このページの編集者:黒木玄
最終更新:2013年1月7日
ツイッターで現在進行中の議論については以下を見て欲しい。
このページを作成した問題意識については以下のページを読めばわかる。
以下のように算数の教科書では足算の順序にこだわる教え方が採用されている場合がある。
日本文教出版『しょうがくさんすう 1ねん』より
これは教科書そのものに足算の順序が逆なら誤りになる問題が載っている稀有な例。
さらに詳しい解説が「「たしざんにも順序がある」!?」にある。
学校図書『みんなとまなぶ しょうがっこう さんすう 1ねん』の指導書より
次のように書いてある:
ブロックを操作した結果が「あわせて」と同じになることから、「ふえる」の場合もたし算の式になることを理解し、「+」の前が初めにあった数、後が増えた数であることを確認する。
算数教育ワールドでは、合併の場面では足算の順序にこだわらないが、増加の場面では足算の順序にこだわることになっている。しかも、増加の場面であっても結果が合併の場面と同じになることを子どもに理解させた上で、合併と増加の場面の違いを強調し、増加の場面では足算の順序にこだわることになっている。
東京都教職員研修センターの平成17年度の報告集のp.5より:
日本の算数教育ワールドでは、足算を「あわせていくつ」の合併と「ふえるといくつ」の増加に分類し、それらを区別し、増加の意味での足算では順序にこだわることになっている。
しかも、教えるときに合併の場面でも増加の場面であっても完全に同一の足算が利用できることを強調するのではなく、子どもたちが合併の足算と増加の足算を厳密に区別させるように教える傾向がある。
そして、ブロックを操作するときに、合併の場面では両手で寄せるように操作させ、増加の場面では右手で右側のブロックのかたまりを寄せるように操作させることになっており、子どもたちにブロックの操作でも細かい指示を出すことになっている。
算数教育ワールドでは、とにかく子どもに合併と増加を区別させたいらしい。ツイッターでは子どもたちに合併と増加を区別させる研究授業で大混乱という話が報告されている:
研究室卒業生が小学1年算数指導で苦労したのは,「あわせていくつ」「ふえるといくつ」を区別する文章題をつくらせる研究授業。どちらも同じ足し算だとふつうに理解できるのに,わざわざちがうものだと強いてしまうので子どもたち大混乱。無理に教えるのが無理
まず、教科書およびその教師用指導書の事例を紹介する前に、算数における掛算とその交換法則について説明しておこう。
掛算が導入されるのは小学2年であり、九九の範囲内での交換法則も小学2年生で教えることになっている。
現在の算数の教科書では掛算は「一つ分×幾つ分=全部の数」のスタイルで導入される。そのスタイルの下で掛算の交換法則は以下の図のような意味を持つ。
すなわち、「一つ分×幾つ分=全部の数」のスタイルでの掛算の解釈において、一つ分の数(group size)と幾つ分の数(number of groups)は自由に引っくり返せる。
だから、たとえ「掛算の式は一つ分×幾つ分の順序で書く」というルールのもとであっても、「皿が6枚あります。各々の皿にりんごが5個ずつ載っています。りんごは全部で何個がありますか。」という問題で「6×5」と式を書いても当然正解だということになる。
しかし、算数教育ワールドでは掛算の交換法則の意味をしっかり教えようとはしない。むしろ逆に上の段落の問題に対して「6×5は不正解もしくは理解不足の証拠」だとみなすことになっている。
一つ分と幾つ分を自由に引っくり返せるという事実は、日常生活における「トランプのように配る」という考え方の一般化であるとみなせる。たとえば、3人に4個ずつおかしを配るとき、各々の人に配られる4個をかたまりとみなせば、一つ分は4になり、幾つ分は3になる。しかし、おかしをトランプのように3個ずつ4回配る様子を想像しながら、各々の回に配られる3個をかたまりとみなせば、一つ分は3になり、幾つ分は4になる。(トランプ配りについては5人に飴を4個ずつ配ると飴はいくつ必要か(掛け算の順序問題)に図による分かり易い説明がある。)
この事実は1972年の朝日新聞紙上でも紹介されている:
「6人のこどもに、1人4個ずつみかんをあたえたい。みかんはいくつあればよいでしょうか」
中略
ところが、答案を見た父兄の一人、Kさん(三八)は疑問を提起して、この問題では6を被乗数にして6×4と式をたてても正しいと指摘する。つまり、6人のこどもに1個ずつみかんを配れば6個いる。それを4回配ればいいのだから、この場合、6×4という式が成立つというわけだ。
