瀬を早み(秋水・桜花)


愛してる 愛しているよ

「ふっ…ああ、秋水クン…」
「姉さん、気持ちいい?」
 ここは秋水と桜花、二人だけの家。かつて『家庭』を奪われた彼らは、超常選民同盟の庇護と監視の下、二人だけで暮らしている。あの小さな箱庭と同じ様なアパートで。
「ええ…凄く、気持ちいい…キス、上手ね…」
 部屋に入るなりのキスを受け止めた桜花は、溜息と同時に甘く言葉を吐いた。その言葉に押し進められる様に、秋水の右手が彼女の制服の下に滑り込む。
「姉さん…」
「駄目…秋水クン…せめてお部屋で、ね…?」
 敷かれた布団の上で、更に唇を重ねた。制服の上着を脱がす秋水の仕草は、とても手馴れている。後ろのチャックを下ろしてしまうと、白い肩が剥き出しになった。その胸を包むブラを小さく啄ばむ。
「可愛いよ、姉さん。これ、俺見た事ない奴だね。」
 桜花が着けている下着は薄紅色。ギャザーをたっぷりと寄せたメッシュが、胸元を彩どる。立体感のある小薔薇の刺繍はあくまでも優雅で、彼女によく似合っていた。
「秋水クン、こういうの…好きでしょう?」
 少しだけ悪戯っぽく笑う姉に、秋水は抱擁だけで返す。
「そんな姿は…俺以外の人間に見せては、嫌だ。」
「当たり前よ。私達…二人だけでいいもの。」
 秋水の舌が、桜花の胸の裾野を這う。桜花が小さく声を洩らした。先のキスの時よりももっと甘いその声を、秋水の耳が甘受する。ただそれだけの愛撫だったが、熟れた桜花の体は、充分に反応を示す。
「待って、秋水クン。」
「姉さん?」
「秋水クンの…こんなに、なってる…。」
 桜花の手がおずおずと、秋水の股間に伸びた。ズボンの上からでもわかる位に硬直しているペニスを、秋水が引っ張り出して言った。
「それなら一度姉さんの口で…達かせて…?」
 桜花は小さく頷き、弟の男根を口に含んだ。少しだけ苦味のあるそれは、桜花の口の中で小刻みに震えている。裏筋を舐め上げると、先端から透明な汁が滲み出てきた。
「ねえ姉さん。弟のモノを舐めるって…どんな感じ?」
「秋水クンのなら…こうするのも嫌じゃないわ。」
 尖らせた舌が、先走った液を舐め取る。それを口の中でくちゅくちゅと味わい、飲み込む桜花。睾丸を舌で突き始めた所で、秋水が咎める様に口にした。
「俺の事、焦らしてるつもり?早く達かせてよ。」
「ふふっ…だって秋水クンの感じてる顔…可愛いもの。」
 言いながら、桜花の唇が睾丸を吸った。しかし、刺激を待ち望んでいる棹の方には、手が添えられているだけだ。
「頷いたくせに…」
 少しだけ苛立った様に、秋水は桜花を引き離す。そして乱暴に、彼女の胸を掴んだ。
「うんっ…秋水クン、少し痛い…」
「もどかしい思いさせている姉さんが悪いんだ。」
 強引に下着を摺り上げ、その谷間に己の逸物を挟み込む。柔らかく温かいその感触を確かめながら、秋水が言った。
「舐めてよ。次に焦らしたりしたら…俺、優しくできないよ…?」
 その言葉に突き動かされる様に、桜花は胸から突き出したペニスを舐めた。胸の谷間で息づく性器。弟の分身を胸で扱きながら、舌で先端を突付いた。カリの部分にほんの少しだけ歯を立て、そのまま吸い上げる。
「くっ…いいよ、姉さん。止めないで…!」
 口の中で熱く膨張した男根は、放出を望んでいる。何度も繰り返した行為の御陰で、その事は桜花にも理解出来た。とどめとばかりに胸を圧着させ、乳首で筋を撫ぜ上げた。そして舌で尿道を穿る。
「達く…姉さん…!」
 どろりと口の中に精液が流れ込んでくる。白い液体に口中を犯された桜花は、げほげほと噎せ返った。
