インタビュー
アニメ制作会社サンジゲンが目指す日本流のフルCGアニメーションとは?――サンジゲン代表取締役・松浦裕暁氏に聞くアニメ業界の現状とこれから
3DCGアニメーションと聞くと,ディズニーアニメなど,海外の作品を連想する人が多いかもしれない。日本では,セルアニメーションが長らく“本流”であったし,いわゆる“CGアニメ”にはあまり良い印象を抱いていない人も少なくないだろう。
しかし,ゲームの世界でも3Dグラフィックス関連技術が日進月歩であるように,アニメーションの世界でも,3DCGは確実に進歩し,もはや欠かせない技術となっている。
今回4Gamerでは,3Dグラフィックス関連では一躍注目を集めるようになったサンジゲンの代表取締役社長・松浦裕暁氏に話を伺う機会を得て,彼らが何を考え,何を目指しているのかなど,さまざまなことを聞いてみた。ゲーム業界内でも,その動向に注目している人が多いサンジゲンだが,今回は,ゲームと同じコンテンツ業界という視点から,彼らの活躍の秘密を探ってみたい。
アニメは「なんでもあり」に見えた
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。今回は,ゲームと同じ“コンテンツ業界”というくくりで,サンジゲンさんの取り組みや,アニメ業界の現状についてお話をお聞きできればと思います。
松浦氏:
よろしくお願いします。
4Gamer:
まず,松浦さんがアニメ業界に入られた経緯からお聞きしてもよいですか?
松浦氏:
そもそものところでいうと,僕はとにかく3DCGで仕事がしたかったんです。
4Gamer:
3DCG,ですか。
当時,僕は「3DCG」というものに凄い可能性を感じていたんです。いろんな分野で活かせるんじゃないかって考えていたんですね。静止画でも動画でも,あるいはプロダクトデザインにしても,色んな面で3DCGっていかせると。で,実際いろいろやってみたんです,実写合成だったり,ゲームのCGだったり,そしてアニメだったり。
4Gamer:
でも,そこで「アニメ」という選択肢を選んだ理由はなんだったんですか?
松浦氏:
アニメ以外の仕事って,言ってしまえば,ほとんどが「素材作り」だったんですよ。例えば,実写映画であれば,メインになるのは監督であったり,役者さんであったりみたいな人で,3DCGを作る人は,あくまでピンポイントで使う素材を作る人間でしかなかったんですね。ゲームでも,オープニングCG制作であるとか,キャラクターのモデル制作みたいな仕事があるんですが,それもやっぱり,ゲームっていうコンテンツの中核ではないなと思ったんです。
4Gamer:
なるほど,そういう視点ですか。
松浦氏:
だから,それらの業界で,3DCG(の映像)をやっている人間が作品作りの中核に入っていく,あるいはそこで“メインを張るようになる”っていうのは,相当難しいことだと感じて。
4Gamer:
アニメは違ったんですか?
松浦氏:
アニメって,とても面白い業界/コンテンツで,手描きのアニメーターがそのまま演出をやったり,お話を考えたり,キャラクターデザインをやったりしますよね。僕(3DCGをやってる人間)からすると,それがもの凄く“自由”に思えたんです。なんでもありというか……これは魅力的だなぁと(笑)。
4Gamer:
クリエイターからの視点で見ると,確かにそうかもしれませんね。
松浦氏:
僕は,ちゃんとした作品(映像)を作りたいと思っていたし,自分たちの作った作品で人に感動してほしいと思っていました。そして,そういうことを考えたときに,僕の目指す方向性だったり持つスキルだったりが,アニメってものとガッチリと噛み合わさったというか。アニメならば,僕らが“メインを張れる”可能性があるなと思ったんです。だから僕は,アニメ業界へと入っていったんですよね。
4Gamer:
とはいえ,アニメ業界自体,昨今は決して上り調子というわけでもないですよね。
松浦氏:
そうですね。実際,僕がサンジゲンを立ち上げたのは2006年だったんですが,そこから数年間は,国内アニメの作品数が減少傾向(※)だった時期でもあって。
※国内のアニメ作品数は,2010年まで減少傾向だったが,2011年からは増加傾向に転じている
4Gamer:
制作会社としては,いきなりの逆風ですよね。
松浦氏:
ええ。ただそうした一方で,僕らの仕事ってずっと増え続けてもいるんですね。アニメの作品数が減少していってる中でも,3DCGの需要だけは右肩上がりに伸びていった。でも,そうなることは会社を立ち上げる前から分かっていたことで。
4Gamer:
分かっていた?