この点について、担任の先生と教頭先生の話を総合すると――「Kさんのような考え方は認めるが、現実に授業のなかでそういう考え方をするこどもはいなかった。6×4と式をたてた子に聞いてみると、文章題のなかで6という数字が先に出ているから、というにすぎなかった。式は思考の過程を表すもので、答えさえあえばどちらでもいいというわけにはいかない。こどもの発達段階からみて、この場合、4×6と指導するのが最適の方法だ」
低学年の子どもは自分のイメージを上手に説明できるとは限らない。さらに教えている教師の側にはトランプ配りのようなイメージで被乗数と乗数の概念を理解する方向に進んでいる子どもは存在しないという強い思い込みがある可能性がある。このような場合には教師の「存在しない」という発言は必ずしも信用できない。家庭内でおやつをトランプのように配っていた家庭の子どもが実際にそのようなイメージで乗数と被乗数を理解している場合が存在することもわかっている。「発言小町:小学2年生、掛け算の文章題で悩んでいます。」におけるトピ主の発言を参照されたい。そこを読むだけで「どのような問題があるか」がかなりわかるので長々と抜粋しておこう。(たとえば相談したトピ主に回答者たちが単位サンドイッチ論法について教えてしまっていることがわかる。)赤字による強調は抜粋者による。
2011年12月15日 14:40
娘にどのように問題の解き方を教えるか、の次元を超え、算数ってこんなに奥深かったのかと、びっくりしております。
既に私が出てくる場ではないような気がしておりますが、数々のアドバイスをいただいておりますので、これまでの報告をさせていただきます。
まず、前回のレスを書いた後、娘に「これはお菓子の数を聞いているでしょ? この場合、お菓子の数を先に書くんだよ」と説明した所(最初は単位で説明しましたが、問題文によって混乱する場合があるようでした)、すぐに順序は覚えました。
でも、あくまでも形式上そう書くことを覚えただけであって、「なぜ、お菓子の数を聞いたら、お菓子の数を先に書くのか」という理由までは、当然わかっていません。
他にも書かれている方がいますが、私自身「個数を聞いているから、個数を先に書かなければならない」理由が正直わかりません。2011年12月15日 14:42
それを教える前に、まずは娘に一人で10問ほどの文章題を解かせてみましたら、娘は自信満々で、全問、数字を逆に書いていました。
もし、これが学校のテストだったら衝撃の0点です(以前は、問題文に先に出ていた数字を先に書いているだけでしたので、必ず数問は正解もあったわけです)。
ついでに自分で絵も描かせてみましたが、お菓子を持った人を5人描いて、その5人をひとまとめに丸で囲い、その5人の手元(お菓子)もひとまとめに丸で囲っていました。
私のイメージでは、手元にある2個のお菓子を囲って、それから、5人の子を囲って、2個のお菓子を持った子が5人いる…という感じでしたが、娘の中では、子供が5人いて、5人がそれぞれお菓子を2個持っている、というイメージだったみたいです。
ついでに、この問題を足し算の式に直してみて、と言ったら、迷わず【5+5=10】と書きました。
娘の頭の中では、完全に図式が逆に成り立っていたようです。2011年12月15日 14:42
その後、先に書いたような説明をしましたら、それはすぐに理解できたようでした。
一応、あなたが書いた式でも間違いではない、でも、今は学校でそう習っているから、これで解いてねと話はしましたが、本人は「ふ〜ん」くらいで…。
実は今日、学校で懇談会があり、担任の先生から開口一番、「算数が全然出来てないんですよね…」と言われました。
先生は、「みんな、目が2つあるでしょう? ○君と×さんと△さんの3人で、目はいくつになる? 目が2つある人が3人だから、2×6=12ですね」というように実際身近にあるもので説明していたようです。
「絵を描いてみたりもしたんですが、なんかよくわかってないみたいで…」
と、おっしゃっていました。数式が逆ではいけない理由までは、説明していないようです。
実は、この掛け算の文章題はみなさんのアドバイスのおかげでなんとか形式上はクリアできたのですが、その次の「掛け算と足し算」の文章題で、再びつまづいております……。2011年12月18日 10:55
身の回りのもの、日常の中で教えてみたら…というアドバイスがいくつかあったので、ふと家でのおやつの時間を思い返してみました。
家には、この娘の下にまだ2人の子供がいます。
今日のおやつは袋入りの小さなドーナツです。袋の中にドーナツが何個入っているのかはわかりません。
こういう時、私は3人分のお皿に1個ずつ、順番にお菓子を入れていきます。3人に1個ずつ行きわたったら、また最初の皿から1個ずつ…。
そうするとドーナツは、1人に4個ずつ行きわたりました。
