首都圏ネットワーク

12月20日放送
首都高50年(2)将来像巡る議論本格化へ

社会部 斉藤 隆行 写真
社会部
斉藤 隆行

シリーズでお伝えしている首都高速50年。
2回目は、最新の技術を駆使して進められている新しい区間の工事の現状と将来のあり方を巡る検討課題についてお伝えします。

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首都圏の交通の大動脈、首都高速道路、最初の区間が開通してから12月20日で50年を迎えました。
これまでに開通した路線の総延長は、301キロに及びますが、来年度、開通予定の「中央環状線」が完成すれば、首都高速整備は、大きな区切りを迎えます。
この中央環状線の建設には、数々の最新技術が使われています。

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工事は、都心を囲む形で、都会の地下で静かに進められています。
このうち「山手トンネル」は、完成すれば、全長がおよそ18キロと、道路のトンネルとしては、世界2番目の長さとなります。
これまでに東側の区間が開通しており、残る区間は、渋谷・品川間のトンネルです。
工事現場の深さは50メートルもあり、来年度に開通すれば首都高速の慢性的な混雑を緩和する切り札になると期待されます。

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しかし、都心の地下を貫く工事は容易ではありません。
これまでに完成した池袋・渋谷間の11キロには、7つの地下鉄や、ガス管、水道管などが縦横に走り、トンネルはその間を縫うようにして作られました。

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こうした厳しい条件の工事を支えているのが、最先端の技術です。
使われているのは、直径12メートルの世界最大級の掘削機。
重さはおよそ2000トンもありますが、細かく方向を変えることができます。
掘り進むスピードも速く、通常の機械の2倍ほどということです。
またトンネルの壁を覆う「セグメント」というコンクリートの板は、国内最大級の幅2メートルのものを使用し、工期の短縮に役だっています。

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そして今、進められているのが、「大橋ジャンクション」の地下深くで、トンネルどうしを連結するという初めての工事です。
地上への影響が少ない最新の工法で、まず、2つのトンネルを両側から近づけるような形で掘り進みます。
挟まれた部分の上、そして下を掘って広げ、まわりをコンクリートで固めます。
最後に壁を撤去して2つのトンネルを結合します。

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工事を担当している首都高速道路大橋建設事務所の原田哲伸所長は、「非常に技術度の高い工事ですが、現在のところ順調です。しかし今後何があるかわからないので、注意深く監視しながら工事を進めたい」と話します。

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一方、こうした長大なトンネルで最も重要なのが、事故が起きた場合の対策です。
山手トンネルのすでに開通した区間は、1日およそ10万台の車が利用していますが、安全対策にも最新の技術を取り入れています。
100メートルに1か所、合わせて355個のカメラを設置し、管制室では、専門の職員が24時間監視しています。
膨大な映像を監視するシステムも導入されています。

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トンネル内に止まった車や遅い車、急に物をよけるような動きを見せた車があると、自動的に「交通異常」の赤い文字が点灯し、職員に注意を促します。
これによって万が一、事故が起きても、直ちに対応できるのです。

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首都高速道路西東京管理局の服部宏担当課長は、「何かあったら大惨事になるので、非常事象があった場合に即座に対応できる態勢をとっています」と説明します。

このように最新の技術が活用され、来年度末には開通する中央環状線について、取材した社会部の斉藤隆行記者は、この路線の開通には、大きく分けて2つの意味があると解説します。
1つは、「都心の渋滞の緩和」です。
都心を外側から囲む高速道路網がすべてつながると、東名高速道路や東北自動車道などから乗り継ぐ車が、都心部に乗り入れる必要がなくなるのです。
もう1つ、「古い路線の維持や管理がしやすくなる点」も大きなポイントです。
首都高速は、1日に100万台が利用する首都圏の交通の大動脈だけに、老朽化が進んだ区間で工事が必要になっても、長期間、通行止めにすることは難しかったのが現状です。
それが、中央環状線ができることで、都心を通る車の数が減少し、ほかの路線で工事がしやすくなるというわけです。

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その効果について、首都高速道路会社の菅原秀夫社長は、「首都高速道路の老朽化は、以前から指摘されてきましたが、環状道路が完成すると、う回路として利用できます。今後、本格的な大規模な更新に取り組んでいく時期にきているので、いわゆる老朽化路線の立て替えなどに、取り組みやすい環境ができたと思います」とそのメリットを強調します。

首都高速の30%の区間は、建設から40年以上たっており、細かい補修だけでは使えなくなる場所も出てくると見られるます。
国が設けた検討会は、ことし9月、老朽化の著しい「都心環状線」などの高架部分を撤去して、代わりに地下トンネルを建設することも含めて検討すべきという提言をまとめています。

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さらに、首都高速道路会社が設けた有識者による委員会も、赤い線で示した、あわせて75キロについて、建て替えか、大規模な修繕か、補修しながら使い続けるか、技術的な検討を進めています。
委員会は、年明けにも提言をまとめる予定で、来年から、国と東京都、首都高速の3者での検討が進められることになります。
こうした本格的な対策工事には、数千億円から数兆円規模の莫大な費用がかかる見通しです。
しかし、首都圏の交通を支えているだけに、老朽化対策は進めていかなければなりません。
橋や道路、トンネルなどのインフラの老朽化が全国で問題になっているなかで、首都高速が直面する課題や対策は、今後、全国から大きな注目を集めることになりそうです。

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