松浦氏:
僕がGONZOに居たころ(2003年)というのは,アニメの制作本数が伸びているのに,3DCGの需要は変わらないという時代でした。だけど,これは単に3DCGが認められてないからだと思っていたんですね。だから,ちゃんと3DCGの表現ってものが認められさえすれば,3DCGというのは絶対に伸びる分野だと感じていました。
4Gamer:
アニメーションにおける3DCGの活用では,“コストが割高になる”という問題があると聞きますが。
松浦氏:
それ,いろんな方に言われるんですけど,サンジゲンに関して言えば,手描きでアニメーションを作るよりもCGで作ってしまった方が安いですよ。もちろん,ロボット部分だけ3DCGにしましょうとか,部分的な使い方をすればCGは割高になるんですが,全部をCGで作るって体制/組織を一度構築してしまえば,実はセル画より断然安上がりなんです。
4Gamer:
そうなんですか?
松浦氏:
そりゃ,Pixarのような豪勢なフルアニメーションを作ろうとしたら,それは高コストになると思いますが,違うやり方だったり,いろいろな工夫をしていくことで,ちゃんと採算の取れるものが作れます。実際,「009 RE:CYBORG」の制作でもそうですし,サンジゲンが手がけているアニメシリーズの制作でも,キチンとコスト内に収めて作れていますから。
4Gamer:
でも,サンジゲンさん以外でそれをやっているところってあまり聞かないような……。
松浦氏:
それは,日本のアニメ会社がどこも,フルCGアニメで安く仕上げるって努力を本気でやろうとしなかっただけの話じゃないですか。
4Gamer:
なるほど,そうなのかもしれません。
セルルックであることや,リミテッドアニメーション(※)にこだわった理由も,安く仕上げるための工夫の一つですね。実際,セルルックにして,リミテッドアニメーションを作ってみたら,生産性が2〜3倍になった。それって実質半分以下のコストで作れるってことですから,「これだったらしばらくはやっていけるな」と。
※動きを簡略化しセル画の枚数を減らす表現手法
4Gamer:
とはいえ,海外も含めたCGアニメのメインストリームって,やっぱりPixarに代表されるフルアニメーションじゃないですか。
松浦氏:
そうですね。
4Gamer:
わざわざコマ数を落とす表現を追求していくうえで,社内で「これでいいのか?」みたいな議論は起きなかったんですか。
松浦氏:
うーん。そういうのは無かったですね。僕らがセル画風&リミテッドの表現に注力しようと思った理由は非常にシンプルで,僕らはまず,国内のアニメーション市場/ファンに認められたかったんです。
4Gamer:
まずは地盤を固めよう,みたいな話ですか。
松浦氏:
国内には,数千億円前後の市場がすでにあるわけですから,まずそこで受け入れられる作品を作る方が効率的だろうと思いました。アニメの制作会社として考えると,国内でキチンとブランディングをしていくことが,やっぱり正攻法だと。だから,一秒24コマのフルアニメーションが絶対駄目だって話でも,やりたくないって話でもなくて。僕らはターゲットを「国内市場」に絞っただけなんですね。
4Gamer:
一方で,アニメーション……というか,コンテンツ業界全般ですが,海外市場をもっと意識すべきだ――という声も少なくないですよね。そのあたりについて,松浦さんはどう考えているんでしょう。
松浦氏:
もちろん,今後のアニメ産業を見据えたとき,海外市場というのはもの凄く大切だと思います。僕は,今後のアニメ産業に大切なのは「3DCG」「海外市場」「マーチャンダイジング」の3つだと考えていますし,実際,そこに絞ってビジネスを展開していこうと計画しています。
4Gamer:
でもそうなると,いわゆる日本的なセルルック&リミテッドアニメーションというのは,海外市場ではメインストリームじゃないわけですよね。日本向けの作品は海外で受けず,海外狙いの作品は日本で受けない……みたいな“ねじれ”現象ってありませんか。
松浦氏:
いわゆる「日本アニメのファン」の方が海外にたくさんいらっしゃるのは確かなんですが,それってまだまだニッチな需要に過ぎないんですよ。とくにシリアスな内容の作品だと,数パーセントという世界で。もともと市場として狭すぎるんです。そこを無理に狙ったって仕方がないんですね。
4Gamer:
なるほど。
松浦氏:
だから,それを踏まえて僕らは次のステップを目指さないといけないんです。世界で受け入れられる新しい表現だったり,シナリオだったりをキチンと模索していかないといけない。本格的に海外市場を狙うなら,もっと準備を整えないといけないなと考えています。
4Gamer:
ゲーム産業でも,無理に海外市場を狙いにいって失敗した例は少なからずあります。
松浦氏:
無理くり「世界向けだ!」と言って作っても,それはただ言ってるだけで,世界で受け入れてもらえなければ,それはすなわち世界向けじゃないですからねぇ。
“映像を売るビジネス”だけでは成り立たない
4Gamer:
海外市場という意味でいえば,これまでアニメ業界でも,何度か「世界に向けてアプローチしていこう!」みたいな動きがあったと思います。2000年代の中頃までは,とくにそういう動きが活発でしたが,なかうまくいかなかったという経緯もある。松浦さんは,当時の状況をどう見ていたんですか?
