ホール−岡路工房−断空研−『魔法童話の形態学』より |
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『魔法童話の形態学』は、ロシアの学者である、ウラジミール・プロップが、1928年に発表した作品であり、現在日本では、『昔話の形態学』の名前で、水声社より5665円で販売されています。学術書は高いですな。
以前、富士見ドラゴン書房刊『それでもRPGが好き!』の中で、この本への言及が行われたことがあります。そこで成されたのは、U・プロップ氏が発見した機能を、数多くの「名作と呼ばれる類の現代作品」が踏襲しているものであることを証明したものでした。(例として、著者である近藤功司氏は『宇宙戦艦ヤマト』をプロップ氏の機能に当てはめていました)
そして、TRPGのシナリオの作成に、これがとても役に立つと、近藤氏は結論しています。
こちらでは『それでも〜』を読み、感銘を受けたEL。が、独自に『昔話の形態学』を読み、この内容を纏めたメモを紹介します。
U・プロップ氏は、昔話の登場人物が起こすイベントを「機能」と呼称し、特定の機能の連続により、「魔法の関連する類の童話」が語られていることを、著作の中で解説しています。
昔話の機能 | こちらで、U・プロップ氏が提唱した各「機能」を紹介します。 |
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機能の下位区分 | 上記の機能は、物語の中で、必ず特定の現れ方をしています。その、限定された機能の順列を紹介します。 |
登場人物の属性 | 物語の登場人物は、特定の機能の中で、その役割を果たしています。その、登場人物の属性について解説します。 |
キャンペーンシナリオ作成のスゝメ | ここで紹介しているプロッドを使用してキャンペーンシナリオを製作する際、EL。が注意すべきであると考えている事項をこちらで扱っています。 ※ちなみにリンクは一方通行ですので、迷子にご注意ください。 |
以下にある「構成」は、特定の、一連の機能の集合を指します。
「記号」は、各機能に与えられた記号です。後の項で、機能を簡単に並列させ、解説するための手段です。
「キーワード」は、各機能が持つ働きを、簡潔に表現したものです。
「解説」は、各機能の詳細な働きを、EL。が纏め、解説したものです。「×<」などの記号は、同意語、反意語、例などです。
「三回化」は、その機能が、物語の中で三回繰り返し語られることで、強調されることの有無です。<...>の記号がある機能は、三度繰り返し語られることがあります。
構成 | 記号 | キーワード | 解説 | 三回化 |
α | 導入 | <A=加害/欠如>に対する幸福な状態と、登場人物の紹介がここでなされます | ||
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予備部分 | β | 留守 | 年長の世代の留守が語られます <両親の死、外出など |
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γ | 禁止 | 主人公に、何らかの制約が課せられます ×命令・提案 |
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δ | 違反 | 主人公に対する禁が破られます =命令の実行 |
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ε | 探り出し | 敵対者による情報の探り出しが行われます ×問いただし |
... | |
ζ | 情報漏洩 | 犠牲者の情報が、敵対者にもたらされます | ... | |
η | 謀略 | 敵対者による謀略が実行されます。敵対者は姿を変え、犠牲者を騙そうとします。 | ||
θ | 幇助 | 犠牲者は謀略に掛かり、敵対者が利益を得ます | ||
T 発端 |
A | 加害 欠如 |
敵対者による攻撃が行われます 自分たちに欠如している何かが発見されます |
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B | 仲介 | 被害・欠如をによる要求が、仲介者のもと、主人公に齎されます | ... | |
C | 対抗開始 | 主人公が対抗する行動に出ることに同意します | ||
→ | 出立 | 主人公が家を後にします <遁走 |
... | |
U 贈与者達 |
D | 贈与者の第一機能 | 贈与者による試練が、主人公に課されます ×略奪 |
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E | 主人公の反応 | ニセ 主人公は否定的肯定的、主人公は肯定的な対応をします | ... | |
F | 呪具の獲得・贈与 | 贈与者から、主人公は、なんらかの呪具(助手)を得ます。 | ||
V 助手の登場から 第一行程の終わりまで |
G | 二つの国の間の空間移動 | 主人公が、目的となる場所に何らかの手段で運ばれます | |
H | 戦い | 目的のものを得るために、敵対者との戦いが行われます →の連続 |
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J | 標付け | 主人公に、何らかのマーキングが行われます | ||
I | 勝利 | 敵対者が敗北します | ... | |
K | 不幸・欠如の解消 | 発端の不幸・欠如が解消されます 物語の頂点 |
... | |
← | 帰還 | 主人公の帰還が行われます <遁走 |
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Pr | 追跡 | 追跡者による、主人公の追跡が行われます | ... | |
Rs | 救助 | 主人公は、追跡者の魔手から救出されます 物語の終結である場合が多い。 |
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W 第二行程の開始 |