こう考えてみると、我が家に限っては、3個が4回→3+3+3+3→3×4…この配り方をトピ本文の問題に当てはめると、5個が2回分→5+5→5×2、となります。
1人2個ずつね!と言って配ることもありますが、そういう配り方をするのは、ウチでは最初からお菓子の個数がわかっている場合のみです。2011年12月18日 10:57
一番上である娘におやつを配ってもらうこともありますが、娘も私と同じやり方をします。
子供たちの友達が来ている時は、大皿にお菓子(スナック菓子など)を盛って出します。中に、おせんべいやクッキーなど明らかに個数の少ないお菓子が混じっていたりすると、自分でお菓子の数を数え、「9個あるから、1人2個ずつね!1個余るから、お母さんにあげるー」などとやっています。
つまり、何個あるかわからないのに2個ずつ配る、というシチュエーションが我が家にはないんだなーと。
もちろん、娘はそこまで意識していないかもしれませんが、ウチではそうなのだと思うと、やはり「5×2は間違いだよ!」と強くは指導できない気がします。
ただ、郷に入れば郷に従えという諺もあるように、先生がそう教えているのだから、やはり学校ではそのように計算できるようにしておくことは必要だと思っています。
娘にも、「5×2ではなぜいけないのか、わからなかったら先生に聞いてみなさい」と言うのですが、ちょっと引っ込み思案な所のある子ですので、あまり気が進まないようです。
このような事例を見ると、上の方で引用した1972年頃の「担任の先生と教頭先生」による「現実に授業のなかでそういう考え方をするこどもはいなかった」という主張には疑う価値が十分にあることがわかる。少なくとも、トランプ配りのような発想で掛算を理解する子どもはいないと考えて構わないという考え方が誤りであることは明白である。
そして、「個数を聞いているから、個数を先に書かなければならない」理由がわからないのは当然である。そのように書かなければいけない合理的な理由は存在しない。実際、世間一般ではそのようなルールは存在しない。たとえば次のレシートの見本を見てもらいたい。
このレシートの見本では「単価×数量」の順序ではなく、「数量×単価」の順序が採用されている。しかも、掛算の順序に頼ると誤解が生じる確率が高くなるので、「4個×単450」や「3ヶ×@120」のように印刷することによって誤解を防ぐ工夫がされている。これが世間一般の知恵というものである。
1. 算数教育ワールドでは標準の「一つ分×幾つ分の順序に書く」というルールは日本語の構造から自然に出て来ない。たとえば「8個ずつ6人に配る」と「6人に8個ずつ配る」は同じ意味である。英語においても a times b は「a個のbの和」を意味するとは限らない。実際 multiply a times b は multiply a by b と同じ意味である。算数教育ワールドでは自然言語の構造から自然に掛算の順序に関するルールが出て来ることになっているようだが、それは誤りである。「掛け算の順序と自然言語の対応についてちょっとだけ」も参照されたい。
2. 「掛算を3×4=3+3+3+3のスタイルで導入すること」と「3人に4個ずつ配る場面で3×4という式を書くと誤りになるとすること」を厳密に区別しなければいけない。前者には問題がないが、後者には問題がある。
3. 「掛算を3×4=3+3+3+3のスタイルではなく、3×4=4+4+4のスタイルで導入すること」と「掛算の順序固定にこだわり続ける教え方を止めること」は全く異なる。掛算導入のスタイルを変えても、導入時のスタイルに無用にこだわり続けるのは不合理な考え方である。
4. 掛算の交換法則は小2で習う。算数教育ワールドでは子どもたちが交換法則を習った後であっても掛算の順序にこだわらせ続けようとすることになっている。だから、掛算の順序(固定)にこだわる教育の問題の争点は掛算の交換法則にあるのではない。
算数教育ワールドでは「具体的場面を式だけで忠実に表現させ、式だけから具体的場面を一意に読み取れるようにする」という教え方が基本になっている。式は極めて簡潔な表現なので具体的場面を忠実に表わす用途には向いていない。それにもかかわらず、「この場面で式はどうなりますか?」と子どもたちに問うことが算数教育ワールドでは標準的になっている。「この場面ではどのように考えますか」ではなく、「式はどうなりますか」といきなり問うわけである。
実際、算数の教材の基本スタイルでは、文章題の解答欄は式と答に分かれており、式の欄には具体的場面を忠実に表現する式を書くことになっている。考え方ではなく、具体的場面を忠実に表現する式を書かせることになっているのだ。そもそも「具体的な場面を忠実に表現する式」という考え方自体が不合理であり、式だけを見て子どもの考え方がわかるはずがないので、このスタイルは何重にもおかしい。
