今回の総選挙では、日本未来の党からの立候補者を応援して、選挙運動の段階からお手伝いをしていたことの縁で、選挙当日の西東京市で開票立会人という仕事をすることになった。この仕事をするのはもちろん生涯で初めてのことであり、少なくとも投票箱が閉鎖され、それが開票のために再度開披される段階から、確定票数がでるまでの間の実際を知るのに非常によい機会となった。これまでは、多くの方々同様に、自分の票が投票箱に投じられれば、それこそ以後は文字通りブラックボックスの過程を経て、最終的に数字の1つとされていたに過ぎず、何となく、その間不正の介する余地があるのではないかと漠然と考えていた。また、票に書かれた事項も、過度に厳格な審査基準に照らされ、多くが無効票にされているのではないかとのイメージを抱いていた。そうしたことについて、実体験による回答を得ることができたよい体験であった。

 

 公職選挙法上、選挙について選挙事務に専念する選挙管理委員会の職員の他に、第三者的な立場からこれに 関与する臨時の職がいくつかある。私が体験した開票立会人もそのひとつだが、この仕事は、開票場へ届けられた各投票所の投票箱の施錠状況の確認から始まり確定投票が出て、全ての投票用紙が箱にしまわれ封印されるまでを担当する。従ってこれ以前の状態は、開票立会人は検査することができないが、他に、「投票管理者」というやはり第三者的立場があり、この方々が、投票所での投票箱施錠と移送、開票所での引き渡しまでをきちんと監視している。ここでの箱のすり替えは現実的には考えにくい。

 

以後、箱の施錠状況確認後の流れを書いてみよう。これは西東京市の例で、細部は選管ごとに若干異なるかも知れないが、概ね似た工程なのではないかと考えられる。

 

投票立会人により施錠が確認されると、一斉に箱の鍵が外される。そして投票用紙の中身が、それぞれの選挙種(小選挙区や比例など。今回は小選挙区、比例、最高裁裁判官国民審査、そして東京都知事選と4種類もあり、そのため、開票作業は例年より大幅に長引き、午前5時15分まで延々9時間続いた)ごとに作業台に「ぶちまけられ」る。そして投票箱の中身が全て取り出されたことの確認のため、開票立会人の前に提示され確認を受けると、用紙の整理が始まる。箱の中身は、特殊なプラスチック紙であるため、開票しやすいように開いているが、ランダムな状態で収まっている。最初の作業はこれを上下、裏表揃え、束を作るということである。この段階で、投票内容ごとに分類されることはない。唯一の例外は、最高裁判所国民審査で、同じ段階で、束を揃えながら、何も書いていない用紙と、1つでも何か書かれているものとを分けて束にしていた。なお、この国民審査の作業は、その用紙形式の特殊性から、微妙に他とは違っていたが、ここではこれ以上は深く記さないことにする。

 

 この段階の吏員は揃った束を容器に入れていくのだが、一定程度これが進んだところから、順次、この束を候補者(または比例の政党名)分類のための自動読み取り機にかける。この機械は、かなり正確かつ素早く候補者等ごとに用紙を分けていくことができるが、もちろん所詮は機械なので、エラーもある。人間なら当然読める投票内容を「判読不能」と分類する件数も相当数に上った。従って、この後、人の目で確認して、それぞれの候補者の票束に入れることになる。次に機械で候補者ごとに分類された票束もエラーがありうることから、2人ひと組になったチームで検認が行われる。2人が同じ物を1回ずつ検認するので、2度チェックが入ることになる。分類通りの票であるか、表、裏に余事記載(無効原因)はないかなどを1用紙ごとにチェックして、OKであれば、計数機にかけられ別の係員によって100枚の束にされていく。疑問票は、それ専門のチームに送られ判定を待つことになる。この検認については、非常に小さな割合でのミスはあるのかも知れないが、意図的な改竄や取り替えは不可能である。実際、今回の開票作業では、この段階がボトルネックであり、そのため全体の進行が遅れていた。

 

