気候と作物
気候によって作れる農作物は変わってくる。具体的にはどんなものなのか、よく使われるケッペンの気候区分を使って、ファンタジー世界の気候及び作物について考えてみたいと思う。
◎熱帯
・熱帯雨林気候
熱帯雨林気候だと南の島とかが舞台のファンタジーになるのかな。南の島が舞台のファンタジーとかあんまり見たことがないかも。意外なことに熱帯雨林気候って日照時間があまり長くないんだよね。しかも熱帯雨林気候はあまり農業には向かないんだよね。何しろ土地がやせていて森林を伐採すると日差しが強いせいで砂漠化が進んでしまうし、雨が多いから洪水がおきやすいし土壌が流出しやすいんだよね。焼畑農法でタロイモとかバナナなんかをメインに育てるのかな。他には椰子の実なんかも育てているのかな。漁業無しには暮らせない気がする。
それに熱帯雨林気候の地域って人口も少ないんだよね。現代でも大都市といえるようなところってシンガポールくらいしかないし。現代なら食料品を輸入するとかできるけど文化レベルや社会レベルの進んでいない設定のファンタジーだと正直難しいね。でもうまいことやれば南の島を舞台にしたロマンチックなものが書けるかもしれないね。
・熱帯モンスーン気候
東南アジアの地域とかだと稲作している。バナナとかサトウキビとか作ってたりする。アフリカとかや稲作ができない地域だととうもろこしとかゴムとか作ってる。稲作地域は人口が多いとか、正直言って米はチート作物ですからさもありなんです。インドネシアとかがこの気候だ。ヒンズー教の伝来だの色々あるし、古くから王国とかあるし、ファンタジーとかにしたら面白いかもしれない。ただ、あんまり資料が手に入らない点では難しいのかな。
・サバナ気候
インドとかタイとかベトナムとかあたりがこの気候だった。稲作が盛んだし歴史もあるしファンタジーの舞台にするにはいい気候だね。ついでに人口も多いし。憧れのお茶だとかカカオとかコーヒーなんかが作れる気候だよ。インドって昔は砂糖の生産で有名だったりするし。ただインド系の資料って意外と手に入らないところがあるかも。確かインド文学のマハーバーラタ(注)とかもちゃんと原典から全訳されたものってなかったし。(欧米で翻訳されたものを翻訳したのはあったと思う。ただ日本ではメジャーじゃないので需要と供給の関係で資料の値段が高かったり絶版とかそういう問題が……)
◎乾燥帯
・砂漠気候
砂漠だから雨が極端に少ない。日照時間が長い。カナートなどによる灌漑農業が基本。オアシスでも農業が行われている。日照時間が長いせいか水さえ何とかできれば植物が結構よく育つ。ただし砂漠の土はアルカリ土壌。アルカリ土壌や乾燥のため塩害がおきやすい地域。エジプトやメソポタミアがあったイラクなど古代文明発祥の地は砂漠気候。エジプト文明は小麦、メソポタミアのシュメール文明では大麦を作っていた。意外なことに現代のエジプトやイランは米を結構生産している。ファンタジーの舞台としてはとっても楽しいところ。古代エジプトではビールやワインなんかも作っている。人気があるのでインドよりは参考資料がそろえやすそうな気がする。でも中国とかの漢字文化の国々や欧米諸国ほどの資料は難しいかと思う。間違いなく、翻訳できる人が日本に少ないからだろう。「千一夜物語」の翻訳も大半が欧米で一度訳されたものの翻訳だったりする。だいぶ昔に「千一夜物語」にチャレンジしたが、ヒロインのシェヘラザードが話している物語の中でさらに別の物語が始まったりしてしまうため、子供向けではない「千一夜物語」は読むのがかなり大変だった記憶がある。
・ステップ気候
雨季にはそれなりに雨が降るらしい。植物は生えるけど森にまでならず草原になる。土壌は肥えている。灌漑農業を行っている土地がある。灌漑を行えばものすごく植物がよく育つ。インドのデカン高原あたりとかアメリカのプレーリー地帯(プレーリードックの住んでるところ)とかがステップ気候。アメリカのプレーリー地帯はオガララ帯水層から水をくみ上げて灌漑農業を行っている。オガララ帯水層は水の使いすぎで近年地下水位が低下しているらしい。プレーリー地帯はアメリカの穀倉地帯で小麦、とうもろこし、大豆なんかを作っている大生産地。
◎温帯
・温暖湿潤気候
中緯度の大陸東側に多い。稲の生育に適している。四季がはっきりしていて夏に高温・多雨になる。人口が多い地域。日本の大部分が温暖湿潤気候。ヨーロッパだとヴェネツィアあたりが温暖湿潤気候。他の気候と比べて栽培可能な植物の品種が多い。アジアは稲作をしている地域が多い。アジア以外の地域では混合農業や放牧が行われている。稲作できるのに行わない地域はやっぱり文化が違うのだろうか。もともと米食文化がなかった、あるいは米食文化のない地域の影響が大きいとかなのだろうか。土壌は肥沃。「なろう」では和風ファンタジーがちょっと少ない気がする。もっとあってもいいのに。
