注:ちょこっとおばかで我侭で強引なアリスと振り回される火村です。
お話の目的はエロです。阿呆なエロシチュに命賭けました。よし来い、よっしゃ来い。
1.
アリスの癖や性格については長年の付き合いで解っているつもりだったが、人間と言うのは同じものにはなれやしないのだから、つもりはつもりでしかないのだと火村は思う。
彼は良く火村のことをふざけた調子で長ったらしく説明するけれど、あれだって彼なりに本気で思っている部分もあるのだろうし、それが正しくないことは言われ放題の自分が一番良く知っている。
ジョークのように付け加えられた変態性欲の権威だなんてキャラクタも、火村自身はまったく預かり知らぬことだ。
そうして今になってみると、むしろそれはお前のことだろう、と言いたい。
声を大にして言いたい。
「ええー、そんなん言うたかて、君も結構楽しんでるくせに」
それを言われるとつらい。
そう、火村だって別に楽しんでないとは言わない。
他人が自分の事をどう思っているかなんて知ったことではないが、少なくとも情熱家というよりは淡白なほうに近いイメージであろうとは予想できる。
そう振舞っていることは否定しないが、だからと言って、楽なことや気持ち良いことに流されないとかましてや嫌がるなんてほど、人間味のない自分ではないつもりでいる。
だからって、
「だからって、調べるなよ!」
「調べな出来ひんやんか」
うんざりした火村と、そんな火村にむっとするアリスの目の前には、爽やかに笑う青年の写真が散りばめられたサイトがモニタに映し出されていた。
でかでかと踊るコンテンツ名、『恋愛指南所 男×男編』。
この年になってセックスのハウトゥサイトを見るはめになるとは思わなかった、とため息さえ出る。
そもそも最初がいけなかった、と火村は後悔している。
あれは半年ほど前のこと、時間が勝負と思われる事件に駆り出された火村は、北白川まで帰る手間を惜しんでずっとアリスのマンションに泊めて貰っていた。
そうしてようやく、十日ばかりもかかって解決し、その途端に張りつめていたものが切れたのか疲れが一気に襲ってきて、結局その日もアリスのところで寝た。
久しぶりにゆっくり眠った。
火村にしては珍しく、11時くらいまで寝過ごしてしまったくらい、深い睡眠を貪ることが出来た。
「……むら、火村。モーニング終わってもうたやんか」
揺すられて目を開くと、アリスがまじまじと顔を覗き込んでいる。
目が醒め切っていない火村がぼんやりしているのを見て、やがて妙に嬉しそうに笑った。
「……んだよ」
「もしかして、ここで火村を起こすの初めて?」
そう言われれば、いつもは火村がアリスを起こすばかりで、彼が自分から(急ぎの仕事もないのに)起きだしているなんて奇跡的だ。
寝たいときはいつまでだって寝ていられる才能を持っている彼は、それを邪魔されることに非常に憤慨するため、起こす時はそれなりにこちらの心の余裕が必要なくらいだ。
「雪が降るな」
「阿呆、夏やで」
「ああ、夏にこんな涼しく寝てられるのは作家様のクーラーのおかげだ。侘しく扇風機を愛用する俺にもう少し朝寝を堪能させろ」
「駄目や。俺は腹が減った」
もう返事をする気にもなれない。
この親友殿は、周囲にはいい人で通っているような顔をしているが、実際はこんなふうに我侭だし、その上毒舌家だ。
人当たりのよくない火村なんかより本心はずっと腹黒い男なのだ。
みんながなぜコロリと騙されてしまうのか、全く解らない。
「クーラーつけへんのは君が取り付けのために部屋片付けんの面倒がるからやろ。自業自得や。なあ、Rのランチに行こ。平日やからデザートプレート付き!」
「寝たりない。すっきりしない。あと1時間」
ぶつ切りで答えたが、頭の中がすっかり食べ物で一杯になっているらしいアリスは、問答無用でかぶっていた毛布をはがしてきた。
それでも意地になって目を瞑る。
毎度毎度、我侭に付き合っていてはアリスが調子に乗る。
たまには火村の要求も呑ませてやらなければ。
「もうすっかり起きたやろ。勃ってんで、君」
「……なんのバロメータだよ」