「吐き出さないで…全部、飲み干して。」
「はあ…苦しい…でも、美味しい…」
 吐き出した欲望が、姉の食道までも汚している。その事実は、秋水にとってかなり扇情的だ。
「秋水、クン…?」
「姉さん。自分でスカート…捲って見て?」
「そんなの…恥ずかしいわ…」
「さっきまで弟の咥えてたくせに?焦らしまでして。」
「それは…秋水クンの為だから…それに…秋水クンの色んな表情、見るのが好きだから…」
 可愛らしい姉の言い分も、この状況では言い訳にしか映らない。秋水は言葉を続けた。
「だったら俺の為に…自分で、やって見せて?」
 その言葉を受けて、おずおずと桜花はスカートに手を掛けた。足の付け根を包むのは、ブラと同じデザインのショーツだ。
「姉さんのここ…少し濡れてる様に思えるんだけど?」
「…秋水クンの…意地悪…」
 明らかに分かって言っている秋水を、責める様な口調だった。弟の性器を愛撫している時に、自分の秘部が潤み出していた事位、桜花も気付いていた。だがそれを改めて口にして、羞恥心を煽る秋水の事を、酷いと思った。
「意地悪じゃないだろ?ほら姉さんのここ…ぐちゃぐちゃになってる。自分で触ってみてよ。」
「や…嫌ぁ、秋水クン…」
 桜花の手が、強引に自らの股間に導かれる。その手を秋水の手が包み、嬲り上げる様に股間の割れ目を弄った。
「下着の上からでも分かってしまうよ。姉さん、淫らしいね。弟にフェラしてただけで、こんなになっちゃったんだ。」
「そんな風に…言わないで…」
 秋水の舌が、桜花の胸の輪郭をなぞる。時折歯を立ててみたりするのは御愛嬌だ。
「スカート、下げたら怒るよ…?」
「どうしてっ…?恥ずかしいのに…」
 顔を赤らめる桜花に構わず、右手を下着の中に滑り込ませた。彼女の吐息さえ貪る様なキスを交わしながら、柔らかな秘肉に僅かだけ爪を立てる。
「こんな事していたら、俺…また勃ってきたよ。」
「もう…秋水クンの…エッチ…」
 若いペニスは、一度射精したというのに、既に元気を取り戻していた。姉の胸を鷲掴みにした左手はそのまま、右手だけで器用に制服を脱ぎ捨てる。
「秋水、クン…もう、やめてぇ…」
「嘘。本当はもっとして欲しいんでしょう?」
 再び右手を股間に持っていった。小さな豆を指先で弾くと、桜花の背中に電撃が走る。姉の弱い所は、全て知っていた。何度も交わしてきた夜の行為が、彼にそれを知らしめたから。
「姉さん、本当にクリトリス弱いね。自分でも触った?」
「嫌…そんな事、言えないわ…」
「じゃあ、したんだ。」
「…秋水クンが…剣道部の合宿で…居ない時、とか…」
 恥ずかしそうに、しかし秋水の問い掛け従順に答える。だが、返ってきたのは思いも掛けない冷淡な言葉だった。
「姉さんの全部は俺の物なのに、どうして一人でするの?」
「だ、だって…ひっ…痛いっ…!」
 膣口に、急に指が埋め込まれた。しかも3本だ。潤っているとはいえ、あまりに突然なその行為は、か細い悲鳴を生み出した。
「姉さんが誰の物か…もう一度教えてあげるね。」
「駄目…秋水クン、お願い、優しく…」
 桜花の懇願は、秋水の唇に奪い取られる。下着をずらされ、その指で小陰唇を開かされた。先程言葉を奪った唇は、桜花の胸を食む。膣の中に入れた指は更に4本に増やされていた。もう片方の指が小陰唇を割っているので、グロテスクな程のその光景が、桜花にも見えてしまう。
「こんなやり方は…嫌ぁ…苦しい…」
「でも、姉さんのここは…涎垂らしているよ?」
「や…秋水、クン…」
