44 世界恐慌
1931年(皇紀394年)
世界恐慌発生
1929年の大暴落はアメリカ経済に大きな打撃を与えたが、当時は株式市場の役割が小さかったために被害の多くはアメリカ国内に留まっていた。しかし銀行倒産の連続による金融システムの停止やFRBの金融政策の誤りによって不況が他国にも飛び火し、金本位制を取る国々の金が次々と流出。特にドイツやオーストリアなど十分な金準備を持たない国々にとって致命的であり、世界的な金融危機が発生した。
大恐慌が世界に広まるきっかけとなったのは、1931年5月31日にオーストリア最大の銀行であるクレジット・アンシュタットが突如破綻した事だった。東欧諸国の輸出が激減して経常収支が赤字。更には独墺関税同盟の暴露に対するフランスの経済制裁により、オーストリア経済が弱体化したことが致命的であった。
クレジットアンシュタットの破綻を契機として、5月にドイツ第2位の大銀行であるダナート銀行が倒産。7月13日にダナート銀行が閉鎖すると大統領令でドイツの全銀行が8月5日までに閉鎖された。ドイツでは金融危機が起こり、多くの企業が倒産して影響はドイツ国内に留まらず世界に及んだ。
金本位制の元での経済危機はそのまま経済の根幹を受け持つ正貨(金)の流出につながり、7月のドイツからの流出は10億マルク、イギリスからの流出は3000万ポンドにも達した。更に数千万ポンドを失ったイングランド銀行は1931年9月11日に金本位制を停止。勢力にかなりの蔭りが出ていたイギリスでは広大な植民地を維持していくことが困難になり、ウェストミンスター憲章により自治領と対等な関係を持ち、新たにイギリス連邦を形成。これを母体にブロック経済を推し進めた。
イギリスのように植民地を持つ国々はブロック経済を形成して何とかなったが、植民地を持たないドイツは悲惨だった。アメリカ資本は次々と撤退してようやく復興しかけていた経済は一気にどん底に突き落とされた。失業率は40%以上に達し、銀行や有力企業は次々倒産。大量の失業者が街に溢れていた。
その一方、社会主義国家のソ連は世界恐慌の影響を全く受けず非常に高い経済成長を続け、スターリンの推進する5ヵ年計画で着々と工業化を進めていった。ソビエトのプロパガンダもあり、自由主義諸国の研究者の中には社会主義型の計画経済に希望を見出す者も多く出たが、実際にはホロドモールや食糧の徴発でポーランドに脱出するロシア人が急増していた。
世界中が恐慌や独裁に喘いでいる中、日本帝国は世界恐慌前と全く変わらぬ日々を過ごしていた。世界恐慌が起きる前に金本位制を脱退して金の流出を最小限に抑えられた事もあるが、何よりも大きな要因は日本帝国の国策にあった。
外国に全て異存していた史実日本とは逆に、日本帝国は自己完結型国家なので基本的に国内が優先。豊富な天然資源と優れた技術力を有するので全てを自国で賄う事が可能なため、例え貿易を絶たれても何とでもなる。
経済にしても、間もなく2億人を突破しそうな膨大な人口を誇るので内需だけでもそれなりの市場になる。勿論貿易も行なってはいるが、あくまで内需が優先なので海外市場にはほとんど興味が無く、富裕層向けの高品質高価格商品を少数輸出しているぐらいなので無くなってもさほど痛みは無い。輸入にしても、金と交換出来る兌換紙幣からただの紙切れである不換紙幣に変わった事で円の価値は下がったが、史実日本と比べて日本帝国は遥かに信用が高く、不換紙幣になっても円の価値はそれなりにあるので輸入にも困らない。
このように、日本帝国は自国だけでも十分やっていけるのだが、イギリスが自国産業保護のためにブロック経済を形成した事で日本帝国も対抗として自国の支配領域であるモンゴルと円ブロックを形成。
元々モンゴルは日本帝国以外との貿易は無かったのだが、円ブロックを形成した事により日本帝国以外の国の関税を数段階引き上げた。更に、モンゴル政府は中国政府に対して国交断絶を宣言。モンゴル国内にいる中国人全員を強制送還とした。
表向きの理由はモンゴルの発展を聞き付けた中国人が不法入国し、治安を悪化させているためだが、実際には日本帝国政府からの強い要請があったからだ。
事実、日本帝国の支援によって急激に近代化したモンゴルには年々中国人の流入が増えており、日本帝国政府は「このまま中国人が増え続ければモンゴルが中国に飲み込まれかねない」と憂慮し、新たな発電所建設と引き替えに中国と断交させ、中国人をモンゴルから追い出す事に成功。
