第五十一話 VFMW-MSX108『プロセルピナ』
インダストリアル・アイランド 北西300キロ地点
インダストリアル・アイランドの上空では激戦が繰り広げられていた。空中要塞16基を基幹として、1000機を超えるUFOや1000両を超えるホバー戦車や多脚戦車等、未知の敵相手に機動兵器・航空機部隊は一進一退の攻防を繰り広げていた。
一条機龍
「ちくしょう!!何て数が多いんだ!?」
そう言いながらも『ノイエ・ジ-ルMK-Ⅲ』から三十一式腹部780mmハイパーメガカノン『ドーベン・ドライツェーン』1門、三十一式背部365mm偏向陽電磁粒子砲発射装置『バイパー・ゼロ』12門、四十一式背部425mm大型空中飛行ビームカノン砲塔『ヴァルキュリア』36基が一斉に砲撃を開始し、射線に居たUFOや多脚戦車、ホバー戦車を爆散させてゆく。
シャルロット
「――!!そこぉぉ!!!!」
VFMW-MSX106『ヴェスタ』の四十四式背部630mm高出力長距離ビームキャノン砲『ゲイ・ボルグ』2門の二線が空中要塞に向けて放たれたが、途中に存在したバリアによって弾かれてしまう。
セシリア
「ちょこまかと動いて!!」
VFMW-MSX107『ミネルバ』の四十九式245mm超大型ビームスナイパーライフル『ヴァルツァー』(見た目はドラグノフ狙撃銃)を、頭部の弾道コンピューターと照準装置によって目標に定めた海上を進むホバー戦車にカーソルが合わさりロックオンすると引き金を引いた。
刹那、銃口から245mm口径のビームが寸分狂わずホバー戦車の中央部を貫き爆散させる。この一輌だけでなく、後ろにいたホバー戦車にもビームが命中・爆散させる。
彼・彼女ら3人を中心に反撃しており、戦場を真上から見れば3人を中心に最も戦力が多い中央部、ほぼ同等の戦力を有する左右翼の鶴翼の陣に展開している。
インダストリアル・アイランド 第四エリア 機動兵器専用ドック
整備班長
「機動兵器が帰って来たぞ!!損傷の大きい機体から収容・修理させ、損傷の小さい機体には補給を済ませたの後、出撃させろ!!」
戦闘から帰って来た機体は無事な機体もあれば、五体のどこかを失った機体もいる。無事な機体にはエネルギー補給を、パイロットは少しの時間を無駄にせず休憩する。パイロットと言うのは、コンマ一秒の判断の遅れで生死を分けると言っても過言ではない。例えを言うなら、判断によって直撃を受けるか、それともかすり傷を負うか、はたまた避けるかの違いである。
??
「酷いな――」
そう言うのは、織斑千夏大佐である。彼女は、機動兵器部隊のアグレッサー部隊(別名『トップガン』)隊長にして、真紅のVFMW-008『ブラスター・ファントム』で戦場を翔け、第13独立機動艦隊第一位の撃墜数(F-15『イーグル』18機、F-16『ファイティング・ファルコン』10機、F-18『スーパー・ホーネット』18機、F/A-18『スーパー・ホーネット』25機、B-52『ストラト・フォートレス』7機、EA-18G『グロウラー』3機、E-2C『ホークアイ』2機、AH-64『アパッチ』11機、AH-64D『アパッチ・ロングボウ』5機、AH-1『コブラ』14機、CH-47『チヌーク』8機、UH-60『ブラックホーク』14機)125機を誇るエースパイロットでもある。
今彼女の眼には傷ついた機動兵器から、負傷したパイロットが運び下ろされている痛々しい光景が映っていた。その中には自分の教え子も存在しており、それを見るたびに心にチクリする痛みと戦闘に参加できないと言う悔しさがこみ上げてくる。
なぜなら彼女の専用機となっていた真紅の『ブラスター・ファントム』は、彼女がアグレッサー部隊隊長に就任すると同時に、機動兵器部隊小隊長に就任した自分の妹に愛機を授けたのだ。
整備班長
「あっ、ここにいましたか、織斑大佐」
織斑
「どうした?」
整備班長
「はい。長官があなたの腕を見込んで直接託すでした機動兵器の調整が終わりましたので――こちらに」
織斑
「あ、あぁ。分かった」
整備班長から言われ、織斑はその後について行く。厳重にロックされた扉が開くと、その中には1機の機動兵器が鎮座しており、その下には担当技官が居た。その技官を織斑は知っていた。
織斑
「し、東雲!?東雲束音じゃないか!!」
東雲
「はぁ~い。チナちゃん、待っていたよぉ~」
なんともまぁ、軽~い彼女ですが、物凄い経歴の持ち主で、彼女は機動兵器の生みの親の一人であり、機動兵器用の核融合炉、ビーム兵器の小型化、ビームサーベルの理論等、今の機動兵器には無くてはならない機動兵器の技術を確立させたエリートである。
ちなみに、彼女の階級は技術中将で、彼女が言ったチナちゃんとは織斑の愛称である。
織斑
「あ、あぁ。それより――この機動兵器は一体……」
東雲
「よくぞ聞いてくれましたぁ~。この機動兵器はね、チナちゃんのための新しい剣――VFMW-MSX108『プロセルピナ』だよぉ~」
