インタビュー|「映像の強度のありか」|映像ディレクター 田中裕介
2012/12/29
サカナクション「バッハの旋律を夜に聴いたせいです。」やPerfume「Spring of Life」をはじめとしたミュージックビデオ、CMなどにおいて、一貫してポップでグラフィカルなスタイルで強度の高い映像を制作している、キャビア所属の映像ディレクター・田中裕介。昨年の「MVA - SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS」ではBEST VIDEO OF THE YEARを受賞するなど、その作品は各方面で高い評価を得ている。THE PUBLICのステーションIDをテーマにした講座「THE PUBLIC 『ID』」第3回にも出演する田中氏に、映像制作への思いや「SHOWER OF MUSIC ~ 聴く。より、感じる。ミュージック!!」キャンペーンの映像制作の舞台裏などについて話を聞いた。
インタビュー+撮影:松井友里
まず映像制作を始めたきっかけを教えてください。
多摩美のグラフィックデザイン科にいたのですが、ちょうどAfter Effectsなどの映像ソフトが普及しだしたり、ソフトやハードの環境が整った時期だったので、自分で作ったグラフィックを映像として動かすことが簡単にできるようになり、静止画から動画の制作に移行するようになりました。
もともとミュージックビデオや映像もお好きだったと思いますが、環境面での変化も大きかったんですね。
そもそもグラフィックをやろうと思ったのも音楽のジャケットデザインに興味を持っていたからだったし、映像についても例えばスパイク・ジョーンズが撮ったビースティーボーイズの「サボタージュ」のミュージックビデオを見て「カッコいいな」と思ったりした影響は大きいと思います。ただ、実際自分が制作するとなると手の込んだ映像を本気で作るためにはチームを組まないとできないんですよね。だから単純にミュージックビデオやその作り手が好きだという気持ちはもちろん別次元であるのですが、実際に自分自身が映像を作る直接のきっかけとしては環境面の影響が大きかった気がします。多摩美のひとつ上の学年にAC部がいたのですが、彼らも映像系のソフトが広がってきて、1コマずつ絵を描かなくてもアニメを作れるような環境ができてきた時期に自分たちでアニメを作り始めていたり、そういった周囲の空気もありました。
今度開催される講座のテーマにもなっている、スペースシャワーTVの「SHOWER OF MUSIC 〜 聴く。より、感じる。ミュージック!!」キャンペーンの映像制作について教えて下さい。
コピーライターの渡辺潤平さんとアートディレクターの長嶋りかこさんのおふたりがこのキャンペーンの企画を考えました。テレビから音楽を表す“シャワー”が出てきて、スペースシャワーTVを見たことによって部屋の中に海や、ジャングル、オアシスができるというものです。今回はキャンペーンのポスターが先行していたので、ビジュアル作りに関してはりかこさん主導で、映像的なアドバイスを挟んでいきながら、りかこさんのビジュアルを動かしていくような形で参加しました。CMの場合、ADの方はグラフィックの方で忙しくて映像の方までは見ない方も多いですが、この時はりかこさんがしっかり面倒を見てくれていたのでスゴく楽でしたね。りかこさんはセンスがいいし、良いものとダメなもののジャッジがはっきりしていて、芯がしっかり通っている方です。
映像に出てくるロボットは、以前中村剛さんと共同監督をされたテイ・トウワさんの「The Burning Plain」のミュージックビデオにも登場していますね。
あのロボットはデザインも僕と中村が手掛けたのでテイさんのビデオを制作後、キャビアで所有していて。キャビアの『看板俳優』という位置付けなので、何にでも出てくるんです。「SHOWER OF MUSIC」の映像はアーティストが出演しているものも含めて3本作ったのですが、スペースシャワーTVのオリジナルな映像も必要だったので、「うちにちょうどいいロボットがいる」と(笑)。映像では勝手に動いているように見えますが、実際は人が棒で動かしている様子をCGで消しています。
SPACE SHOWER TV CAMPAGIN「SHOWER OF MUSIC」
(左)長嶋りかこ氏によるカンプ (右)田中氏が制作した演出コンテ
※拡大画像はこちらとこちらから
TOWA TEI with Yukihiro Takahashi & Kiko Mizuhara「The Burning Plain」
制作にあたって、アイデアというのはどのようなところから生まれてくるのですか?