授業の例に関してはパワフル算数の事例が参考になる。「まさお君の縄跳びは、2m13cmです。秋子さんの縄跳びは、2m34cmです。どちらが何cm長いですか。」という問題にBちゃん、Cちゃん、Dちゃんがいきなり式で答えます。Cちゃんは「34cm−13cm=21cm」と答えました。共通の2mは無駄なので最初から省略して書いたのである。しかし、おそらく子どもたちは「文章題での式は具体的場面を忠実に表現した式でなければいけない」というスタイルのもとで算数を教わっているので、「Cちゃんのは変だ」という声が子どもたちのあいだから出ることになる。担任も何とか「2mも書かなければだめ」という方向に持って行きたい。しかし、Cちゃんは最後までがんばり続けて勝利をおさめることになります。しかし、もしも他の子どもであったならば、Cちゃんのように、周囲の子どもたちだけではなく、担任の先生まで敵にまわして、最後まで自説の正当性を主張し続けることができたでしょうか。正しい考え方をしていたのに、最終的に悔し涙を長す結果になっていた可能性もあったと思う。
掛順こだわり教育の問題はこのような問題の氷山の一角に過ぎない。
実際には6×8や8×6のような掛算の式だけで具体的場面を忠実に表現することは不可能なのだが、それを可能にするために「2×8ならタコ2本足」だとか、「x円のノートが8冊の場面で8×xという式を書くと、8円のノートがx冊の意味になってしまう」だとか、「6人に8個ずつ配る場面で、6×8と書くと、6人の8つ分で答えが人の人数になってしまう」のようなことを算数教育ワールドの住人は言い出すのである。詳しくはこのページの下の方を見てもらいたい。
5. 具体的場面を式で忠実に表現できることにするために設けられたルールは「掛算の式は一つ分×幾つ分の順序で書く」というルールとは異なる。
算数教育ワールドでは「掛算の式は一つ分×幾つ分の順序で書く」というルールをずっと維持し続けることになっている。しかし、そのルールのもとであっても、トランプ配りの考え方によって、6人にみかんを8個ずつ配るときのみかんの総数を求める場面であっても6×8という式を書いても構わない。
もちろん、算数教育ワールド標準の8×6でも正解である。ただし、子どもがどのような理由でそのように掛算の式を書いたかには注意が必要である。なぜならば、算数教育ワールドが大事にしている一つ分と幾つ分の考え方ではなく、問題文の内容を理解しなくてすむ方法で掛算の順序を決定しているかもしれないからだ。
たとえば、「何個であるかを求める問題では個のついた数を掛算では先に書く」とか「みかんの個数を求める問題ではみかんの個数を掛算では最初に書く」のように考えている子どもは一つ分と幾つ分の考え方をしていない。だから、一つ分と幾つ分の考え方が本当に重要だと考えているならば、そのような子どもたちを発見して文の内容をしっかり理解してから式を書くように指導しなければいけないはずだ。
しかし、実際には上で述べたように、そのような駄目な考え方を算数教育ワールド自身が教えてしまっている場合が多い。
その結果、8×6と式を書けた子どもはそのまま理解しているとみなされ、6×8と式を書いた子どもだけが特別な教師に尋問を受けることになってしまっている。実際には、8×6と書いた子どもであっても一つ分と幾つ分の考え方をしていない可能性が極めて高いのだが、その原因を算数教育ワールド自身が作っているので、その点は問わないということになっているようだ。
具体的場面だけでは決してどの数が一つ分と幾つ分であるかは決まらない。それがあたかも決まってしまうかのような間違った考え方を教えることが算数教育ワールドでは横行している。
『かけ算には順序があるのか』の著者の調査「2010-02-17 19:39:33 かけ算の式の順序についての調査結果(2の1)」によれば「現行の6社全部の小2算数の教科書の「教師用指導書」には、かけ算の式には順序があり、これをきちんと教えるようにという記述がある」らしい。以下に関連部分を抜粋しておく。
現行版の平成17年検定教科書はコピー不可ということで、その前の平成13年検定のものですが、文言はほとんど変わっていません。いずれも「小2下」の教科書の指導書です。
東京書籍
18頁
「「4枚のお皿に柿が3個ずつのっています。柿は全部で何個ありますか。」といった問題では、十分な検討もなく、数字が出てくる順に「4×3=12」と書いてしまう場合がある。これは、場面を具体的に想像することなく、数字だけを見て式を書いたり、乗法の式の意味の理解が十分でなかったりすることから生じると考えられる。」
26頁
