきだ。当事者となり、各国の要求など正確な情報をつかむ。それをもとにわが国の利害を交渉に反映しつつ、国民生活への影響を探り、参加の是非を見極める。

 並行して、国民のために守るべき規制・制度と、権益維持の弊害が目立つ規制・制度の仕分けを進めることが必要だ。

 安倍政権は日本経済再生本部のもとに産業競争力会議をもうけ、民主党政権が廃止した規制改革会議も復活させる。いずれも学者や企業経営者が加わり、関係省庁の閣僚と向き合う。

 民間の知恵と発想を起点に、具体策に踏み込めるか。どの閣僚が業界と省庁の権益維持に走っているか、改革を自社の利権につなげようとする経営者がいないか。

 議事録の公表はもちろん、会議自体をオープンにして議論に国民を巻き込みたい。

■手元資金を生かせ

 経済界には、企業が自ら道を切り開き、成長の担い手となる気概を求める。

 緊急経済対策には、補助金や優遇税制、政策金融機関による出資など、「官」が呼び水となる仕掛けが目白押しだ。

 しかし、企業全体では推計で200兆円に迫る手元資金がある。民が官に頼ってリスク減らしにいそしむばかりでは、経済成長などおぼつかない。

 安倍政権の政策はひとまず期待を集め、円安と株高で経済は明るさを増した。しかし、三の矢を放たなければ、低成長下の物価・金利上昇と財政の一段の悪化という最悪の展開すら招きかねない。

 首相は、そのことを強く自覚してほしい。

検索フォーム

注目コンテンツ

  • ショッピング正月にたるんだ体をぎゅっ!

    最新フィットネスアイテム

  • ブック・アサヒ・コム博士に違和感を抱いた理由

    魔界に送りこまれたルポライター

  • &M大人の楽しみ、モーターサイクル

    40〜60代に再ブームの兆し

  • &w幸せは「1割の不満」のなかに

    重松清×大平一枝 対談

  • 朝日転職情報

  • 就活朝日2014