 赤く色づいた乳首を口の中で転がす。挿入した指を折り曲げたり、弾いたりして膣内を甚振ると、桜花は堪らず秋水にしがみ付いた。
「は…お願い、もう…」
「まだだよ…」
 クリトリスを摘み上げ、左右に捻る。その仕草は桜花の理性を奪っていく。馴れた筈の秋水の愛撫は、桜花の体に飽きではなく、熟柿のような熟れだけをもたらした。秋水が桜花の性器を舐め上げると、桜花の口から哀願めいた言葉が洩れる。
「秋水クン…お願い、早く…」
「自分で言って?そうしたらシてあげる…」
「秋水クンの…馬鹿っ…」
「でももう…我慢、できないでしょう?」
 唇でクリトリスを咥える。延ばした舌先は、指先を辿り桜花の膣口を刺激した。指とは違う粘着質なその感覚は、差し入れられた鋭い痛みを、快楽へと早変わりさせた。
「はあ…っ…秋水クン…お願い…中に…挿れて…」
「そんな言い方じゃ、俺分からない。このまま指と口で、いいの?」
「本当は…分かってるくせに…」
 喘ぎ交じりの言葉に、秋水は微笑んだ。
 もっと聞きたい。愛しい分身が、自分を望んでくれる言葉を。
「秋水クンのこれ…おちんちん、私のここに…頂戴…」
 熱に浮かされた様に、言葉を紡ぐ桜花。指を入れられたままの性器は、限界にまで広がっている。ひくひくと蠕動を繰り返すそこは、まるで別の生き物の様だ。
「ここって…どこ?」
「あ………おま、ん…こ…」
「もっと大きな声で言って?」
「ふ…あ…お願い…私のおまんこに…秋水クンの…おちんちん、挿れてっ…」
「じゃあ、これ…姉さんがつけて。」
 桜花の目の前に差し出されたのは、コンドームだった。禁忌であるこの交わりには、欠かす事の出来ない物。桜花は自らの手で袋を破る。その仕草のスムーズさは、重ねてきた夜の多さを語っていた。
「本当は…『口で』って言いたいけど…」
 再び臨界点だと訴えているペニスには、口淫もどきのその行為は刺激が強すぎる。秋水の言葉も届いていない桜花は、ぼうっとしたまま指示に従う。びくびくと震え、血管が浮き出ているペニスに、避妊具を被せた。動く度に鈍い水音を立てる桜花の股間は、この時ならぬ中断にも、何ら支障を覚えないらしい。
「良く出来ました。…じゃあ、いくよ?」
 秋水はそのまま腰を進めた。桜花が秋水の下で、引き攣れた様な叫びを上げたが、彼はもう止められなかった。ぬめぬめした姉の粘膜が、男性器に絡みつく。奥へ奥へと、引き摺り込んでいくかの様な膣壁だ。
「やあ…痛い…でも、気持ちイイ…秋水クン…!」
「俺に突かれるの…そんなに、いいの?」
「イイ…!気持ちイイ…!秋水クンのペニス…ずるずるして…!凄く、気持ちいい…!痛くて苦しいのに…。気持ち、イイの…!」
 ぐしょぐしょの秘裂と同じ位に、淫らな叫びを上げる桜花。先程の恥ずかし入っていた彼女とは、同じ人間だとは思えない。そして、そんな二面性が尚秋水を惹き付けた。姉の膣奥まで貫く自分のペニスが、更に膨張しているのが分かる。桜花の胸に指と舌を這わし、空いた手で彼女の腰を支えた。僅かに変わった角度のせいで、膣が微妙に変化し、刺激の様相も変わる。
「や…だめ…このままじゃ私…!」
「姉さん…俺も…もう…姉さんの中、凄く気持ちいい…」
 桜花は秋水に抱きついた。緩急を付けて突っ込まれるペニスは、桜花にも激しい快感をもたらす。自分の壁をごりごりと擦る、弟の肉棒。苦しさと共に訪れる愉悦に、桜花は声を嗄らして叫んでいた。
「ひあ…イク…だめえ…イッちゃう…秋水、クン…!」
「う…ああ、姉さん…!」
 大きな叫び。美しい姉の歪んだ表情。蠢く膣肉。滴る分泌液。その全てに欲情した秋水は、二度目の射精を避妊具の中でした。

