社説
ネット選挙/時代の流れだが課題も多い
ことし夏の参院選からインターネットを利用した選挙活動を解禁する公職選挙法改正案が、通常国会に提出されることが固まった。 衆院選後、安倍晋三首相が検討を明言したことで、ネット選挙解禁の機運は高まっていた。安倍首相自身、野田佳彦前首相との党首討論の舞台をネット上の動画サイトに選ぶなど、ネット上での政治活動に前向きだ。 ツイッターのヘビーユーザーとして知られる日本維新の会代表代行の橋下徹大阪市長は、安倍氏の発言にいち早く賛意を示した。民主党やみんなの党も、かねてネット選挙に積極的だ。 総務省のネット選挙に関する研究会が、報告書で解禁のメリット、デメリットを示したのが2002年。当時44%だった国民全体のネット利用率は、11年末現在では79%に達している。60代前半の74%、60代後半の61%が利用しており、年代間格差も狭まっている。 ネット選挙はもはや、ネット普及率を理由に「時期尚早」とすべき段階は脱したといえる。 無論、ネット環境のない有権者は数多く残されている。現行の選挙公報など、未利用者が十分な選挙情報に触れる機会が確保されるならば、ネット選挙解禁は時代の流れだ。 02年の研究会報告書は、ネット選挙の利点として、多様な情報が時間や場所の制約を受けずに直接、安価に発信できることを挙げた。 ネットの通信環境はその後、大きく改善されており、動画、音声、グラフィックスを駆使したホームページ(HP)も、ストレスなく閲覧できるようになった。ネットの利点が一層強まっていることは間違いない。 一方でHPの出来栄えが候補者のイメージを大きく左右する可能性も浮上する。安価と思われたネット選挙が、テレビ番組やCMと同様の「制作費合戦」を繰り広げかねない。制作費の制限など検討が必要だろう。 コンテンツ自体への規制の可否や第三者による妨害行為への対応も、議論はこれからだ。 現行の政見放送は原則として個人、政党の訴えを編集せずに放送している。候補者の訴えが公序良俗に反していたり、相手候補の誹謗(ひぼう)中傷に偏していたりした場合、内容を規制できるのかどうか。表現の自由、選挙の自由と絡む難問だ。 第三者が立ち上げた勝手連的サイトは規制対象になるか。候補者に成り済ました悪意のメールやツイッター、またはパソコン遠隔操作事件のようなサイバー犯罪行為にどう対応するか。解決すべき課題は少なくない。 選挙の不正は被害回復が困難だ。だからこそ公選法には候補者の活動を制約する規定が数多く盛り込まれてきた。ネットでの選挙活動も「なんでもあり」というわけにはいくまい。 仮想空間上では全容の把握は困難とならざるを得ない。脱法行為への対応も難しさを増すが、公選法の最大の目的は公正な選挙だ。時代が変わっても、それは変わらない。
2013年01月08日火曜日
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