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プロフェッショナルインタビュー

スタートアップの瞬間 Vol.8

株式会社電通
クリエーティブ・ディレクター

岸 勇希

岸 勇希さん

第4章
“モチベーション”までをデザインし、
携わる人のハッピーの総和を高めることが僕の仕事。

お話を伺っていてコミュニケーション・デザインは、今後もっと重要になっていくように思えます。

そう思いますし、僕は一生コミュニケーション・デザインと共に生きていくので、そうあってほしいです。
もう少し具体的にお話すると、今後コミュニケーション・デザインの本質は、人に意欲をもたせるための動機付け=モチベーションをどう設計するのかという点により絞られていくと思っています。社会、企業、スタッフ……それぞれの立場に、それぞれのモチベーションが存在していて、その関係性をコミュケーションの力で豊かにしていくこと。それが様々な課題を解決へと導いていく本質解だと予感しているからです。当然僕もそれを目指したいと。ですからコミュニケーション・デザインの守備範囲も、企業から社会とか、僕らと企業の関係とかに留まらず、時にクライアント社長と、その社員とのコミュニケーションや、社員とその家族とか、これまでの広告では関係のなかったところまでその可能性が広がっていくのだと思います。携わった人全ての”幸せ”をどうつくるか?それに向かうための”やる気”をどうつくるか。あらゆる課題に対して、最高の解を用意するために、モチベーションのデザインが重要になってくるはずです。

なぜ、モチベーション・デザインに考えが及んだのですか?

急に変な話をしますが、アニメやゲームのキャラクターでどんな奴が一番強いと思います?火を支配する奴とか、死を司る奴、もしくは天気を自在に操る奴?僕は現実社会において一番強い奴は、モチベーションを操る奴だと思っています。火を操ろうが、死を操ろうが、そいつ本人のやる気がなければ楽勝ですよね(笑)。まぁ”操る”という表現は少しよくありませんが、モチベーションをデザインすることができれば、もちろんそれをいい方へ使うことができるのであれば、様々なことを課題解決できると思います。誰かが誰かのために頑張る。自分のためでも人のためでも、そこにはモチベーションが必要ですから。

なるほど。マクロ的な視点だけではなく、全体を支える源泉のあり方までをつねに思考されている。コミュニケーション・デザインの領域はさらに深く、広がりそうですね。

企業にとって、純粋に「いい商品を作って”広告”すればよい」という時代は終わりました。コミュニケーションによる役割と価値を知り、課題解決のための本質を見抜いて現状を変えることが大事です。この考え方は企業経営そのものにも関わります。スティーブ・ジョブズは、こういった点でも優れていたわけです。

納得です。岸さんは、すでにコンサルティング的な分野にも関わっているのですね。

そうですね。企業のブランディングや事業計画にも多く携わっています。さらに言えば、「どうやって人の心を動かすのか」という本質は、企業だけではなく、地域社会や都市計画、行政の施策にも用いることができます。実際、ソーシャル的な領域の案件も増えてきました。
僕は課題を解決するために、あらゆる手段を用意します。広告は手段の一つにすぎず、それ以外のものを多く見つけることが重要です。ソリューションニュートラルと称しますが、このソリューションの幅を、コミュニケーションにおいて考えているんです。
“コミュニケーション”を武器にすることは、広告の領域以外でも非常に有効であることを、目の前の案件を解決していくことで証明していきたいです。また理論的には『コミュニケーションをデザインする本』で記しましたが、もっとも大切な「人の心を動かすこと」の意味を感覚的にわかりやすく伝えたくて、次の本を進めているところです。

それが、近日刊行予定の対談集『こころを動かす。の見つけ方』ですね。

僕の怠惰で出版が遅れています。ごめんなさい。でも必ずいい本になります。広告業界に限らず、今の僕にとって、もの凄く魅力的な仕事や考え方をしている方々が今、「何を考え、どう動き、人や世の中の気持ちをつかんでいるのか」を明らかにし、読者に本質的なものを発見してほしいという想いからつくっている本です。前回の本はコミュケーション・デザインの方法論でしたから、とことん科学的かつ理論的にまとめましたが、今回はあえてまとめすぎず”ごろっと”素材としてあるものをそのままで見せたいと考えています。
分解したり解説したりしすぎないことはとても大事だと思っています。例えば、ものすごく美味しい卵焼きの構成要素を徹底的に分解したところで、同じ味の卵焼きは作れないですよね?

こころを動かす。の見つけ方

分解しすぎないで「ものすごく美味しい」という感覚的状態で扱うことも時に大切だと思うわけです。今回、あえて分析はしていません。それでも、業界を超えて通じ合う想いや共通項が浮かび上がってくるはずです。
登場いただいたのは、生物学者の福岡 伸一先生、さかなクンさんなど、考え方や生き方が大好きな教育者の方々。建築家の中村 拓志さんやコミュニティー・デザイナーの山崎 亮さんなどの同世代で活躍されているクリエイター。そして若手である僕らが決して忘れてはならない偉大な道を築いて下っさった大先輩方です。たとえば吉本興業社長の大﨑 洋さんからは「人の心なんて動かない」との名言を頂戴しました(笑)。ほかにもビームスの設楽 洋さん、フジテレビの大多 亮さんなど、業界を超えて、こころを動かし続けてきた方々と対談をさせて頂きました。
今回は方法論の解説ではありませんし、まとめることをあまり重要視していません。ありのまま、だからこそ伝わるリアルがあると思うのです。発売日は、対談内容の一部を公開しているサイトでもお知らせするので、ぜひ手にとってみてください。

