2012年9月11日

ケイクスカルチャー 山本一郎

プロフィール

山本一郎(やまもと・いちろう)
1973年、東京生まれ。96年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。ベンチャービジネスの設立技術系企業の財務・資金調達など技術動向と金融市場に精通。2007年より、総予算100億円超のプロジェクトでの資金調達や法人向け増資対応を専門とするホワイトヒルズLLCを設立、外資系ファンドの対日投資アドバイザーなどを兼務。著書に『情報革命バブルの崩壊』『「俺様国家」中国の大経済』(以上、文春新書)、『けなす技術』『投資情報のカラクリ』(以上、ソフトバンク クリエイティブ)など多数。
ブログ:やまもといちろうBLOG
Twitterアカウント:@kirik

この国で結婚をするということ 前編

元切込隊長・山本一郎氏が初めて語る、自身の過去と結婚、そして子育て。子どもを作り、育てていくというのはどういうことか。すべての親子に読んでほしい、珠玉のエッセイを前後編に分けてお届けします。まずは奥様との出会いまでが綴られた前編です。

 正直、結婚できると思っていませんでした。

 だから、自分の遺伝子を受け継いだ子供を儲けることも無理なんじゃないかと思っていました。
 もちろん、人間何があるか分からない。明日死ぬかもしれない、殺されるかもしれない、いまこそ健康で幸せであるけれども、今夜、何か起こるかもしれないからこそ、今日をできるだけ精一杯取り組んでいこうという気持ちは独身のころからありました。

 私が結婚できないと思っていた理由は幾つかあります。もちろん、一番最たるものは私自身は他人から言われるまでもなく自分でも認める「変人」、というよりは「変な人」であって、こんな変な私のことなど好いてくれる人などおるまい、愛してくれる人の出現など確率から考えて極めて低いだろうから、幸せな結婚生活を送り家庭を築くことなどできようはずもないと思っていたのです。

 もちろん、家庭の事情はありました。子供のころは両親も気を使って良い親の部分を見せてくれていたわけですけれども、親父もお袋も、それはまあいろいろありました。学校に行き、社会に出てみて「おや、これはうちの家庭は他とは違うぞ。いや、違うどころか、かなり違うぞ」ということがたくさん見えてくるのです。私がいろんなことを無駄に気づく鋭い子供だったからかもしれない、大人の事情に興味津々すぎる人間性が災いしたかもしれない、ひたすら 根性が曲がって生まれてきたのか、環境が私の性格を歪めたのか、ともかく、ろくな人間じゃないのです。自分でそう思っていて、実際そうだろうと思われる事例も多々あるし、他人からの評価も直接に間接に聞こえてきて、変わっている部分が面白いから付き合ってくれる友人があり、変わっている部分が不愉快だから遠ざかり敵となる人々もあり、なかなか世の中面白いと思うのであります。もう、普通ではない自分を受け入れて、笑って傍観者として過ごすしか方法はないのです。

 この遠ざかっていく人々というのは天体観測同様に、観測者たる自分からは非常に良く見える部分でありまして、もちろん単純に私を嫌って連絡を取らなくなるだけの人もあります。ただ、私の場合は物凄く親しい友人か、物凄く嫌われる相手かに分かれる傾向が顕著なのです。それもあって、離れていった人は一言二言罵声を残していったり、わざわざ私の親しい人に私の文句を言って去っていくわけですね。いままで、親しいつもりだった人が、何人離れていっただろう。そして、それはすべて私自身の責任です。

 そういう経験を、34年間してきました。別に精神を病んでいるわけではないけれど、私を好きだといって近づいてくる人は私が稼いだおカネが目当てだとはっきりわかる人たちばかりです。これはもう、見事におカネ狙いなのが分かる。で、離れていく人は私が意に反しておカネを使うことに異常に慎重で吝嗇な男だということに気づいて、裏切られたと思って去っていくわけです。私の生きてきた社会は投資界隈であれネット界隈であれおカネがすべての尺度で、逆に言えばおカネを稼げさえすれば生きていくことができる、どこか人間性を置き忘れた人たちの巣窟であったとも言えるのです。人間性をある程度捨てて、おカネを稼ぐことに正直で集中すれば、成功はそれほどむつかしくはない。おカネの面ではね。でも、おカネを追い求めると、いろんなものを欠損させてしまうのです、この私がそうであったようにね。
 
 まして、私は身体が強くありませんでした。ネットでは従来「切込隊長」などと名乗っており、ウェブでの強面風のイメージがつきまとって苦労しましたが……。実際には筋肉のつかない疲れやすい体質で、過労で倒れたり結石を患ったり、30歳には先天的な動静脈瘤が脳に見つかって運動禁止になり現在に至るも完治していません。手術してないんですから完治するはずもないんですが。まあ、一生付き合っていく病気です。
 

 それもあって、私が20歳に差し掛かるころには、やはりサラリーマンで身を立てても体力面で残業に耐えられないだろうという自覚はすでにあって、当時すでにバブル崩壊後の就職氷河期でしたから、就職活動はそこそこ成功して幾つか内定には恵まれたものの、生きていくためには投資で食っていかねばなるまいと心に決めていたのです。

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