牧太郎の大きな声では言えないが…:一億総浮浪の悪夢
毎日新聞 2013年01月08日 東京夕刊
年明け早々、縁起の悪い夢を見てしまった。ホームレスになった夢である。
年末、東京電力の友人と一杯やったら、愚痴を聞かされた。
優秀な部下が次々に退職する。「今日も1人……。給料が30%減。家のローン、子供の教育費……苦しいんだ。別に待遇が良い再就職先があるわけではないんだが……退職金でローンを完済して、出直すらしい」
「君はどうなんだ?」
「この年では雇うところなんてないよ。持ち家もないし、預金は100万円ぐらいしかないし。いずれはホームレスだな」と笑う。
大震災前までは、高所得の趣味人。離婚して自由になったロマンスグレー?は、周囲から羨ましがられていたのに……どことなく寂しそうだった。
こんなことがあったから、ホームレスの夢を見たのだろうか? 夢の中の僕は、近くのJR総武線のガード下、リヤカーの荷台にうずくまっていた。
不安な世の中だ。職がなくなれば……僅かな預貯金はすぐなくなる。
「会計の父」と呼ばれたイタリアの数学者、ルカ・パチョーリが1494年に発表した「72の法則」。預貯金が2倍になるのにおおよそ何年かかるか? 「72」を今の金利で割ればよい。バブル前の80年、郵便局定額貯金の最高金利は8%。計算すれば9年で2倍。“夢の高金利”と比べるつもりはないが、今の3大メーンバンクの普通預金金利(0・02%)では3600年となる。
2007年、当時の日銀総裁が「低金利で331兆円が家計収入から奪われた」と発表したが……低金利はまだまだ続く。
大学時代の友人は「縄文時代からため続けて100万円がやっと200万円だ! 貯金は絶対にしない!」と言っていたが……新年のあいさつのケイタイで「お前もホームレスになるぞ!」とからかうと、博学な先方?は「我々は、所詮、逮捕される運命だったんだ」と、妙なことを言う。
軽犯罪法1条4号にある「浮浪の罪」は「働けるのに無職。かつ、一定の住居を持たないもので諸方をうろついたもの」。去年、奈良県で逮捕者が出た。
もし、年金制度が崩壊したら……日本は一億総浮浪?
安倍晋三新政権はデフレ退治で威勢が良いが……この低金利では、せっせとためた人まで「浮浪の罪」で牢屋(ろうや)行き?
ああ、嫌?な夢をみてしまった。(専門編集委員)