こりゃ面白い。「社会性昆虫」の研究をわかりやすく紐解いた入門書なのですが、会社組織なんかにも通じる学びがありますね。
「働かない働きアリ」の存在意義
巣のなかのアリを個体識別して継続的に観察しても、ず〜っと働かない働きアリ、という不届きものが存在することがわかっています。
私たちが、シワクシケアリというアリで行った最近の研究では、1ヶ月以上観察を続けてみても、だいたい2割くらいは「働いている」という行動をほとんどしない働きアリであることが確認されました。
(中略)こうした働かない働きアリは、エサ集めや幼虫や女王の世話、巣の修理あるいは他の働きアリにエサをやるなどの、コロニーを維持するために必要な労働をほとんど行わず、自分の体を舐めたり目的もなく歩いたり、ただぼーっと動かないでいたりするなど、労働とは無関係の行動ばかりしています。
では、こういった働かない働きアリたちは、自分がサボりたくて働かない「怠け者」なのでしょうか?
本書の冒頭より。「徹底的に働かない働きアリ」という存在がいるというのは、なんとも驚きです。みなさんの会社にもいませんか?そんなひと。
生物として残っているからには存在意義があるわけで、この「徹底的に働かない働きアリ」にももちろん意味があるのです。
みながいっせいに働くシステムは、同じくらい働いて同時に全員が疲れてしまい、誰も働けなくなる時間がどうしても生じてしまいます。卵の世話などのように、短い時間であっても中断するとコロニーに致命的なダメージをあたえる仕事が存在する以上、誰も働けなくなる時間が生じると、コロニーは長期間は存続できなくなってしまうのです。
つまり誰もが必ず疲れる以上、働かないものを常に含む非効率的なシステムでこそ、長期的な存続が可能になり、長い時間を通してみたらそういうシステムが選ばれていた、ということになります。働かない働きアリは、怠けてコロニーの効率をさげる存在ではなく、それがいないとコロニーが存続できない、きわめて重要な存在だといえるのです。
つまり「働かない働きアリ」は「予備スタッフ」なわけですね。突然、大量の仕事が降ってきたときに「よし、俺の出番だな…」とのっそり動き出す、伝家の宝刀的なスタッフだったのです。
常にフルパワーで働く組織・個人は持続可能ではない
この「余力」は、個人においても、組織においても重要といえるでしょう。
僕は育休モードということもあり、カレンダーにはほとんど予定が入っていません。今月はこんな感じ。
フリーランスである以上、仕事をパンパンに詰めすぎると、体調を崩したときにカバーできなくなります。また、余力を持っておくことで、クライアントの急な依頼にも応えることができるので、結果的に仕事の質が上がります。余裕を持っておくことで、まさに持続可能性が高まるわけですね。自分のなかに「働かない働きアリ」を持ち合わせるということです。
僕の知人の会社では、複数のフリーランスのスタッフと業務委託契約を結び、「助っ人」的に活用している組織があります。彼らの組織にとってはそうしたフリーランスたちが「働かない働きアリ」であり、業務負荷が高まった瞬間に助けてくれる、価値ある人材となっているようです。これ、うまいマネジメントですよね。
常に100%で働いている組織・個人は、短期的に成功していたとしても、長期的に見たら存続しないというのは、人間社会においても真理といえるのではないでしょうか。僕は引き続き「働かない働きアリ」を自分のなかに飼いつづけて仕事をしたいと思います。
その他、まだまだ興味深い昆虫の行動・生態が紹介されています。教養本として一級の楽しさなのでぜひ。