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学院編
第32話 教師のお披露目
 俺達は学院長に依頼を受ける事を告げると依頼の細々とした部分を決めて正式に受注した。
本来なら商談の後にミレスに会う予定だったが、中止だ。
今回の依頼の件があるので、会ってしまうと支障が出るかもしれない。
ヘイトスに事情を話して'暫くしたら会いに行く'と書いた手紙をミレスに渡してもらうことにした。

 初めての教師と言う事で、学院でどんな風に訓練しているのか気になった。
なので訓練風景を見せてもらった。
学院長室のベランダから見る機兵訓練は…、ひどいもんだった。
人員不足からか、Sクラスの生徒に対し優先的に人員を配置し、それ以外の生徒は殆ど放置。
どう見ても機兵を乗り回して遊んでいるだけ。
一体何処の専門学校かと思った。
こりゃ、高い入学金と授業料を払って卒業ってステータスを貰うだけだな…。
これじゃあ俺達と対戦しても、なんの訓練にもならんな。むしろ対戦した俺達にとって害悪になる。
どうやら、俺達が試験官をした生徒は優秀な方のようだった。
'(ねこ)姉さんの海兵隊罵り手帳'が必要になるな。
それからは一旦、学院を出て色々準備しに街に行く事になった。
準備といっても精々俺達の制服を仕立ててもらうだけだが…。
もちろん俺達が逃げないように監視役の騎士も同行している。
あの短髪グレーだ。
最初は渋々といった感じだったが、俺達のトレーラーに乗った瞬間ローラさんと同じように目を輝かせて
コレはなんだ?アレはなんだ?と聞いてきた。トレーラーの説明はローラさんとルーリに任せて俺はハンドルを握った。
学院の教員用制服は、見た目ちょっとラフな乗馬服のようだった。なので俺の付ける仮面はフルフェイスの鉄仮面に決定。もちろんロボットロマン2で製作しましたよ。
フハハハ!怖かろうっ!…いや…なんでもない。
ちょっと0っぽい仮面も考えたが、さすがに制服に合わなかったのでやめた。
街での準備は直ぐに済み、俺の教師としてのお披露目の日の朝になった。

学院の前に作られた、広いグラウンド。現在そこには、この学院に在籍している人間がズラリと並んでいた。
服装から見るに、朝礼台に近い中央の列がSクラスで外側に行くにつれてランクが低くなっているようだ。
朝礼台には、ダーム学院長がありがた~いお話をしており、そろそろ30分近く経っている。
さすが士官学院なのか熱中症などで倒れるような人間は一人もいなかった。
朝っぱらだというのによく喋る。
長と名の付く役職の話は長いってのは世界が変わっても変わらないんだな…。
俺達(俺とドルフとローラさん)は朝礼台の横に立ち、生徒達向ける大量の視線に晒されている。嗚呼…、まだか…。
「…というわけで、諸君も努力を怠らず、先人達の積み上げてきたものを崩さぬように精進する事じゃ…。
 ちょっと短いが今日はコレくらいにしておこう」
おいおい、いつもはもっと長いのかよ…。勘弁してくれ。
「さて、諸君らも気になっておるだろう。今日から赴任してきた新しい教師陣の自己紹介じゃ。
 これから諸君らの機兵訓練を担当する教師じゃ。じゃあ鉄仮面先生よろしく」
「はい、学院長」
ちなみに俺の声は鉄仮面につけたボイスチェンジャーで三十台前後の低い声が出るようにしている。
コレなら、年齢や声からミレスに疑われる事は無いだろう。
「鉄仮面?何それ名前?」と生徒達からのひそひそ声が聞こえてくる。
俺達は、学院長に代わり朝礼台に上る。俺の左右の後ろにはドルフとローラさんが並んでいる。
生徒の視線は奇妙な仮面を被った俺に集中する。
俺は、ビシッと休めのポーズをとり、大きく息をすって挨拶を始めた。
「俺が学院長から紹介された鉄仮面だ!後ろにいるのが俺の補佐、ドーフとロラだ!
 俺達の仕事は機兵訓練を通して学院に巣食う蛆虫以下のクソを掃除する事だ! 
 何故俺達が蛆虫以下の貴様らに機兵のなんたるかをわざわざ教えなければならないか…それは、貴様らの先輩がまったくの役立たずだったからだ!
 ××かくことしか能の無いクソだったからだ!
 先ほど学院長が'先人達の積み上げてきたものを崩さぬように'と仰ったがそんなものとうに存在しない!
 過去の卒業生など、学院がひり出したクソに過ぎん!
 貴様らは人間ではない!
 魔獣のクソをかき集めた程度の値打ちしかない!
 貴様らは厳しい俺を嫌うだろう。
 だが憎めばそれだけ学ぶ。
 俺は、厳しいが生徒を差別せん!
 貴族、平民、貴髪、黒髪、亜人、ハーフ俺は見下さん!
 平等に価値が無い!
 改めて言おう!
 俺達の仕事は機兵訓練を通して学院に巣食う蛆虫以下のクソを掃除する事だ! 
 分かったかっ!
 クソどもっ!」
はい、知っていたとはいえ学院長以下全員総ポカン状態です。
その状態が暫く続いたと思ったら、クリシアさんから防御の合図が腕から伝わってきた。
見回してみると顔を真っ赤にした生徒どもが手を俺に向けていた。
「土壁よ、災いを、防げ!」
ズン!
次の瞬間朝礼台を囲む様に土壁がせり上がり、四方から飛んでくる魔法から俺達を守った。
魔法攻撃がすべて無効化されたのを確認し、今度は右手を上げた。
「空気よ、敵を、潰せ」
ボッ!ズシャァ!
「「「ぎゃぁああああああああああああああああああ」」」
「あっ足がぁ…」
クリシアさんが放った空気の塊は狙いあたわず、俺に魔法を放った馬鹿どもを押し潰す。
ドルフとローラさんは平然とした顔で俺の後ろに立っている。
そう言う風にするようにお願いしたのだ。内心は冷や汗物だろうが…。