・西岸海洋性気候
大陸西岸の緯度40°~60°位の地方に多い。ヨーロッパのイギリスやフランス、ドイツなどがこの気候。年間で平均した雨が降る。ブナ、ニレ、オークなどの落葉広葉樹が多いからかブナ気候と呼ばれるとか。土壌は肥沃。混合農業や酪農が盛ん。中世ヨーロッパ風ファンタジーの舞台は大体この気候と思われる。ヨーロッパ関係はファンタジーの参考資料にできるような本が入手しやすいと思う。
・温暖冬季少雨気候(温帯夏雨気候)
各大陸のサバナ気候から温暖湿潤気候へ移り変わる辺りの地域などに多い。中国の華南、華中の内陸部とかインドの北部とか。アジアだと稲作が盛ん。農業の生産性が高い地域。お茶や綿花なんかも作っている。中華風ファンタジーだとこの気候だったりするんだろうな。「なろう」では意外と中華風ファンタジーって少ない気がする。近くの国だけに資料集めは結構楽だと思うのだが、逆にちゃんと調べて書かないと突っ込まれてしまうというのがあるだろうな。
・地中海性気候
文字通り地中海沿岸辺りの気候。アメリカのサンフランシスコ付近なども地中海性気候。冬に雨が降るので二圃式農業を昔行っていた。今でも冬小麦の栽培を行っている。石灰岩が風化してできた土壌が多い。(もちろん石灰岩が風化したものだからアルカリ土壌) オリーブやぶどう、レモンやオレンジなどの柑橘類、牧畜なんかが行われている。ギリシャは農業国なのだが小麦の生産が少ないので古代からオリーブオイルやワインなどの貿易をして国を維持してきた。スペインのバレンシア地方や北イタリアなどの一部の地域では米を作っている。スペインの米は元々イスラム教徒によってもたらされたものだとか。「イタリア」あるいは「スペイン」の国名と「水田」の二つを入力して、ネットで検索をかけると現地の水田の風景写真などを掲載しているサイトなどがヒットするのでヨーロッパの水田風景が見られる。アルカリ土壌の場合、水田ができるなら水田作ったほうがいいんだよね。水田って連作障害がおきにくいし、塩害もおきにくいから。あと、有名なハーブなどは地中海原産のものが結構多い。
◎冷帯
・冷帯湿潤気候(亜寒帯湿潤気候とも、冷帯多雨気候ともいう)
ロシアとかカナダとか北海道辺りの気候。現代だと結構農業をしている地域かも。ロシアの小麦生産量は世界4位だし、カナダの小麦生産量は世界6位だ(この二つは2006年度の話)。夏に気温が上がる南部の地域では春小麦、じゃがいも、ライ麦なんかを作っている。蕎麦なんかも作っている。酪農・放牧なんかも行われている。冬が長くて厳しいし雪がかなり積もるのであくまで夏中心の農業だけど。
・冷帯冬季少雨気候(亜寒帯冬季少雨気候)
夏は比較的高温で、冬はごく寒冷な気候。(真冬には-30度とか-40度とかになったりする) シベリア東部とか中国の東北部とか朝鮮半島辺りの気候。冬の降雨量、積雪量はきわめて少ない。春小麦、じゃがいも、蕎麦、ライ麦とかを作っている。お隣だからファンタジー用の資料は割と手に入りやすいんじゃないかな。寒さが厳しいのにびっくりした。
・高地地中海性気候
ごく限れた地域の気候。アメリカのワシントン州東部とアイダホ州北西部・中央部、イラン西部・トルコ東部・アルメニア南部に渡る高原地帯ぐらいだとか。アルメニアとかは結構古い歴史があるみたいだね。ワインとかブランデーとかたばこなんかを作っているらしい。調べてもあんまりデータがないよ。ファンタジーの舞台になる気候としては自分は見たことがないかも。
◎寒帯
・ツンドラ気候
「永久凍土が広がっていることが多い」、この一言で分かると思うけど農業できないよ。トナカイとかの遊牧とか漁業とか狩猟とか鉱業とかで生計を立ててる地域だよ。人口も少ないし。
・氷雪気候
グリーンランドとか南極大陸の気候。寒すぎて農業どころかファンタジーで使いやすい世界ですらない。SFとかで出てくるのがふさわしい地域だよ。調査のために人が住んでる地域だよね。
以上、こんな感じ。
でもこの区分ってあくまで現代の気候の区分で昔は気候が違ったりするんだよね。中世の温暖期とか小氷河期とか時代によって同じ場所でもかなり気候が違ってたりするし。昔は大森林が広がっていたけど今は見る影もないなんて地域も結構あるし。森がないのはえてして乱開発のせいだけどね。でも森があるのとないのとじゃ周りの気候が違ってくるよ。森があると雨が降りやすくなるし。
ぜひ、それぞれのファンタジー世界にあった気候を考えるための資料にしてください。
(注)インドのマハーバーラタは世界3大叙事詩の一つといわれている。とっても長い物語。内容はなろうでいうと逆ハーなのかな……?
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