エジプト:「前政権より状況悪化」…作家のサーダウィ氏
毎日新聞 2013年01月11日 18時11分(最終更新 01月11日 20時10分)
【カイロ小倉孝保】現代アラブ社会を代表するエジプト女性作家で、ムバラク前政権の人権侵害と闘い続けたナワル・サーダウィ氏(81)が10日、書面で毎日新聞の質問に回答し、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団が主導する政治状況について、「宗教独裁であり、(前政権の)軍事独裁より悪化している」と厳しく批判した。
サーダウィ氏は現在、次の小説の執筆に専念しており、政治状況などに関し考えを表明するのは最近では珍しい。
前大統領追放後に行われた大統領選など複数の選挙についてサーダウィ氏は、「自由な選挙ではなく民主的だったとは言えない」との見方を示し、民主的選挙が実現しない背景について、「投票はメディアの虚報などに影響された。さらに、植民地時代の影響もあって人々が十分な教育を受けていないため民主的な選択がされなかった」と分析した。
新憲法については、「(人権などの点で)1971年制定の前憲法よりも後退している」と指摘した。
また、ムスリム同胞団の影響が強くなっていることについて、「経済的、社会的に問題が噴出し、それが階級や性差、宗教的な分断、抑圧につながっている」とし、「女性は前政権時代よりも抑圧されている」との考えを示した。
そのうえでエジプトの向かうべき道筋について、「(宗教独裁追放のため)ムバラク(前大統領)を追放した市民の力をもう一度結集するしかない」とした。
◇サーダウィ氏の略歴
ナワル・サーダウィ 1931年、カイロ北方の農村生まれ。55年にカイロ大医学部を卒業し10年間、故郷で医者をした後、保健省勤務。女性の権利を主張し体制批判を続けたため保健省を解雇され、81年には政治犯として3カ月投獄された経験もある。「あるフェミニストの告白」「0(ゼロ)度の女 死刑囚フィルダス」など多くの小説が邦訳されている。