 100枚ごとの束にされた同一内容の票は、さらに500枚の束にされ、これが一定数に達した(およそ10束=5,000票)ところから、開票立会人の検証を受ける。検証では、立会人は一枚一枚見ることもできるが、それはあまり現実的ではなく、むしろ500枚の束を構成する100枚ごとが同一の内容のものであるか、また、100枚の内容をランダムにめくって、問題ないかという程度にとどめないと、開票事務全体が滞ることになる。そして4~6名いる開票立会人全員の検印を得ると、最後に開票管理者(選挙管理委員長)の検印を得て、確定票としての計算に供するために特定の場所に集められる。

続き

 

 こうした同一内容票を束にしてそれを検認する作業が、延々と続けられるのだが、最後に重要な場面があった。それは「疑問票」の確認である。各選管では一定の基準のもとに「疑問票」とされたものを「解 釈」して有効票として取り扱っているようである。これはしばしば疑われるような「無効」とする判断ではなく逆に「有効」とする判断である。ただ、どうして も疑問の残る票も出てくる。この判断について、開票立会人に尋ねるのである。今回の選挙は、差が大きくついたが、僅差の選挙では、これは大きな意味を持つ だろう。

 

 ここで無効票について実際に見たことを記したい。まず、白票の多さである。何かの意思表示なのであろうが、残念ながらこれは全て無効票とされる。また、積極 的に無意味なことが書かれたものもあった。「該当者なし」「だれもいない」というのは白票に準じる意思が感じられるが、「おれ」「バーカ!」というものや よく分からない模様(それでも何かの字ではないか、と複数の目でじっくり検討されていた)が描かれものもあった。投票用紙に投票内容以外に記号を書くと無 効である。「?」などと書いてあると、解釈の余地なく無効である。

 

 一 方、「疑問票」というのはバラエティに富んでいる。小選挙区の候補者の字が誤っているものは相当数あった。私はこの体験をするまでは、当然これは無効とさ れているのだろうなと考えていたものである。しかし、現場では想像以上に票を有効とする方向での善意の解釈がなされているようである。これは大阪高裁のこ の問題に関する裁判例にならってのことのようであるが、信じられないような票も、他の候補者との関係で公平を欠かない限り有効にしようとしていた。その判 断の最終確認を開票立会人に求めるのである。まず、字が一字違っていても通常は他の候補を意味する可能性がない限り有効である。共産党の「いでしげ美津子」 さんは「いでしげ重子」さらには「いで重子」やそれに類似の誤記であっても、他の候補との重複はなく、合理的解釈として「いでしげ美津子」に入れたかったと推定できるとして有効 とした。凄いのは「いでいで」というのもあったが、これも有効。かなりの数の「疑問票」で、選管が有効としてはどうかといって用意していたもののうち、無効としたのは1つだけで、それは「松」とだけ書かれ たもので、これはこの選挙区から「松本洋平」さんと「末松義規」さんとが立候補していたことによる。もしいずれかお一人しか立候補していなかったら、その 方の票として有効にされていただろう。

 一 方で、無条件で無効というかわいそうなものもいくつかあった(選管も無効として用意していた)。それは余事記載のあるもので、法令上無効とされていること による。「松本洋平」とよく分かる字で書いてあったが、その脇に「頑張れ」と記されていて無効であった。蛇足は慎めということであろうか。全体に何とか折 角の投票を有効にしようという方向では、善意が働いているように強く感じた。そこに特定の候補で差をつけるということはなく、選挙の公平上は問題視する必 要はないのではないか、むしろ好ましい方向での解釈ではないか、という感想を強く抱いた次第である。

 

 今 回私が体験したのは、衆議院議員総選挙の小選挙区のものと最高裁判所裁判官国民審査のものである。当然、それぞれの制度自体にはいろいろと疑問もあるが、 この稿ではそれは記さない。ただ、制度下の実務的な面については、少なくとも西東京市の開票現場という限定された場所では、不正は働いていないと考えてよ いのではないかと思う。これはひとつの自治体での体験であり、そうではない自治体もあるのかも知れないが、むしろ多くの方が、実際にご自身の住所地でこう した体験をされてみて、自らの目で目撃をしてみるとよい思う。できれば、その体験を発信していただければ、自ずと明らかになる事ではないだろうか。