 愛していればそれだけで、全て許される様な気がしてた。

 寝着に着替えた二人は、何時も通りに手を握って、布団に横たわっていた。
「明日か明後日…近い内に、武藤君達と戦う事になるわ。」
「…そうだね。姉さんは不安なの?躊躇いがあるの?」
 秋水の言葉を受けて、桜花はゆっくり微笑んだ。その微笑は頼りなげだったけれど、その後きっぱり断言した。
「いいえ。私達の望みを叶える為だもの。その為なら…他の何も要らない。私には、秋水クンしかいないわ…」
「うん、俺もだよ。…ああ姉さん。姉さんは俺だけの物だ。他の誰にも邪魔されたくない。ずっと俺達は一緒だ。」
「そうよ秋水クン。私達はずっと一緒…。誰を傷つけたって構わない。私達、二人だけで…生きて行こうね。」
 二人は抱き合って眠った。まるで胎児が、体を丸めて眠る様に。
 二人は知らない。自分達のセックスが、マスターベィションにしか過ぎない事を。

 愛を免罪符に使ってた。でも、免罪符代りに愛してた訳じゃない。

「俺ね、先輩達が助かって本当に良かったと思ってるんだ。」
「そうだろうな。そう言うと思っていた。…君は優しいからな。」
「俺は優しいんじゃないよ。多分、弱いんだ。誰かを犠牲にしたくなくて戦っているのに、その為には他の誰かを犠牲にしなくちゃいけない…。そのことを受け入れられないだけだから。」
「…君は弱くなんかない。寧ろ…」
「え?何?」
「いや、何でもない。さあ行くぞ。やるべき事はまだたくさんある。」
「うん。ああ、それから…。俺、斗貴子さんにも辛い思いして欲しくなかったんだ。…俺の思い上がりなんだけどね。」

 愛の名の元、成長を止めた日々。それを過ちとは言わないけれど。

 病院内の最後の見廻りが終わった後、こっそりと秋水はやって来た。闇の帳が桜花の周りを包んでいる。秋水が彼女のベッドに近づくと、桜花はそっと目を開けた。
「…行くの?秋水クン。」
「…ごめん。」
 そのやり取りだけで、桜花は全てを理解した。カズキ達と戦ったあの日は、二人に多大な変化を与えたのだ。ひょっとしたら気付かない方が安らかに生きて行けたかもしれない、変化を。その変化によって、二人の道が別たれるのはもう、自明の理だった。
「でも姉さん、俺は…!」
 言いかけた秋水の唇を、桜花のそれが塞いだ。そのまま秋水に抱きつくと、変わらない彼の香りが愛しかった。だが、もう、このままでは居られない。
「もう何も言わないで…謝らないで、秋水クン…」
「…姉さん。」
 堅い病院のベッドの上に、秋水は姉を押し倒す。僅かな光が窓と扉から洩れている。もしかすると誰かが入ってくるかも知れない。病院の中で、こんな非常識な行為をしようとしている自分達に、それでも二人は躊躇いを感じなかったけれど。