頭より先に身体が目覚めてしまったらしい。
これだけやいやい言われれば当たり前だ。
「相変わらずでかいなぁ。……な、ちょっと触ってもええ?」
「……はァ?」
うっそりと片目を開けて見ると、アリスが火村の下半身をきらきらした目で見つめている。
出た、悪い癖。
好奇心猫をも殺す、の慣用句だけはこの作家の頭の中にはインプットされていない。
いつだって、少しでも興味があれば常識をすっぱり忘れて突き進む。
学生の頃から、尾行の経験がしてみたいと言って見も知らない他人をつけまわし新潟から帰りの金がないと電話してきたり(迎えに行った)、酒に目薬を混ぜると酔わせやすいという俗説を確かめるためにこっそり火村のグラスに垂らしたり(危うく現場を押さえて呑まずにすんだ)、防犯ブザーの音量がいかほどなのかを確かめたいと火村の部屋で鳴らしたり(後でなぜか火村も一緒に婆ちゃんに平謝りした)、とにかく、アリスの好奇心はイコール迷惑に直結することが殊のほか多い。
この調子で他人様にも困った思いをさせているのではないかと心配したこともあったが、あれこれと話を聞くにつけ、どうも迷惑を被っているのは自分だけらしいとある時に気づいた。
人に気を使えるならなぜ火村にも使わないのか。
腹立たしいことこの上ない。
「ぉわッ! おま……触って良いなんてひと言も言ってないぞ、アリス!」
スウェットの上からいきなりさわさわと撫でられ、さすがに飛び起きた。
しかしアリスは怯まない。
いきなり火村の膝のあたりに馬乗りになり、
「ええやん。減るもんやなし。そや、すっきりせえへんのやろ? 俺が一発、すっきりさっぱりさせたるわ」
「アリース、何がそんなにお前の気を引いちまったんだよ、勃ってるとこなんざ今更珍しくもないだろう」
「そうでもないで。さっきも言うたけど、俺はたいてい起こされるほうやし、大体、人の恥ずかしいとこそないにまじまじと見ることなんてないわ」
ぐいとウエストのゴムを下着ごと引き下げて、火村のものを引きずり出す。
寝起きの体温がいきなり外気にさらされひやりとする。
「もう好きにしてくれ……」
こうなったらアリスを止めることなど出来やしないのは、重々身にしみていた。
脱力してソファに仰向けに寝転がる。
アリスの指は少し冷えていて、身が縮みそうだ。
早いところ飽きてくれないものかとぼんやりしていたが、そのうち手で握って扱き出しされるに至ってさすがにまた飛び起きた。
「こら、洒落にならないって」
「見たい」
「は?」
「言うたやろ、すっきりさっぱりや」
「ぅ、っと、おい、マジで……」
最後まで導こうとしているらしいと気づいたが、後の祭りである。
ぐんと熱を持ったそこが、久しぶりの他人の手にどうやら喜んでいるらしく、火村自身はそれが男の友人であることに心中情けなく萎えているにも関わらず、止めてくれるなと本能で要求していた。
それこそ男であるが故か、アリスの手つきは最早情け容赦ないとさえいえる的確さで追い込んでくる。
かろうじて声は抑えたものの、巧みな手管にあっという間に達した火村が心底脱力している前で、アリスはひと言、
「なるほど」
と呟いた。
何がだよ。
ツッコミそうになったが、何かを説明されるのもご遠慮申し上げたく、なにやらふむふむと肯き心の創作メモに書付をしているらしいアリスを放って、火村は目を閉じた。
好奇心のおかげで空腹を忘れた作家は、その後存分に眠らせてくれたので、まあよかろうと思ったが、そう思ってしまうあたりもうすっかり彼の非常識さに慣らされた気がしている。
だが、一度火がついてしまった好奇心は、大概とことん突き詰めるまで消えない。
それから数週間後に再びアリスのマンションを訪れた火村は、待ってましたとばかりに迎えに出て風呂まで沸かしてすぐに入れと言ってくれた友人に、警戒心を抱かなかった自分を罵る羽目になった。
さっぱりしてあがってきたところで、またあのきらきらした目に当たった。
思わず固まる火村に、アリスは言った。
「咥えさせて」
倒れるかと思った。
とうとう友人はどこかのネジが外れたらしい。
