世界の有罪率統計表に関するコメント及び参考文献
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テレビの討論会や出版物上、日本の刑事裁判の第一審有罪率を99.9%と指称しますが、統計上は正確な数値とは言えません。99.9%(99.872%)の有罪率は地方裁判所レベルの有罪率です(表1参照)。しかしながら、簡易裁判所の通常第一審及び略式起訴を合算すると、有罪率は99.98%になります(表2参照)。これは無罪が10000件に2件という驚異的な数字です。勿論、表1上の世界各国の有罪率と比較しても、日本の刑事裁判の有罪率は、突出して世界一です。ところで、日本に次いで高い有罪率は、旧ソ連圏諸国やイスラエル等の有罪率です。とはいえ、旧ソ連邦諸国のベラルーシの有罪率が99.63%(10000件に37件の無罪)、イスラエルの有罪率が99.8%(10000件に20件の無罪)ですから、日本の有罪率99.98%(10000件に2件の無罪)とは一桁数字が違います(表1参照)。
ところで、中には、「数値のみではなく数値の内容を精査すべきだ。米国等の有罪率は否認事件を基礎として算定しているから日本と同じ前提で議論はできない」と99.98%という数字を正当化する方がいらっしゃいます。しかしながら、否認事件を算定の基礎としても日本の有罪率は約97%と推定されます(捜査が自白偏重の傾向にあること、略式起訴が本人の同意の下に行われること、否認すれば執行猶予が付かない可能性が高いこと等をを考慮すれば、自白率が高いのは当然ではないか?)。また、世界各国で80%未満の有罪率の国は、一般的に否認事件を基礎に有罪率を算定していると推定されますから、否認事件を基礎にして有罪率を算定すると否とを問わず、日本の有罪率が異常に高いことに変わりがありません。そこで、この99.98%の有罪率が何を意味するかを考えてみる必要があります。
まず、表5を参照していただければ理解できるように、逮捕状請求から第一審有罪までの日本の刑事手続において行政(捜査当局)の判断と対立する司法(裁判所)の判断に基づいて犯罪不成立又は無罪が決定される割合は、わずかに1.42%ですが、行政(捜査当局)の判断と一致して犯罪成立又は有罪が決定される割合は、98.58%です。
次に、刑事手続において、被疑者・被告人及び弁護人と司法警察員・検察官は利害の対立する当事者であり、裁判官は両当事者に対して中立の立場にいます。そして、刑事事件の実質的挙証責任が検察官にあることは通説です。同時に、国際人権規約B規約(自由権規約)(International Covenant on Civil and Political Rights)第14条2項は、「刑事上の罪に問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する」と無罪推定の原則を規定しており、日本も国際人権規約B規約を批准している以上は国内的に同原則が適用されます。実際、日本国憲法第31条は、同「無罪推定原則」を含意しているものと理解されています。
ところで、99.98%の有罪率に関し、日本政府は、検察官が確実に有罪にし得る事案ののみを慎重に選別して起訴した結果として高い有罪率が保たれているのであり特に問題はないと主張します。しかしながら、一方対立当事者である被疑者・被告人に対する実質的挙証責任を有する他方対立当事者である検察官が確実に有罪にし得る事案ののみを慎重に選別して起訴し自らチェック機能を果たしているというのは合理的な発想ではありません。けだし、権力を保持する者が行使する自己チェック機能のみが存在し外部チェック機能が形骸化しているとすれば権力のチェック機能に実効性がないのが論理的に当然です。これは政治学の基礎です。これは現在世界のほとんどの国が採用している三権分立の基本的・不可欠な機能です。
勿論、裁判官が、刑事手続上、被疑者・被告人という一方当事者と利害の対立する他方当事者である司法警察員・検察官に対して中立の立場におり、外部チェック機能を果たし得る最適の立場にいます。そもそも司法警察員・検察官は、対立当事者たる被疑者・被告人の有罪を立証する立場にありますから、司法警察員・検察官の職責は、性質上、基本的に、「有罪推定」の方向に働きます。もっとも、検察官には公益の代表者としての立場から「客観原則」なるものが働き、被疑者・被告人の有罪立証のみではなく、証拠を公平に精査して真実を追求する義務があるとされています。しかしながら、本来、「無罪推定の原則」は中立である裁判官の立場から適用される原則であり、検察官が「無罪推定原則」の立場に立ちながら被疑者・被告人の実質的挙証責任を負担するのは不可能のように思えます。ましてや99.98%という有罪率の下では日本の刑事手続に「無罪推定の原則」が働いているとは思えません。
表1〜5を参照していただければ、日本がいかに司法官僚の立場に偏重し、行政、特に検察官に権力が集中しているかを理解できます。19世紀のイギリスの歴史学者J.E.アクトンは「権力は腐敗する。絶対的な権力は絶対的に腐敗する」と言っています。日本だけがこの原則の例外だとは思えません。
(参考文献)
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5. A wide angle view of India: Blog at World Press http://nitawriter.wordpress.com/2007/09/27/comparison-conviction-rates-world/
6. Donate, an independent journalist from Israel & Palestine on March 14, 2010:http://972mag.com/conviction-rate-for-palestinians-in-israels-military-courts-99-74-percent/28579/
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8. 司法統計年報(日本)平成22年度
12.Daily News & Analysis (http://www.dnaindia.com/mumbai/report_maharashtra-conviction-rate-for-crimes-against-backward-classes-is-low_1501565)
14. India Today, New Delhi, March 15, 2010, "CBI's conviction rate alarmingly low"( http://indiatoday.intoday.in/story/CBI's+conviction+rate+alarmingly+low/1/88296.html)
15. "Investigating Kenya, What's in a Name", Andrea Vikland in Kenya
16. "Reforming Pakistan's Criminal Justics System" International Crisis Group, 6 December 2010
17. "Corruption Pays In Nigeria" Nigeria News, Malcolm Fabivi
18. "Mexican President critical of low conviction rate" ⑦News wvsn.com Miami Fort Lauderdale
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