教科書14頁の問題、「Aシートが 5枚 あります。1まいに 3人ずつ すわると、ぜんぶで なん人 すわれますか。」に対する注。
「Aの問題で、5×3=15と書く誤りは、問題に書かれた順に数字を並べただけで、かけ算の意味を理解していないことに起因する。そこで、さし絵などで、「1つ分の大きさ」にあたるのは何か、「いくつ分」にあたるのはどれかを再確認させる。」啓林館
22頁
教科書22頁
「1おかしの はこが 4つあります。1つの はこには、おかしが 5こずつ はいって います。みんなで なんこに なるでしょう。なんこの いくつぶんかを かんがえましょう。しきは 4×5かな、5×4かな……。5この 4つぶん だから、5×4=20。
Aテープを 4本 つなぎます。テープ 1本の 長さは 3pです。ぜんぶで なんpに なるでしょう。
Bあめを 3こ かいます。1こ 5円の あめを かうと なん円に なるでしょう」に対する注。
「1適用題で、基準量が後に示される場合があることを知る。
AB基準量が後に示された適用題を解く。
(略)
ここでは、いくつ分の量が先に、基準量が後に示され適用題を扱い、「基準量のいくつ分」というかけ算の意味についての理解を深めさせる。1のような問題では、児童は数値の与えられた順に立式してしまう(4×5とする)ことが多い。題意をしっかり捉え、基準量が何なのかを判断し、正しく立式できるようにするためには、数図ブロックによる操作か図をうまく活用させるとよい。また、これまでに取り組んだ適用題と比較させ、示された数値の順序のちがいを見つけさせることも、基準量を意識させるためには有効である。」教育出版
16頁
教科書16頁の問題、「1ボートが 6そうあります。1そうに 4人ずつ のると、ぜんぶで 何人に なるでしょうか。」に対する注。
「6×4と立式する子供が見られる。その場合、1つ分の大きさはどれか、いくつ分はどれかを明確にとらえさせることが大切である。」
37頁
「乗法の交換法則の指導
これまでに、乗法の意味に基づき、被乗数は1つ分の数、乗数はそのいくつ分として立式することを指導してきている。しかし、交換法則では被乗数と乗数を入れ替えても答えは同じであることを指導するため、不用意に3×5=5×3のような式を導入した形式的な扱いを急ぐと、混乱する子供が出てくることが考えられる。したがって、例えば「3個の5つ分」と「5個の3つ分」では式の意味は違うが答えは同じであるということを、ドット図やアレイ図を用いて視覚的にも十分納得させてからまとめることが大切である。」大日本図書
40頁
教科書22頁の問題、「A6つの はんが あります。どの はんも 4人ずつです。みんなで なん人でしょう。」に対する注。
「このような場合、6×4というように、問題文で示されている数値の順序にしたがって立式することがよく見られる。6×4と立式した児童には、場面を表わす絵や図をもとに、乗法の意味に立ちもどり、4×6と立式すべきことを具体的に理解させていくような指導が必要である。」学校図書
5頁
「34枚ずつ3袋あるおせんべいの場面から、必要な条件をぬき出し、立式する。「4×3=12」と立式し、声に出して読む。「4枚ずつ3袋」だから4×3となることを理解させ、3×4としないように注意させる。」大阪書籍。これのみ、現行版(平成16年度〜21年度)
34頁
教科書28頁の問題、「4.おかしが はいった はこが 6はこ あります。1はこに 8こずつ はいっています。おかしは ぜんぶで なんこ ありますか。」
指導書に「8×6=48 こたえ 48こ」と朱書があり、「ポイント」として注が次のようにあります。
「話の順序から、6×8と立式する子どもも出てくる可能性があるので、「〜のいくつ分」がどちらに当たるのか、しっかり確認したい。」
大阪書籍の「平成13年/14年検定」版には、このような記述はなく、他の5社すべての「平成13年/14年検定」版にはかけ算の式の順序についての記述があったのと対比的であったが、現行版で大阪書籍も5社に倣ったということになる。
東京書籍『新しい算数2下教師用指導書』(2011年)からの抜粋 (copy) によれば、東京書籍の小2の算数教科書の指導書には以下のように書いてあるらしい。
さらに東京書籍『新しい算数2下』p.43の
という問題の正解は指導書の方では
7×6=42 答え 42こ
になっている。同じ問題は以前の指導書では以下のような扱いになっていたが、現在の指導書では削除されているらしい。過去の誤りを認めずに都合の悪い記述をこっそり削除するのは社会的に無責任な態度だと考えられる。
「教科書会社のトップ「東京書籍」に言わせると、「5×3≠3×5」らしい。」より
これがすごい。なんと次のように書いてあったのだ!
