続・子犬のような幼馴染
「中学校入ってからどんどん成長しちゃって、巧も大きくなったのかなーって思ってたけど。追い抜いちゃったね」
男性のものとは思えないソプラノボイスで追撃を続ける李亜。もう黙ってくれ。
「……身長の話だよな?」
165センチの自分より背の高い幼馴染の男の娘を見上げて巧は言った。
「うん? そうじゃないよ? ところで巧って大翔館中学に行って彼女できた?」
やわらかく下ネタを否定することなく、李亜は話を続ける。
「いや、いないよ」
複雑な表情で返事を返す巧。少し泣きそうになったけど気のせいだろう。
「えー、うそー。私は今の彼女で7人目なのに……ちょっと意外だね、昔は頼りになったのに」
憐むような視線を向ける李亜。
正直トップモデルなだけあって綺麗な顔立ちである。普段ならこんな美人を目の前にしたら気恥ずかしくて視線を外すだろうけど、なんだか言葉の端々から優越感を感じたため、せめてもの抵抗として目線を外さないことにした。正直しんどい。
「昔はいっつも私は巧の後ろに隠れてたよね」
なつかしむようにつぶやく李亜。「今だったら俺がお前の長身に隠れるだろうなってやかましいわ」と心の中でつぶやく巧。
「でもね、中学校に入ってからどんどん背も伸びたし、修学旅行の時にみんなで大きさ比べしたらぶっちぎりで大きかったことで自信もついたんだ」
見る者すべてを虜にしてしまうような笑顔ではにかむ李亜。「自信つけるかわりに第二次性徴捨ててきたんじゃねぇかってそんなことないでしょうね立派なドーベルマンをお持ちでってやかましいわ」と心の中が正常でない巧。
「巧も頑張ろうよ、そんなしょぼくれた顔してないでさ」
用を足し終わったのか、ドーベルマンを上下に振りながら李亜が励ます。「しょぼくれた顔の原因はおたくのワンちゃんなんですがね、うちのチワワがすっかりおびえてしまっています、うんやかましいわ」と、心の中で比喩表現を使いこなす巧。
「それじゃ、私はもう帰るね。あ、私のメルアド知ってるよね。たまにはメールしてね」
ジーンズのチャックを上げて、小便器から離れる。「なんで後ろ通るだけでいい香りがするんだよこのトップブリーダー」と、言い回しがさく裂する巧。
「そうだ。一人でやるのはほどほどにしなよ。フニャフニャの国のフニャフニャマンになっちゃうぞ」
「……なに言ってんだよ」
もはや巧の気力は根底から削がれていた。
「はやく大人になってね、巧。私みたいに立派な、一皮むけた男にね」
心底嬉しそうに、ハイヒールの靴音を鳴らして男子トイレから出る美人モデル。
その後姿を見て、巧にいろいろと複雑な気持ちが混みあげてきた。
ふと自分のチワワを見ると、何故か必死に自己主張していた。
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