内容に一部誤りがあったので加筆修正しました。酸性硫酸塩土壌について加えてあります。
補足・塩害とアルカリ土壌
ちょっと塩害やアルカリ土壌についての説明が足りていなかったようなので、色々考えて補足を追加することにしてみた。とはいえ専門家ではないので自分の分かる範囲での話にはなっちゃうけどね。
始めに化学的な塩について。塩というといわゆる食塩の塩化ナトリウムのイメージがあると思う。ただ、化学でいう塩は塩化ナトリウムだけではない。塩とは広い意味では酸由来の陰イオンと塩基由来の陽イオンがイオン結合した化合物のことをいうんだ。(だから塩には酸と塩基の中和反応以外のものも入る) そのため塩化ナトリウムなどのほかにも炭酸塩(炭酸ナトリウムなど)、炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウムなど)、硫酸塩(硫酸バリウムなど)、リン酸塩(リン酸カルシウムなど)、酢酸塩(酢酸ナトリウムなど)等も塩の一種になるわけだね。
さらにこの塩には塩化ナトリウムや塩化カリウムみたいに水溶液にすると中性をしめすものと、塩化アンモニウムみたいに酸性をしめすもの、炭酸ナトリウムみたいにアルカリ性をしめすものがあるんだ。これをちょっとだけ頭の片隅に置いておいて欲しい。
次に塩害の話なんだけどね。塩害というのは塩分により農作物が濃度障害を起こして枯れてしまったり、成長が悪くて収穫量が減ったりだとか、金属製のベランダだの車が潮風で錆びてきた等の被害を受けることを言う。
この塩害で指している塩なのだけれど、上で説明したように塩化ナトリウム以外の塩も塩類として含まれるんだ。例えば雪国で使われる融雪剤が植物を枯らしたりして塩害を起こすって聞いたことがある人は結構多いと思うんだ。その融雪剤の成分なんだけどあれは塩化カルシウムなんだ。食塩じゃないけど塩害なんだよ。
だからそろそろ勘の良い人ならなんとなく気がついたかもしれないけれど、アルカリ性をしめす塩分が多くて塩害を起こしている場合はアルカリ土壌でかつ塩害を起こしている土地になる可能性があるんだ。え? 酸性土壌で塩害の土地? 酸性土壌は基本的に雨が多い地域の土壌なので、酸性土壌で塩害という表現は聞いたことがないかも、塩性土壌なら聞いたことがあるけど。なにしろ雨が多い地域では雨が洗い流してくれるから塩分自体が溜まりにくいはずなんだよね。(塩分だけじゃなくて雨で肥料分とかも流されやすいけどね) でも、潮風だとか高波だとかの影響がある海に近い地域で雨がよく降るところだと弱酸性くらいの土壌で塩害と言うことになるのかな。でもその場合は塩害とだけ表現してわざわざ酸性土壌で塩害とは表現しないしね。(よくよく考えてあとから確認したが酸性硫酸塩土壌なるものもあるらしい。津波で海底の硫化物が大量に陸地に上がるとこの酸性硫酸塩土壌になるとか。かなり特殊な土壌とはいえ勉強不足だった。どうも自分は塩害というと乾燥地のイメージがつきすぎているみたいだ。害があるほど酸性の土壌というのも火山帯とか鉱山など以外で考えたことがなかったし)
それからアルカリ土壌というのはどういったものかというと、PH8.5以上のアルカリ性を示す土壌、あるいは陽イオン交換容量(CEC)という一定量の土壌が保持できる陽イオンの量のうちNa+のイオンが15パーセント以上になる土壌のことを言うんだ。
また、アルカリ土壌の場合もアルカリの度合いがきつすぎて植物の成長しにくかったりする。野菜の生育に丁度良いPHは大体PH6.0~6.5の弱酸性くらいと巷の園芸書などには書かれているんだ。といっても物によってはアルカリ性のきつい土壌でもなんとか育つものもあるにはあるけどね。