⊃ | 新たな加害行為 | 新たな加害行為により、第一行程が繰り返されます(<A>〜<G>まで) | |
X 第二行程の続き |
O | 気づかれざる到着 | 主人公は、それと気づかず、家郷か他国に到着します | |
L | 不当な要求 | ニセ主人公が、主人公の獲得したものが自分のものであると、不当に要求します | ||
M | 難題 | 主人公に難題が課されます 昔話がもっとも好んで用いる要素の一つ |
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N | 解決 | 難題を主人公が解決します | ... | |
Q | 発見・認知 | 難題の解決や、"J"でなされた「標つけ」により、主人公が正当であると認知されます。 | ||
Ex | 正体暴露 | ニセ主人公あるいは敵対者の正体が露見します | ||
T | 変身 | 主人公に、新たな姿形が与えられます(財産、外見、役割など) | ||
U | 処罰 | 敵対者が罰せられます | ||
W | 結婚 | 主人公は結婚し、物語が終了します |
※ | それぞれの機能は、まったく逆の働きを持って現れることがあります。(<←=帰還>が<遁走>になる、<D=贈与>が<略奪>になる、等)その場合、記号で表記する場合、記号の上に< ̄>をつけて表記します。 |
※ | 物語における主人公は、大きく「探索型」と、「被害者型」に区分できます。 「探索型」は、何らかの「欠如」を補うために出立する主人公のタイプです。「対抗開始(C)」の機能は、主人公が、与えられた使命について考える猶予があるときのみ行われ、「探索型主人公」の物語にのみ現れる機能です。 「被害者型」は、敵対者の、身近な環境に対する加害により、否応無しに出立する主人公のタイプ、別の言葉で言い換えるなら「巻き込まれ型」の主人公です。 |
※ | 三回化には、三っつのパターンがあります。 ●同じ現象が三度繰り返されること ●徐々に難易度が高くなって繰り返されること ●最初の二度は否定的な結果を齎し、最後の一回で肯定的な結果が齎されること |
諸機能は必ず順番通りに現れ、物語を形成します。しかし、ある特定の法則をもって各機能は省略されることがあります。
下にある表は、その法則を図式化したものです。
以下の図式の通りに機能を連結させ、登場人物の設定など、細かい環境の設定を行うだけで、簡単にTRPGのシナリオを作成することができます。
それぞれの記号の上にマウスカーソルを合わせると、記号が意味する機能のキーワードを見ることが出来ます。
☆パターン1・2
パターン1は、戦い/勝利を含む物語に当て嵌まる図式です。
パターン2は、難題(と解決)を含み、戦闘が主眼とならない物語の図式です。
1:ABC→DEFGHJ IK←PrRsOLQExTUW
2:ABC→DEFGOL MJNK←Pr-RsQExTUW
☆パターン3・4
パターン3は、戦い/勝利と、難題/解決の双方を含む図式です。
4は、双方を含まない、物語における機能の図式です。
HIMNか、Pr-Rsかという選択ですね。
3:ABC→FH-IK←LM-N QExUW
4:ABC→DEFGK←Pr RsQExTUW
☆上の4っつのパターンを統括した図式
α
γ-δ
ε-ζ
η-θH I ABC→DEFG J K←PrRs(OL)QExTUW M N
物語の登場人物は、<α=導入>において
の、三つの属性についての紹介を受けます。
登場したキャラクター達は、それぞれが「行動領域」を持っており、特定の機能の中でのみ、重要な役割を担います。
行動領域の分類 | 備考 | 行動する機能 |
敵対者(加害者) | 主人公に敵対する登場人物です | A・H・Pr |
贈与者 | 主人公に試練を課す人物です | D・F |
助手 | 主人公の行程を助ける人物です | G・K・Rs・N・T |
"王女"とその"父" | この二者は、主人公に等しい形で働きかけます | M・L・Ex・Q・U・W |
派遣者 | 主人公を、行程へと送り出す人物です | B |
主人公 | 探索型・被害者型主人公に大別されます | C・→(探索型のみE・W) |
ニセ(詐称)主人公 | ニセ主人公も、主人公と同じく出立をします | C・→・E(常に否定的)・L |
※登場人物は、稀に複数の行動領域に跨って行動していることがあります。(<贈与者>がそのまま<助手>になる・<王女>が<派遣者>になる、等
記載者より
U・プロップ氏の『昔話の形態学』は、そもそも彼の、昔話の比較研究の成果として発表されたものですが、その内容から、ストーリー作成の最参照して、展開を決めるのに非常に有効な手段となっています。
しかし、このシステムをそのまま使用してTRPGのシナリオやキャンペーンを組みたてると、一本道で、アドリブの効かないものになってしまいがちになるでしょう。
また、プロップ氏の機能は、あくまでロシアに伝わる、魔法が関連している昔話、という極狭い範囲の題材しか、サンプルに用いてはおりません。これは、すべての物語の根幹では決してなく、物語を分類する一例に過ぎません。
このことに予め注意し、自由な思考で柔軟な展開のシナリオを作成することを心がけられれば、上のメモは、一度ならず貴方を助けてくれることと思います。
昔話の機能は、このメモの要であり、典型的なストーリーを形造る基幹となる「機能」について語ったものです。
機能の下位区分は、機能が、主にどのような組み合わせでストーリーを形成しているかを、四つのパターンで解説しています。
登場人物の属性では、物語の登場人物が、どのような役割を担って、互いに関連しているのかを説明しています。
どれも、記載者の説明力の不足により、記号を羅列した見づらいものとなってしまってはおりますが、ここで紹介させて頂いたものが、皆様のお役に立てたのなら、幸いです。
EL。
ホール−岡路工房−断空研−『魔法童話の形態学』より |
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