更に、中国人の不法入国を防ぐためとして日本帝国の支援によって中国との国境を長大な鉄条網や金網で防ぎ、地雷を大量に敷設して国境を封鎖した。
これにより、モンゴルは日本帝国に頼る以外の道は無くなった。モンゴルは内陸国故に陸路しかないので隣国は日本帝国と中国のみ。中国と断交し、国境も封鎖したとあっては貿易を結ぶのは不可能であり、唯一出来るのは同盟国である日本帝国のみ。
モンゴルは完全に日本帝国に生殺与奪を握られたのだった。
ちなみに、モンゴル同様に韓国も一応円ブロックに入ってはいるのだが、鎖国を敷いていて日本帝国以外との貿易は不可能なので意味は無い。
そんな韓国は、相変わらず両班という人災によって弱体化が進んでいた。
増税と収奪によって収穫物や商品は奪われ、毎年マイナス成長を続ける。慢性的な飢餓に陥っているので食人はますます進み、遂には人肉売りの店さえ登場。いつの間にか韓国では人肉が主食に発展していた。流石に両班や王族など特権階級の者達は食べないが、奴婢や白丁など賤民は勿論、場合によっては良民である常人や中人でさえ人肉を食べざるを得なかった。
アマゾンやジャングルに住む食人族は儀式的な意味合いで人肉を食べていたが、韓国人は正に食事として人肉を食べていたのだ。
唯一良い事は、食人によって死体は直ぐに食べられるので腐る事は無く、伝染病の発生は防げていた。
しかし人肉を食べても食料は足りず、餓死者は続出。弱い赤ん坊や子供は餓死する前に親に食べられる事が多いので子供の餓死者は少ないが、大人や老人の餓死者は続出。
更には慢性的な栄養不足によって免疫力は低下し、風邪が流行る度にまるでスペイン風邪が再来したかのように病死者が続出。その度に韓国人達は「また今年も中国人が病気を運んできた」と思い込み、極稀に中国人が密入国する度に残忍な拷問を行い、最後は焼いて食べたのだった。
収奪や増税、慢性的な飢餓、食人、病気など様々な要因により、1919年時には800万人だった人口は、既に500万人を切っていた。
ここに来て、日本帝国政府は韓国政府に対して日本語教育の禁止を発令。日本語教育や日本語が書かれている全ての書物の焚書を命じ、日本語が話せる韓国人を全員処刑とした。
これは日本語が話せる韓国人が万が一外国に出て、日本人の振りをしながら食人でも犯せば日本帝国についての悪い噂が流れかねないからだ。史実の日本人は大陸系の血筋なので朝鮮人や中国人と見た目はほぼ同じだが、日本帝国人は縄文系なので見た目は東南アジアや中央アジア系に近い。なので史実より遥かに中国人や朝鮮人に間違われる事は少ないのだが、白人から見れば有色人種はすべからく猿なため、最悪同類と思われかねない。
初めは通訳として使おうかと考えて日本語教育を許したが、よくよく考えれば日本人が韓国人に会うのは週1回、仁川島に交易のために会うだけ。その際には韓国語が話せる日本人通訳をつけるので韓国人通訳の必要は無い。そのため、このまま一部とは言え韓国人に日本語を覚えられていても将来の不安要素になりかねないので、日本語が話せる韓国人や書物を一層した。
日本語が話せるのは通訳として教育を受けた中人のみで、両班や王族など特権階級は使う必要が無かったので習得している者はいない。両班はともかく、中人を始末するのは容易い。両班達に命じれば「日本帝国からの命令」という大義名文で関係ある者から無い者まで財産没収や処刑を嬉々として行うからだ。
史実ならば満州事変が勃発したが、日本帝国は大陸進出どころか中国との国交を断絶しているので起きる筈も無かった。
この世界では未だに張作霖は存命であり、更にはアメリカの支援によって張作霖率いる奉天軍は北京や山東などの支配を維持していた。
欧州から支援を得ている蒋介石は中国統一のために北伐を繰り返しているが、中国市場を狙うアメリカから莫大な資金や武器提供を受けている奉天軍の反撃に遇い頓挫。逆に奉天軍に攻められる事もあるので互いに一進一退を続けていた。
本格的に中国に進出したいアメリカとしては軍を進駐させて満州や山東でも占領したいのだが、肝心の張作霖はアメリカから支援は受けるがアメリカ軍の進出には頑として拒否し続けていた。張作霖は一度受け入れれば何かと難癖をつけて次々と占領地域を拡大するという、白人の特性を理解していたからだ。
