jognote 楽しく走ってステップアップ講座
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著者紹介
鍋倉賢治
1963年生まれ。1991年 筑波大学大学院博士課程体育科学研究科修了・教育学博士。
現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科(体育センター)・教授 ランニング学会常務理事を務める。専門は健康体力学、マラソン学。
モットーは「楽しく追い込む」。マラソンベスト記録は2時間29分09秒。
バックナンバー
マラソンシーズン真っ盛り。読者の方からは怪我についての質問を多くいただいています。
Q1. 「初フルマラソンに参加したのですがO脚のためか、膝の外側がすごく痛くなり、曲げるのもつらい状態になり最後12kmを歩いてしまいました。
先生のコラムでO脚の人は、腸脛靭帯炎のリスクファクターを保持しているとありました。私は、こぶし1つ分ぐらい開いているO脚です。
いくらトレーニングを積んでもO脚の人は、膝の痛みについては、どうしようもないように受けとめられるのですが、サポーターなどを使用すれば痛みが発生しないようにすることはできるのでしょうか?
ゴールしたとき、完走した感動ではなく、とても悔しくて涙が出てきました。どうにかして自分の満足のいく走りをしたいのでアドバイスをいただけると助かります。」
Q2. 「最近ジョギングを始めました。一日6~8kmほど走っています。少しずつ体力がついてきたのか、だんだん速く走れるようになっていますが、足首や膝が痛くなってしまいます。足が痛くならない程度のスピードだと軽すぎて運動にならないようです。
過負荷は良くないので、週に2日ほど休養するようにしていますが、痛みが治まらないようです。自分ではジョギング前後のストレッチが足りないかな?と思っているのですが、やり方が良くわかりません。
脚のケアのためにストレッチ等、ジョギング前後にすべき事と方法をアドバイスいただけないでしょうか?」
ランナーの怪我は、傷害と障害に分けることができます。
傷害は、外傷などともよばれ1回の強い負荷によって発生する怪我のことで、代表的なものは、骨折、肉離れ、捻挫などです。
それに対して、長時間、多数回の負荷が反復されることによって発生する怪我を障害と呼びます。疲労骨折、腱鞘炎、腱炎など、ランナーのトレーニングやレース中に痛みがでる怪我はこの障害と呼ばれるもので、Q1の腸脛靭帯炎は代表的なランニング障害の一つで、Q2もやがて障害に発展する可能性はあります。
障害は負荷の繰り返しによって発生するので、その原因は一つに特定できず、主に身体要因、環境要因、トレーニング要因の3つが複合的に関わって発生すると考えられています。
身体要因とは、その人自身の身体特性によるもので、年齢、アライメント(骨格の配列)、筋力、骨密度などが挙げられます。例えばO脚という脚型は、「腸脛靭帯炎」を発症しやすい要因ということになります。
環境要因とは、特にトレーニング中の周囲の環境に関わるものです。最も代表的なものは、シューズや路面(性質や傾斜など)で、気温や湿度などもこれに相当します。
トレーニング要因とは、トレーニングの強度、量、頻度、休養との関わりなどを指します。
これらの要因をなるべく取り除くことが、障害の発生リスクを下げると言えるでしょう。
①身体要因:変えることができないように思われますが、まずはそれを把握することが重要で、障害を予防する第一歩になります。痛みが顕在化してしまった場合には、どのような痛みが、どの部位(側)に起こっているのかを把握してください。異なる場所があちこち痛くなると言うよりは、膝なら内側か外側、あるいはお皿の下部位など、一箇所に集中していることが多いと思います。それらと自分の身体要因を照らし合わせ、シューズのインソール、タイツやサポーターの着用を考えてみましょう。それから対処に移行します。膝の障害の場合なら、特に大腿の前側と外側のストレッチング、膝のアイシングなどのケア、スクワットなどによる筋力強化などが対処法になります。
②環境要因:ソールの磨耗したシューズや衝撃吸収の劣るシューズでは、リスクは高まります。また、初心者などで筋力の弱い(または過体重)頃は、芝生やタータンなど平坦で堅すぎないコースを選択すると良いでしょう。
③トレーニング要因:一番重要なのがトレーニング要因です。トレーニングの量は徐々に増やしていくこと、前日の疲労を考慮しながら継続すること、ウォーミング・アップとして、ウォーキングやストレッチングを導入するなど、こちらも対処は山ほどあります。
ウォーミング・アップでストレッチングを行なう際、その前にウォーキングとゆっくりのジョギングを数分してみてください。歩幅を伸ばした大きなウォーキングは動的ストレッチングになります。
また、ジョギングをすることで、張っていたり、違和感(なんとなく変な感じ)のある筋、腱などの部位が認識されることでしょう。それらの筋や関節を中心に、十分なストレッチングを行ないます。
もし、この段階で痛くて走れないようなら、その日のトレーニングは中止です。
走後は、その箇所のストレッチングを特に入念に行なってください。アイシングは痛みのある腱などに行ないます。走後にチェックしたいのは、前回の練習時よりも痛みが緩和されているか否かです。もし増しているようであれば、次のトレーニングは控えるか、少な目に実施してください。
身体要因にリスクファクターがあるからこそ、その他の要因に注意することで、障害のリスクは減らすことができるのです。その弱みを知らなかったら、また同じ轍を踏むことになるかもしれません。
楽しく走り続けるために、ぜひ次へのステップを踏み出してみてください。
(文:鍋倉賢治 イラスト:後藤徳一郎)