それなりにいいヤツだったのに。
なんて可哀想な。
うなだれて親友のために嘆く火村に一切かまうことなく、アリスは手をぐいぐい引いてソファに座らせ、寝起きとは違う平常状態の局部を取り出し、またなるほどと呟いている。
そしていきなり舐めた。
「ぐわッ!」
「……色気のない反応やね」
「お前ね、34のオッサンに咥えられてどう色気を出せってんだよ」
「おお、なるほど。そやったら勝手に君の脳内で好きな女の顔とすげ替えたらええやんか」
「生憎お前ほどのイマジネーションがないもので。大体、好きな女もいないんだ、八方塞がりだな」
火村の足の間に座っていたアリスは、君も寂しい男やね、と言いながら舌先で熱心に裏側を舐めている。
ちらりと覗く舌が濡れていて、そう言えば行為の時はたいてい暗いものだしこうしてじっくり最中を眺めることなどなかったな、と思う。
そういう観察の仕方がアリスの思惑に引きずられているようで、うんざりする。
うんざりはしても、身体のほうはどうも他人に触られているというだけで反応するらしい。
アリスが嬉しげに唇を引き上げたが、さもありなん、火村はしっかり硬くなっている。
先端を飴のように含んで転がされ、腰のあたりが痺れてきた。
「んん……苦ぁ……」
ちゅぷ、と離れたアリスが唇を舐める。
その仕草を見たとたんに、苦さの原因となったらしい透明な体液がさらに溢れた。
おいおい、と自分にツッコんだが、再びその唇が根元から横向きに吸い付いて来るのをもう全く止める気にはなれない。
結局、手と口とで巧みにイかされてしまった。
「うわ、不味ぅ、こんなんよう飲めるな」
「飲んだのかよ。馬鹿か」
「そこまでやってこそ、真のご奉仕」
何を経験したかったんだ、と思ったが、やっぱり聞くのはやめておく。
その代わり、もぞもぞとスウェットを引き上げ、ついでにふむふむと肯いているアリスもソファに引き上げる。
「……あれ、なんや君、不機嫌やね。すっきり抜いたったいうのに」
「アリス。ご奉仕してやろう」
「ぅ、え? え、いや、結構や。咥えてもらうんはすでに経験済みやから、今更君に協力してもらう事柄やないし」
「女だろう? 俺は大事なお前のために、十数年来の男友達にイかされちまう男の哀愁を味わわせてやろうと寛大な心でご提案申し上げてるわけだ」
「ぐは……」
アリスはあからさまに嫌な顔をして、
「辞退させてください。聞くだけで痛々しいわ」
と言い放った。
火村は切れた。
「たった今その痛々しい目にあわせた俺の前でよくも言えたもんだな、てめぇ、後悔させてやる」
そもそも、基礎体力なら絶対に負けない。
別に男のポジションは体力なんかで決まらないけど、いつもいつもアリスの我侭に振り回されるのもいい加減ごめん被りたく、そのためには学生時代から鍛えている筋肉を使うのだってやぶさかではない。
ギブギブ、と騒いでいるアリスを押さえつけ、下着ごとはいているものを引き摺り下ろす。
そして、割と自分でも予想以上にあっさりとそれを咥えた。
アリスはその瞬間にぴきんと固まってしまい、舐めながらじっとみているとそろそろと目線が降りてくる。
そして目が合った瞬間にわざと音を立てて啜ってやると、いきなり手で顔を覆った。
「お前の好奇心を満たしてやろうってんだ、ちゃんと見やがれ」
「ううー……、これは、想像以上に、なんというか……」
舌をべったりとなすりつけて、なんだよ、と促す。
アリスの腰がぴくんと動いた。
「は、恥ずかしいんやけど」
「思い知ったか」
「ぅ、お、そこで喋るな」
火村が集中して追い立ててやると、アリスは身を捩って腰をくねらせた。
「あれや……俺はあまりフェラの上手くない子と付き合うてきた、んやと、今気づきました……ッ」
喋って気を散らそうとしているのか、ぶつぶつとそんなことを言っている。
滲み出る透明な体液はなるほど少し苦味があるが、火村はそのまま飲み下す。
「……うぁぁもう、ちゃうわ、なんというか、君が上手すぎるん、や、ありえへん……」
快感から逃げるように身体を揺する。
少し顔を赤らめて息を弾ませる様子は、とても同じ年には見えなくて、火村はちょっと感心した。
