走り始めた中国共産党の習近平体制がさっそく難問に直面している。全土に広がる慢性的な水不足だ。足りない飲み水や農業用水の枯渇といった問題が各地で表面化しているものの、有効な対策はなく、人口増などで需要は高まる一方。生命の維持に直結することだけに、軍や人民に渦巻く不満が暴発する恐れがある。党の新指導部は足元に抱える“爆弾”におびえていた。
中国共産党の内情に詳しい防衛省関係者が明かす。
「習氏の周辺は新体制の発足前から『難問は外ではなく内にある』と頭を抱えていた。やっかいなのが資源問題で、とりわけ水。日々の飲み水不足だけでなく、農業用水が不足し、食料生産に影響が出始めている。新体制には、飢えた人民による暴動が一番恐ろしい」
中国では雲南省、四川省などを中心に干魃(かんばつ)による飲料水不足が深刻化。全土の都市のうち60%が水不足に直面し、地下水の過剰なくみ上げによる地盤沈下が首都・北京でも発生している。農業では干上がる耕作地が広がっているとされ、効率的な水利用への整備も進んでいない。農業省統計によると、1999年から2009年までに水資源は700億立方メートルも減少した。
現在の供給量は約617兆リットルながら、2030年には人口増、工業化の進行で需要が817兆リットルまで増えるといわれる。いくら黄河、長江という大河があっても、13億人超の需要には応じきれない。
昨年9月にあった反日デモなど、中国では人民による抗議活動が、ここ数年で従来の3倍に増えたとされる。「背景には水不足への危機感がある」(外交筋)との見方もある。
水不足は人民解放軍にとっても深刻だ。『国防の常識』(角川学芸出版)などの著書がある元航空自衛隊員の軍事ジャーナリスト、鍛冶俊樹氏は「水なくして軍は動かない。飲み水のほか、野営には食器の洗浄などに必要で、使えなければ衛生状態が悪化する。優先的に水が使用できなくなくなれば軍は党に反発。かといって党が人民の水を軍に回せば、人民の不満が増大する」と分析。供給量を大幅に増やす打開策がなければ、軍と人民の暴発は必至だ。
中国には水確保に向けた戦略があるものの、実行に移せば近隣諸国の反発を招く危険がある。国家間の問題に詳しい地政学者の奥山真司氏が解説する。
「メコン川を黄河、長江とほぼ平行するように流そうと狙っている。中国はメコン川の源流を押さえるため、チベットの支配強化に注力している。だが、強引に流れを変えれば流域のラオスやタイ、ベトナムなどの反発が強まるだけに短期での解決策にはならない」
ベトナムは反中の色を鮮明にし、タイは米軍と大規模な軍事演習を行うなど、バックには米国が控える。いくら中国でも、超大国を刺激するような策は打てない。
そのほかの策として、国内では海水の淡水化プロジェクトを進め、北京郊外の発電所などでは事業化に成功したが、全人民に対する大量供給のめどはついていない。
まさに八方ふさがりのなか、意外な問題が浮上。人民の所得上昇が新たな脅威として忍び寄っているというのだ。
「貧しい層の所得がかさ上げされると生活水準が向上。住居ではトイレがくみ取りから水洗への移行が進む。日本でも水洗トイレの普及した時期、水の消費量が大きく増えたという。また、中国では石炭で蒸気を発生させる発電が主流のため、電力消費量が増えると水をさらに使うようになる」(奥山氏)
水不足を放置すれば人民の不満は増大するばかり。日本では想像もつかない事態が、習氏の新体制を揺るがしている。