 貴方を愛し依所としていた時、確かに二人倖せだったのだから。

「秋水、クン…」
 深い口付けをベッドの上で交わす。桜花の上に半身を乗せた秋水は、彼女の唇を味わった。その唇の甘さは、今までと変わらない。
「脱がせても…いい?」
 桜花はこくりと頷いた。秋水の手が、桜花の肩を優しく辿る。入院着を剥がれた肩から、ピンクの下着が覗いた。偶然であろうが、それはあの戦いの前の情事の時と、同じ物。
「今のこの姿は…今だけは、俺に頂戴。」
 胸の裾野に語りかける様に、秋水は言葉を紡いだ。桜花の白い肌が綿菓子みたいに蕩けて、秋水の口の中に広がった。たわわな胸の頂点に舌を這わせる。下着の上からでも、そこが堅く尖がるのがわかった。刺激に合わせて勃起するそこは、まるで桜花の体に宿ったペニスの様だ。
「待って、秋水クン…」
「どうしたの?」
「私に…させて。」
 桜花の手が、座っている秋水の股間に伸びた。既に育ち切ったペニスを取り出し、小さな口に含む。微かな男の体臭が口内に満ちた。
「いいんだよ、無理をしなくて…」
「違うの。私が…したいの。」
 桜花はベッドから滑り落ち、秋水の前に膝まづく。舌が棹を伝い、カリを入念に辿っていく。それだけで溢れ出てくる我慢汁を飲み下す。強い塩味は桜花の喉を刺激し、彼女は軽く噎せ込んだ。
「大丈夫?辛いなら止めても…」
「私が秋水クンのを…舐めたいの。だから、止めない。」
 桜花の舌が奏でる、卑猥な音。それは下半身から滴る、愛液の音にも似ている。エラを包み込む粘膜の柔らかさに、若い男根は限界を訴えていた。血管一つ一つをなぞる、もう一つの性器とも言うべき、口。喉の奥にまで咥え込むと、そのまま強く吸い上げた。
「駄目だ…達く…」
 細かく息を吐き出す秋水。その喘ぎを受けて、桜花は一旦口を離した。そしてひくつくペニスを、自分の胸で包み込む。先端だけ覗いている亀頭を、また口に含んだ。そのまま胸で上下に擦り上げ、舌先で尿道を穿る。
「うあ…本当にもう、駄目だ…!離して、このままじゃ…!」
「いいよ…出して…秋水クンの、…飲みたいの…」
「く…ううっ…!」
 びゅるりと音を立てて、秋水の精液が桜花の喉に流れ込んだ。少しだけ洩れてしまった精液を掬い取り、その指先も舐め上げる桜花。ブラを汚した白い液体は、桜花の肌に不思議な彩りを添えていた。
「大丈夫だった?苦しくはない?」
「平気…秋水クンのだもの。秋水クンが…感じてくれて良かった。」
「…。」
 秋水は黙って桜花を抱き締めた。白い病院着から伝わってくる、温かい体温。欲情だけではない感情を、いつもこの体温は教えた。
「下も…見たい。いい?」
「うん…今…。」
 桜花は自らズボンを取り払った。下着姿になった桜花を見つめる秋水。真摯な瞳に貫かれ、桜花は恥ずかしそうに身を捻った。
「そんなに、見ないで…恥ずかしい…。」
「恥ずかしがらないで。桜みたいに色付いて、凄く綺麗だ。」
 まるで女王に忠誠を誓う騎士の様に、桜花の手の平に口付ける。その後桜花を軽々と抱き上げ、そのままベッドの上に引き上げた。
「もっと見せて。俺の前で乱れているのを…目に焼き付けたい。」
「あっ…秋水クン…」
 秋水の手が、桜花の股間を撫ぜ上げた。湿った感覚が、秋水の指先を包む。くちゅくちゅと淫猥な音色が、静まり返った病室に響いていた。ブラの上から乳首をなぞると、桜花の背がしなった。
「ふ…気持ち、いい…」
 右手で性器の割れ目を辿りながら、秋水は服を脱ぎ捨てた。細身ながらも締まった体は、桜花の目を奪う。何度でも。
「秋水クン…すごく、感じる…もっとして…」
「本当?そう言ってもらえると…俺も嬉しい。」
 秋水の手は、布越しに桜花のクリトリスを摘み上げる。空いた左手と唇は胸を味わい、桜花を感じさせる事だけに腐心している。
「俺と抱き合って…色んな所感じる様になったよね。」
「そうね。たくさん、したから。許されない事であっても…どうしてでしょうね。何だかとても…自然な事の様に思えたわ。」
 秋水は桜花をじっと見つめた。これから先過ごす、『二人以外』の時間。彼女は他の男の物に、なるのだろうか?それでも、…
「…俺は、桜花の物だ。」
「秋水クン?今、何て……。ひっ…ああ…」
 秋水の指先が、下着の上から膣口を突付いた。深く入り過ぎない様に気を配りながらのそのやり方は、もどかしい程慎重だった。
「…全部、脱がしたい。いいかな?」