それにしても感じすぎだろう。
がっちり押さえつけた腰はかなり華奢なので、あまり動かれると痛めるのではないかと気が気じゃない。
「暴れんじゃねぇよ、アリス」
少し口を離して低く注意したとたんに、アリスのものがとぷりと雫をこぼした。
へぇ、と火村は思う。
さすが作家だけあって、どうやら言葉で攻められるのに弱いらしい。
「え、偉そう、に……ぁ、んッ!」
口を開いたところで一気にくわえ込んでやると、甲高い声があがった。
思わずにやにやしそうなのを押さえて、真っ赤になっているアリスを煽りで眺めながらラストスパートをかける。
軽く仰け反って達した後を、綺麗に舐めとってやった。
そして耳元でひと言、
「あん、だって?」
「言うてへんわ!」
素早く言い返されて、笑った。
アリスも脱力し、
「はぁ……なるほどえらい経験やったわ。君は上手すぎ」
「気に入ってもらえたようなのに、短時間だったのは遠慮か?」
「こんの……性悪やな、君は!」
ぶつくさと言って起き上がる。
そして、はぁと妙に清清しい息を吐いた。
「君と違うてしがない作家は人にされるんが久々やったんや。哀愁言うより、すっきりしたわー」
「馬鹿言え、俺のどこに女と寝る暇なんかあるんだよ。ブランクは条件的に同じだ、早々にイった言い訳にならないね」
「なんや、そのせっかくの顔と身体は活かされてへんのかい。もったいない。俺に寄越せ」
「おいこら、寝るなら向こう行けよ」
すっきりした途端に眠気を訴える正直なアリスを寝室に追い立ててから、キャメルをくわえた。
見た目で言うなら、アリスだって悪くないはずなのだ。
決して芸能人のような華やかな美男子ではないが、それこそ人の良さそうな顔は微笑めば誰もがはっとする魅力を持っている。
アリスの最後の恋人は、知っている限りもう7,8年前に別れた女だ。
あれ以来、特定の存在を聞かないのは、別にその女が原因という訳ではなさそうだった。
それを言うならその前の女もその前のも、とうていアリスに影響を与えたとは思えない。
誰と付き合っても、アリスは変わらない。
それを彼自身も知っているのではないだろうか。
誰かに何かを変えられることなど望んでいないという顔をして、けれど本当は、その可能性を持った人間を探しているのではないだろうか。
何人かの恋人を経て、アリスはそれを諦めた。
火村にはそんなふうに見えるのだ。
どんな理想の顔と身体を手に入れても、アリスは誰の恋人にもならない。
きっと。
類は友を呼ぶ、か、と火村は思った。
それから、ちょくちょくお互いに抜いてやっていたが、それは締め切り間際で一杯一杯になっているアリスだったり、フィールドワークで疲れている火村だったり、著作を批判されてちょっとだけ落ち込んでいるアリスだったり、教授にちくりと研究法の厭味を言われてむしゃくしゃしている火村だったりした。
つまりどちらかと言えば性欲を鎮められるというより、優しくしてやりたい気持ちを受け取っているのかもしれない。
オッサン同士が咥え合うのはいまだに少々悲しいものも感じるが、火村としては別に積極的に拒否するようなことでもなかった。
が、しかし、長年の付き合いではあっても人と言うのは全てを理解し合えたりしないのだな、と感慨にふけってしまう火村である。
アリスは知っていると思っていた範囲よりもずっと常識知らずだった。
もういっそ羨ましいくらいだ。
「協力してもらう立場やし、俺が下でええよ」
この目のきらきら具合は、5年前にモヒカンの少年が15人ばかり集団で歩いていたのを目撃し、後をつけると言い張ったときと同じだ。
あの時も、ろくなことにならないからよせと必死で止めたのに結局負けた。
止めきれなかった。
その後どんな目に遭ったかはもう思い出したくもない。
何にしろ、この様子では火村には止められるものではないと、それだけが事実だ。
「ヤろう、火村!」
アリスのきらきらで眩暈がしそうだった。
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