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【社会】

伊藤博文暗殺 漱石「驚いた」 旧満州の新聞に寄稿文

漱石の寄稿文「韓満所感(上)」が載る「満洲日日新聞」1909年11月5日号=新潮社提供

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 作家夏目漱石(一八六七〜一九一六)が一九〇九(明治四十二)年、旧満州(中国東北部)の新聞に寄稿した文章が見つかった。全集未収録で、初代韓国統監伊藤博文が独立運動家安重根(アンジュングン)に暗殺された事件への驚きや、満州を旅行した見聞などが記されている。 (大日方公男)

 寄稿文は「韓満所感」と題し、日本語の「満洲日日新聞」に同年十一月、上下二回に分けて掲載された。作家の黒川創さん(51)が二〇一〇年、韓国で購入した安重根に関する資料集に、この寄稿文が切り張りされて載っていたのを見つけた。

 漱石は十月半ばまでの一カ月半ほど、南満州鉄道総裁だった旧友・中村是公の招きで朝鮮半島や満州を旅した。ハルビン駅で伊藤博文を狙撃した暗殺事件は、帰国後の十月二十六日に起き、満州で漱石の世話をした知人らも巻き込まれて負傷した。

 漱石は寄稿文で事件について「驚いた」と繰り返し、「(伊藤)公(こう)の死は政治上より見て種種重大な解釈が出来(でき)る」などと記述。ただ、自らを「政治上の門外漢」として、事件には簡単に触れるだけにとどめている。

 また、満州の日本人について「皆元気旺盛で進取の気象に富んでいる」「日本人も甚だ頼母(たのも)しい人種だ」などとたたえている。

 黒川さんは寄稿文の背景について「漱石は政治家や運動家のような民衆の代弁者ではなく、ぐずぐずした個人の自由や生活を守ったまま、距離をおいて国家に向き合った。当時の日本人は現代の尖閣諸島問題に対するのとは違い、伊藤博文暗殺事件に過敏に反応するのではなく、何となくやり過ごそうとしていたような印象を受ける」と話す。

 「韓満所感」の全文を含む黒川さんの小説「暗殺者たち」が、七日発売の「新潮」二月号に掲載される。

 

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