6×7と立式する子どもにはあめの図をかかせ、同じ数のまとまりは6なのか7なのかをしっかりとつかませる。
また、6×7では、6人が7つ分になり、答えは子どもの人数となってしまうことをおさえる。
これは単位サンドイッチ論法の実例になっている。(「かけ算は、後ろと前で、単位がいっしょです。サンドイッチになるように書いてください。」という説明の仕方がある。これと論理的には同じこと。)
中日新聞2012年11月5日(月)朝刊の記事によれば、以上のような掛算の順序にこだわる教え方の根拠として、東京書籍は文科省が発行する指導要領解説に「10×4は、10が四つあることから、40になる」といった記述があることを挙げ、「順序に意味がある」と反論したらしい。しかし、10×4を「10が四つあること」と解釈してもよいのは当然であり、そのような解釈が書いてあっても10×4を「十個の4があること」と解釈することを否定していることにはならない。実際、文科省の側も東京書籍による指導要領解説のそのような解釈を「深く考えすぎだと思う」と打ち消している。
要するに、東京書籍は掛算の順序にこだわる教え方の根拠は学習指導要領解説にあると主張したが、文科省側に否定されてしまったという格好になっている。
学校図書『みんなと学ぶ 小学校 算数 2年下』の指導書より
画質は悪いがそれぞれに次のように書いてある。
乗数が先に出てくる文章題なので、7×3という誤答も予想される。「かけられる数」と「かける数」を確認させる。
(2)では、(1袋のみかんの数)×(買った袋の数)として立式できているかどうかを確認する。
同指導書の教科書6-7頁に対応する部分の紹介が「学校図書・教科書指導書 「かけ算」 」にある。
割算を教えるために掛算の順序にこだわる教え方が必要だという主張の問題については算数授業研究Vol.80のp.27の内容へのコメントを参照せよ。
啓林館『わくわく算数3上』のp.20には「□×3=6」と「3×□=6」の区別を用いた説明が書いてある。
東京書籍『新しい算数3上』のp.28とp.32でも「□×5=20」と「5×□=20」のそれぞれと等分除と包含除を関係付けて説明している。
東京書籍『新しい算数3上』のp.26にはどう見てもトランプ配りをしているようにしか見えない図がある。
啓林館『わくわく算数6上』のp.58の問題の解答がp.157にある。
解答を見ると、文字式を導入しているのに、掛算の順序が逆だと正解にならないとされている。「解答欄に書いてある解答のみが正解ではない」という言い訳は問題3の正解が(う)のみになっていることから無効である。このような教科書が文科省の検定を通過したことは驚くべきことだと思う。
指導書朱註には次のように書いてある。
驚くべきなのは「つまずきと対策」の内容である。次のように書いてある:
文章の表現にそった式を
数量関係を表す式を立てるとき,左辺と右辺が反対になっている児童がよくいる。それを正しいと考えている児童もいれば,間違いだと考えている児童もいるため,その扱いにきちんと触れておきたい。会のAでいえば,x×8=yでもy=x×8でも正しいが,「1冊x円のノートを8冊買い,代金がy円であるときの関係式」という文章の流れからいけば,x×8=yを推奨したい。ただし,x×8が8×xになっている場合は,「8 円のノートがx冊」という意味になってしまうので問題文とは合わない。常に式の意味をしっかりと意識させることが大事である。
「x×8が8×xになっている場合は,「8 円のノートがx冊」という意味になってしまう」という屁理屈の付け方は以前の東京書籍の指導書にあった「6×7では、6人が7つ分になり、答えは子どもの人数となってしまうことをおさえる」とは別のタイプの単位サンドイッチ論法である。このタイプの単位サンドイッチ論法は「2×8ならタコ2本足」や「3×2なら3本耳のウサギ」と本質的に同じである。
3×2なら3本耳のウサギという教え方が使われた別の事例に東北大学大学院の院生による小学2年生に対するかけ算の学習支援がある。Yくんは大学院生たちに教わって掛算の文章題などを解けるようになっていた。しかし12月の初旬になるとYくんは意気消沈し、文章題が解けなくなってしまっていた。実はその意気消沈の原因は掛算の順序にこだわる小学校での教育方針にあったらしい。このように掛算の順序にこだわる教え方が子どもを意気消沈させている場合もある。