刊行が楽しみです。本からのメッセージ以外に、たとえばまだ若い社会人に、岸さんからアドバイスいただけることはあるでしょうか。

僕も自分ではまだ若いと思っているので、そんな偉そうなことは言えないのですが、あえて言うなら「やりたくない仕事をさせられるときこそ、自分の真価を問われる」ということでしょうか。
好きなことをやっているときの力と、逆境の中で追い込まれて出てくる力は、同じではないと思っています。思ってもみなかったことを強いられているときにこそ、その人がもつ本来の力や才能、アドレナリンが出ているのではないかと。やりたくない仕事をやっている時間を無駄だとか辛抱だと呼ぶ人もいますが、僕はむしろそれが当たり前だと思ったほうが幸せだと思っています。そもそも、やりたいことをいいタイミングでやれている人なんてほとんどいないんじゃないかと。
逆に自分の力が発揮でいないことを環境のせいにする人いますよね?自分もそういう腐った時期がありました。正直環境のせいにするのは簡単です。でも結局、何の解決にもならない。誰かが救ってくれるのを待ってるなんて嫌です。救われないかもしれないし。僕は、自分が不幸な環境におかれたときの方が、結果的には成長できたと思っています。無理矢理でもワクワクし、ポジティブになります。正確にはポジティブでい続けられるように心をもっていきました。理想の環境についてこそ発揮できる力よりも、どんな環境であっても腐ることなく、楽しめる力こそが強いと思います。

これから、さらに岸さんが挑んでいきたいことを教えてください。

僕は、もちろんこれからもコミュニケーション・デザインをベースに、携わった人のハッピーの総和をより考えていきます。いいこと言ってるみたいで恥ずかしいけど、本心そう思っています。ハッピーの総数が高くなる仕事であれば、もはやジャンルは何でもいいんです。
ちなみに僕が言うハッピーとは、人から感謝されること、そして人に感謝することです。いい仕事は終わったら誉め合うでしょう? 誉められることがモチベーションに繋がります。だから誉められることは本当にうれしい。だから褒めてあげたい。結局人は、他人から自分の存在を認識されることでしか幸せを感じられないんだと思います。世の中には、どんなにいい仕事をしても誉められない職業だってたくさんあります。比較的感謝されやすい仕事に就けていることにもっと感謝しなくちゃですね(笑)。そういう意味では、日頃褒められない人に「ありがとう」を伝えられるような仕事もしてみたいですね。

具体的な分野などありますか?

現段階では、最終的には教育分野にチャレンジしたいと思っています。
もちろん、そこにもコミュニケーションが介在しますし、今の領域にも近いと思っています。一番違うのは、僕が苦手な、答えを得るのに時間がかかるということですね。大学生に教えることは今もありますが、彼らがその後どうなっていくのか、教えたことが彼らの役になっているのか否かは正直わかりません。全力で教えたんだから、何かしら与えたに違いない、何らかの成長や成功する姿を見たいという欲は常にあります。でもその答えは数年、数十年先、もしかしたら一生わからないかもしれない。
常に自分の振る舞いに対して、反応が速いものを好んできた僕にとって、教育というものが要する時間、それでいても十分に余りあるであろう人を育てるという価値の大きさ。いつかどっぷり取り組んで見たいと思っています。
とはいえ今は、解決を望まれる課題がある以上、その課題に対して全力で対峙していきたい。そしてコミュニケーション・デザインの可能性を証明していきたい。これだけ不況と言われる中でも、「岸に頼めば物が動く」「予想以上の結果を得られる」と言われたい。何より、期待して下さる人に応えたい。すべきことも、そして出来ることも、まだまだ無限にあると信じていますから。これからもポジティブですよ僕は(笑)。

福岡 伸一…
生物学者、青山学院教授。サントリー学芸賞受賞のベストセラー『生物と無生物のあいだ』のほか、「生命とは何か」を分かりやすく解説した著作を数多く著す。
さかなクン…
魚類学者、タレント、東京海洋大学客員准教授。魚の生態について豊富な知識をもって、講演や著作活動など幅広く活躍している。
中村 拓志…
NAP建築設計事務所代表、建築家。建築を「コミュニケーションのデザイン」と捉え、独自の手法で新たな建築の可能性を切り開いている。
山崎 亮…
studio-L代表、京都造形芸術大学教授、コミュニティデザイナー。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトを多く手がける。
大﨑 洋…
吉本興業代表取締役社長。ダウンタウンなどのマネージャーを担当したのち、プロデューサーとして「心斎橋筋2丁目劇場」を設立。その後もデジタルコンテンツ事業など数多の新規事業を立ち上げる。
設楽 洋…
ビームス代表取締役。電通のプロモーションディレクター、イベントプロデューサーであった1976年から「BEAMS」設立に参加。”セレクトショップ”、”コラボレーション”の先駆者。
大多 亮…
フジテレビジョン常務取締役、フジ・メディア・ホールディングス取締役。トレンディドラマの名プロデューサーとして、『東京ラブスートーリー』『ひとつ屋根の下』などをヒットさせる。

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