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国力を高める(最終回) 世界の人々から求められるために

2013/1/8付
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 外交、科学技術、生活文化。日本が世界から求められる国であるために、強みとして生かしたい分野だ。人々が平和で豊かな生活を送るための貢献が、結果として日本の地位を高めることになる。

 第2次世界大戦後、経済大国として台頭した日本は太っ腹な援助国という国家像を世界に発信した。1990年代に政府開発援助(ODA)の額で日本は世界一となり、国連平和維持活動(PKO)への参加も広げてきた。

平和国家の強み生かす

 しかし財政難からこの10年以上ODAは減り続け、今では5位に転落した。PKOの派遣要員数は世界で30位台だ。いずれもすぐに規模を増やすのは無理だが、限られた予算や人員をうまく生かし、日本にしかできない貢献を工夫したい。戦後、一貫して平和国家として歩んだ強みを生かす時だ。

 たとえば2002年から04年にかけて、東ティモールのPKOに自衛隊を最大700人派遣した。紛争の一因である宗教対立から距離のある日本を地元が好感をもって迎えたのは、その好例だ。

 初のアフガニスタン復興支援会議も東京で開催、パキスタン安定の支援国会合でも協力策を取りまとめた。戦闘に直接参加しない日本だからこそ果たせる役割だ。

 経済協力でも平和国家としての歴史は強みとなる。パレスチナ自治区で農作物を加工、ヨルダン経由で輸出する施設の整備が進む。中東と対立の歴史を持たない日本の橋渡しでイスラエル、パレスチナ、ヨルダンが連携したのだ。

 インドシナ半島を東西に結ぶ幹線道路づくりも日本が援助し、このうちミャンマー部分はタイと日本が協力して青写真を描いている。完成すればベトナム、ラオス、ミャンマーと、成長するタイ経済がつながることになる。

 戦後目指してきた科学立国の基盤も強固なものにしたい。

 昨年のノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥京都大学教授の研究は再生医療に大きく道を開き、対日感情が悪化する韓国や中国も「日本に学べ」とたたえた。科学技術の成果は人類共有の財産だ。独創的な結果を生み続ける国は世界の称賛を集める。

 日本がそうした力を維持するためには、山中氏が「米国の研究所で偉大な師に出会えた」と語るように、若い頭脳が刺激を受け競う環境が欠かせない。若者の海外留学支援に加え、優秀な外国人が「ここで研究したい」と思う場を日本につくることも大事だ。

 新素材やロボットなどで世界最先端の研究設備をもつ大学や研究機関は国内に多い。そのトップに外国人を招き、英語を公用語化するなどの方法で、世界の頭脳が集まる知の拠点に育てたい。

 日本独自の眼力で有望な成果を選び、表彰する仕組みもほしい。賞金額ではノーベル賞に匹敵する賞が、すでにいくつかある。選考を工夫し、各賞が連携するなどで発信力を強めてはどうか。

 戦後の豊かな社会が育んだ生活文化も、日本の資産になる。

中間層の生活を快適に

 高度成長期以降、海外で日本のイメージを高めたのが車や電気製品だ。技術力に裏打ちされた快適で便利な日本の生活を象徴した。工業製品の競争力が陰るなかでも衣食住や娯楽が関心を集める。

 いま、生活関連企業がアジア市場の開拓に力を入れている。東京急行電鉄は沿線開発の蓄積を生かし、ベトナムで住宅街を開発する。ファミリーマートは海外の店舗数が国内を上回った。ユニ・チャームも東南アジアや中国で紙おむつや生理用ナプキンが好調だ。

 高温多湿な風土、都市への人口集中など、アジアの生活環境は欧米よりも日本との共通点が多い。増える中間層、とりわけ都市の若年層や働く女性のために、日本の生活産業が蓄積してきた快適で便利な暮らしのための商品やサービスが果たす役割は大きい。

 サービスの充実した高齢者向け住宅、鉄道と駅ビルを組み合わせた街づくりなど、眠れる資産はまだ多い。身近な場で日本の魅力を実感すれば、優秀な人材の日本企業への就職や、「本場」日本への観光、留学も増えよう。

 日本の好感度を上げ、多くの人に日本という国が「世界に存在してほしい国」だという思いを持ってもらう。そうした努力は「国家対国家」の摩擦が高まるとき、冷却材としても機能するはずだ。

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ODA、PKO、山中伸弥、ファミリーマート、東京急行電鉄、ユニ・チャーム

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