VFMW-MSX108『プロセルピナ』――性能諸元――
全高
・19.2メートル
重量
・42.6トン
出力
・5290kw
推力
・30000kg×4(大型バックパック)
・20000kg×8(中型バックパック)
・20000kg×12(ウイングノズル)
・15000kg×8(腰部ノズル左右4基ずつ)
・20000kg×2(腕部ノズル)
・20000kg×8(脚部ノズル)
・15000kg×4(足底部左右4基ずつ)
・950800kg(総推力)
センサー範囲
・5万メートル
武装
・頭部76.2mm自動対空バルカン砲塔システム『イーゲルシュテルン』4門
・二十九式口部127mm短距離高出力エネルギー砲『ヴィント・ホーゼ』1門
・四十一式腕部155mm高出力ショックアンカークラッシャー『パラリューゼ・ドルン』2基
・五十一式背部22.55メートル超大型ビームブレード『デュランダル』1丁
・五十一式背部630mm高出力長距離ビームキャノン砲『グングニール』1門
・四十一式腹部580mm複列位相エネルギーキャノン砲『ツェルベルスⅡ』1門
・四十一式腰部630mmバックパック兼用レールガン『シュペール・ヴァリアブル・キャノン』2門
・四十四式脚部ビームブレイド『ファング・アルム』2基
・二十五式155mm大型ビームライフル『シュペール・オルクス・ガイスト』2丁
・二十五式203mm大型ビームサーベル『シュペール・リヒト・デーゲン』4丁
・四十一式ウイング外装型425mm大型空中飛行ビームカノン砲塔『ヴァルキュリア』12基
特殊装備
・パワーエクステンダー
・両腕強化型ビームシールド『ノイエ・シャイニング・クロイツ』
・Iフィールド発生装置
・ヴァリアブルダイヤモンドコーティング装甲
説明
第13独立機動艦隊最新鋭にして機動兵器の生みの親の一人、東雲束音技術中将が設計した後期型ミレニアムシリーズの機動兵器である。
この機体より前に開発されたミレニアムシリーズを前期型と呼んだのは、この機体には最新型のレーザー核融合炉を搭載、同時に脚部を始めとする推力の強化等、様々な所で改良が加えられているからだ。
武装の大半は変わりないものの、四十四式背部22.55メートル超大型ビームソード『エクスカリバー』の発展改良型にして『ローランの歌』に登場する英雄ローランが持つ聖の名を冠する五十一式背部22.55メートル超大型ビームブレード『デュランダル』は『エクスカリバー』より切断・貫通力が強化されており、その切れ味は戦艦一隻を真っ二つに切り裂く事が可能な程である。同じく四十四式背部630mm高出力長距離ビームキャノン砲『ゲイ・ボルグ』の発展改良型にして、北欧神話において主神オーディンが持つ槍の名を冠した五十一式背部630mm高出力長距離ビームキャノン砲『グングニール』は『ゲイ・ボルグ』から射程距離を伸ばし、且つ貫通力を強化したビーム砲で、その威力は掠れただけでも装甲が溶解してしまう程である。
機体の名前の『プロセルピナ』とはオリュンポス十二神の一人、冥界の王『プルート』の妻にして冥界の王妃、そして春・芽吹き・乙女・季節の神である『ペルセポネー』を英語読みした『プロセルピナ』に由来する。
ちなみに、機体のカラーは真紅を中心に、黒色、白色が混ざっている。
織斑
「私の……新しい剣」
東雲
「そうだよぉ~。ようやく完成して且つチナちゃんの合うように調整が完了しているから、いつでも出撃OKだよぉ~」
軽い感じとは裏腹に、彼女が自らが設計した『プロセルピナ』は、これまでのミレニアムシリーズとは違う別な強さを秘めた機体であり、これだけでも一重に東雲が凄い人物かが窺える。
織斑
「――フッ。ありがとうな、束音」
東雲
「そんな事ないよぉ~。『真紅の戦姫』であるチナちゃんには、戦場で再び戦ってほしいから――あの頃のように」
『真紅の戦姫』――織斑千夏の異名である。その由来は真紅の『ブラスター・ファントム』で、戦場を駆け巡り驚異的な戦果を上げた事から名づけられた異名である。
織斑
「任せておけ。行くぞ!!」
すぐさまパイロットスーツに着替えた織斑は、コックピットの中に入り込む。計器類は確認すると、電源が入っているのか灯っており、操縦席や操縦桿の位置は丁度で、後は出撃するのみの状態にある。
織斑
「行くぜ!!織斑千夏、『プロセルピネ』で出撃する!!」
力強い宣言と共に、カタパルトが作動し機体を上に打ち上げる。打ち上がったと同時にヴァリアブルダイヤモンドコーディング装甲が展開し、真紅の装甲が浮かび上がる。
そして、激戦となっている空戦空域へと機体を進める。従来の機体とは全く次元が違う速度を叩き出し、インダストリアル・アイランドの上空を護衛していた機動兵器は『プロセルピナ』が通り過ぎた時に「赤い流星が通り過ぎて行った」と証言した程、速度が速かった。
??