松浦氏:
んー……まず,映像だけで勝負しようとしているのは無謀かなって感覚はありました。
4Gamer:
どういう意味ですか?
松浦氏:
つまり,アニメーションという分野は,DVD販売などといった“映像そのものを売るビジネス”だけでは成り立たない(そこまで規模が大きくない)ということです。仮に誰もが驚く素晴らしい映像を作ったとして,それだけで本当に儲かるかっていうと,それは無理だとは分かっているわけで。
4Gamer:
日本のアニメ業界の流れでいうと,バンダイさんなどによる“玩具の販促媒体としてのアニメーション”って構造が以前からありましたよね。玩具メーカーがアニメ作品に出資して,関連商品を売ることで利益を得るという。
松浦氏:
はい。
4Gamer:
アニメ業界が拡大していく過程で,そのモデルだけでは立ち行かなくなって,近年では,いわゆる「深夜枠アニメ」と呼ばれる,DVDなどのパッケージを売って利益を出すという形が増えていきましたが,そうしたビジネスモデルでは限界があるという意味ですか?
松浦氏:
そうですね。ウチもマーチャンダイジングを軸にビジネスをしている企業(ブシロード,グッドスマイルカンパニー)がパートナー会社にありますけれど,本当に少ない人数で数億〜数十億の利益を上げているじゃないですか。これって,単に映像を作ってる仕組みだけでは不可能なことなんですね。
4Gamer:
最近は,カードゲームや安価で精巧なフィギュアなどといった形のマーチャンダイジングが盛り上がってきて,往年の玩具メーカー的なやり方の新しい形というか,収益のあり方の幅も広がったようには見えます。
松浦氏:
なかでもフィギュアなんかは,どんどん世界に向けて展開していっていますよね。映像も,インターネットの普及で昔よりも,世界中で見られやすい環境になっています。もちろん一方では,海賊版のせいでタダで見られちゃったりみたいな問題もあるんですが,文化としてのアニメが世界中に広まっていることは間違いないわけです。
4Gamer:
確かに。
松浦氏:
であれば,そこにはやっぱりチャンスがあると思うんですよね。映像を売るビジネスは成り立たないかもしれないが,違う形であれば,ビジネスが成り立つかもしれない。その意味でも,単に映像を売るモデルだけじゃなくて,マーチャンダイジングも含めた市場として海外を捉えるっていうのが,これからは必須かなと。むしろ,そこにしか突破口がないとさえ思います。映像とマーチャンダイジングは,もともとセットで考えるべきものだだろうと。
4Gamer:
映像作品を直接購入する層ってやっぱりコアですしね。フィギュアとかは本来コア向けの商材なんですけど,「ねんどろいど」シリーズとか,あるいはワンピースのフィギュアなんかは,そうとは言えない微妙な境界線を突いた商品だなって感じはしますよ。
松浦氏:
僕らからすると,グッドスマイルカンパニーさんやブシロードさんが協力してくれて,今このタイミングでいろいろな挑戦に乗り出せるっていうのは,凄くラッキーなことだなと思います。彼らは僕達みたいなチームを欲しいと思ってくれたし,僕らは僕らで,彼らのようなパートーナーが欲しいと思っていた。凄くタイミングがいいですよね。だからこそ,今のうちにブランディングを確立しなきゃいけないなと思っています。
4Gamer:
そういえば,松浦さんが公言している「僕らはキャラクターを作りたい」というのは,強固なIP(版権)を作りたいということと同義なんですか?
松浦氏:
えーと,ちょっと違います。もちろんIPは作りたいし作っていきますが,「キャラクターをやらねば」というのは,アニメで物語を作って,それを映像作品という形にするうえで,やっぱり不可欠な要素ですよね。だからキャラクターをやらない限り,アニメーション制作の“メインを張る”ってところに辿りつけない。アニメ制作会社として,やっぱりそこにはチャレンジしていきたいって意味です。
4Gamer:
作品のコアとしての「キャラクター作り」を自分たちでもやっていきたい,ということですね。
松浦氏:
もちろん,アニメがヒットすればキャラクターも人気になるので,それはIPってことになるんですけど,そういう話とはちょっと意味合いが違うってことですね。
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