「そんなに気を使わないで?」 
 桜花が秋水に笑いかけた。これまでと明らかに違う秋水の事も、受け入れる用意は既に出来ている。
 桜花のブラに手を掛け、フックを外す。豊かな胸がこぼれて露わになった。その胸に優しく口付けを落としながら、秋水は考えていた。どこもかしこも似通っていた、幼い日の二人。それが序々に違い始めたのは…いつからだったのかと。
「何を考えているの?私を見て。他の事など考えないで。今のこの視線だけは、私に頂戴。」
 先の秋水と同じ言葉を紡ぎながら、桜花は秋水の唇を奪った。甘やかに広がる筈のその味は、何故だろう、苦い味がした。
「…うん。俺は…何時も、桜花の物だ。」
 乳首を舌で突付く。布地越しとは違う、ダイレクトな刺激に、桜花は少し身を捩った。指は秘裂を探り、今だ取り去っていないショーツを湿らせた。
「ね…秋水クン、脱がせてっ…」
「…綺麗だ。生まれたままの、姿。」
 全裸にした桜花を、眩しそうに秋水は見つめた。曝け出された女性器の襞をなぞり、薄い茂みを撫でていく。熱く濡れそぼった入り口は、侵入者を求めて蠢いていた。
「お願い…焦らさ、ないで…。」
「焦らしてなんかいない。…ただ優しくしたいだけだよ。」
 秋水の指が、クリトリスの包皮を剥く。鋭い刺激に桜花の背が反ったが、それは痛みからではない。寧ろその真逆の、快感からだ。
 両方の胸を中央に寄せ、乳首を二つとも口に含んだ。強く吸い上げ、舌先で弾く。クリトリスを弄っていた右手で、ゆっくりと入り口付近を愛撫した。苛立たしい程丁寧なやり方だったので、桜花はせがむ様に秋水に抱きついた。
「秋水クン、お願いするから…お願いするから、もう…挿れて?」
「痛くしたくないんだ。だから、もっと濡らしてからじゃないと。」
「嫌なの…もう我慢できないから…お願い、秋水クンのおちんちん、私の中に頂戴…。」
 その言葉を受けて、秋水は桜花の膣口を広げた。まるで前哨戦とでも言う様に、指を少しづつ中に埋めた。一本、二本。挿し入れた指を、上下左右に繰り返し動かす。膣道を広げようとするその動きに合わせ、間断なく桜花の吐息が洩れた。蛞蝓(なめくじ)が這っていくのにも似た感覚は、桜花に身震いする様な快感を与えていく。このまま堕ちていけたらいいのに、と桜花は思った。
「…今日は、このまま…。」
 どちらともなくそう切り出した。いつもは必ず付けていた、欠かす事の出来ない避妊具だったが、今日だけは直接体温を感じたかった。お互いの体温を感じ、粘膜を擦り合わせ、繁殖器官の確かさを確かめたかった。何も隔てないお互いの存在を、味わいたかった。
 秋水は、自分のいきり立ったペニスを桜花の中に埋没させた。一際高く桜花が喘く。悲鳴にも似たその嬌声を耳に刻みながら、深く腰を進める。慣れた女の膣内は、飲み込む様に男根を引き入れた。桜花の背に手を回し、ぎゅっと抱き締める。柔らかな胸の弾力は、更に彼を酔わせた。自分の性器が、女の膣圧でぎゅうぎゅうと締め付けられている。コンドームという『防護壁』もない今、その悦楽は余りに強烈で、すぐに達しそうになった。
「ふ…やあ、やぁ…!気持ちいい、気持ちいいの、秋水クン…!」
「俺もだ…俺も凄く気持ちいい…!」
「お願い、もっと胸弄って…!噛んで、キスして…!秋水クンで、私を一杯にして…!」
「う…ああ、いい…!暖かいここが…直接俺のを締め付けてる!」
 堪らない快感だった。コンドームを付けていた時とは違う、直接的な刺激。直にもたらされるその愉悦に酔っているのは、秋水だけではない。膣壁に擦りつけられるペニスは、浮き出た血管まで分かりそうな位、膨張し切っていた。秋水が激しく腰を動かし、更に桜花を攻め立てる。自身に対しても与えられる性の楽悦は、二人を理性の淵まで追い詰めた。
「秋水クン、私…もう駄目…!達かせて…秋水クンのおちんちんで、私を達かせて…、秋水クンのおちんちんで、わたしのおまんこを達かせて…!」
「く…ああ!達く…膣内で…達く…!」
「いいよ…一杯にして…秋水クンの精子で…一杯にしてぇ!」
「ああ…、う、ああ…!一杯にする…一杯にするよ…膣を…精液で…!ああ、桜、花…!」
「秋水クン…!」
 秋水の白い欲望が、桜花の膣内を満たしていく。断続的に出されるそれを、彼女は愛しさと共に受け入れた。己を包む感情が、後悔とは反対のものである事に、歓びを感じながら…。

