中国・韓国に「買われた」日本人技術者たち 給料5割増しで引き抜かれても、わずか3年でポイ捨て その哀れな末路パナソニック・ソニー・シャープの場合

2013年01月07日(月) 週刊現代

週刊現代経済の死角

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 仕事については自分の専門のほかに、LEDテレビの設計から完成までの各工程の専門家を日本から10人単位で引き抜いてほしいと言われました。できない話ではなかったのですが、片手間の仕事ではないし、この話はお断りしました」

 日本の最先端技術は、何も技術者から流出していくだけではない。

 社長の奥田隆司氏が「オンリーワン技術」と胸を張り、シャープが社運を賭けて売り出している高性能ディスプレイ「IGZO」。

 だが、この技術はもともと東京工業大学の細野秀雄教授によって開発されたもので、実は'11年にサムスンにもライセンス供与されているのだ。

 開発者である細野教授に話を聞いたところ、IGZOの技術を発表したとき、興味を示した日本メーカーは皆無で、手を挙げたのはサムスンだけだったという。

「私も日本企業だけにこの技術を使ってほしいという思いはあります。しかし技術をオープンにして、どこへでもライセンス供与することにしたところ、最初がサムスンで、次がシャープでした。特許料を支払ってくれるなら、海外企業であろうとも、技術を供与するのは自然なことです。シャープが契約を決断したのは、サムスンが先に手を挙げたから、それに対抗するためでしょう」

 今のところIGZOの量産技術を持つのはシャープだけだが、細野教授は、

「1~2年後には韓国メーカーも商品化してくるでしょう。シャープが優位性を維持できるのはそう長くない。かつては新しい商品を開発するとトラック1周分くらいはリードできましたが、いまは鼻の差程度でしかありません。厳しいが、それが現実です。だからこそ、新しいものを生み出し続ける必要があるのです」

アメリカも悩んでいる

 だが、基礎的な技術が流れ出ていけば、そもそも国内で新しい製品が生まれなくなる。先進国が製造部門のリストラを進め、海外移転を進めてきたことのツケはあまりにも大きいと警告するのが、ハーバード・ビジネス・スクール教授のゲイリー・ピサノ氏だ。

「米国は長期的な戦略を考えずに、海外に高度な製造部門を移してきました。その結果、会社の存亡に関わる重要なエンジニアリング・スキルが国内から失われ、イノベーションを起こす能力を失ってしまった。もちろん、アウトソーシングがすべて悪いと言っているわけではありません。アップルのiPhoneのように、製造工程が確立しているものは、新興国で製造しても問題はありません。

 重要なのは、海外に知的財産が移ると、どういう結果になるかということを経営者が理解し、重要な知的財産には他国の企業がアクセスできないようにすることです。パナソニックやソニー、シャープといった日本で大成功をした企業は、製造方法の貴重な情報を盗まれ、相手国は開発にお金をかけないで、同じような製品を作ることが可能になった。これからはアウトソーシングの方法について、もっと賢くならなければなりません」

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