こうなる事は、想定済みだった。
ついでにそれを利用し、俺が黒髪とばれない様に魔法を使える事を見せておく。
実際は、クリシアさんにタイミングよく魔法を使ってもらっているだけだ。
「俺に攻撃魔法を使ったクソがいたな!
 教師たる俺に牙を剥くとはたいしたクソだ!
 俺の母親を犯していいぞ!
 だが所詮クソはクソだ!
 傷一つ俺につけることは出来ん!
 本来なら謹慎又は退学処分だろうが、俺は寛大だ!
 感謝しろクソども、足一本で許してやる!
 以上だ!」
俺は、言うだけ言うと朝礼台を降り、学院長の前に立つ。
他の教師達は、青ざめた顔をしながら足を折られた生徒の救護に駆け出している。
「如何でしたか?学院長」
「いや…あの…その…じゃのう」
学院長は、ここまでやるとは思いもよらなかったんだろう。完全に引いている。
「ご安心ください。学院長、必ずやクソどもを立派な兵器に変えて御覧に入れましょう」
俺は鉄仮面の奥で笑った。

 そして今度は、黒髪達に対してお披露目だ。
道も碌に無いような森の中を学院長と短髪グレーに案内された屋敷を見て、俺達は息を呑んだ。
そこはまさに幽霊屋敷。所々窓が割られ、場所によっては窓そのものが存在しなかった。
外壁は蔦に覆われ、壁も窓も見えない場所もあった。見る角度を変えれば完全に森の一部としか認識できない。
本来なら汗ばむ程の陽気なのに、その屋敷の周りだけひんやりとした空気が流れている。
短髪グレーは慣れた様子で屋敷を覆っている蔦のカーテンを押しのけ、そこに隠れていた扉を開いた。
「こちらです」
「話には聞いていたがこいつぁヒデェな」
ドルフ…俺も同意見だ。
「あらあら、お掃除が大変そうね」
「もう中で生徒達が待っているはずです」
屋敷の中は、蔦が窓を塞いでいる為、薄暗くジメジメしていた。
念入りに掃除しているのか、廊下や窓枠に誇りは溜まっていなかった。
…ここにルーリやカーラちゃんを通わせるのか?…ごめんだね。
俺は、この屋敷の改造を心に誓いつつ、廊下を進んだ。