だからこの二つの条件を満たした場合にはアルカリ土壌で塩害を起こしている土地ってことになるんだ。例をあげると、石灰岩(主成分は炭酸カルシウム。アルカリ性)が多くてPH8.5以上のアルカリ性をしめした場合にはアルカリ土壌でかつ塩害を起こしている土地になるんだ。他にもアルカリ土壌の場合、表面によく炭酸ナトリウム(アルカリ性)とか炭酸水素ナトリウム(アルカリ性)が析出される場合が多いらしいんだけど炭酸ナトリウムも炭酸水素ナトリウムも塩の一種だからアルカリ土壌で塩害を起こしている土地に当てはまったりする。
今度は肝心の塩害及びアルカリ土壌対策になりそうなことを書いてみようと思う。
その一、灌漑水を使って土壌から塩分、アルカリ分を洗い流す。
その二、塩分などについて特殊な肥料などを使うことにより中和させて害を及ぼさないようにしてしまう。
その三、塩生植物などの塩分やアルカリに強い作物を育てる。
その四、防風林(塩分に強い松の仲間などが良さそうな気がする。ただし松も根元まで塩水がくるとさすがに枯れてしまうらしいが)で塩分やアルカリ分の集積を防いだり、マルチング(育てている植物の根元などに藁やバークチップなどを敷いたりすることをいう)で水分の蒸発を防ぐことにより塩分などの集積を防ぐ。緑肥などを栽培することにより土壌が長期間むき出しの状態にならないようにする。
その五、連作すると同じ塩類ばかり集積してしまうので輪作や連作を行うようにする。
以上の5つのうち、上の2つは積極的に塩害やアルカリ土壌を直していく方法といえるだろう。3つ目の塩生植物についてはどの程度の除塩効果があるのかは現代でもまだまだ研究中のようだ。下の2つはどちらかというと塩害が進行しないようにするための予防法といえるだろう。
ただ、下の2つを実行するのはそれほど難しいことではないが、上3つは実行するにあたって色々考慮すべき問題があったりする。
まず、その一の方法は大量の水が必要になる。十分な水の入手ができる土地であることが大前提になるのだ。この方法は高度な灌漑技術と大量の水がいるため、乾燥地であったり、技術が未熟なレベルでは行うことが難しい。それに工事をするための人材の確保や機械などの道具類、多額の金銭なども必要になってくる。また、あまりに広範な地域で塩害などが起きている場合だと、たとえ水が豊富な地域であっても実行が難しくなってくると思う。該当地域が広範な場合、一度にすべては行えないだろうから行う場所について排水などを考えて計画的に決めて行わないといけないということもあるだろう。
もしファンタジー世界でこの方法を取るとしたら水の確保も考えなければいけないがそもそもあまりにも技術レベルの低いところやお金がないところでは行えない。お金がない場合にはそれこそ少しずつ何年もかけて行っていくしかないだろう。そして中世とか近世レベルの国をリアルに考えると往々にしてそのようなお金もないと思われる。なんというか社会全体としてそんな余裕はなさそうだ。
それからその二の方法については、例としてアルカリ性で塩害がおきている土壌には石膏を入れると良いと聞くので石膏を入れることになったとしよう。まずその石膏を大量に確保しなければならない。石膏を購入するための代金が必要になってくる。そして石膏を撒くのに必要な機材を用意したり、作業員の確保なども必要になる。機材の代金や作業員の給金なども必要になってくるはずだ。しかも石膏が天然で産出される地域というのは片寄って存在しているものらしい。
思うに中世レベルのファンタジー世界などでは、近くで石膏が産出されなければ行えない方法になるだろう。正直いって中世レベルの国際関係では石膏の輸入なんかは難しそうだしね。そもそも国連なんかの組織がないし、隣の国が困っているのをタダで助けるなんてことはないだろう。うまいことやって自国の領土の拡大などを謀りそうだ。
最後にその三の方法なのだけど、塩生植物の場合はマングローブ植物やアイスプラントやツルナ、アッケシソウなどあたりだと思う。
