その作品群が今なお多くの映画ファンの心を揺さぶり続けている、不世出の映画監督・深作欣二。没後10年を迎える2013年、東映チャンネルでは1月～8月まで8ヶ月にわたって、56本の監督作品を特集放送する。この機会に、深作監督の「世界」と「足跡」を振り返っていただければ幸いである。 ここでは、監督のご子息であり、現在は映画監督として第一線で活躍している深作健太氏のインタビューを掲載。幼いころから「父の背中」を見て育ち、やがて父と同じ道を選んだ氏が、父が遺した名作群について語る――。 第1回は、主に1月放送作品について。

僕が初めて太秦の東映京都撮影所に行ったのは、5歳ぐらいのときだったと思うんです。柳生十兵衛の格好をした千葉真一さんにお会いした記憶がありますから。 それと、大部屋の俳優さんたちが顔を銀色に塗って「おっちゃん、今度は宇宙人の役をやるんやで」と教えてくれた記憶があるので（笑）、『柳生一族の陰謀』（78年1月公開）から『宇宙からのメッセージ』（78年4月公開／東映チャンネルでは3月放送予定）の時期だろうと。 撮影所って、なんて楽しいところなんだと子ども心に感じました。「大人になったら、この世界で仕事をしたい」と初めて思ったのも、そのときだったんです。

後に、完成した『柳生一族の陰謀』を観たんですが、たぶんこれが、初めて観た親父の映画だったと思います。 撮影所で遊んでくれていた千葉真一さんや真田広之さんたちが、スクリーンの中で輝いていたことに感動しました。親父にとっても初めての本格的な時代劇映画で、ものすごい意気込みで臨んでいたと思うんです。今、観ても俳優さんの層が信じられないほど厚いですよね。あれは空前絶後じゃないでしょうか。

	『柳生一族の陰謀』のころに行った太秦の印象は、僕の中では『蒲田行進曲』（82年10月公開）で親父が描いた世界と重なるんです。 実際に『蒲田行進曲』で描かれていたのは、もっと昔の太秦のイメージなんですけど。この作品には、親父の映画への愛と、なんといっても大部屋の、斬られ役の俳優さんたちへの愛が詰まっていると思います。

『里見八犬伝』（83年12月公開）の原作は、小さいころに図書館で読んで、すごく面白いと思っていました。それを親父が、オリジナルな要素を加えて映画化するという話を聞いたときは興奮しましたね。このときも、夏休みに阿蘇までロケを見に行ったんです。これは今では考えられない話なんですが、『里見八犬伝』は劇場公開と同じ日にビデオが発売されたんですよ。だから何回も繰り返し観た記憶があります。 あの原作には世代を超えて伝わる魅力があると思っていて、僕も去年の秋に舞台版を演出させていただきました。そんなこともあって、自分にとっても思い入れが深い作品です。

	親父は『仁義なき戦い』シリーズで、いわゆる「実録路線」を確立させて、脚本家の笠原和夫さんとの仕事も『県警対組織暴力』（75年4月公開／1月放送）あたりで一つの極みに達したと思っているんですが、その時期に、久しぶりに古巣の大泉撮影所へ戻ってきて撮ったのが渡哲也さん主演の『仁義の墓場』だったんです。 ここで描かれているのは「どうしようもない男の生きざま」なんですよね。自分の行動によって、どんどん身内を傷つけてしまう……。 ある種、映画人もそんなところがあるんです。明日がどうなるか、わからない中で日々を生きていますから。 これも『仁義なき戦い』からの流れで生まれた作品ではあると思うんですが、僕としては、親父の映画の中で、最も好きな一本として挙げたいですね。この機会に、ご覧いただければ幸いです。