 廊下の一番奥にあった扉を開けゾロゾロと教室に入る。
黒髪の教室となっている部屋は、元はパーティールームだったのだろう、
蔦に塞がれているが大きな窓とシャンデリアがあった。
そしてその広い空間には、6脚の机と椅子、それと取ってつけたような黒板があった。
そこに四人の生徒は居た。
一人は、足を机の上に投げ出し、ぼさぼさの髪をそのままに、ふてぶてしく笑っている男。
一人は、こちらなど意に介さず机の上に積み上げられた本を黙々と読む男。
一人は、今度はこちらを凝視しつつ目に怯えを宿したショートカットの少女。
最後の一人は、他の黒髪たちがくたびれた感じの制服を着ているのに対し、
フリフリひらひらのゴスロリドレスを着た人形の様に無表情の髪の長い少女だった。
容姿から言って、全員俺よりちょっと年下といった感じだ。
しばし、黒髪の生徒達に見入っていると、ぼさぼさ髪の男が学院長に話しかけてきた。
「よぉジジィ。そいつらが新入り達か?」
「学院長と呼べと何時も要っておろうが!グレン!」
随分無礼な態度だが、いつもどおりなのか短髪グレーが諦め顔でやり取りを見ている。
「いいじゃねぇかよジジィ。親愛の証だよ。あ・か・し。んで…」
ぼさぼさ髪の男…グレンが俺の方を近…スルーしてルーリとカーラちゃんの方に近寄った。
「よぉ新入り!安心しな。俺の近くにいる限り、俺が守ってやるからよ」
そう言うとグレンは気安そうにルーリの肩を掴んだ。カーラちゃんは若干怯えてルーリの後ろに隠れてしまった。
ほう、ルーリにいきなり触るとはいい度胸だ。
「はっ、学院長に守られている分際で'守ってやる'だ?よくもそんな口がきけるもんだな。小僧?」
「あっ!なんだ?仮面のおっさん。なんか言ったか?」
俺の言った事が気に入らなかったのか、まるでチンピラのように睨み付けてくる。
ほんとにコイツ大貴族の子供か?
「ああ、言ったさ。よく出来もしない事を言えるな。恥ずかしくないのか?」
「はっ。今度の教師は口が達者のようだな。俺より弱いくせに吼えるなよ」
「やれやれ、表に出ろよ小僧。現実って奴を教えてやる」
「おっおい、こっちでも問題を起こすのか!止めてくれ!問題はもう沢山じゃ!」
もうダーム学院長もう泣きそうになっている。
「大丈夫ですよ、ダーム学院長。現実を教えてあげるだけ。授業の一環です」
既にグレンは、教室を出ている。
「こいよ。おっさん。叩きのめしてやるよ」
「ああ」