学校図書の6年生の算数の教科書の指導書には以下のような説明がある。
p.44とp.45で「y=きまった数×x」と「y=x×きまった数」を厳密に区別して扱っていることがわかる。文字式で比例を扱っていても掛算の順序にこだわり続けているのである。
以下の事例は「教科書にある,「いくつ分」×「1つ分の数」の実例」より。
東京書籍の教科書では、小2で掛算を「一つ分×幾つ分」の順序で導入していて、掛算の順序にこだわる方針になっているのだが、結局、その順序だけで徹底できていない。
次は東京書籍『新しい算数2下』p.6。掛算は「一つ分×幾つ分」の順序で導入されている。
次は東京書籍『新しい算数4上』p.36。76枚の色紙を3人で同じ数ずつ分ける割算の問題の答えは、一人分は25枚で、余りは1枚になる。この場合に25は一つ分の数でかつ商になり、3は幾つ分の数でかつわる数になる。確かめ算の式は「わる数×商+あまり=わられる数」としているので、「3×25+1=76」となる。このとき「3×25」の部分は「幾つ分×一つ分」の順序になっている。
掛算の順序に強くこだわったり、こだわらなかったり、ルールが極めて曖昧であるように感じられるが、もしかしたら、次のようなことなのかもしれない。算数教育ワールドでは「具体的場面を表わす式」と「計算の式」を区別する傾向がある。たとえば、6人に8個ずつ配る場面を表わす式は8×6だが、計算では6×8を使ってもよい。たとえば「6人にあめを8個ずつ配ります。あめは全部で何個配られるでしょうか。」に「式:6×8=48」は誤り扱いされるが、「式:8×6=6×8=48」は正解になる。最初の「8×6」は具体的場面を表わす式であり、その次の6×8は計算の式だと解釈される。おそらく、確かめ算の式は計算の式とみなされるので、掛算の順序にはこだわらないということなのだろう。
以下の事例も「教科書にある,「いくつ分」×「1つ分の数」の実例」より。
次は学校図書『みんなと学ぶ 小学校 算数 6年上』p.89。4人の順列が何通りあるかを求める問題。吹き出しの中に2番目までの並び方が何通りあるかに関する説明がある。1番目の4通りの各々について2番目が3通りずつあると考えているので、東京書籍の流儀では4は幾つ分の数で3は幾つ分の数になるはずである。しかし、吹き出しの中には「4×3通り」と「幾つ分×一つ分」の順序で式が書いてある。
以下の事例は https://twitter.com/metameta007/status/288241788299390976 で紹介してもらった。
次は日本文教出版『小学算数4年上』p.22。
以下の場所に天むす名古屋さんによる教科書の教師用指導書からの抜粋などが置いてある。まとめが次のページにもある→天むす名古屋さんがまとめた算数資料。
http://twilog.org/genkuroki で検索して見付けた単独および連続ツイート
http://favolog.org/genkuroki/date-121223
http://favolog.org/genkuroki/date-121224
http://favolog.org/genkuroki/date-121225
http://favolog.org/genkuroki/date-121226
http://favolog.org/genkuroki/date-121227
http://favolog.org/genkuroki/date-121228
http://favolog.org/genkuroki/date-121229
http://favolog.org/genkuroki/date-121230
http://favolog.org/genkuroki/date-121231
http://favolog.org/genkuroki/date-130101
http://favolog.org/genkuroki/date-130102
http://favolog.org/genkuroki/date-130103
http://favolog.org/genkuroki/date-130104
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