もちろん作品やメディアによっても違いますが、自分の中で何種類かのパターンはあります。ミュージックビデオの場合、1番楽なのは曲を聴いていきなりイメージが浮かぶパターンですね。歌詞の内容というよりは、曲の空気感に合いそうな映像がパッと浮かぶ場合です。もうひとつは完全に戦略的に曲や歌詞、そのアーティストの現状の立ち位置みたいなものも踏まえた上で、話題になりそうな映像を考えるパターン。3つ目は、もともとフワっと持っていたアイデアがこの曲ならハマるなと思う時で、大きくはその3つに分かれています。
ミュージックビデオをはじめ、映像制作の今後についてどのように考えていますか?
インターネットの発明によってYouTubeができたり、メディア自体は変わってきていますが、作らなければいけないものや、作ってみて良いものというのは変わっていないと僕は思っています。例えば最近初めて3Dで撮影をしてスゴく楽しかったのですが、それも3D“だから”というより、あくまで普段のスタンスは崩さず、“たまたま”それが3Dだったということだと思っているんです。個人的にはYouTubeやTwitterで拡散させるために何行かで言い表せる映像を作ったりするようなことは、あまり好きじゃないですね。もちろん話題作りというのも大切だから、映像の中であえてバズるポイントを設定することはあるのですが。
それは例えば具体的にはどのような方法なのでしょうか?
ミュージックビデオで言うならば、解釈の余地を残すようにすることですね。例えば、Perfumeは大体ミュージックビデオの公開前に、10秒くらいのティザー映像を作るのですが、「Spending all my time」という作品の時は脚だけで3人が踊っている映像にしました。その時も「この脚は誰だ」みたいな論争がアーティストのファンの方たちの間で起こったり、映像の最後に1番右側の脚だけが、フッと踊りを止めてオフになる瞬間があるのですが、それだけでも結構バズるんですよ。けしてYouTubeやTwitterを否定しているわけではないし、拡散するということはやはり今非常に重要なので、そういった仕掛け自体はいろいろと考えます。ただそれだけで満足するのは作り手というよりも『仕掛け屋』という感じがするんです。今は制作の裏側を見せることも簡単にできるようになっていますが、メイキングビデオがないと面白さが伝わらない映像というのは意味がないと僕は思っています。それよりも、どんなメディアで見ても人の心を掴むことができる映像を作ることを考えていきたいですね。
Perfume 「Spending all my time」 (Teaser)
Perfume 「Spring of Life」
1月にTHE PUBLICの講座にご登壇いただきますが、田中さんがもし今誰かに学ぶのであれば誰の話を聞きたいですか?
Perfumeの仕事でよく一緒になる真鍋(大渡)さんをはじめとする、ライゾマティクスチームですね。こういう仕事をしているとどうしても「映画や音楽は好きだけど勉強しません」的なサブカル志向の人とばかり会うけれど(笑)、彼らはいわゆる勉強もきちんとしてきつつ、音楽や映画も好きなセンスのある人たちで。僕はアイデアだけで作っているから、彼らのテクノロジーとアイデアを融合させて面白いものを作っているところがとてもいいなと思いました。Perfumeの「Spring of Life」のミュージックビデオで服を光らせる部分でも、音楽やダンスと光のテンポを合わせたいところでピッタリ曲に合わせてくれたり、そういうことを何も言わなくても勝手にやってくれるから素晴らしいですね。
最後に、受講される方へ講座を通してどんなことを伝えたいですか。
技術的なことというのは経験以外では身に付かないと思うし、特に映像はチームで作るから、そういった部分に関しては実際に現場に入れば助けてくれる人がたくさんいます。それよりも、やはりアイデアの構造の組み立て方の部分などについて語ることができればいいなと思っています。
サカナクション「夜の踊り子」
田中裕介氏が出演する「THE PUBLIC 『ID』」第3回は、モデレーターに林永子氏を迎えて1月13日に開催します。
プロフィール
田中裕介
キャビア所属。秀逸なデザインセンスと映像制作のスキルに遊び心を加味した独創性を武器に、広告映像界で活躍する映像クリエイター。
www.caviar.ws