 場面を移して、俺達は屋敷の中庭に来た。ここも相当荒れている。
俺は今、グレンと向かい合っている。ルーリ達や黒髪達も成り行きを見守ろうと外に出てきた。
「小僧、最初に言っておこう。俺の左手は金属製の義手だ」
「だから手加減してくれってか?とんだお笑い種だな」
グレンが馬鹿にしたように笑うが気にしない。
「心配しなくても生身と同じように動く。言っておかないと卑怯だろう?」
「フンッ!とっとと始めようぜ!」
「では、ダーム学院長。開始の合図をください」
「ムムム、もうどうなってもワシは知らんぞ!始めっ!」
開始の合図を聞き、構える。グレンの方も自分のスタイルなのだろう。
腰を落とし、右手をいつでも殴にいけるように引いている。
「おい、どうしたおっさん?魔法はつかわねぇのか?」
「魔法?お前相手に必要だとは思えんな…。先手はくれてやる。ほれ、とっとと来い」
俺は、手のひらを上にし、クイクイッと動かす。
「馬鹿にしやがって、後悔しても知らねぇぞ!!」
見せてもらおうか…噂の黒髪の性能とやらを…!
一気に駆け出し、大振りのパンチを繰り出してくる。
あえて俺は、左手で防御する。人より強い力がどの程度のものか知りたかったのだ。
ドッギグギィっ!
攻撃を受けた義手が今まで出した事の無い音を出しながら軋む。
『(きゃあああああ。割れちゃう!契約石が割れちゃうーーーーーーーーー!)』
クリシアさんが俺だけに聞こえる声で叫ぶ。
ヤバイ!
とっさに後退し、左腕を庇う。
「…これは想像以上だ。俺の左腕が壊れそうになるとは…」
左腕をプラプラさせ、不具合が無いか確認してから、気を取り直して再び構える。
「ハハッ。なんなら魔法も使っていいぜ!まぁそれでも勝てないだろうがな!」
「そこまで心配する必要は無い。さぁ来い」
「どうなっても知らないぜっ!」
そう言って再び殴りかかってくる。先ほどと同じように大振り。
やはり殴り方がなっていない。そんなことでは…。
ボッ!
グレンの拳が俺ではなく、空気を叩く。
「当らなければ、どうということは無い!」
それからのグレンの拳は俺に届く事は無かった。
「おら、どうした小僧!もうへばって来たか?そら、黒髪を守るんじゃなかったのか?」
「うるせぇ!ちょこまか逃げるんじゃねぇ!!」
「そうか?じゃあこっちから行くぞ?」
俺だってルーリほどじゃないが、体術の訓練はしている。
回避重視にまわしていた思考を攻撃重視にシフトする。
「オラァ!」
グレンの攻撃を回避した後、一気に懐に飛び込み腹に一発お見舞いする。
ドッ!
「ガァ!」
腹を抱えてグレンは膝をつく。
「どうだ?降参するか?」
「ハッ馬鹿言ってんじゃねぇよ。まだ一発もらっただけじゃねぇか!!」
気丈にも立ち上がり構える。
「そうか…」
そこからは一方的な展開だった。
俺がグレンを殴り倒す。グレンが立ち上がる。
俺がグレンを投げ飛ばす。グレンが立ち上がる。
俺がグレンを蹴り飛ばす。グレンが立ち上がる。
異常な打たれ強さだ。
黒髪ショートカットの子はもう見ていられないといった感じで目を両手で覆っている。
「おい、グレンとか言ったな。そんなざまで黒髪達を守る事なんて出来るのか?」
「…出来るか出来ないかの問題じゃねぇ!やるんだよ!俺がやると決めたんだ!」
グレンの足はもうガクガクしており、立ち上がるのも一苦労といった感じだ。
「そうか…。しかし足りない…。圧倒的に足りない」
コレで決める。
グレンは、フラフラになりながらも再び構える。
俺は一気にラッシュを叩き込む。
「お前に足りないものは、それはっ!情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!
 そしてっ!なによりもっ!技術が足りない!!」
最後にアッパーカットでしめ。グレンが飛ぶ。
ズシャ。
「以上だ」
倒れたグレンに背を向ける。
「グッ待てよ…。俺は…まだくたばっちゃ…いねぇぜ…」
「なら、立って見せろ」
振り返ると必死に立ち上がろうと、もがいているグレンが居た。
「グハ…なんでだ…何で立てねぇ?」
当たり前だ。最後の一撃で脳震盪を起こすようにしたからだ。
「立つなら早くしろ…。でないと…」
俺は、ボーっと試合を見ていたルーリに近づき、少し乱暴に抱き寄せる。
ルーリは少し不思議そうに俺を見るが、おとなしく身をゆだねてくれている。
「ほれ、早く立て…。出ないとこの子が大変な目にあうぞ」
「クソッ。止めろ。止めやがれ!!」
そのまま俺は、ルーリを押し倒すようにキスを…。

したフリをする。

もちろんグレンには、無理やりキスしたように見えるはずだ。
まぁ鉄仮面被ってるから、実際は関係ないんだけどね。
既に頭に血が上っているグレンには、分からないだろう。
「止めろぉぉぉぉーーーーーー」
グレンの叫びが響き渡る。
そして、ルーリの冷静な突込みが入った。
「…兄さん、やりすぎ」
「なにっ?」
と言う事で教師のお披露目でした。
文章から分かるでしょうが作者は、フル○タでは、やりすぎのウ○ークライが
一番好きなエピソードです。いずれ、生徒達が暴走する場面も書く予定ですのでお楽しみに。
ロボティは、オールクリアしました。パイルバンカはロマンです。


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