2012年11月22日(木)

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飯島 勲 「リーダーの掟」

PRESIDENT 2012年12月3日号

著者
飯島 勲 いいじま・いさお
小泉純一郎元総理大臣首席秘書官

飯島 勲

1945年、長野県辰野町生まれ。小泉純一郎元総理首席秘書官。現在、松本歯科大学特命教授。最新刊『リーダーの掟』プーチン絶賛でたちまち重版。

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小泉純一郎元総理大臣首席秘書官 飯島 勲 写真=PANA
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週刊誌の政局報道はほとんど推測の領域

「週刊朝日」と橋下徹氏のバトルは問題となった連載の打ち切りで一応は「ノーサイド」ということになったようだ。小泉純一郎内閣の首席秘書官だった当時、私自身についてあまりにたくさんのことを書かれたので一つ一つを挙げてもきりがないが、印象に残っているのが週刊文春だろう。

(PANA=写真)

見出しには「飯島秘書官、妙齢美女と深夜のドライブ」とあった。身に覚えがまったくないのに、こんな記事がでることにびっくりして読んでみると、妙齢美女とは当時60歳を超えていた私の女房のことで、実家の長野へ帰省するために私とクルマに乗っていたという内容だった。頭にきたので法的手段に訴えようかとも考えたのだが、あまりにも女房が喜んでいるのでやめることにした。それにしても「妙齢」や「美女」という言葉は使い勝手のいい言葉である。

週刊誌や月刊誌の政局記事をプロの観点から分析すると、千に三つしか真実がないということはないが、だいたい10に3つぐらいしか実際に起きたことはない。月刊誌・文藝春秋の「赤坂太郎」氏の政局コラムは、新聞記者らがお小遣い稼ぎに書いているが、それでも事実関係はその程度のものだ。政治家Aと政治家Bがこの時期に会合したのだから、きっとこのようなことを話したに違いないという推測で物事を報じている。

結局、部数を稼ぎたい一心で話題の人物を取り上げ、的外れな権力批判を行うというのが週刊誌の伝統だ。「週刊朝日」の連載に携わった編集部の関係者も、高い志を持って報道の世界を志望したのだろうから、その入社当時のジャーナリズム精神をいま一度思い起こしてもらいたいものだ。

ただし、私は「権力を監視するのが自らの役目である」という誇りを持っている社会部の記者や、フリーのジャーナリストたちに敬意を持って接してきた。これまで政権を担ってきた内閣の一部には、自分を褒めるマスコミばかりを優遇し、批判的なマスコミは出入り禁止や質問するために手をあげても無視するような愚行をしてきた。余裕がないためであろうが、残念な限りである。

私は秘書官時代に「小泉総理や私がいいことをしたとしても何も書かなくてもいい。しかし、もしも悪いことをしたら、他の人よりも10倍の分量で徹底追及してほしい」と、周辺の記者に伝えていた。「悪いことをちょっとでもすれば人の10倍の罰を受けてしまう」、そういう緊張感があったからこそ、5年半の長期政権が可能になったのではないだろうか。

今回の「週刊朝日」問題で一番気がかりなのは、橋下氏という権力者が相手だから特別扱いをされ、朝日新聞があっさりと降伏したのではないか、ということだ。もしも、一般のビジネスマンや名もない一市民が大手新聞の攻撃対象となり「取材拒否」と憤ったところで、大手新聞社が相手にするとは思えない。そんなときにはどうしたらよいか。有効な手段を紹介したい。

新聞社、新聞社系出版社にひどいことを書かれ法的手段に訴えても、裁判に慣れている彼らにとっては痛くも痒くもない。顧問弁護士が現れてのらりくらりと話し合いを長期化させ、こちらを疲弊させるのが常套手段だ。

そこで、訴える相手を書き手だけでなく、編集長、そして新聞社の社長まで広げるのだ。なぜなら、新聞社の社長は各社持ち回りで勲章を受ける慣習になっているが、裁判係争中の案件があると順番を飛ばされてしまう。一度飛ばされると次の叙勲まで10年以上かかってしまうのだ。

不思議に思うかもしれないが、大手新聞社のトップとなり、政財界にも影響力を持つようになった人物が最後に望むのが勲章。だから力のない個人であっても社長を相手取って裁判を起こすだけで、どんな大手新聞社でもほとんどのケースで腰砕けになってしまう。弱い立場の人間であっても、相手の弱点を攻めれば、対等な立場で戦うことができるようになるのだ。

本来、マスメディアの重要な仕事は権力の監視であり、政治家の人格攻撃ではないはず。政治家が権力を使って悪事を働いたらそれを暴くこと、政治家が間違った政策を実施して国民の生活を危うくすること、そういうことを防ぐのが役目であると認識してもらいたい。国民生活のためには堂々と政策批判をすることが大切だ。

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