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レポート 東京都の運送事業者「燃費評価制度」が来年度本格施行
実走行燃費でCO2削減を評価する世界初の制度
東京都は業務用トラックからのCO2排出量の削減を目的として、来年度から「貨物輸送評価制度」を本格施行する。実走行燃費で運送事業者のCO2削減の取組を評価する世界初の制度だ。制度設計にあたっては、東京都トラック協会(大一夫会長)が2006年に開始した「グリーン・エコプロジェクト」によって蓄積されたデータを活用した。
●評価は3段階で
「貨物輸送評価制度」は、都内に物資を輸配送する貨物運送事業者の実走行燃費を基準にCO2削減に関する努力を評価する仕組み。個々の自動車の実走行燃費の偏差値を算出し、一事業者の全車両の平均偏差値を導き出す。営業所単位でなく、会社全体の取組を評価するのが特徴だ。
トラック1台ごとの燃料供給量と走行距離の1年間の記録から燃費を算出する。燃料は軽油が基本で、ガソリンやCNG(圧縮天然ガス)など他の燃料を使用しているトラックは、当該燃料のCO2排出量から軽油消費量に換算する。評価は星1つから3つまでの3段階で行う。平均偏差値が58.5以上で「3星」、52.6〜58.5で「2星」、52.6未満で「1星」となる。
都は同制度創設の狙いとして、(1)貨物運送事業者のCO2削減の取組の促進、(2)エコドライブ等に日常的に取り組む事業者を分かりやすく公表、(3)荷主企業や消費者に評価事業者の選択を促し、荷主の立場からのCO2削減を期待――の3点をあげている。
同制度のように実走行燃費に基づいてトラックの環境性を評価する制度は海外にもまだ例がない。まさに画期的な制度といえるが、本格施行に至るまでには様々な苦労があった。
●最大の課題は車両の区分
制度設計にあたって最大の課題は、車両の区分だった。燃費は車種や重量、排気量などによって大きく変わるため、一律に評価して序列化しても意味はない。そのため幾つかのグループに分ける必要があった。ただ、事業者にとって納得感がある区分にするためには、車種や重量ごとの実際の燃費データが必要だった。
そのデータを持っていたのが、東ト協だった。東ト協は06年に事業者の継続的なエコドライブ活動を支援する目的で「グリーン・エコプロジェクト」を開始していた。参加事業者が車両ごとに燃費データを収集し、CO2排出量やコストの削減、事故防止などを目指す取組だ。
参加事業者のドライバーは自分が運転する車のその月の給油量と走行距離を「走行管理表」に毎月記入する。そこから燃費データを収集・構築する。事業者は、各ドライバーのデータを車両重量や使用燃料などによって区分にして全社的なデータベースを作成する。
つまり、同プロジェクトを通じて、東ト協には都内のトラック運送事業者の車両ごとの燃費データが蓄積されていったわけだ。結果としてそれは35万台分のトラックのひと月ごとの走行距離と給油量という世界最大規模のデータベースになっていた。東京都はその膨大なデータに注目。東ト協から譲り受けて、分析に着手した。
●12年度に試行的実施
都は10年に主にオフィスビルを対象にしたCO2排出量の取引制度を開始した。同制度は国際的にも高く評価され、昨年12月には世界グリーンビルディング協会の「ガバメントリーダーシップ賞」を受賞した。民生部門と並んで温暖化防止の取組が進んでいない運輸部門をターゲットにした「貨物輸送評価制度」は、いわば都独自のCO2削減策第2弾として検討が進められた。
制度の詳細を詰める段階で関係者が最も頭を悩ましたのは、前述の通り車両の区分だった。当初はより細かいグループ分けだったが、様々な検討の結果、「車種」「燃料種別」「車両総重量」に応じた39グループに分けることにした。その区分ごとにCO2削減努力を定量的に評価できるベンチマーク案の作成に漕ぎつけた。
果たして11年12月、「貨物輸送評価制度」の創設が提案された。パブリックコメントを経て今年3月、都は正式に同制度を創設する方針を公表。あわせて12年度は試行的に実施することも発表した。
試行的実施には126社が参加を申請した。そのうちデータの不備などがあった11社は除外されたため、評価対象事業者は115社だった。評価結果は8月27日に発表され、「3星」が7社、「2星」が43社、「1星」が65社だった。
●参加事業者数は倍増か?
「試行的実施で制度設計上の大きな問題点は見つからなかった」(自動車公害対策部計画課)ため、本格施行となる13年度も同様の車両区分や評価方法で実施されることになる。具体的なスケジュールは未定だが、都では13年度早々には参加する事業者の募集を開始し、6月頃には評価結果を発表したい考えだ。
13年度はより多くの事業者の参加が見込まれる。都は「試行的実施の時の倍くらいには増えてほしい。250社くらいは参加してくれるのではないか」(同)と期待を込めて話す。
そもそも同制度の参加要件は「都内に物資を輸配送する貨物自動車運送事業者」で、近隣の県の事業者も評価対象になるが、12年度の評価対象事業者のうち、東ト協のグリーン・エコプロジェクトに参加している企業が111社と大半を占めた。評価を受けるためには11年の1年間の燃費データが必要だったためだ。都が試行的実施を発表したのは12年3月で、その時点から給油量と走行距離の記録を始めても間に合わなかった。
13年度は、制度の創設を聞いてから準備を始めた事業者も参加することになる。都として近隣県のトラック協会に直接働きかけてはいないが、首都圏の他の県や政令指定都市には同制度の概要を説明しているという。
東ト協のグリーン・エコプロジェクトは11年までの6年間で、(1)燃費向上率…4.61%、(2)燃料削減量…約1057万1429リットル、(3)CO2削減量…スギの木約195万本分――といった成果を生み出した。いよいよ本格的に動き出す世界初の業務用トラックの燃費評価制度がどの程度の効果を生むか、今から注目されている。
カーゴニュース12月25日号