 全ての愛を捧げた貴方に、告げられる言葉は是程に陳腐なもの。

「無理をさせちゃったね。ごめん。」
 後始末をした秋水は、優しく桜花に語り掛けた。ベッドで寝そべる彼女は、行為以前よりは疲れている様だったが、何故かひどく美しく見えた。ベッドサイドの椅子に腰掛けた秋水は、愛しそうに桜花の漆黒の髪を撫でた。
「ううん、嬉しかったの。本当よ。」
 桜花は秋水の手を、きゅっと握った。幼い頃から何度も繰り返したこんな仕草も、…今日で終わりだ。明日からは二人共別々の道を歩む。生きていく為に。より良く生きていく為に。より良く別々の人生を、生きていく為に。
「…ねえ、もしも。」
「もしも?」
「俺達が別々の人生を生きて。お互いが一人で立てるようになって。そうして『生き直し』をした後に。俺達が『双子』としてでなく、ただの男として女として、惹かれていたなら…。」
 未来に託すには、余りに儚い約束だったが、秋水は言った。
「…迎えに行くから。」
 桜花はその言葉に強く頷いた。瞳が光っている様に見えたのは多分、月の悪戯なのだろう。
「その時は、抱き締める。抱き締めて、離さ、ないよ…。」
「ええ…ええ、秋水クン…。私もきっと…離さ、ないわ…」
 二人は抱き合って眠った。まるで胎児が、体を丸めて眠る様に。
 二人は知っている。自分達のセックスが、マスターベィションにしか過ぎなかった事を。

 二人未来に叶う愛を信じて、使い古された単語を繰り返す。

「高校卒業から四年か。…弟は息災か?」
 大学を修了した日、桜花は斗貴子とお茶を飲んでいた。場所はあの、銭湯の隣りの喫茶店。その問いに笑みだけで返してきた桜花を見て、斗貴子はそれ以上の追求を止めた。
 卒業祝いだと言いながら、会計を受け持ってくれた斗貴子に礼を言って、外に出た。早咲きの桜の花弁が、風に乗っている。最後に睦み合った日、彼は桜花の体を桜の様だ、と言った。あの言葉をもう一度聞きたい。姉としてではなく、桜花として。ドアを閉めて、通りに目をやる。その時彼女の瞳に入ったのは
「ずっと、信じてた。もう離さない…絶対に。」
     愛してる 愛しているわ

 瀬を早み 岩にせかるる滝川の われても末に逢はんとぞ思う 
 
 
 A rock damup a cascade. And I and you left now just as a cascade branch in two becoause a stream is quick.. But I think that I meet you just as a cascade joins alarge one in the future.


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