でも実際やろうと思ってもマングローブ植物は熱帯とか亜熱帯のかなり暖かい地域じゃないと栽培自体に無理があるんだよね。マングローブが海岸沿いに生えていると津波の被害を軽減させる効果があるようなので、材木などの商品になるかまでは分からないけど残念だ。スマトラ沖の地震で津波があったときに漂流物とかをマングローブが食い止めていたとかで津波の被害が少ない場所があったという報告があるらしい。マングローブは自然の防波堤になるのに地域が限られてしまうのが惜しいなぁ。
それからアイスプラントやツルナ、アッケシソウの方は現代のような環境下でなければ難しいと思う。なんというかアイスプラントの方は、アフリカからヨーロッパにかけての地域を原産地とする植物なのでヨーロッパのような気候であれば栽培も十分可能ではある。ただ、よく考えてみれば冷蔵庫がない中世や近世レベルでは正直いって現地で消費する野菜にしかならない。特に何かに加工することもできないので、アイスプラントは葉物野菜よりは多肉植物な分だけちょっと日持ちする程度の野菜でしかない。(実は食べたことがあるが味もごく普通で、ものすごい美味しいものなわけでもない。健康に良いらしいがまだまだ流通が少ないからかちょっとお高い気がする) あと、ツルナとアッケシソウの方もアイスプラントと同じく日持ちのしない野菜にしかならないんだよね。現代だったら両方とも十分に塩害に使える植物なんだけどさ。ツルナの方は日本などの太平洋沿いの国に自生しているし、自分がよく読む園芸カタログにも種が紹介されていたんだけどね。アッケシソウの方はヨーロッパとかアジア、北アメリカなどの寒い地域の塩湿地みたいな場所に生えている植物でヨーロッパで結構野菜として食べられているらしい。
そもそも技術レベルが進んでいない世界でも実用に耐える塩害に強い植物というと、大麦、テンサイ、綿花などになってくるように思う。しかもこれらは塩分だけじゃなくてアルカリにも強かったりする。これってアルカリ土壌かつ塩性土壌というのが意外と多いからなのかな? ちょっとその辺までは詳しくないので分からないが。
まず大麦については塩害がひどかった古代メソポタミアで小麦に代わって栽培されていた植物で穀物系の植物の中では一番塩害に強いといわれている。大麦はなによりも主食になる植物だし日持ちするし、換金性もあるだろう。
それからテンサイはアカザ科の植物だ。アカザ科の植物はテンサイの他にもビートやほうれん草などがあるが、アカザ科自体がそういったものなのか、これらの仲間も他の植物に比べると塩分やアルカリに強かったりする。何よりもこのテンサイは砂糖に加工すればものすごく日持ちするし商品として十分な換金性もある。テンサイの栽培は現代の中国で塩害が起きている地域で実際に栽培が試みられていて、しかもある程度成功しているようだ。
それに綿花、これは熱帯や亜熱帯などの比較的暖かい地域での話にはなるが木綿に加工して販売することができる。販売して得た金銭で食料を購えるだろう。
あとライグラスなどの芝系統の牧草の中にも意外とアルカリだの塩害に強かったりするものがある。牧草を育てて羊の放牧なども良いと思う。実際海岸に近いような土地で育てた牧草を食べた羊というので高級なものがあったりする。塩味があって美味しい肉になるらしい。
また、ササゲ(アフリカ原産の豆。アフリカでは蛋白源として重要な作物。関東ではアズキの代わりにササゲを使って赤飯を炊く地域がある。うちの死んだ婆さんもササゲを使っていた。平安時代の頃にはすでに日本に渡来していたらしい)も意外と塩害に強くちょっとアルカリ性の高い地域でも栽培できるらしい。
そして連作障害のことを考えると、一つの作物にこだわるのではなく塩害などに強い植物を色々組み合わせて輪作していくことの方がのぞましいと思われる。
以上で塩害とアルカリ土壌についての補足はお終いということで、最後までお読みいただきありがとうございました。
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