「オール・ウェポン――ファイアァァッッ!!」
??
「しつこい敵ばかりだな!!」
その頃、左翼に展開していた機動兵器部隊の中に、真紅のVFMW-008『ブラスター・ファントム』とマリンブルーのVFMW-009『ドラグーン・ファントム』がいた。
前者の機体は言うまでも無いであろう。『ブラスター・ファントム』に搭乗するのは『真紅の戦姫』こと織斑千夏大佐の愛妹である織斑零夏少佐で、『ドラグーン・ファントム』に搭乗するのは零夏の幼馴染にして、かの天才技術将官にしてエリートである東雲束音技術中将の妹、東雲鳳姫大尉である。
織斑(零夏)
「ちょこまかと動いて!!」
東雲(鳳姫)
「この機体じゃあ、接近戦だけにしか持ち込めない――クッ!!」
零夏は予測不能な動きを見せるUFO部隊に苦戦し、鳳姫は近接戦闘に長けた『ドラグーン・ファントム』ではこちらの射程に入って来た時しか専売特許の格闘戦ができないと言う制限を強いられており、止む無く二十五式155mm大型ビームライフル『ノイエ・オルクスガイスト』を右手に持ち戦闘に参加している。
織斑(零夏)
「し、しまっ――」
東雲(鳳姫)
「や、やばっ――」
周囲にいたUFO、多脚戦車、ホバー戦車そして空中要塞からの唐突な一斉射撃によって、周りにいた機動兵器は防ぐために掲げたシールドごと左腕を破壊されるか、直撃弾を受け爆散するか、回避しつつ反撃を試みた機体も存在しているが、大体は前者2つのどちらかが多い。
そんな中、零夏の『ブラスター・ファントム』は空中要塞からのプラズマ砲、荷電粒子砲を左肩と左腕ごと、右腕の関節部から下、右足を関節部から下、左腰部に命中しその部分が溶解し抉られ爆発する。
その隣にいた鳳姫の『ドラグーン・ファントム』はもっと酷かった。頭部を始め、右腕は関節部から下を、左腕は肩ごと、右足は関節部から下を、左足はつま先を吹き飛ばされてしまった。
そして2機は推力の低下により、インダストリアル・アイランド第六十二番島『師走島』に落下してしまった。
しかもそこは、左翼の戦線の中で最も激戦と言われている空域・地域であり、彼女の機体の上の空を625mm陽電磁粒子砲や510mm電磁投射砲と言った大火力要塞砲、地対空ミサイルや地対艦ミサイル等のミサイル兵器が飛び交う非常に危険な場所である。
織斑(零夏)
「まずい!!機体が言う事を聞かない!?」
東雲(鳳姫)
「こっちもだ!!さっきの攻撃が電気系統を破壊したな」
彼女2人が操縦桿を引いたり押したりしても、機体は何の反応もせず沈黙を保ったままである。
さらに追い打ちをかけたのが、機体の目の前――正確には周囲を戦車部隊が囲んでおり主砲をこちらに向けているのだ。
織斑(零夏)・東雲(鳳姫)
((死ぬの……私))
まさに絶体絶命――彼女達は死を覚悟し、目を瞑った。
次号へ。
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