日本の小型衛星ブームは本物か
2009年1月21日,「SOHLA-1」という人工衛星が打ち上げられます。と言ってもピンと来ない人がいるかもしれません。でも,この衛星の愛称である「まいど1号」なら知っている人は多いでしょう。東大阪の中小企業が結成した「東大阪宇宙開発協同組合」が中心になって開発した人工衛星です。公共広告機構のキャンペーンでテレビCMにもなりました。この衛星が,宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げる温室効果ガス観測衛星「いぶき」(GOSAT)に相乗りする形で,いよいよ来週,打ち上げられます(Tech-On!の関連記事)。
いぶきに相乗りする小型衛星はまいど1号だけではありません。JAXAの小型衛星や東北大学を中心に開発したスプライト現象(雷と同期して発生する高層大気発光現象)観測衛星など計6機の小型衛星が同時に打ち上げられます。さらに2010年には,JAXAの金星探査機「PLANET-C」に相乗りする形で,4機の小型衛星(うち1機は地球周回軌道ではなく金星向け軌道)が打ち上げられます(JAXAの発表資料)。
小型衛星に特化したベンチャー企業も登場しています。東京大学発のベンチャーとして2008年8月に設立されたアクセルスペースです。気象情報会社であるウェザーニューズは,アクセルスペースや東京大学,千葉大学と共同で,温室効果ガスや極圏の海氷を観測する小型衛星を2010年に打ち上げると発表しています(ウェザーニューズのプレスリリース)。また,無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)は,小型衛星を短期間・低コストで実現するためのアーキテクチャの確立を目指す「ASNARO(Advanced Satellite with New system Architecture for Observation)」というプロジェクトを2008年に開始しました。このアーキテクチャに基づく衛星を2011年に打ち上げる計画です。
日本の中小企業が作った人工衛星が実際に宇宙に打ち上げられる。それだけですごいことです。だからこそ,少しだけ残念に思うことがあります。まだビジネスとしての段階にはないことです。まず,まいど1号の打ち上げ費用は無料です。JAXAのいぶきやPLANET-Cに相乗りする小型衛星は,打ち上げ費用を負担する必要はありません。また,まいど1号を取り上げたニュース番組(1月13日放送のテレビ朝日「報道ステーション」)によると,同衛星の開発の目的は「技術力のアピール」「東大阪の活性化」「若者にものづくりに戻ってきてもらうこと」だそうです。雷の観測という役割は持っているものの,衛星自体が何をするかは,まだそれほど重視されているようには見えません。
まいど1号の開発費用は,参加している各企業の持ち出しとのこと。その上,打ち上げ費用まで負担せよと言うのは酷過ぎるでしょう。むしろ,衛星の打ち上げ能力を民間に無料で開放しているJAXAが評価されるべき話だとは思います。ただ,民間の宇宙開発が「夢」や「希望」といった言葉で語られているうちは,まだ本物ではない気がするのです。ビジネスとして最終的にきちんと利益を出す。そうでない企業活動は長続きしません。
もちろん,そのことはまいど1号の開発に参加している企業の方はよくご存じだと思います。まいど1号は実験機であり,開発から打ち上げまで1億円程度の低コストで実現できる人工衛星を目指しているという話を聞いたことがあります。米国には,自社で人工衛星を打ち上げ,地図情報データを販売するGeoEye社のような企業もあります。日本の衛星ビジネスは果たして立ち上がるのか,目に見える波及効果を製造業にもたらすような存在になれるのか,引き続き取材していきたいと思っています。