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  淫魔の実 作者:樹氷霧氷
第13回 S女からのお仕置きと依頼 1

     13

 翌日の所長室。
 田辺はチェアに腰掛けながら、貧乏揺すりをしていた。
 腕時計をチラリと見た。
 午後2時になろうとしているのを確認したとき、インターホンが鳴った。
「投資ファンドの方がお見えになりました」
 インターホンの向こうで女性秘書が言った。
 客は定刻どおりにやってきた。
「お通ししろ」
 田辺は受話器を置いて、チェアから立ち上がった。
 昨日の相田美紀との情交の余韻が体に残っていた。小刻みに締めつけるあの肉襞を思い出すと自然と勃起した。
(機会を見つけて、また犯してやる)
 田辺がそう考えたとき、所長室のドアが開いた。
 女性秘書の矢島玲子が2人の客人を連れてきた。昨日の淫乱なフェラ顔とちがって、優秀で真面目そうな秘書の仮面を被っていた。
 女はしたたかな生き物だと田辺は思った。
「ハイ、ミスター・タナベ」
 手を差し伸べながら、2人の客が歩み寄ってきた。
「ようこそ」
 田辺は、その手を交互に握った。
 客の名はジェニファーとマーガレット。モデルのようにスラリとしていて背が高かった。田辺の顔は自然と上向きになった。
 2人は米の投資ファンド『ローズピンク・ヴァギナ』日本事務所の社員だ。ブロンドヘアーがまばゆい30歳の白人女性である。日本暮らしが長く、2人とも日本語が流暢だった。
 秘書の矢島玲子には、誰も取り次ぐなと命じて下がらせた。
「若くて、とてもきれいな秘書さんね。所長の好みかしら」
 からかうようにジェニファーは言った。
「ご、ご冗談を……」
 玲子との肉体関係を見透かされた気がして、内心ドキリとした。
 2人にソファーを勧めたが、ぎこちない仕草になってしまった。
「さっそくですがミスター・タナベ。所長解任の話が出ています」
 ジェニファーはソファーに長身の体を沈めると、そう切り出した。
「えっ! なぜ、そのような話が急に……」
「あなたが所長になってからの3年、媚薬の開発が遅れています。とくに、我々が投資している大量射精薬の研究成果はゼロに近いです。その責任を取るべきだと思いませんか、ミスター・タナベ?」
 ジェニファーの青い瞳がまっすぐこちらを見ていた。
「ちょっと、待ってください。研究成果の報告を12日後にする予定です。それまで待ってもらえないのですか」
「期待できる内容なのでしょうか?」
「も、もちろんですよ」
「そうなのですか? 研究栽培していたセックスベリーを枯らしてしまい、万策尽きたと思っていましたが――」
「なぜ、それを……」
 絶句した。セックスベリーのことは、その存在すらも外部の人間は知らないはずであった。
「われわれローズピンク・ヴァギナの情報網を侮らないほうがよろしいですわ」
 ジェニファーは冷たく笑った。
 田辺は肩を落とした。
 勃起向上薬になりうるサキュパス・ドロップでお茶を濁そうと考えていたが、セックスベリーのことを知られていたのではそうもいかないだろう。希少なセックスベリーの樹を枯らしてしまったことは、明らかにマイナス点である。
「まだ、所長解任が正式決定されたわけではありません」
 ジェニファーはニコリともせずに言った。
「えっ?」
「あなたには最後のチャンスがあります」
「本当ですか?」
 田辺は身を乗りだした
「はい。われわれは、あなたのマネジメント能力を高く評価しています。そのような人材をこのまま失うのは非情に残念ですからね。ぜひ、ある仕事をやってもらいたいとおもっています」
「ある仕事とは何ですか?」
「もちろん、われわれが投資している案件についてです」
「大量射精薬について……ですか?」
「もちろん」
「しかし……」
 これまで、大量射精薬の開発は成功していない。頼みだったセックスベリーも枯らしてしまっている。こんな状況で、何をしろというのだろうか。
「所長の座を捨てますか?」
 黙りこんでいたら、ジェニファーが訊ねてきた。
「いいえ! やらせてください。何でもします」
 田辺は目の前にあるガラステーブルに手をついた。
 とりあえず、ローズピンク・ヴァギナからの頼まれ仕事を成功させれば、当面の危機は回避できる。そう計算した。
「われわれは、一つの懸念を持っています。あなたはマネジメント能力は高いのですが、特定の部下に甘かったりと、非情になりきれない精神的な弱さがあります。それが、今回の仕事に影響するのではないかと――」
「大丈夫です! 任された仕事は、何が何でも成功させる所存です」
「言葉はいりません。いまから、あなたをテストしたいとおもいます」
 ジェニファーは横に座るマーガレットに目配せした。
 マーガレットが立ちあがって、グレーのビジネススーツとパンツを脱ぎ捨てた。
 グラマラスなボディーと、身につけられた目の覚めるような真っ赤なエナメルのビキニの上下が目に飛びこんできた。長い脚は黒のパンティーストッキングで包みこんでいる。
 田辺は突然のできごとに、目をパチクリさせた。
 マーガレットはカバンから6条鞭を取り出すと、ガラステーブルを力強く叩いた。
「さあ、豚め! 裸になりな」
 ガラステーブルにピンヒールを履いた片足を載せて、マーガレットは低い声で言い放ったのである。

   つづく
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