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論争!日本のアジェンダ
【第13回】 2013年1月10日
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TPP反対派“5つの誤解”とは何か
――国際基督教大学客員教授 八代尚宏

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5.「構造改革は必要だがその体力がない」
引き伸ばし論法の是非を問う

 長年、保護されてきた企業をいきなり市場競争に晒すのは、「病人を水風呂に入れるようなもの」とか、「経済を効率化すると生産性が高まり、デフレが深刻化する」という消極的な反対論もあります。これらは「不況期には改革はできない、好況期にはやる必要がない」という、典型的な引き伸ばし論です。

 現在の日本の長期経済停滞背景には、生産性の高い製造業と低い農業やサービス業の二重構造があります。これは国際競争にさらされる製造業と、政府に保護された非製造業という違いによるものです。90年代以降の世界経済のグローバル化で、生産性の高い製造業が国外に生産拠点を移す一方で、その後を埋める高付加価値のサービス業が、政府の規制に縛られて十分に育っていません。ジリ貧状態の日本経済の活性化の鍵は、農業やサービス業を、製造業と同様な競争市場に晒すと同時に、十分なセーフティーネットを整備する他はありません。

 過去の旧い規制を、新しい時代に相応しい規制に転換することは、生産性の向上だけでなく、新たな需要を喚起するという二面性があり、財政に依存しないデフレの克服策です。これは、過去の携帯電話や宅配便の例を見ても明らかです。今後、高齢化で需要が増える分野である医療・介護サービスや、女性が働くのが当たり前の社会での保育所等は、いずれも厚労省の厳格な価格統制や参入規制に縛られています。国民皆保険制度を維持しつつ、公的・民間企業が対等な条件の下に競争できるように改革することは、TPPへの参加の有無にかかわらず必要です。自由貿易の視点で国内の諸規制を見直すことが、その大きな契機となることは疑えません。

 TPPを単に米国からの要求を突きつけられる場といった被害者意識ではなく、むしろ、アジア諸国の利益を代表して、例えば、国際貿易を撹乱させる米国の農業輸出補助金の撤廃等を要求する場とすることも、日本の大きな使命と言えます。

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