張作霖としてはアメリカから支援を受けるのは中国統一のために利用しているだけで、何れはスポンサーであるアメリカを日本帝国と戦争させて両国とも弱らせ、その隙に朝鮮半島や日本本土を支配しようという、中国人らしい戦略を立てていた。そのため、アメリカ側が幾ら好条件を出そうがアメリカ軍の足場となる基地建設などは決して容認しなかった。
大恐慌によってどうしても海外市場が欲しいアメリカは、上海辺りで自作自演のテロを起こし、それを口実に軍を進駐させるかとも考えたのだが、そんな事をすれば100%日本帝国軍が黙っていない。
史実日本ならば軍事力や国力的に戦争が起きようがアメリカが必ず勝利出来、尚且つ戦争特需が見込めるのでむしろ望むところなのだが、日本帝国が相手では必ず勝てるとは言えない。広大な国土と豊富な天然資源、世界一と称される技術力、膨大な人口や資本力などなど、日本帝国は何もかもが桁外れな超大国である。
大恐慌によってただでさえ国内はフラフラだというのに、ここで圧倒的国力や技術力を誇る日本帝国と戦争をしても勝ち目は薄い。中国市場どころかフィリピンやハワイなど太平洋の領土全てを失う可能性が高く、日本帝国の国力を考えれば最悪本土決戦にまで発展するかも知れないのだ。
例え西海岸を失おうがアメリカは戦争自体は可能だが、国民の間に厭戦機運が高まりかねない。ただでさえ大恐慌によって混乱しているというのにそんな時に戦争を始めて、ハワイどころか西海岸まで取られれば幾ら勇敢なアメリカ人でも継戦意欲を失う。そうなれば講和しかないが、最低でもアジア利権やハワイ、アラスカを失い、最悪カリフォルニアなど西海岸まで併合されかねないのだ。
勝つ可能性もあるにはあるのだが、現状では負ける可能性の方が高いのでアメリカ政府は中国への露骨な進出は控えた。
今はまだ大恐慌によって余裕が無いが、何時の日か日本帝国を下し、中国市場を独占するとアメリカ政府は改めて誓ったのだった。
「沖縄級戦略原子力潜水艦が完成しました」
沖縄級とはオハイオ級戦略原潜の事だ。
「そうか……MIRVミサイルの開発状況はどうなっている?」
「多弾頭核ミサイル開発は順調で、沖縄級には最大10個の再突入体を搭載出来るミサイルが配備されています」
再突入体とは核ミサイルの弾頭部を防護している機材の事。つまり1発のミサイルに10個の核弾頭を搭載出来るという事だ。1つ1つの核弾頭の威力は300kt程度と大した威力ではない(日本帝国基準)が、最大10個もの核弾頭を搭載出来るので広範囲の目標に対しては非常に有効である。
「良し、アメリカに対しての準備は着々と進んでいるな」
「はい、それと新型小銃の開発により、既存の5.56mm弾から新式の6.8mmSPC弾への更新がほぼ完了しました」
これまで日本帝国軍は小銃をM16系ライフルをメインとして使っていたため、5.56mm弾を主に使用していた。5.56mm弾は貫通力が高い割に撃ち易く、更に小さく軽かっため旧式の7.62mm弾よりも携行性が高い。
しかし、5.56mm弾は初速こそ速いものの弾頭が軽量であるために遠距離の弾道性能に乏しく、命中精度を保てる距離はそれほど長くない。更に、着弾時の威力よりも貫通力を重視したために頭部や心臓、脊椎などの急所を破壊できなければ致命傷を与える事が困難であった。そのため、現場からは「旧式の7.62mm弾の方が好ましい」という意見が多発した。
これにより、新たに開発されたのが6.8mmSPC弾である。5.56mm弾より弾頭重量と口径を増し、使用される無煙火薬を新しいものに変更した事によって威力は上昇。殆どあらゆる点で5.56mm弾を凌ぐ性能を有する事に成功した。
ちなみに、新型小銃はM4カービンを近代化改修したHK416をベースにしている。
「良し、小火器の準備も順調だな。
太平洋戦争まで後10年。アメリカはまだ大恐慌の影響が大きすぎるから大陸へと本格的な進出は出来ていないが、後5、6年もすればある程度大恐慌から立ち直る筈。その時に分かりやすいチャンスを与えてやれば、アメリカは乗る。例え何故そんな事をするのか理由が分からないとしても、膨大な市場を欲するアメリカは動かざるを得ない。
そしてその時が……我が国にとっても最大のチャンスなのだ」
こうして、日米戦へとまた一歩近付いた。
アメリカは自ら日本帝国が待つ破滅への道を歩んでいる事に気付かず、ただただ利益のための行動を取る。国益ではなく資本家達の利益のために。
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